2000年10月31日 経団連情報通信委員会 通信・放送政策部会 情報通信ワーキンググループ |
ITは、21世紀の繁栄の鍵、経済新生の原動力である。今や臨界点に達しつつあるIT需要を顕在化させるためには、IT有効活用の基盤となる、低廉で多様な情報通信サービスが、行政主導ではなく、事業者間の自由で公正な競争を通じ、利用者ニーズに即応して提供される環境を一刻も早く整備する必要がある。
経団連では、2000年3月に「IT革命推進に向けた情報通信法制の再構築に関する第一次提言」を発表した。この提言は、通信ユーザーとしての産業界の立場をベースにして、NTT、NCC等の通信事業者、メーカー等の関係者のコンセンサスを得て取りまとめた点に特色がある。具体的には、現行の事業規制中心の情報通信法制を見直し、利用者の利益の確保とそのための競争促進とを目標に据え、この2つの目標を実現するための法体系を提示した。
その後、IT革命推進の観点から電気通信分野の競争政策のあり方について議論が高まってきたことをふまえ、2000年9月14日、「電気通信分野における競争促進法の早期実現に向けて」をとりまとめ、次期通常国会において電気通信分野の競争促進のための立法措置を行なうことを提言した。とくに強調したのは次の点である。
市内通信市場を含め、電気通信市場のあらゆる分野において、利用者が幅広い選択肢を持てるよう、多種多様な事業者が、公正競争条件のもとで、自己責任原則に基づいて自由に創意工夫を発揮できる枠組みを整備する必要がある。電気通信関連の法制について、行政が事業者の適正な事業運営を図る「事業規制法」ではなく、利用者の利益と自由かつ公正な競争の確保とを目的とする「競争促進法」の法体系へ転換することが急務と考える。
わが国通信産業の国際競争力を強化していくためには、規制や政策面での保護ではなく、徹底した競争を通じて、通信事業者における顧客ニーズや環境変化への対応力等がより一層磨かれることが大前提である。国際競争力の1つの要素である研究開発力も、市場での競争にさらされることによって一段と高まっていくと考えられる。
現行の電気通信事業法では、第一種事業者・第二種事業者区分という設備保有に着目して規制を切り分ける仕組みとなっているが、今後は、自由で公正な競争を確保するために、市場シェア・ボトルネック設備の保有等の基準を踏まえて、市場支配力がある場合とそうでない場合とで規制を切り分けるべきである。市場支配力があり競争が進展していないと認められる場合には、市場の競争状態に応じて必要な規制(上限価格規制、適切な接続ルールの適用、一定の情報開示義務、内部相互補助規制等)を受けるが、競争が進展すれば規制が緩和されるという、インセンティブ規制とすることが望ましい。他方、競争が進展している場合には、基本的に自由に事業展開をでき、問題が生じた時点で事後的に規制を受けるものとすべきである。
事業者が自らの経営判断に基づき回線設備の設置、再販売、市内回線のアンバンドル利用を自由に組み合わせることを可能とする必要がある。
NTTについては、公正な競争ルールの下で、自己責任原則に則った経営ができるようにするため、国が直接、経営に介入する規制(役員認可、事業計画認可、定款変更認可、新株発行認可等)は早急に廃止するとともに、政府保有のNTT株式の完全放出を急ぐべきである。
経団連では、次期通常国会での立法化が期待される新電気通信法制の骨格について、広く産業界、国民、有識者の声をお伺いしながら、さらに掘下げて検討を行なうため、現行電気通信事業法、とくに第一種電気通信事業者への規制を中心に、現行規定の問題点と改革の方向性につき、一つのたたき台として以下の通り、新電気通信法制の骨格に関する問題提起を行なうこととした。
2000年11月13日(月)までに、経団連産業本部(FAX 03-5255-6234、e-mail joho@keidanren.or.jp )宛てにご意見をお寄せいただければ幸いである。
現行電気通信事業法について、主として、事前規制から事後チェックへの移行、市場支配力の有無に着目した制度的枠組みの導入、あるいは行政の透明性の向上等の観点から、多くの問題点が指摘されているが、どう考えるか。以下は、主要規定と経団連に寄せられている問題点(太字の箇所)の指摘である。
(総則) | |
