[経団連] [意見書] [ 目次 ]

経団連 宇宙政策ビジョン

わが国宇宙開発・利用体制の改革と宇宙利用フロンティアの拡大


要 旨


はじめに

  1. わが国宇宙開発の課題は、(1)国民の信頼の回復、(2)国際競争力のある宇宙産業の育成。

  2. 内外の状況は、(1)宇宙は陸・海・空に次ぐ「第4のインフラ」として国民生活に定着、(2)IT革命を契機に世界的に宇宙の商業利用が進展、(3)欧米では官民一体となった宇宙の産業化・商業化への取組みを強化。

  3. 提言の基本的考え方
    1. 宇宙開発の意義について、経済、安全保障に果たす役割を明確にし、国の重点分野として位置づけ。
    2. 国としての戦略的な宇宙政策を持ち、政府横断的な体制で推進。特に、宇宙の産業化を推進する体制と施策を整備。
    3. 宇宙開発事業団は、宇宙プロジェクトの企画、立案、管理および管制運用等に集中。設計・製造等の「もの作り」は企業の責任において行える体制へ。
    4. 宇宙インフラを社会インフラと位置づけ、「勝てるIT宇宙インフラ」等の整備を国が推進。
    5. 産業競争力強化と技術安全保障の観点から、政府の宇宙機器、サービスの調達を国内の企業から行う方針を明確化。

  1. 日本の宇宙開発・利用の将来像と宇宙産業のあるべき姿
    1. 宇宙開発・利用の意義
    2. (1) 人類全体に対する貢献
      1. 宇宙科学の探求による新しい科学的知見の獲得、
      2. 地球規模の環境問題等への取組み、
      3. 人類のフロンティア開拓への参画、等。

      (2) 国益の追求
      1. 科学技術の基盤強化と技術革新による新産業の創出
      2. 社会インフラとしての宇宙利用の拡大による国民生活の質的向上
      3. 宇宙産業の国際競争力強化による経済・雇用の拡大
      4. 国民の安全と安心の確保
      5. 国際協力を通じた外交政策等への寄与

      欧米は、宇宙開発・利用の主目的を国益の追求に置き、宇宙の産業化への取組みを強化。わが国においても、宇宙開発・利用の経済・安全保障上の意義を明確にし、宇宙の産業化に焦点を当てた宇宙政策が必要。

    3. 宇宙市場と宇宙産業の将来像
    4. (1) 宇宙市場と宇宙産業の将来性
      世界的に情報通信を中心に宇宙利用の裾野が拡大。世界の宇宙産業の市場規模は、98年は10.5兆円、2010年は約4倍の40.2兆円になる見込み。

      (2) わが国宇宙産業の現状
      わが国の宇宙産業の規模は、96年度は7922億円、98年度は1兆1027億円(世界市場の約11%)に増大。

      (3) わが国宇宙産業の国際競争力の評価
      技術的には欧米に比肩しうる水準に接近。しかし、コストおよび納期を含めた国際競争力を有するのは、一部のコンポーネントに限られる。

    5. わが国宇宙産業の国際競争力強化
    6. (1) 国際競争力強化へのロードマップ
      欧米同様、宇宙産業の実証機会の拡大、国の宇宙インフラ整備による実利用の増大、技術安全保障等の観点を踏まえた調達等を推進すべき。

      (2) 社会基盤としての宇宙インフラの整備
      国民の安全、福祉、生活の質的向上を図るため、宇宙インフラを基本的社会基盤と位置づけ、国として整備していくことが重要。

      (3) わが国宇宙産業の目標
      国際市場で競争できる水準の早期達成が目標。2010年頃に、宇宙産業全体で6兆円、うち宇宙機器産業で1兆円の産業規模を目指す。

    7. 宇宙開発・利用の推進に向けた国民的コンセンサスの確立
    8. 官民が協力し、宇宙開発・利用、産業化の意義、経済・社会全般に及ぼすメリット等を広報し、国民の理解と支持を得るよう努力。

  2. 宇宙開発体制の改革と国家的宇宙政策の策定
    1. 宇宙開発体制の改革
    2. (1) 宇宙開発事業団の研究開発の信頼性向上のための改革
      地上試験や宇宙実証の機会を充実すべき。

