[経団連] [意見書] [ 目次 ]

わが国公開会社における
コーポレート・ガバナンスに関する論点整理

(中間報告)
2000年11月21日
(社)経済団体連合会
 コーポレート・ガバナンス委員会

はじめに

バブル経済の崩壊は、損失補填や利益供与事件などの企業不祥事やバブル時の経営のあり方の問題点を浮き彫りにし、企業の社会的責任の再認識と企業経営のモニタリング機能の強化について再検討を促す契機となった。
経団連では、企業不祥事を真剣に受け止め、97年9月、現行の商法体系と商法改正の経緯を踏まえた当面の対策と指針として、「コーポレート・ガバナンスに関する緊急提言」を取りまとめ、企業倫理の確立と経営の健全性の確保の必要性を訴えるとともに、97年11月には経団連企業行動憲章実行の手引きを改定しその徹底に努めてきた。
しかし、企業のコーポレート・ガバナンスは不祥事対応の問題にとどまらない。
今日、経済活動の国際化が一層進展し、IT革命等、社会の枠組みが大きく変わる中で、企業はグローバル市場において真に競争力を発揮できないと、21世紀において存続できなくなるという厳しい状況におかれている。
とりわけ、大規模公開会社にとっては、グローバルな資本市場の要請に対して、適時・的確な意思決定や行動メカニズムを構築できるかが、今後の成長・発展の鍵を握っている。
企業はこれまでも自主的な取り組みを進めてきたが、今後はこうした企業を取り巻く環境変化に対応して、より一層株主価値を重視したコーポレート・ガバナンスを構築していく必要があろう。そこでは、特に(1)経営のスピード化・戦略性の向上、(2)企業行動の透明性の確保、(3)ディスクロージャーとアカウンタビリティーの充実といった視点が重要な要素になると考えられる。
以上の認識から、経団連コーポレート・ガバナンス委員会(委員長:御手洗 冨士夫 キヤノン社長)では、その下に企画部会(部会長:村山 敦 松下電器産業副社長、部会長代行:田部井 正己 第一生命保険専務取締役)を設置し、昨年8月から(1)株主総会のあり方、(2)取締役・監査役会のあり方、(3)IR・ディスクロージャーのあり方、について検討を重ね、以下にその概要を取りまとめた。
その結論を先取りすれば、大規模公開会社において、コーポレート・ガバナンスの実効性を確保するためには、市場機能をより重視し、各企業が自らの裁量と責任において、経営環境に適合した組織を構築し、アカウンタビリティの向上の要請に自主的に対応できるようにすることが重要であるということである。
規制は最小限に留め、企業の創意工夫や裁量の範囲を広く確保して、各社のコーポレート・ガバナンスに対する評価は、資本市場の判断に委ねるべきである。
この議論の現段階での帰着点は、(1)株主総会の簡素化と効率化、(2)取締役会等の経営体制の機能強化と内部統制機能の強化、(3)ディスクロージャーとIRの強化、ということである。
また、現行の商法は、国際的な大規模公開会社から中小企業に至るまで、「大会社」と一括りにしてコーポレート・ガバナンスのあり方を定めており、グローバル化への対応という観点から、大規模公開会社を中心とした法制度の整備について検討が必要と考える。
ただし、企業をとりまく環境の変化にあわせてコーポレート・ガバナンスのあり方も変わってくるので、時代に即したわが国企業のコーポレート・ガバナンスのあり方については引き続き検討していく必要がある。

1.資本市場の動向とその背景

  1. 株式持ち合いの解消
  2. 96年11月に政府が打ち出した金融システム改革の下で進められた直接金融重視のわが国の資本市場の改革、時価会計の導入など会計制度の改革をきっかけにして、金融機関と事業会社双方の資産構造の見直し等経営改革が進んでおり、それに伴い株式の持ち合いは急速に減りつつある。
    株式の持ち合いは、金融機関と事業会社の馴れ合いや資本の空洞化を招いているとの批判もあったが、安定株主の下で長期的な視野で安定的な経営を実現できるというメリットもあった。
    今後企業は株主の信頼の確保に向けて、「時価総額経営」や「株主重視経営」への志向を強め、資本調達の円滑化の観点からもIRを重視する必要がある。また、自社株消却等の手段を活用して市場に直接働きかけることも考えられる。一方、企業間の信頼を裏付ける戦略的資本提携を強める動きもある。