1条 | この法律は、電気通信事業の公共性にかんがみ、その運営を適切かつ合理的なものとすることにより、電気通信役務の円滑な提供を確保するとともにその利用者の利益を保護し、もって電気通信の健全な発達及び国民の利便の確保を図り、公共の福祉を増進することを目的とする。 |
→ | 「事業の適切、合理的な運営は市場における競争に委ねることとし、法は、自由かつ公正な競争の確保とそれを通じた利用者の利益の保護を目的とすべき」との意見があるがどうか。 |
3条 | 検閲の禁止 |
4条 | 秘密の保護 |
6条 | 事業の種類(第一種電気通信事業は、電気通信回線設備を設置して電気通信役務を提供する事業、第二種はそれ以外の電気通信事業) |
→ | 「事業者による設備の設置の有無は利用者とは直接の関係はないので行政が関与すべきでない、事業者が自主的に決定をすべきことである。設備を自ら設置するか、借りるかは事業者の経営判断に委ねることとし、現行の第一種・第二種の事業区分は廃止すべき」との意見があるがどうか。 |
→ | 「第一種事業者は、法律に位置付けのない、いわゆるゼロ種の設備を利用できるのに対し、第二種事業者は、他の電気通信事業者から電気通信役務の提供を受けてサービスをしなければならないとされ、ゼロ種の設備を利用できないという規制があるが、整備された光ファイバーの活用の観点から、第二種への規制を廃止すべき」との意見があるがどうか。 |
7条 | 利用の公平 |
8条 | 重要通信の確保(非常事態の発生時またはそのおそれがある時、公共の利益のために緊急に行なうことを要する時) |
(事業の許可) | |
9条 | 事業許可(役務種類、業務区域、設備の概要を提出、事業計画書を添付、向こう5年間の事業収支を提出等) |
→ | 「参入促進、自由な事業展開の推進を図るとともに、利用者利益の確保を図る観点から、事業は届出制とし、サービス提供上重大な支障がある、利用者に重大な問題が生じると判断される場合には変更命令等を出せるものとすべき。向こう5年間の事業収支の提出は不要とすべき」との意見があるがどうか。 |
10条 | 許可基準(事業を適確に遂行するに足りる経理的基礎・技術的能力があること、事業計画が確実かつ合理的であること、電気通信の健全な発達のために適切であること) |
→ | 「市場競争の中でビジネスを行なったことのない行政に、事業を適確に遂行するに足りる経理的基礎・技術的能力があること、事業計画が確実かつ合理的であること、は判断できないので、それは市場に委ねるべき」との意見があるがどうか。 |
12条 | 事業開始義務 |
14条 | 電気通信役務種類(電話、データ、専用)、業務区域、設備の概要の変更の許可 |
→ | 「変更の都度、膨大な資料提出が求められ、デジタル化により役務種類は無意味になっている。また、需給調整条項が撤廃されたため、業務区域、設備のチェックは不要である。サービス提供にあたり設備工事や広告等の事前準備が必要となるが、許可取得時期の予想が困難であるため、ユーザーニーズに基づく迅速なサービス提供に支障を来す場合がある。変更許可は廃止し、市場での競争や利用者の利益等の観点から問題が生じた場合に変更命令等を行なう事後チェックに移行すべき。規制が緩和されれば、許可のタイミングに左右されることなく設備工事や広告宣伝を行なうことや、ユーザーニーズに即応した柔軟なサービス提供や広告宣伝が可能となる」との意見があるがどうか。 |
15条 | 業務の委託の許可 |
→ | 「事業許可の届出制化に合せて、届出制とすべき」との意見があるがどうか。 |
16条 | 事業の譲渡、譲受け、法人の合併の認可 |
→ | 「事業許可の届出制化に合せて、利用者にとって重大な問題が生じた場合に変更命令等を行なう事後チェックに衣替えすべき」との意見があるがどうか。 |
18条 | 事業の休止、廃止、法人の解散の許可 |
→ | 「事業許可の届出制化に合せて、利用者にとって重大な問題が生じた場合に変更命令等を行なう事後チェックに衣替えすべき」との意見があるがどうか。 |
19条 | 事業の許可の取消し(法律、命令等に違反し公共の利益を阻害すると認める時等) |
→ | 「事業許可の届出制化に合せて、利用者にとって重大な問題が生じた場合に変更命令等を行なう事後チェックに衣替えすべき」との意見があるがどうか。 |
20条 | 役務種類、業務区域、設備の概要の変更許可の取消し |
