かねてより経団連新産業・新事業委員会(共同委員長:出井伸之ソニー社長、高原慶一朗ユニ・チャーム社長)では、経済活性化の鍵となる新産業・新事業の創出へ向けて、政府に対して環境整備を働きかけるとともに、企業自らが、発展への道を切り拓いていく気概を持って新事業に挑戦することを呼びかけてきた。
95年7月にとりまとめた新産業・新事業委員会中間提言「新産業・新事業創出への提言−起業家精神を育む社会を目指して」では、日本経済の再生には、独立型ベンチャー企業の輩出とともに、人材、技術、資本の宝庫である既存の大企業が、資源の適正配分や経営トップの意識改革等によりその潜在能力を十二分に発揮し、活性化を遂げることが極めて重要であることを呼びかけた。また、96年12月には、新産業・新事業委員会企画部会報告書「日本型コーポレート・ベンチャーを目指して」をとりまとめ、新事業開拓へ向けて取組む代表的な企業における成功例・失敗例や得られた教訓などを整理した。
その後、低迷を続けてきた景気に薄日は差しつつあるものの、民間主導の自律回復軌道に乗せるまでには至っていない。また、戦後の目覚ましい発展という過去の成功ゆえに安定を良しとする風土が定着し、反対に、社会全体に何事にも失敗を恐れず取組む意識や創造的な試みや挑戦への気概の希薄化がまだまだみられるということは否定できない。しかし、独立型ベンチャーを支援するための制度や仕組みは着実に整備が進められ、また、国民意識の面でも、大学生の独立・転職意識の高まりや、わが子の起業・独立に対する親の抵抗感の薄れなど、「寄らば大樹の陰」といった意識にも変化が見られるところである。このように明るい材料も揃いつつある中で、経済の閉塞的な状態からの脱却へ向けて、今、企業が戦略的な事業再構築といった改革に主体的に取組むことが喫緊の課題となっている。
そこで、企画部会(部会長:鳴戸道郎富士通副会長)では、大企業における起業家精神の発揮やベンチャー的取組みを加速させるために、99年3月からコーポレート・ベンチャーの推進策について掘り下げた検討を行い、このたび本報告書をとりまとめた。この報告書は、企業が改革を進め自らの活性化を図る上で、リスクをとり夢に向かって果敢に挑戦しようとする社員と、彼らを活かそうとする経営者等にエールを送るものである。とりわけ、失敗を怖れずに起業に取組んだ人達が、個人として「幸せ」になることを念じて止まない。
長期にわたる景気停滞から脱し、わが国経済の活力を維持・強化させ、雇用機会を創出するためには、今、産業界自らが戦略的な事業再構築といった大胆な改革に取組まなければならない。とくに、新たな産業とそれを担う企業が登場し成長することが重要であり、既存の企業も、新産業・新事業の中核を担うことが求められている。企業経営においても、IT化を始めとする技術革新やグローバル化が進展する中で、スピード経営が求められており、事業環境の変化に機動的に対応し、意思決定や決断を迅速に行わなければならない。また、既存事業の成熟化が進行しており、新規事業に活路を見出す取組みも急務となっている。したがって、社員の個性と創造性が尊重され、挑戦が評価される企業風土を醸成することが不可欠であり、そのためのツールとして、コーポレート・ベンチャーの推進に対する期待が大きい。
コーポレート・ベンチャーとは、社員の発意に基づいて、既存企業が有する人材、技術、資本等の内部資源を効果的に活用し、ベンチャー的な取組みにより新事業を創出するものである。これは、企業が有する資源を新たな事業機会の獲得に結び付け、社内の活性化と自己改革を推進するためのツールといえる。
コーポレート・ベンチャーは、人材、技術、資金、経営ノウハウ等を有する既存企業の特徴と、スピード、機動性に優れるベンチャー企業の特徴とを兼ね備えている。
このため、コーポレート・ベンチャーの推進により、小回り、柔軟性、迅速な意思決定を通じて、市場の変化を捉えた経営のスピードアップが可能となり、母体企業では攻略しにくいと想定された市場の開拓が期待できる。
大企業組織の中で潰されがちなビジネスの種を活かすことも可能である。また、新市場や事業機会に敏感でありながら企業内で埋もれている逸材の登用・活用ができるなど、人材の発掘も期待できる。さらに、挑戦的なマネジメントの体験の場として、将来のマネジメント層を育成する教育効果もある。