      (2) 宇宙開発事業団の改革の方向性
      宇宙開発事業団は、その目的を宇宙の開発・利用を通じた社会への貢献とし、「宇宙の産業化」と「宇宙インフラの整備」を視野に入れた活動を推進するとともに、外部リソースの積極的活用を図る。
      1. 宇宙開発事業団は、主たる機能をプロジェクトの企画、立案、管理および管制運用等に集中させ、抜本的に強化。「研究」は、関係研究機関を活用し、設計・製造等の「もの作り」は、企業の責任において行える体制へ移行する。
      2. 事業団は、開発目標に「納期」と「コスト」を追加。
      3. 事業団の幹部等に民間人を登用、企業と双方向の人事交流を推進。
      4. 省庁再編後、総合科学技術会議等が改革のレビューを行う。

      (3) 宇宙科学研究所のあり方
      技術力の信頼性回復が必要。わが国の科学技術基盤の強化や宇宙の産業化に貢献するような取組みも強化すべき。

    3. 「次期科学技術基本計画」における宇宙の重要性
    4. (1) 国家的宇宙政策の必要性
      欧米は、国として一元的・戦略的な宇宙政策を策定、宇宙産業を支援。わが国としても、一元的・戦略的な宇宙政策と体制の確立が必要。

      (2) 「次期科学技術基本計画」での宇宙分野の位置付け
      「次期科学技術基本計画」において、宇宙を情報通信、ライフサイエンス、材料、環境に並ぶ重点分野として位置づけるべき。

    5. 宇宙開発・利用政策の推進体制の整備
    6. (1) 政府横断的かつ総合的な宇宙政策への転換
      わが国の科学技術政策における宇宙の位置付けや政府横断的な宇宙政策を審議し、決定すべき。その際、「宇宙の産業化」と「宇宙インフラの整備」を明確に位置付けるべき。

      (2) 「総合科学技術会議」の宇宙分野の取組みの強化
      総合科学技術会議は、科学技術政策における宇宙の位置付けや政府横断的な宇宙政策の基本方針の策定に加え、予算配分の基本方針の策定、プロジェクトの評価を行うべき。また、例えば、その中に宇宙専門調査会(仮称)を設けるべき。

    7. 関係省庁に期待される取組み
    8. 関係各省庁は、総合科学技術会議の定める宇宙政策に基づき、政策を立案・実施。その際、(1)産業化につながる研究開発の推進、(2)宇宙インフラ整備計画の策定と実施、(3)アンカーテナント政策の採用、(4)民間への技術移転の促進、等の取組みの強化。

    9. 宇宙機器・サービス分野での政府調達方針の明確化
    10. 政府は、米欧の宇宙関係の政府調達等との比較を行いつつ、技術安全保障上の必要性から、国産の衛星やロケットが調達されるための方針と仕組みを検討すべき。

  3. 産業界の取組みと国として推進すべきプロジェクト
  4. 国の主導の下で実施機関と産業界が連携し、研究開発、実用化から商業化へ至る一連の流れを作り出し、国の投資が新技術やそれを利用した新産業・新事業へと結実する循環を生み出すべき。

    1. 産業界としての取組み
    2. (1) 新産業、新事業の創出
      わが国産業は、急速に進展しているIT革命関連分野等の潜在的な需要を掘り起こし、新産業、新事業の創出に積極的に取り組むべき。

      (2) 競争力強化に向けた企業経営の革新
      企業自らが競争力の強化(付加価値の向上、コスト削減、納期の短縮)と信頼性の向上に向け、(1)競争力強化と戦略的な企業間連携、(2)IT化の推進と「宇宙CALS」による情報交換の円滑化等に取り組むべき。

    3. 国の取り組むべき課題
    4. (1) 国民のための「IT宇宙インフラ」の整備
      「高度情報化社会の実現による生活の質の向上」「安全・安心な生活の実現」「地球環境保全」等のため、以下の「勝てるIT宇宙インフラ」を構築すべき。
      1. 統合情報セキュリティー・ネットワーク
      2. 地球環境の改善・維持・蘇生ネットワーク
      3. アジア国際協力衛星ネットワーク

      (2) 国による研究開発プロジェクトの推進
      国による研究開発においても宇宙産業の競争力強化に資するプロジェクトの推進が必要であり、以下のようなプロジェクトを進めるべき。
      1. ロケットの改良・開発の継続と関連技術の維持
      2. 衛星の技術水準および経済性の向上の追求
      3. 宇宙太陽発電の推進
      4. 先端的宇宙科学ミッションの推進
      5. 国際宇宙ステーションの利用の推進

      (3) ITを活用した宇宙CALS等の構築・拡充
      総合的な競争力を強化するため、「宇宙CALS」の構築を軸に、製造等に係る情報の電子化とデータ共有等を効率的に推進すべき。

以 上

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