坂根副会長
月刊・経済Trend 2011年12月号別冊
特別企画『復興に向けて』

鼎談

復興に向けて

奥山仙台市長
経団連副会長/震災復興
特別委員会共同委員長
小松製作所会長
坂根正弘
さかね まさひろ
仙台市長
奥山恵美子
おくやま えみこ

震災から半年が経過し、被災地では復旧から復興に向けた懸命の取り組みが続いている。しかし、震災以前から高齢化等により地域の振興に腐心していた被災地の復興は容易ではない。被災自治体にあって、さまざまな課題と奮闘する仙台市・奥山恵美子市長と、復興を地方再生の好機と捉え、震災直後から被災地支援を展開する震災復興特別委員会共同委員長の坂根正弘副会長が、復興に向けての課題と今後の展望について議論を交わした。

中村経団連福会長・事務総長
〈司会〉
経団連東日本大震災
対策本部副本部長
/事務総長
中村芳夫
なかむら よしお

震災後、半年を振り返って

経団連は、どう動いたか

中村

3月11日から半年が過ぎました。本日は、「復興に向けて」というテーマで、意見交換を行いたいと思います。お話に入ります前に、私から簡単に、震災発生直後からの経団連の活動をご紹介させていただきます。
経団連では、3月14日に、米倉会長を本部長とする「東日本大震災対策本部」を立ち上げて、会員企業・団体に対し被災地への支援を行うよう要請するなど具体的に取り組んでまいりました。3月16日には「未曾有の震災からの早期復旧に向けた緊急アピール」を取りまとめ、3月24日に、米倉会長を委員長とする「震災復興特別委員会」を新たに設置いたしました。この委員会では、坂根共同委員長をはじめとする経団連の副会長、評議員会議長・副議長が参加し、関係する各分野の委員会とともに、復旧・復興に向けた取り組みを精力的に進め、3月31日には「震災復興に向けた緊急提言」を公表いたしました。4月22日には、「震災復興基本法の早期制定を求める」を取りまとめ、政府の復興構想会議において、経済界の考え方を説明しております。
その後、被災地の状況を勘案しながら、被災地域のまちや産業の復興、ならびにサプライチェーンの再構築といった具体的な施策を迅速に実行に移すために、5月27日には「復興・創生マスタープラン」を取りまとめております。このマスタープランでは、住民が安全かつ快適に暮らせるまちの復興と、暮らしを支えるなりわいとしての産業復興を全体像として明確に示すために、政府にて「震災復興基本計画」を、同基本計画に基づき地方公共団体にて「震災復興広域地方計画」を策定することを提言しました。
そして、6月24日には、復興基本法の施行を受け、「復興創生に向けた緊急アピール」として、政府に対し、復興特区制度の創設、復興庁の早期設置を求めました。
また、1%(ワンパーセント)クラブを通じて、さまざまな被災者・被災地支援活動も展開しております。資金面にかかる支援活動といたしましては、企業等に対して、被災者へのお見舞い金として届けられる「義援金」やボランティア活動資金(支援金)への寄付の呼びかけを行いました。経団連会員企業を中心とする企業・団体がホームページ等で表明した義援金やボランティア活動資金等への寄付の総額(救援物資の金額換算も含む)は、1000億円以上に上っております。救援物資については、地方自治体や自衛隊、日本郵船グループや全日本空輸の協力を得て、陸・海・空のルートによって救援物資を被災地に届ける「救援物資ホットライン便」を立ち上げ、300t以上の救援物資を届けております。
また、岩手、宮城、福島の被災各県に、企業が募ったボランティアを送り込んでおりまして、これまでの延べ人数は1100名を超えております。
少し長くなりましたが、震災発生直後からの経団連の動きをご紹介させていただきました。
それでは、本題に入りたいと思います。震災後の半年を振り返って、仙台で陣頭指揮を執られた奥山市長はどのような感想をお持ちでしょうか。

