[経団連] [意見書] [ 目次 ]

21世紀に向けた新たな規制改革の断行と体制整備を要望する

−2000年度経団連規制改革要望−

2000年10月17日
(社)経済団体連合会

  1. 21世紀型の経済社会構造実現のための規制改革
  2. 21世紀を目前にひかえ、我が国を取り巻く環境が激変する中、経済のグローバル化、IT革命、少子高齢化など、我が国は、その将来を左右する諸課題への対応を迫られている。1990年代の「失われた10年」から脱却するとともに、これらの諸課題に適切に対応しつつ、民間主導型の活力と創意に満ちた21世紀の繁栄を築くためには、迅速かつ思い切った経済社会の構造改革を断行する必要がある。
    そのためには、まずもって、民間の経済活動に対する広範な規制や介入など、官主導・官依存型の経済社会を形成してきた規制・制度等の行政の在り方を抜本的に見直し、事前規制型から事後チェック型の行政に転換していく必要がある。また、財政構造改革の必要性が指摘される中、国・地方を通じた歳出の合理化・効率化等を通じ、「小さな政府」を実現することも重要な課題となっている。同時に、経済のグローバル化、IT革命などに伴って陳腐化し、あるいはその進展を妨げている規制や制度、行政手続等についても、これらの諸課題に対応し新たな時代の基盤を整備するため、集中的な改革への取組みが求められている。従って、新たな世紀を迎えるにあたって、これまでの規制改革への取り組みを踏まえつつ、21世紀型の自由で公正な経済社会を構築するため、改めて規制改革の継続・強化とスピードアップを図っていくことが重要である。

  3. 一定の前進が見られる規制改革
  4. 近年における規制改革への取組みは、第三次行革審最終答申(1993年10月)や経済改革研究会(「平岩研究会」)最終報告(1993年12月)が提言した第三者機関である行政改革委員会の発足(1994年12月)と規制緩和推進計画の策定(1995年3月)により本格化した。行政改革委員会や行政改革推進本部規制改革(緩和)委員会は、規制改革の実施状況を監視するとともに新たな課題等に関する意見具申を行い、政府は内外から広く聴取した規制改革に関する意見・要望や行政改革委員会などの意見等を踏まえ、毎年度末に計画を改定し内容の充実を図ってきた。言わば、体系的に規制改革を推進するための仕組みが確立された訳であり、これが歴代の内閣の指導力とともに、規制緩和推進計画の期間中(1995年4月〜1998年3月及び1998年4月〜2001年3月)における改革推進の大きな原動力となったと評価できる。同時に、行政改革委員会や規制改革(緩和)委員会が開催する論点公開や公開討論、各省庁が発表する規制緩和要望の検討状況に関する中間公表や現行制度・運用を維持する理由等の公表により、規制改革の検討プロセス等の透明性も向上した。また、行政手続法の施行(1994年10月)、規制の設定と改廃に関する意見聴取手続(いわゆるパブリック・コメント)の導入(1999年4月)により、規制の制定・改廃から運用までの公正確保・透明性の向上が図られた。これらの手続や、規制緩和白書の刊行等を通じて、規制改革に関する一般の認識も深まることになった。
    これらを背景に、規制改革は「経済的規制は原則自由、社会的規制は必要最小限」との原則に立って進められ、2次にわたる規制緩和推進3か年計画の下で一定の前進が見られた。特に、需給調整的な参入・設備規制の廃止や料金・価格規制の緩和等により、電気通信、運輸、流通など多くの分野で、競争促進による多様なサービスの創出、料金・運賃・価格の低下などの恩恵を消費者にもたらした。同時に、規制改革の対象も、雇用・労働、教育、法務等、従来あまり規制改革の対象とされてこなかった分野にまで広がり、産業競争力の強化や新規産業・雇用の創出等の効果をもたらした。

  5. 今後の重要課題と取り組みの視点
  6. しかしながら、特に制度改革を伴う問題をはじめとして、規制改革には残された課題も多い。また、現在、我が国が直面する喫緊の諸課題等についても規制改革の観点からの取り組みが求められている。従って、今後の規制改革への取り組みにあたっては、以下の視点が重要であると考える。