自発的な起業の成功事例が積み重ねられると、保守的・現状維持的な安定志向の企業風土を挑戦的な風土に変容させることにも繋がりうる。こうしたコーポレート・ベンチャーは、企業の活性化、自己改革を促し、本業の発展をもたらす可能性がある。
コーポレート・ベンチャー起業家の姿勢
母体企業の役割
大企業の中にも、起業家精神を備えた人材は潜在的には存在しているが、通常業務を遂行する環境下で事業提案を行っても組織の大きさが迅速な意思決定を得る上で足かせとなり、実現を困難にしているといった状況もあり、顕在化していないと考えられる。したがって、起業家精神を備えた人材を育て、支援する環境を整備することにより、社員の挑戦的な意欲を喚起し、より多くの社内起業家の輩出を期待するところである。
一般的に、安定性や社会的信頼性があり、福利厚生や給与が中小企業に比べて充実しているといわれる大企業にいる社員にとって、母体企業から退職・転籍して新事業への挑戦を決意することは、容易なことではないと推察される。そうした中で、経営トップがリーダーシップを発揮して、社員の挑戦を促すよう、社内公募制度やインセンティブに係る制度などを整備することが不可欠である。
インセンティブの制度化
コーポレート・ベンチャーでは、リスクをとって挑戦した人達が評価され、「幸せ」になれるように、インセンティブを制度化することが肝要である。
スピンアウトした社員が別会社を起して新事業に取組む「グループ内独立企業型」の場合、ストックオプション制度を大いに活用すべきである。そのためには、母体企業は、将来的な株式上場を認めることが望まれる。母体企業は、持株比率の過半数を維持することに固執せず、コーポレート・ベンチャーの経営の自由度を高めてやることにより、必要な人材の外部からの獲得、中核となる人材のモチベーションの維持・向上が図られる。グループ内独立企業型のコーポレート・ベンチャーへ出向の身分で参画する人への評価に対して、母体企業が関与しすぎることなく、コーポレート・ベンチャーの裁量に任せることが望ましい。
なお、現行商法では、自社の役員や社員に対して発行済総株式数の1/10を限度にストックオプションの付与が認められているが、新事業創出促進法の適用を受けた場合には、付与対象者が弁護士やコンサルタント等外部支援者へ拡張されるとともに、付与限度株式数も1/3までへと拡大された。
社内に留まって新事業に取組む「社内プロジェクト型」の場合には、発意によって積極的に参画する社員に対して、権限の委譲、通常の評価システムとは異なる人事考課等のインセンティブを付与する仕組みを整備することが望まれる。
経営トップには、コーポレート・ベンチャーに挑戦して仮に成功しなかった場合には「失敗」の烙印を押すのではなく、リスクを取って果敢に挑戦したことを称える風土づくりが責務となる。リスクを冒すコーポレート・ベンチャー起業家に対して、リスクや創造への挑戦者として相応の報酬・待遇を与え、高く評価するとともに、元の職場に復帰する時にはその挑戦に対して前向きな評価を与え、処遇することが望まれる。
社内公募制の活用
新しい事業にチャレンジすることにより自己実現を図ろうとする社員に対して、挑戦する機会を与えるための仕組みが必要である。独創的なアイデアを出し、それを実現しようと挑戦する社員はもとより、一緒に参画したいという社員にも機会を与え、意欲ある人材を登用することが必要である。
また、成功事例を公表することで、社内公募制を利用してキャリアアップに努めようとする社員が現われ、社内の活性化が一層促進されるといった、好循環を生むことが期待できる。
なお、公募の方式としては、事業内容を問わない自由公募方式、母体企業の事業との間にシナジー効果が期待される事業内容に制限する方式、母体企業が事業テーマを設定するテーマ提示方式などが考えられる。新事業を母体企業の事業にどう位置付けるかによって、どの公募方式を選択するかを判断することになる。
コーポレート・ベンチャーの株式上場
すでにコーポレート・ベンチャーに取組んでいる企業の制度は、企業毎に様々である。各社の企業風土の中で整備されていることもあり、どの制度が最適であるとは一概には言えない。事業を「成功」とする基準としては、売上げが立つこと、単年度黒字化すること、累積赤字が解消することなど、本来的に企業が独自に設定するものである。しかしながら、母体企業が、コーポレート・ベンチャーの将来的な株式上場に伴うキャピタル・ゲインを得るためだけではなく、社内活性化の一環としてコーポレート・ベンチャーを推進する場合においては、コーポレート・ベンチャーの当面のゴールを株式上場に置き、株式を上場することをもって成功と位置付けることが望ましい。コーポレート・ベンチャー起業家に株式上場の意欲がある場合、母体企業には、コーポレート・ベンチャーの株式上場を認めることが望まれる。