生活再建と雇用が喫緊の課題

奥山

今回の震災は、まさしく未曾有のものでした。仙台市は、33年前の昭和53年にマグニチュード7.4の宮城沖地震を経験しています。宮城沖地震は90%以上の確率で再来すると言われていたので、それに備えてさまざまな対応をしていたのですが、今回、対応が生きた部分と全く対応できなかった部分が、はっきりしました。対応が生きた部分としては、建築物の耐震補強です。今回は、宮城沖地震のときのように、地震によって建物やブロック塀が崩れて亡くなった方はいませんでした。逆に、全く想定していなかったのが津波です。仙台市の死亡者は現在704名ですが、すべての方が津波で亡くなりました。これについては、今回の地震の教訓としなければなりません。
社会的なインフラとしては、仙台市では、水道の断水が50%ほど、それから最初の数日は100%の停電でした。そして、市ガスは最終復旧までに約40日を要しました。また、新幹線が開通したのが4月29日ですので、インフラという面では、発生から40日くらいで、基本的な機能を回復したといっていいと思います。その後、被災された方すべてが、避難所から応急仮設住宅に移ったのが7月末です。つまり、40日で基本的なインフラが回復し、4カ月半で被災者が避難所生活を終えた、ということになります。震災後半年がたち、新たに考えなければならないのは、こうした被災された方々が、どのようにして仮設住宅ではない自分の住宅を再建して生活を始められるか、また、仕事を失われた方がどうやって再び仕事を手にされるか、ということで、生活再建と雇用、この二つが喫緊の課題であると認識しています。


海岸近くにある仙台市の下水浄化センターに押し寄せる津波。当時、約100名の職員が働いていたが、屋上に避難し、助かった。(仙台市提供)

津波により冠水した田園地帯。海岸付近の松林をなぎ倒し、流木やがれきなどが田畑に散在している。がれきの撤去、除塩など、田畑の再生には数年を要する。(仙台市提供)

避難者数・ライフライン復旧の推移(仙台市提供)
中村

今回の大震災は被災地域の広さと多様さ、被害の規模ともに未曾有の大災害であったことを、あらためて痛感いたしました。もう一方では、わが国が成長を遂げなければ、復興に向けた地域の取り組みさえ、水泡に帰すおそれがあります。わが国は、震災以前から、グローバル化や高齢化社会にどのように対応していくかといった大きな課題に直面しておりましたが、今後は、震災復興とそれらの課題の解決という両にらみで、活力ある日本の経済社会実現に向け、実効性ある政策を打ち出していかなければなりません。
坂根副会長は、被災地の復興なくして日本経済の再生はあり得ないというお考えを打ち出され、コマツの被災地支援の陣頭指揮もとられたわけですが、日本経済が現在直面している課題などについてお聞かせいただけますでしょうか。

東北の復興を通じ、日本経済全体の成長を

坂根

3月11日は、会社に待機して家には帰れませんでしたが、その間、弊社の社長と今後のことについて話しました。お金を出すだけではなく、被災地の方々にすぐに役に立つことをやるべきだということで、コマツは建設機械メーカーですから、まず、建設機械を無償で届けることを決めました。また、子会社にコマツハウスという仮設住宅のメーカーがありますので、仮設住宅の提供を決めました。ただ、一般向けの仮設住宅ならそのうち国の予算が出るだろうと考え、郵便局、診療所、集会所などの専用の仮設住宅を提供しました。それから、工業専門学校と東北大学に被災者のための奨学金制度を創設することを決め、すぐに実行に移しました。特に東北大学については、われわれの海外超大手のお客様と共同で考えたものです。


コマツハウスが提供した釜石仮設診療所(コマツ提供)

コマツハウスが提供した郵便局(陸前高田)(コマツ提供)