→ | 「利用者にとって重大な問題が生じた場合に変更命令等を行なう事後チェックに衣替えすべき」との意見があるがどうか。 |
(業務) | |
31条 | 料金事前届出、変更命令、但し、指定電気通信設備を用い利用者への影響が大きいものは上限価格規制 |
→ | 「指定電気通信設備を設置する事業者であっても、競争が進展すれば規制を緩和すべき」との意見があるがどうか。 |
31条の四 契約約款の認可 | |
→ | 「認可制を廃止し、利用者にとって重大な問題が生じた場合に変更命令等を行なう事後チェックに衣替えすべき」との意見があるがどうか。 |
34条 | 電気通信役務の提供義務 |
36条 | 業務の改善命令(契約約款等の変更、業務の方法が適切でないため利用者の利益を阻害していると認める時に業務の方法の改善その他の措置を命ずることができる等) |
38条 | 接続義務 |
38条の二 指定電気通信設備との接続(加入者回線を対象、接続約款認可等) | |
→ | 「競争原理が導入された後に整備が進められている光ファイバーについては、指定電気通信設備から除外すべき」との意見があるがどうか。 |
38条の三 接続協定の認可(指定電気通信設備以外) | |
→ | 「接続協定は事業者間におけるプロ同士の交渉の結果であり、認可は不要。行政は交渉が不調の場合の裁定等の形で関与するのが妥当」との意見があるがどうか。 |
39条 | 接続に関する命令 |
40条 | 外国の政府、企業との協定等の認可 |
→ | 「グローバル化の時代には不適切。行政の関与が必要な場合には変更命令等で対応すべき」「WTO基本電気通信交渉合意国とそうでない国とでは分けて対応する必要がある」との意見があるがどうか。 |
(電気通信設備) | |
41条 | 電気通信設備の技術基準適合義務 |
42条 | 電気通信設備の技術適合命令 |
44条 | 電気通信主任技術者設置義務 |
→ | 「設備に関する枠組みは、有線電気通信法による規律を原則とすべき」との意見があるがどうか。 |
(雑則) | |
89条 | 許可、認可に条件を付すことができる。 |
92条 | 郵政大臣の報告、検査権限 |
94条 | 電気通信審議会諮問義務 |
→ | 「審議会委員の選定、審議会の運営等について透明性、公正性を高めるべき」との意見があるがどうか。 |
96条 | 不服申し立て手続きにおける意見聴取 |
96条の二 意見の申出制度 | |
→ | 「一定期間内に行政が対応することを義務づけるべき。規制、振興部門から独立している部署が対応すべき」との意見があるがどうか。 |
* | この他、「パブリックコメントをとる、とらない、が行政の裁量に委ねられているが、全ての法令の運用について行なうべき」との意見があるがどうか。 |
以下は、従来の経団連の意見や経団連に寄せられている電気通信事業法の問題点の指摘などを踏まえ、今後議論を深めるためのたたき台である。頂戴したご意見を参考にしながら、掘下げた検討を行なっていく予定であり、忌憚のないご意見を歓迎する。
* 視点
- 自由かつ公正な競争の確保、利用者利益の観点からの規律を定める。
- 基本的に、事前規制ではなく事後チェック型の枠組みとする。
- 基本的に、市場支配力の有無による規制の切り分け。
- 一種・二種事業区分は廃止し、設備保有の場合の規定を定める。
- 行政の透明性の確保、説明責任
法の目的
電気通信分野における自由かつ公正な競争を確保し、利用者利益を保護することにより、国民生活の向上、国民経済の発展を図ること。
行政の義務
参入・退出
市場支配力を有する事業者
業務規制
原則として、料金、契約約款、接続協定は公表義務(またはオンライン化を含む届出制、算定根拠の届出は不要。公益事業特権を利用しない事業者は業務規制なしの方向で検討)。
業務改善命令等
重要通信の確保
非常事態の発生時またはそのおそれがある時、公共の利益のために緊急を要する時は、所管大臣は、重要通信(ライフライン確保のための通信、秩序維持のために必要な通信等)の確保を命令できる。
請願制度
国民からの請願に対し、行政は一定期間内に透明な手続きにより行政判断を公表する義務を負う(許認可部門、振興部門から独立性が高い部署が担当する)。
検閲の禁止、通信の秘密の保護
検閲の禁止、通信の秘密の保護等の規定は維持。
定期的な見直し
2年に一度見直し
その他