なぜならば、コーポレート・ベンチャーでは、まずもって、果敢に挑戦した人達が評価され「幸せ」になれることを基本とすべきであるからである。また、株式上場により、コーポレート・ベンチャーの活動の自由度が高まり、その創造的な挑戦も期待される。さらに、株式上場とは、市場の監視に委ねることであり、母体企業よりも厳しい目で将来性や業績がチェックされることになる。このため、株式上場は、コーポレート・ベンチャーの甘えを払拭する契機ともなりうる。
なお、株式上場に際しては、予め、企業買収の対象になりうることについての是否を十分検討することが必要である。また、コーポレート・ベンチャーの過度な依存心を断ち切り、緊張感を維持する観点から、コーポレート・ベンチャーに対して、例えば「設立3年後に単年度黒字化、5年後には累損解消」といった目標を設定するなど、母体企業が投資のリターンを求める姿勢を示すことも効果的である。その際に、母体企業が、短期的な視点からコーポレート・ベンチャーの日々の活動に細かく介入したり、従来型の物差し(利益率、管理手法等)にこだわることにより、コーポレート・ベンチャーが仕事を小さくまとめざるを得なくなることを避けるべきである。また、母体企業からの出資比率を下げていくといった配慮も求められる。
企業は、コアビジネスの強化を図る一方で、コアでない事業の整理を検討するなど、事業再構築へ向けて「選択と集中」を進めている。「選択と集中」を図る上で、母体企業にとってコアでない事業をやる気のある社員に任せてしまうことが、選択肢の一つとして考えられる。そこで、熱意のある社内起業家に任せるという観点から、新事業を母体企業から切り出して継続させるなど分社化を行う場合において、外部資本の導入を伴うMBO(Management Buy-out)の活用が望まれる。MBOとは、企業の子会社や事業部門の事業継続を前提として、その子会社の経営陣や事業部門の幹部とベンチャー・キャピタル等の外部投資家が、その子会社等の株式を買取り経営権を取得するという企業買収の一手法であり、いわゆる「暖簾分け」に近いものである。結果的に雇用の維持に繋がることから、日本の社会風土に受入れられやすく、その活用が期待されるところである。
コーポレート・ベンチャー設立の際にMBOを活用することは、母体企業にとっては、社員にチャレンジ精神を発揮できる機会を新たに認めることによる社員の活性化、新独立会社経営陣及びベンチャー・キャピタル等投資家グループへの保有株式譲渡による投下資本の早期回収、株式保有割合減少による公開リスクのヘッジ、人件費・間接費・金利等の削減及び切り離しによる経営管理スパンの縮少、売却に比べ労働組合の承認が得られやすい、などのメリットがある。コーポレート・ベンチャーにとっては、一社員からオーナーへの転身といった人生の新しいチャレンジによるモチベーションの向上、参加意識の向上による社員のモチベーションの増大、株式公開によるキャピタル・ゲインの獲得機会の増大、ベンチャー・キャピタル等外部の投資家による資本参加を通じた事業資金負担の軽減、迅速な意思決定による小回りのきく経営体制の実現などのメリットがある。
ベンチャー・キャピタルの活用
コーポレート・ベンチャーの推進にあたっては、母体企業、コーポレート・ベンチャーの経営陣のアドバイザーとして、また、新会社として設立されるコーポレート・ベンチャーへの出資者ともなりうるベンチャー・キャピタルとの連携を図ることが期待される。
投資家・出資者としての側面から、「入口」(投資)段階の企業価値を「出口」(株式公開)段階で最大化することによりキャピタルゲインを狙うベンチャー・キャピタルは、投資家から集めた資金をベンチャーへ投資し、運用するファンドマネージャーとしての責務を負っている。そのため、ベンチャー・キャピタルは、資金投資・運用ならびにそれらの管理機能を有し、コーポレート・ベンチャーの事業計画に対して投資を行うか否かについて、第三者の視点から厳しい目で判断する。そこで、参入を予定する事業について、起業家本人を含め社内に参入予定分野の知識・ノウハウが蓄積されておらず、実際に世間で通用するものなのかを評価するにあたっては、ベンチャー・キャピタルを活用することが有用である。