福島県郡山には弊社の工場があり、震災の影響があったのですが、ここは2週間で完全に元に戻りました。民間は、やることが決まると、ものすごいスピードで対応する。復旧に時間がかかっているという話をよく聞くのですが、行政のトップダウンによる判断が必要なこと以外は、結構早く進んでいるのではないでしょうか。
今回の震災では、いままでこの国が抱えていた問題があらためてクローズアップされたと思っています。新たな問題は原発にかかわるエネルギー問題だけで、他の問題は元々あったわけです。今回、復旧に時間がかかっているのは、地方主権が確立せずに、中央集権が温存されてきたことが原因ではないでしょうか。地方主権が進んでいれば、もっと地方自治体が自分たちで考えて行動できたはずです。ですから、遅まきながら、日本が抱えている中央集権の問題を解決する良い機会にしたい。復興庁も東日本に置くべきです。そして中央官庁の人たちが横断的に現地に入って、そこに永住するくらいのつもりでやってほしいと思います。いきなり道州制となると少しハードルが高いので、とりあえずは復興庁が中心となり、各自治体と連携して復興を進めるべきです。

中村

日本全体の成長戦略を東京ではなく東北から始める、うまくいけばそれが全国に広がる、ということですね。

坂根

そうです。日本人は、こんな小さな島国が世界第二位の経済大国になったのだから、もう成長は限界に達したと思っている節がある。これは全くの誤解です。日本は、先進国で米国の次に人口が多い。つまり人口が多いからここまで成長したわけで、GDPを人口一人当たりでみたら、ドイツやフランスや米国に及びません。日本の成長が止まっている原因の一つが、中央集権でなんでも全国一律で考える風潮です。これでは無駄を省けず、予算がいくらあっても足りない。それを東北から解決していけると思うのです。

復興を進めるうえでの課題

中村

仙台塩釜港で関係者から説明を聞く米倉会長

経団連では、さる7月13日に、仙台市において東北地方経済懇談会を開催し、東北経済連合会の高橋会長をはじめ、東北経済界の方々との意見交換を行いました。その際、米倉会長をはじめ、参加された副会長の方々が、仙台港区の塩釜港や住宅地の被災状況と復旧の様子を視察しました。
塩釜港のコンテナターミナルでは、岸壁が損傷し、場内に約4000本あったコンテナが散乱・流出したことや、コンテナの積み下ろしを行う専用クレーンも損傷したと伺いました。また、その近隣の住宅地(蒲生二丁目)では、津波により多くの家屋が流出し、住民の方々が避難所から仮設住宅に移られたこと、ほとんどの家屋は土台だけが残っている状況であること、また小学校の体育館の壁が崩落し、生徒たちは別の小学校に間借りをして授業を受けているという話を伺いました。キリンビールの仙台工場にもまいりましたが、屋外に設置しているビールタンクが倒壊したことや、津波到着20分前に工場の全従業員の方々が屋上に避難したということなどを伺いました。
想定をはるかに超える凄まじい被害であったことを、視察を通じて痛感いたしました。
まさにいま、地域と産業の復興に向けた青写真を描くうえで、最も重要なのは、被災地の住民のお考えや取り組みであると思います。そこで、奥山市長より、百万都市の首長として、どのような復興ビジョンを描こうとされているのか、お話しいただけますか。

