経団連タイムス No.3047 (2011年6月30日)

第100回ILO総会

−家事労働のディーセント・ワークに関する条約を採択


スイス・ジュネーブで開催された第100回ILO(国際労働機関)総会では、家事労働者に関する労働基準策定、労働行政・監督、社会保障のあり方に関する討議が行われた。各議題の主な討議結果は次のとおり(総会の概要は前号既報)。

(1)家事労働者に関する基準策定

すべての人にディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)をとの考え方から、昨年に続き二次討議が行われ、条約案、勧告案ともに採択された。経団連としては日本では批准は不可能と判断し、条約案は棄権、(条約案採択後の投票となったため)勧告案には反対票を投じた。日本の政労は両方とも賛成した。
採択された条約の主な項目は次のとおり。

  1. 労働時間法規については、各国の法制、労働協約などに委ねるとの柔軟条項が入ったものの、基本は通常の労働者と同等以上にすることになった。例えば住み込み家事労働者が介護労働に従事する場合、オンコール時間が原則労働時間とみなされると問題が大きい。
  2. 労働安全衛生については、働く場が通常の家庭であることを考慮した対応が可能となった。
  3. 家事労働者を取り扱う職業紹介事業者等に対する規制は、ILO民間職業仲介事業所条約と整合性の取れたものとなり、さらに実効性確保のため、二国間、多国間協定の締結を考慮するよう加盟国に求めるものとなった。
  4. 当初勧告案にあった移民家事労働者が雇用契約の満了または終了後に帰還する権利が与えられる条件を加盟国が定めるという規定が盛り込まれた。

(2)労働行政・労働監督

効果的な労働行政・労働監督制度は、良好な労働市場、公平な経済発展、国際労働基準の効果的な実施の基礎をなしている。
今次総会では、各国の最近の動向や課題、世界経済危機対応などにおける好事例の検討を通じて労働行政・監督がより良く機能できるための情報・知見を共有する方法について討議することとなり、以下の点を盛り込んだ成果文書を採択した。

  1. 労働行政・労働監督は、労働基準の適用、社会対話の促進、雇用政策の展開、持続可能な企業活動にとって重要である。
  2. ILOは、関係条約の批准促進、好事例や比較可能な統計の収集・整備を進め、現在実施している労働監督に関する技術支援を充実させる。
  3. 民間の監査イニシアティブが公的労働監督を阻害しているおそれもあるので、それらのあり方について検討する専門家会合の設置を要請する。

(3)社会保障

2008年のILO総会で採択された「公正なグローバル化のための社会正義に関するILO宣言」では、各加盟国がディーセント・ワークの実現に向け、雇用、社会的保護、社会対話、労働における権利の4つの戦略目標に基づく政策を追求することを定め、そのフォローアップのため、ILO総会で順番に取り上げて議論することとなった。
今回は社会保障のあり方に関する議論が行われ、次の点を盛り込んだ成果文書を採択した。

  1. 少子高齢化が進む国においては、年金財源の確保が課題であり、社会のニーズと財源確保の両立に向けた具体的政策が求められる。
  2. 途上国に対しては、社会保障制度の確立と持続可能な財源の構築に向けた国際的な技術支援が必要である。
  3. 各国政府は、労使と協議のうえ、公的社会保障のみならず、企業年金を含む私的社会保障制度の整備に努める。

なお、総会終了後の理事会で、来年の総会で一回討議により、社会保障に関わる勧告策定を目指す議論を行うことが決まった。

【国際協力本部】
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