    (1) 「経済的規制は原則自由、社会的規制は必要最小限」の徹底

    まず第一は、規制改革の基本原則である「経済的規制は原則自由、社会的規制は必要最小限」の徹底であり、我が国経済の活性化・高度化のためにも、様々な事業分野に存在する経済的規制(参入・設備・価格規制等)を全面的に撤廃・緩和し、市場原理に基づき、企業・個人が自由に市場に参入し創意工夫を発揮しうる基盤を整備することが重要である。特に、需給調整の観点から行なわれている参入規制については、繰り返し「撤廃の方向で見直す」と閣議決定されてきたにも拘わらず、未だ運輸、通関、流通、エネルギー等の分野で残されている。また、医療・福祉、農業、検査・検定等の分野においては営利企業の参入が制限されている。更に、運輸分野における営業区域規制や金融分野における設備、商品等の認可制等、自由な事業活動を阻害する規制も残されており、これらについては早期廃止に向け抜本的に見直すべきである。

    (2) 当面する諸課題への集中的・分野横断的な取り組み

    第二に重要なのは、経済のグローバル化、IT革命、少子高齢化、あるいは環境対応など、我が国が直面する喫緊の諸課題についての、分野横断的な集中的取り組みである。

    (経済のグローバル化への対応)

    例えば、経済のグローバル化は、企業の活動範囲を飛躍的に拡大し、新たな事業機会を創出していくことが期待される。グローバル化がもたらすポテンシャリティを十分に活かしつつ、わが国企業の国際競争力を強化していくためには、人、モノ、サービス、金、情報の国境を越えた双方向の円滑な移動を確保することが重要である。そのためには、例えば、シンガポール等との自由貿易協定の推進やWTOにおける様々な交渉を通じ、物品やサービスの貿易等にかかわる様々な障壁を除去していくと同時に、基準・認証制度をめぐる規制の緩和や国際整合化、港湾サービスや通関手続の簡素合理化、安全保障輸出管理制度の規制緩和等の関連する分野での国内の規制改革を進めていくことが不可欠である。

    (IT革命への対応)

    また、IT革命は、企業の競争力強化や新産業・新事業を創出する活力となるとともに、コミュニケーション手段の高度化等により国民生活を質的に向上させる。行政にとっても、ITの活用により業務の効率化や国民へのサービス向上を飛躍的に実現することができるなど、企業、個人、そして社会全体にとって、いわば「デジタル・オポチュニティ」ともいうべき機会を創造している。これらに対応して、現在、政府では、電子商取引のコンテンツの拡大(書面交付、署名・押印、対面説明等の義務付けの見直し等)、許認可等の申請手続の電子化等の電子政府の実現などに取り組んでいる。これらの着実な進展とともに重要なのは、通信事業者間の競争条件の整備や許認可等の申請手続そのものの見直しである。例えば、許認可等の申請手続の電子化の推進に関しては、単に申請書類を電子化する等の取り組みだけでなく、政府をあげて、添付書類の削減等を含め許認可等の申請手続そのものの簡素合理化、業務の見直し等を進め、電子化された世界最高水準の政府が実現できるような基盤整備を進めることが極めて重要である。

    (少子高齢化、環境対応)

    電子政府の実現等による公共サービスの質の向上の観点については、国のみならず、国民の基盤となる地域における情報化の推進が重要であり、地方公共団体の主体的な取り組みが強く求められる。とりわけ高齢者に対するきめ細かい医療・介護サービスの効率的提供が重要課題であり、十分なプライバシー保護策を講じた上で、レセプトをはじめとする各種医療・介護情報をデータベース化し、関係者間の情報共有を可能とするような基盤整備も必要である。また、公的年金の給付水準の見直しが必至の中で、私的年金、とりわけ企業年金の重要性はますます高まっている。企業年金が経済環境の変化に柔軟に対応できるよう、制度設計の一層の弾力化を図るとともに、企業年金財政の健全化を促進する必要がある。
    更に、環境対応の面では、循環型社会の推進がますます重要な課題となっており、廃棄物処理法はじめ、廃棄物の有効利用、リサイクルを推進する上で妨げとなっている規制・制度の見直しを進めることが強く求められる。

    (3) 規制関連制度の改革、地方における規制改革の取り組み

    第三は、規制関連制度の改革であり、これまでの諸制度に加え、規制や政策の立案過程に国民や関係者の意見を反映させる仕組みを改善することも必要であろう。例えば、現在、行政上の手続として実施されているいわゆる「パブリックコメント」手続は、規制の設定と改廃のみを対象にしており、またその実施も法的には義務付けられてはいない。現行制度の活用を積極的に進めるとともに、ノウハウを積んだ上で速やかに行政立法手続法(仮称)の策定を検討すべきである。
    また、本年4月の地方分権一括法の施行により、機関委任事務の廃止と事務区分の再構成、一層の権限委譲の推進等が図られたが、地方の権限や役割が増加するに伴い、地方においても、簡素で効率的な地方行政システムの構築とともに、行政手続きの公正・透明性確保等の改革が求められる。行政手続条例、情報公開条例等の制度に加え、地方においても、規制の制定・改廃に係わる参加手続や、規制改革に関する定期的な意見・要望の受け付けと改革への計画的取り組み等、国に準じた規制改革の制度化が求められる。