貴重な教訓を発信し、世界に貢献

奥山

今回の震災では、ボランティアの活躍に加えて、企業の活動には目を見張るものがありました。仙台は企業の支店・支社が多い町ですが、支社に対する本社からの、または全国からの支援が強力であったという実感を強く持っています。「目標は東北一円の企業の再稼働だ」となったら、全国から人が集まり、昼夜兼行で工場の整備や泥掻きを行いました。当初、サプライチェーンが戻るまでには3〜4カ月かかるだろうと報道されましたが、その予想を覆して、早い時期から復旧していきました。企業に比べ、行政は機能的に一歩も二歩も遅れていることが明らかになったと思います。
ただ、今回はあまりにも被害が広域に及んだので、被災したまちや村を県と国が助け、そのなかで立ち直っていくといういままでの復旧のスキームが通用しなかった面がありました。そこで、自治体同士で、例えば、関西広域連合から県ごとに担当県を決めて支援が入るとか、名古屋市が釜石市に支援に行くといった、これまでの都市交流のつながりをもとに支援体制がつくられました。今後これがもう少しシステム化されて、平時から支援体制を整えていれば、日本の都市の災害対応力は、市民活動と企業、そして行政の広域支援というかたちで、より高いレベルのものになると思います。
また、仙台市のような百万都市がマグニチュード9.0の地震に襲われたことは、世界的にも例がありません。そこで、電気、水道、ガスをどう復旧したか、電架柱が全部倒れた新幹線をどうやって短期間に復旧したか、といった知恵を、世界に発信することで貢献できると思います。こうした事態に直面したとき、公共事業をどうやればよいのかという面でも、貴重な教訓がたくさんありました。
それでも、なぜ、生活の再建がこれほどまでに遅れてしまったのか。それは、やはり集団移転が大きな原因だと思われます。いままでの集団移転の制度は、奥尻島のように限られた場所の少数の住民が移転するというのが前提でした。しかし、今回のような都市型の集団移転、また、広域的な集団移転に対しては、国の制度は十分ではありません。もちろん、国の動きが鈍かった感は否めません。国会のねじれ現象によって意思決定が遅れているようにみえました。近いうちに、第三次補正予算が成立すると思いますが、第三次補正予算で示されるであろうお金は、7月にはほしかったというのが本音です。この遅れは被災地にとって非常に痛いと感じています。

複合的難局の打開に向け思い切った手を打て

中村

民間、ボランティア、地方自治体、それぞれが非常に緊迫感を持っていたと思います。しかし、先日、アーミテージ元米国務副長官が来日したときに、「日本政府は緊迫感が薄い」と発言しておられました。復興構想会議でも、集団移転については住宅地を高台につくるという考えが出ていますが、そのためにはお金が必要です。しかし、10月に召集される臨時国会において、ようやく第三次補正予算案が審議されるという状況をどう理解すればよいのでしょうか。

奥山

私は仙台市長であると同時に、宮城県市長会や東北市長会の会長でもあるので、いろいろなかたちで陳情しました。また現地には政府や国会議員の方も多数いらっしゃって、皆さんから、「これは大変な震災だから、国の総力をあげてなんとかする」と言っていただいています。しかし、その言葉とは裏腹に、国が、国会が動かない。被災地では、われわれは忘れられようとしているのではないか、という不安が広がっています。

中村

もう限界が来ているということでしょうか。

奥山

やはり半年というのは、待つ身とすれば非常に長い期間です。国の第三次補正予算案の国会提出が10月末になるとの報道もありますが、東北で10月末というのは秋というより冬の始まりです。寒さが厳しくなっていくなかで、正月をどこで迎えるかという不安が募っていきます。東京と東北では季節感も違うということも含めて、政府には格段の対応の迅速化をお願いしたいと思っています。

中村

お金の問題に加えて、特区制度も復興庁も議論はこれからです。今回のような複合的な難局には、従来の延長線上では、とうてい対応できず、思い切った手を打つ必要があると思います。

坂根

予算がついてから具体的に何かを考えるのでは遅いと思います。あれだけ広大な被災地を一律に復興させるのは難しい。だから、先行モデルを走らせるべきです。被災自治体から、具体的な復興モデルや特区の仕組みを積極的に提示してもらい、それを予算にするようにはできないのでしょうか。

地域の知恵を引き出す工夫を

奥山

そのとおりです。いま、そのために、それぞれの自治体が復興計画の議論を行っています。ただ、これは自治体の悪しき慣習なのかもしれませんが、国の制度に従って予算を立てないと、万が一、住民や議会に発表した後で予算がつかないとなると、その分を自前で補填しないといけないわけです。自治体が持っている財政規模と自由にできる枠の狭さが知恵を出すことを臆病にしているのだと思います。ただ、制度が決まって、お金が目の前にないと何も考えられないというのでは、あまりに芸のない話です。そこで、例えば総合交付金というかたちで上限額を示したうえで、各自治体がフレキシブルに使える枠をつくっていただければ、いろいろな知恵が出てくると思います。

