日本経団連タイムス No.2823 (2006年7月27日)

春季労使交渉総括/業績は賞与・一時金に反映

−賃金中心の交渉から労働条件など働き方を考える場へ確かな一歩


日本経団連は毎年、その年の春季労使交渉の回答・妥結結果を大手企業・中小企業別に集計している。今年も、大手企業については6月(6月8日号既報)、中小企業については7月(7月20日号既報)に最終集計を発表した。そこで、今年の春季労使交渉を総括する。

◇ ◇ ◇

日本経済は総じて回復基調にあるものの、地域や業種、企業ごとにその回復度合いに差が生じている。こうした状況を踏まえ、日本経団連は「2006年版経営労働政策委員会報告(経労委報告)」1月1日号既報)において、横並びによる賃金水準の引き上げはもはやあり得ず、賃金問題は中長期的な見通しによる経営判断を踏まえ、自社の支払能力と総額人件費管理の観点から、個別労使が十分に話し合って決めるとの原則に立ち返ることの重要性を強調した。つまり、グローバル化の急速な進展によって国際競争が激化し、先行き不透明感が強まる中、企業労使は「個別企業」「個別労使」の実情をより意識した交渉を行い、自社にとって最適な着地点を見つけることが望ましいと指摘するとともに、短期的な成果は賞与・一時金への反映を労使で協議すべきであることなどを、今年の春季労使交渉における経営側の基本スタンスとして示したところである。

一方、労働組合の賃金要求をみると、「ベースアップ」の文字はほとんど姿を消し、「賃金改善」や「定期昇給分(賃金体系維持分)」、さらには「要求なし」という組合もあるなど、要求段階からばらつきがみられた。このような労働組合の要求に対する経営側の回答や妥結内容も、賃金改善要求に応じた企業もあれば、定期昇給分(賃金体系維持分)のみと回答した企業、福利厚生に関する原資を引き上げるとの回答を示した企業、労使協議の場あるいは検討委員会を設置して継続協議するという企業もあるなど、さまざまであった。
賃上げに関する妥結結果の最終集計(日本経団連調べ、全産業、加重平均)をみると、大手企業の妥結額平均は5813円、アップ率1.76%、中小企業の妥結額平均は3901円、アップ率1.54%で、大手企業、中小企業いずれも5年連続して、大手企業は5千円台、中小企業は3千円台で推移しており、ほぼ横ばいという結果であった。一方、今年の夏季賞与・一時金の大手企業の妥結結果(日本経団連調べ、全産業、加重平均)は88万3695円、前年夏季比2.86%で、金額としては3年連続で過去最高を更新している。このことは、自社の状況を踏まえた交渉を行った結果、賃金水準の底上げを意味するベースアップあるいは賃金改善を実施しなかった企業労使が大多数を占めるとともに、業績は賞与・一時金に反映して従業員に報いるとの考えが定着したことを示している。

賃金以外の項目では、(1)育児・介護支援策あるいは高齢者の再雇用制度の拡充(2)現行の休暇・休職制度における取得目的への不妊治療の追加(3)健康管理や体力づくりに関する労使の専門委員会の設置――など、従業員の働き方に関するさまざまな事項が取り上げられ、労使合意に至るなど、一定の成果がみられた。このように春季労使交渉は、賃金中心の交渉から、労働条件や働き方をめぐるさまざまなテーマについて考える場へと着実に変わってきている。今年の春季労使交渉は、その確かな一歩を記したといえよう。

【労政第一本部労政担当】
Copyright © Nippon Keidanren