  7. さらなる規制改革、制度改革等の推進に向けて
  8. このような今後の重要課題に果敢に取り組み、実りある成果を生み出していくためには、総理のリーダーシップとともに、それを補佐する強力な推進体制が必要となる。8月4日に開催された行政改革推進本部の会合においては森総理より、年内を目途に行政改革大綱を制定すること、その中で

    1. 来年度を初年度とする新たな規制改革の3ヵ年計画を策定すること、
    2. 新たな規制改革推進体制についても、その在り方を検討すること、
    が指示された。経団連としては、更なる規制改革、制度改革等の推進のため、これらの問題について、以下の諸点を要望したい。

    (1) 新たな規制改革推進3か年計画の充実(重点的に取り組むべき分野・視点等)

    来年度を初年度とする新たな規制改革推進3ヵ年計画においては、森総理が指示されている医療・福祉、雇用、労働、教育等の分野に加え、国民の関心の高い年金、社会保障等の制度改革を伴う分野について重点的に取り組むことを求めたい。また、取り組みの視点として、「経済的規制は原則撤廃、社会的規制は必要最小限」等の原則を徹底することは言うまでもなく、経済のグローバル化、IT革命、少子高齢化、あるいは環境対応など、我が国が直面する喫緊の諸課題については、分野横断的にテーマを設定して検討することを要望したい。

    (2) 規制改革、制度改革等の推進体制の拡充・強化

    新たな規制改革推進3ヵ年計画の内容を充実させるとともに、その着実な実施を図るためには、推進体制の拡充・強化が不可欠である。また、2001年には、中央省庁等改革推進本部及び顧問会議が6月に、地方分権推進委員会が7月に設置期限を迎えることから、新たな推進組織の所掌事務としては、規制改革のみならず、特殊法人改革等の行政改革や地方分権・地方行革等を含め、経済社会の制度全般の改革に資する幅広い問題に取り組むことのできる体制として、総理直属の法律に基づく権威ある組織を設置すべきである。新たな推進組織は、

    1. 調査権、意見具申権、勧告権を有する、
    2. 意見等を内閣総理大臣が尊重し実行する、
    3. 分析・調査能力を有する独立の事務局を有する、
    ものとすることが望ましい。

  9. 政治のリーダーシップの発揮と民間産業界の役割
  10. 規制改革等、改革の断行には政治の強いリーダーシップが必要であることは言うまでもない。新たな世紀を迎える節目の時期にあって、現在、森総理をはじめ政府・与党首脳のリーダーシップにより、21世紀のあるべき行政の姿を明らかにすべく精力的な取り組みがなされていることを心強く感じる。既定の方針に基づく改革が着実に実行されるとともに、新たな課題について大きな成果が得られることを強く期待している。
    一方、規制改革の推進は政府だけでなく、民間産業界自身の課題でもある。経団連企業行動憲章では、まず、第一条で「安全性に十分配慮して財・サービスを開発・提供する」ことを掲げており、仮に政府規制が無くても、安全な財・サービスを提供することが民間企業にとっては、当然の最重要事項である。事故の発生の度に規制が強化されてきた轍を踏まないためにも、民間産業界自ら改めて襟を正し、自立・自助・自己責任の原則にたって行動しなければならない。また、規制を求めるのは民間の業界であるとの批判があるが、規制に安住し、自己革新努力を怠った企業は、国内外の市場の信任を得られず、市場からの退場を余儀なくされているのが現状である。いたずらに既得権益の擁護に走るのではなく、起業家精神を発揮し、規制改革が生み出す新たなビジネスチャンスを積極的に活用して、新たな市場や雇用を創出していくことが民間産業界に求められている役割である。

  11. 今年度の重点規制改革要望
  12. (1) 経済のグローバル化に対応するもの(主なもの)

    (2) IT革命に対応するもの(主なもの)

    (電子商取引関係等)

    (電子政府関係、電気通信インフラと競争条件の整備、ITの活用等)

    (申請手続等の軽減関係等)

    (3) 少子高齢化、環境対応に関するもの(主なもの)

    (少子高齢化関係)

    (環境対応)

    (4) その他重点要望

以  上

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