坂根

お金以外にも、国の役人がある程度の権限を与えられたうえで、地域住民と一緒になって具体的なことを考えていくという方法もあると思います。

中村

つまり、復興庁を東北に置いて、中央の役人が被災地で働くということですね。

坂根

そうです。私は、それが早いと思います。復興庁が現地にあって、そこに相談したら基本的に予算化が進むというかたちの方がスムーズにいくはずです。そして何よりも国民からみて変革の姿がわかりやすく、この効果は大きいと思います。

中村

特区については、どうお考えでしょうか。

坂根

特区は、一部の人だけに利益を与えてもだめなんです。例えば、法人税だけを下げる、あるいは免税にする場合もあるでしょう。しかし、それだけでは足りない。韓国のように、特区に働きに来た人には、外国人を含めて、所得税を免除するというのも一つの手段です。会社にいくらメリットを出しても、そこに行って働こうとしている人に対してインセンティブを与えなければ、復興には結びつきません。

奥山

そうですね。雇用人口をその地で確保することが重要だと思います。

いかにビジョンを描くのか

中村

仙台市で震災復興のビジョンがつくられています。11月中をめどに復興計画をつくるとのことですが、これは順調に進んでいるのでしょうか。

奥山

おかげさまで、地域の方々へもご説明をしながら進めています。震災で実施できなかった市議会議員選挙が8月末に終わり、新しく選ばれた議員がこの復興計画の議論を始めています。当局に対して、相当突っ込んだ内容の注文や提案があがってきています。

中村

そうしたビジョンや計画というのは、他の東北の被災地でもできあがっているのですか。

奥山

私の知る限りでは、ほぼすべての被災自治体は計画をつくることになっており、早いところでは、すでに計画策定を終えています。あとは、年内というところが多く、いちばん遅くても年度内です。ただ、それぞれの自治体で状況が異なるはずなのに、計画が金太郎飴化しているという指摘もあります。自治体は、横並びでいれば安心という気持ちになりがちです。限られた財源のなかでどこに特化して復興の足がかりをつくるのか、各自治体がもう少し知恵を出さなければならないかもしれません。

中村

一方で、新しい日本をつくるためには、国全体でマスタープランというものをつくって、ある程度その枠組みに沿って各地が計画をつくっていく必要があるのではないでしょうか。

坂根

結局、雇用の場がないと人口流出が起きてしまいます。東北は一次産業の従事者の割合が全国平均よりも高い。これだけ比率が高いなら、とにかく一次産業に特化して早く復興のモデルをつくるという考え方もできると思います。それから、建設業の比率も高いです。建設業は、中小企業が多く、今回の震災でどこも壊滅的な被害を受けたようですが、大きな設備を抱えてはいないから、事業の再開は早いでしょう。

現況復旧に止まらない施策を

奥山

ご承知のとおり、国の震災関連の補助金制度はあくまでも現況復旧を基本としています。ただ、今回はそれに対する反対意見が出て、現状+αの復旧を多少は認めるようです。しかし、民間だったら壊れてしまったものを同じお金をかけて元どおりに直すのではなく、よりよくするというのが原則でしょう。国がそういう考えだとイノベーションや知恵は出にくい。宮城では、3年前に、宮城・岩手内陸地震があり、多くの公共施設が壊れました。そこでも、現況復旧が基本ですから、国の補助金で元どおりに直したのですね。ところが、今回の地震でまた同じ箇所が同じように壊れてしまった。つまり、現況復旧という考え方ではいけないということを、その事実そのものが示しているのです。

中村

補助率の問題もあります。がれき処理にしても始めは二分の一国庫で、二分の一地方だと言っていました。地方の財政規模を考えると、これではとうてい無理です。議員立法によって95%は国が負担して、5%の交付金が出るということになって、はじめて動き出しました。やはりこういう未曾有の災害では、新しい考えを持たないといけません。

奥山

「災い転じて福」にする部分がないといけませんね。東北の場合、震災前から多くの問題を抱えていたわけですから、元に戻ったからといって万々歳ではない。国は、復旧ではなく復興だと言っていますが、よりよくするための仕掛けは、いまの制度のなかには少ないと感じています。