また、ベンチャー・キャピタルには、ベンチャーの立ち上げや成長・発展のための仕掛けを作り、ベンチャー・ビジネス発展に重要な役割を担っている。つまり、新会社の成長のための支援者としての機能を有しており、例えばMBOの場合、設立される新会社が引き継ぐ事業の評価額の試算、母体企業等との買収交渉、事業計画の策定、資本政策の立案、資金調達の手配などを支援する。また、ベンチャー・キャピタリストは、個人的な信頼関係に裏打ちされた人的ネットワークに基づく、経営強化のための人材斡旋(経営者、技術者、財務担当者等)、経営戦略・販売戦略等に関するアドバイス、新規販売先・提携先の紹介、など総合的な育成・支援機能も備えている。
コーポレート・ベンチャー推進企業間の連携
コーポレート・ベンチャーを推進する企業において、人材面での交流といった連携も検討に値する。各企業によって、対象事業領域、コーポレート・ベンチャー推進に関する諸制度等が異なっており、連携は容易ではないと推察される。しかし、その壁を乗り越えて、人材面での交流を図ることが可能となれば、一層の活性化が期待できる。
リスクの高い事業に挑戦するベンチャー(コーポレート・ベンチャーを含む)が機動的に活動するための仕組みを整備する必要がある。仕組みづくりにあたっては、その本来の目的が達せられモラルバザードを来さないように、適用要件等の明確化などに留意しなければならない。
連結納税制度の早期導入
企業は、経済環境や需要構造の変化に迅速に対応し、法制度の改正も踏まえ、その組織を柔軟に改編しようとしている。特に、経営資源の集中や新規事業展開を行なうために、戦略的分社化や企業グループ全体を括り直す動きが進みつつあり、さらに持株会社の解禁によって、本格的なグループ経営の時代を迎えつつある。一方、すでに企業会計制度においては、従来の単体重視から連結重視へと方向転換がなされており、税制面でも、グループ経営の進展に対応するために、企業グループを一体とした中立的な納税の仕組みである連結納税制度を早期に整備する必要がある。連結納税制度の導入により、グループ経営のメリットを活かした新規事業分野への展開や既存事業の再構築を行うに際しての、キャッシュフロー上のマイナスを取り除き、税制を企業経営に対してより中立的なものに改めることで事業組織形態選択の自由度を拡げ、結果として企業活力の強化を通じて経済の活性化につながる。国際的にも、先進諸外国の大部分が、何らかの形で企業グループを一体として納税する方法を採用している。
しかしながら、2001年度をめどに連結納税制度の導入を目指すとされていたにもかかわらず、2000年度の税制改正大綱において先送りされた。買収目的会社を設立してMBOを実施する際には、通常買収目的会社は大きな赤字を抱えるため、MBOにより設立される新会社(買収対象会社)との損益通算が可能でなければ、MBOを活用するインセンティブが働きにくいという指摘がある。MBOを実質的に活用するうえでも連結納税制度は不可欠であり、専門的・実務的検討を早急に進め、一日でも早く導入を図る必要がある。
ストックオプション税制の拡充
99年3月に発足した総理主宰の産業競争力会議等を通じて、産業活力再生特別措置法、新事業創出促進法の一部改正により、ストックオプションの付与対象の拡大や付与数制限の引下げなどが措置された。ストックオプション制度に更にインセンティブをもたせ、実質的に利用しやすいものとするためには、権利行使までの待機期間(現行2年間)の短縮や年間行使価額の最高額(現行1,000万円)の引上げといった適格要件の緩和などを行なう。
99年11月に東京証券取引所が「マザーズ」を設立し、また、2000年6月にはナスダック・ジャパンが取引を開始する予定であり、ベンチャーを対象にした資本市場の整備が急速に進み始めている。コーポレート・ベンチャーを含めベンチャーの創出・育成のためには、リスクマネーがベンチャーに流れ込むことが不可欠であり、これらの市場への期待は大きい。リスクマネーを呼込み、直接金融市場を活性化させるためには、以下の税制面での基盤づくりが必要である。
ベンチャー・キャピタル税制の導入