中村

そういうところこそ、政治主導でやるべきですね。

奥山

応急仮設住宅にしても一戸に500万円かけてつくって、二年経ったら壊すことになっています。しかし、仮設住宅に入るよりも自宅を再建したい人もいるわけです。そういう人には、500万円全部とは言いませんが、300万円補助を出すというように、復興を迅速化するための仕掛けはたくさんあるはずです。個人財産には公金は出せないということで、そういう制度がつくれないのです。

人口流出を防ぐために産業振興を急げ

中村

ここからは、今後の展望についてお話をいただきたいと思います。被災地域の復興に向けては、被災者の方々の生活を安定させ、地域の活力を高めていくことが不可欠です。しかし一方で、多くの市町村で人口の流出が始まっていることは、復興への阻害要因であると思います。人口流出の問題は、阪神・淡路大震災のときにも大きな問題となりました。
まずは、東北の被災企業が一日も早く完全復旧することが重要ですが、同時に、地域に雇用を創出するためにも、新規に企業を誘致したり、ニュービジネスの創出を支援したりして、大震災以前の状況を超える産業集積を進めていくことを目標とすべきではないかと思います。
こうしたことも含め、仙台市としてどのような産業振興を考えておられるのでしょうか。また、国や産業界への要望はございますか。

奥山

国には、復旧より復興をと考えるのであれば、よりよくするためのインセンティブを制度化してほしいと思います。基本は雇用の創出ですが、そのためには、産業界だけでなく、東北に新しい雇用を創出する分野づくりを、国をあげてやっていただきたいと思います。

中村

坂根副会長にお聞きしたいのですが、今回の震災を踏まえ、日本はどうしたら成長軌道に戻ることができるとお考えですか。

坂根

コマツがいま取り組んでいることを参考にしていただけるのではないかと思います。弊社は石川県の小松が発祥の地です。ところが、いまは石川県における生産比率は日本全体の三分の一しかありません。なぜ、石川県での生産比率が減少したのか。理由は、石川が輸出に不向きだからです。輸出のために、神戸港や横浜港に近い所に工場をつくってきました。しかしいまは逆の発想で、輸出ができるように金沢港をつくり変えようと考えたのです。金沢港の隣に工場をつくるから、岸壁を深いものにしてほしいと国や自治体に働きかけ、かなり輸出ができるようになりました。
また、東京本社での一括採用も地方停滞の原因の一つです。本社一括採用だと、地縁がない人も石川で勤務することになる。そうなると、いつまでいるかわからないから、家を建てるわけにもいかない。人が石川に根付かないのです。そこで、本社での採用に加え、各地域の事業所による独自の新卒採用も始めました。また、工場の所在地に本社機能の移転も行いました。例えば、部品の購入を担当する調達本部。あるいは全世界の社員教育を担当する教育研修部門も東京に置いておく必要がないので、今年、創立90周年記念としてグローバル研修センターをつくり石川に移しました。
コマツが、地元の石川で活発に活動できるようにしたい。そして、そういうことを他の企業もやれば、この国は変わります。東北にもこの意見に賛同してくれるような企業があればと探したのですが、思っていたよりも東北発祥の大企業が少ないというのが率直なところです。

奥山

そうですね。仙台市でさえ上場企業はとても少ないです。

坂根

大企業が、それぞれの工場所在地で一定数を採用するだけでも、相当変わると思います。地元で採用機会があったら、別に東京に出る必要はありません。だから今回、経団連の会員企業では、東北での採用を増やそうと努力を始めています。そういうことは、すぐに始めることが大事です。

地方主権を進め魅力ある東北の再生を

中村

東北には、製造業を支える部品産業が多くありますが、そうした企業が被災したために、世界のサプライチェーンに影響が及びました。例えば、自動車を一台組み立てるには約3万点の部品が必要だといわれていますが、そのなかで非常に重要な電子部品やネジ一本に至るまでの約300点以上の部品・部材の供給が震災で止まってしまったために、国内外の自動車産業が混乱したことは記憶に新しいところです。これまでも東北にはこうした企業群が存在していたのですから、インセンティブがあれば、さらに多くの企業が東北に新規立地すると思うのです。それが進まないのは権限とお金が自治体の側にないからです。やはり地方主権を進めることで、魅力ある東北が再生するのではないでしょうか。

奥山

いま、金沢港のお話がありましたが、仙台港も今回の震災で地盤沈下が起こったり、ガントリークレーンが壊れたりと大きな被害を受けました。われわれからすると、仙台港をなるべく早い時期に復旧させたい。それが東北の製造業全体にとってプラスになると思っています。
やはりそうなると特区の制度を利用したい。仙台港の特性に合った企業の活動に対し規制緩和をするとか、従業員を現地で採用したらインセンティブを与えられるといった制度をつくれればと思います。
もう一つ、仙台市のアイデンティティーの一つは「学都」で、その柱は東北大学です。東北大学は、特に金属や材料といった分野が世界的に有名ですが、今回の震災で研究機能がかなりのダメージを受けたために、海外の研究機関が研究者の引き抜きを始めたのです。その点には大学も危機感を持っていて、早急に研究環境を回復するために対応を進めているそうです。

中村

頭脳流出に加えて人口流出も起こっています。だからこそ、産業の集積が必要ではないでしょうか。企業を誘致しなければ、人口はどんどん流出してしまう。中小企業に雇用吸収力がないならば、やはり大きな企業を誘致しなければなりません。そのためには、インセンティブが必要です。東北では、医療などの分野でのニュービジネスも考えていると伺っていますが。

奥山

そうですね、福島県内では、医療にITを組み入れた工場があります。また、原発事故を受けて、エネルギーに関する問題がたくさん出てきました。私どもにも、新エネルギーを都市でどう利用するかという、ITとエネルギーをマッチングさせたプロジェクトの提案があります。それらがすぐに大産業になって、何万人という雇用を生むことはないでしょうが、新しい産業分野の創出は必須です。いままで何十年努力しても、東北の高齢化と人口減少を食い止められなかったわけですから、それを克服するには、相当な大きなプロジェクトを、国と自治体が共同でやっていく必要があると思います。一方で、工場誘致などのさまざまな対策をとりながら、イノベーションにつながるチャレンジを、地域として考えなければいけません。

社会に活力をもたらすプラスアルファを生む長期的展望を

中村

アメリカも韓国も中国も、東北に対してすごく注目していると思います。東北にはビジネスチャンスがある、と。日本企業だけでなくて、外国企業も招き入れるくらい、魅力を高めなければいけません。

坂根

日本では財政状態が悪いなかで今回の震災復興を後ろ向きにとらえた議論になりがちですが、海外では、久々に先進国で超大型の投資機会が生じたととらえています。例えば、国が20兆円使うということは、民間投資や消費を考えると40兆円、50兆円の経済波及効果があるはずです。「災い転じて福とする」には、この20兆円を50兆円にして取り返してやるくらいのつもりで、前向きに取り組むべきだと思います。

奥山

20兆というのはたいへんな金額なので、これを効果的に活用しなければいけません。単純に元に戻るだけではなく、プラスアルファを生むことを考えなければいけない。しかし現状では、日本社会のなかでこの点についての議論が深められているようには思えないのが残念です。被害が甚大であったことは事実ですが、マスコミでは、ご家族が亡くなられた、家も土地も失ってしまった、そういった悲惨な状況の報道ばかりが行われています。被災された方々の辛いお気持ちは察するに余りある。しかし、話がそこだけに留まっていては、残された人々も前に進めません。社会として被災者の方々をしっかりすくいあげていくためにも、社会に活力がみなぎり、それによって支えていくことが必要です。それには、経済的な視点や長期的な展望がなければなりません。