ベンチャー・キャピタルの充実を図る観点から、ベンチャー・キャピタルが起業時や創設後間もない企業に対して行なう出資について、税制面の優遇措置を講ずる必要がある。
エンジェル税制の拡充
現行のエンジェル税制は、個人がベンチャー企業に対して行なった株式投資により損失が生じた場合、翌期以降3年間の株式譲渡益との損益通算を認めるとともに、一定要件の下に株式譲渡益を4分の1に圧縮する特例を設けているが、これらに加えて、当該年度における他所得との通算、および株式譲渡益との損益通算期間の延長を行なう。
企業、社員に対し、多様な選択肢を提供し、それぞれの意見を尊重しながら、円滑な人材移動の実現、社員の持つ能力の発揮が図られるよう、社内外の労働市場の機能を強化していくことが求められている。企業が、年功序列的な賃金・処遇の見直しを年金・退職金制度なども含めて行なうことも重要である。それと併せて、確定給付型を骨格としている現行の企業年金制度については、転職時におけるポータビリティを確保できるものへと見直すことが必要であり、確定拠出型年金制度が2001年1月を目途に導入されることになった。
しかしながら、確定拠出型年金は全く新しい制度であり、一旦導入した後も試行錯誤が繰り返されると考えられるので、認可基準や契約要件の範囲については、労使合意を前提に柔軟な制度設計が可能となるような配慮が必要である。
米国の破産法制は、その根幹に破産者の再挑戦を促すという基本原則があり、破産者の資産を没収するよりも、破産者が再起して、事業による収益を上げ、そこから債権を回収するよう促すものとなっている。
日本では、従来ベンチャーの資金調達は間接金融に負うところが大きく、起業家による個人保証が通例であった。倒産・破産した場合、起業家の財産は全て没収されてしまい、結果として、起業家は禁治産宣告を受け、社会復帰が困難となっていた。そこで倒産法制が見直され、99年12月に公布された民事再生法により、債務者(経営者)がそのまま残って再建するDIP(Debtor in Possession)型の仕組み、破産原因発生前の早期申立て制度、資産を保全するために申立てと同時に強制執行等の包括的禁止命令が出せるようにする制度などが整備されたところである。このような制度が実質的に機能することが期待される。
なお、現在、企業における紛争解決や民事再生法の活用といった法律面での問題解決を担っている弁護士には、今後、ビジネス、税務・会計の視点からアドバイスすることも求められている。弁護士には、法律にこだわり過ぎるあまりビジネス活動を萎縮させるのではなく、むしろ、ビジネスの可能性を高める前向きな助言を与えることが期待されている。
変容する社会環境の中で、教育界には、21世紀の日本を担う人材の育成が求められている。とくに、子供たちの「夢」を尊重するとともに、創造性を発揮し、自己の責任でリスクに挑戦しようとする起業家精神に溢れた人材を育成することが期待されている。一部の大学では起業家教育への取組みがなされているが、初等・中等教育課程においても、起業家精神を涵養する観点から、特別講師として産業人を受入れて懇談の機会を設けることや、経済活動現場での教師・児童・生徒の体験学習の実施など、教育界と産業界とが交流を深め、連携を強化することが必要である。
<コーポレート・ベンチャー企業>
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*[ ]内は、コーポレート・ベンチャーを推進する母体企業 |
<コーポレート・ベンチャー推進企業>
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(50音順) |
この報告書では、コーポレート・ベンチャーを、必ずしも明確に社内プロジェクト型かグループ内独立企業型かに区別をしていない。また、コーポレート・ベンチャーの効果を定量的に示してもいない。各論で紹介したコーポレート・ベンチャーにおいて、コーポレート・ベンチャー制度の仕組みや母体企業の関わり方などは、企業によって様々である。コーポレート・ベンチャーの経営者にも、例えば、母体企業の資源の積極的な活用を持論とする人もいれば、母体企業をあてにすべきではないとの、相反する意見を持つ人もみられる。
このように、コーポレート・ベンチャーを成功させるための王道はなく、社内活性化と自己改革を目指して着実に取組むことが肝要である。