一次産業の新しいモデル作りを目指せ

中村

農業や漁業も、考え方を変えれば、そこに新たに雇用が生まれるのではないでしょうか。

坂根

2カ月前に仙台を視察したときに感じたことがあります。まず、大企業の支店や倉庫が、いち早く片付いているということです。国からのお金は期待できないから自分たちでやってしまうのですね。ところが、個人の住宅などはそのままです。結局、農業や漁業も、ある程度の規模で企業化される必要があるのではないでしょうか。港の復旧など自分たちだけではできない部分もあるでしょうが、かなりの部分は自分たちでやれるはずです。そのような動きが一次産業ではあまりみられない気がします。このことが一次産業の本質的問題なのかもしれません。

中村

いろいろな規制があるのではないでしょうか。そのあたりをどうすればよいのでしょうか。

坂根

さまざまな利権があって難しいことだと思いますが、この機会に大規模な農業・漁業の事業を推進できるモデルをつくってみることです。企業が実際に漁業をやるのではなく、出資者になるという方法も考えられるでしょう。そうすれば、いわゆる六次産業化の具体的アイディアが出てくるはずです。

中村

加工業が生まれて、独自に産業化ができれば、雇用も増えると思います。

奥山

そういう意味では、仙台市は、農業に関してはアドバンテージが高い土地柄です。米に比べて野菜や花は付加価値が高く、野菜や花は、消費地である大都市に近いことが大きなメリットになります。仙台近郊の農地は、これまで米づくりが中心でしたが、水耕栽培の工場などへの転換ということも十分に考えられます。農家の方々には本当に申し訳ないけれども、津波にあった農地をただ単に復旧するだけでは、かけた費用と今後得られる収益が見合うレベルにならない可能性が高いです。産業化を進めることではじめて、付加価値の高い農産物を生産し、その加工・販売も含めた、新しいモデルができるのではないかと思っています。

中村

そういう意味では、いまが新しい日本をつくるチャンスですね。

奥山

幸い仙台は企業を含めたいろいろな方面からご提案をいただいております。また農業者にも、集団営農に対して前向きな方もいらっしゃるので、特区の制度も利用しながら、新しいモデルを発信できればと思っております。

中村

「コンクリートから人へ」ということで、公共事業にしわ寄せが来ています。東海・東南海・南海地震、それに首都直下型地震が起こる可能性があるといわれていますが、必要な公共事業は、むしろ実施するべきです。

坂根

もちろんです。地方が自分のお金で必要なものをつくるというかたちであれば、国からの予算を使うために箱ものをつくるような公共投資にはなっていなかったはずです。結局国から予算がもらえるという発想だったから、無駄が出てしまったのです。

奥山

今回、多くの学校で体育館の天井が落ちたのですが、天井は修理に足場を組まなければならず、直すのが大変なのです。また、下水処理場も津波で使用できなくなったのですが、機器類の防水性を向上させるといった工夫さえされていれば、かなり防げたと思います。つまり、公共施設については、災害で壊れたときにできるだけ直しやすい仕様にするとか、被害を最小限にするような仕様にするといったことを考えて復旧すべきではないでしょうか。そうすれば、より社会全体の災害対応力が高まるようなかたちの公共事業になっていくはずです。

中村

では、最後に一言ずつお願いいたします。

奥山
ともに、前へ 仙台

企業の決定の速さ、行動の迅速さというのは今回の震災でおおいに発揮されました。自治体も、足並みをそろえられるように、復旧のスピードを保てる仕組みをつくりたいと思います。そのためにも地方分権をもっと進めるべきですね。

坂根

復興には一次産業がキーになると思っています。しかし、元に戻すだけではなく、若い人たちが集まるようなモデルをつくっていかなければなりません。そのためには企業化しないと若い人に魅力はないと思います。経団連のなかでも議論していく必要がありますが、大企業の責任として、一次産業に関連する事業を一つでも行ってみてはどうでしょう。
コマツはスウェーデンに林業機械メーカーを持っていますが、林業も補助金頼みではいけません。ドイツや北欧では、林業は機械化されて非常に進んでいます。林業でもうかる仕組みをつくることで、雇用を増やすことができます。大企業が一次産業の発展にお手伝いをするという姿勢をみせるだけでも、大きく変わるのではないかと考えています。

中村

本日はどうもありがとうございました。


(2011年9月14日 経団連会館にて)

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