  3. 株主構成の変化
    1. 外国人投資家
      外国人投資家がわが国への証券投資を積極化させており、すでに株式の売買における外国人投資家の比率は4割近くに達している。また、外国人株主による保有は2000年3月末のわが国全上場株式数の12%を占めている。グローバルに事業展開している一部の企業では、外国人持株比率は3割から4割に達しており、外国人投資家や外国人株主を意識したグローバルな視点に立ったコーポレート・ガバナンスのあり方を考えることがますます重要となっている。
      米国の大手年金基金などの機関投資家は、米国従業員退職保障法(ERISA)を適用または準用されており、年金加入者に対する受託者責任を果たす観点から、投資先企業に対して積極的に議決権を行使し、発言していくことが求められている。その一環として、わが国企業のコーポレート・ガバナンスのあり方についてより積極的に発言するようになっている。
      企業の中には、こうした外国人株主の意見を採り上げ、米国流の取締役会の改革に自発的に取り組み始めたところも増えている。

    2. 国内投資家

      (a) 個人投資家:
      国内では一般個人株主の拡大が見られる。上場会社の個人株主数は、2000年3月末で初めて3000万人を突破し4年連続増加となった。また、所有者別持株比率でも26.4%と過去3年連続上昇となっている。一般的に個人株主は、議決権行使について消極的であり、株主総会の定足数確保が企業にとって大きな課題となっている。
      (b) 機関投資家:
      他方、国内の機関投資家の持株比率は16.4%(1999年度の投資信託、年金信託、生保、損保の持株比率を合計したもの)と、欧米に比べさほど大きくはないが、その行動にも変化が見られる。近年、生命保険会社の一部では、議決権行使ガイドラインを策定し投資先企業の株主総会の議案書をチェックし始めている。その際のベンチマークとして株主資本利益率(ROE)が活用されている。また、金融機関の持ち合い株式の放出で、従来のメインバンクシステムは崩れつつある一方、投資信託の制度改革により、市場型間接金融が興隆の兆を見せている。確定拠出型年金制度の導入も予定されており、新たな形の株主の機関化が進展し、将来的に発言力を高めていくものと予想されている。
      企業は株主重視経営をより一段と深めつつ、株主の議決権行使をどうやって促進するかという課題の解決を迫られている。

以上の資本市場や株主構成の変化を受けて、株主総会、取締役会、ディスクロージャー制度の再検討が必要になっている。これらについては、経団連の97年の「コーポレート・ガバナンスに関する緊急提言」でも今後の検討課題として指摘したところである。これら3つについて、現状の評価と当面の課題について検討した。

2.株主総会のあり方

  1. 現状認識
  2. 公開会社の株主総会については、(1)定足数の確保が困難になりつつあることと、(2)株主総会の法的機能(特に法定決議事項)の実態に即した見直しの必要性があることの2つの問題が指摘されている。

    1. (定足数)意思決定への参加よりも配当や株価に関心が高い個人株主と、物理的にも制度的にも議決権行使が困難な外国人株主が増えていることから、大規模な公開会社の株主総会では、定足数の確保が困難になっている。その結果として、特に企業の組織再編など迅速な意思決定を必要とする事項について、総会の特別決議が成立しない懸念がある。
    2. (株主総会の法的機能)大規模な公開会社の株主総会では、総会の出席者は総株主のごく一部にすぎず、実質的な意思決定の場としての機能には限界がある。こうした実情に即して、株主総会の法的機能がどうあるべきか、特に法定決議事項の見直しが必要になっている。

  3. 企業の自主的な取り組み
  4. こうした中で、各社は株主総会への出席と議決権行使に対する株主の関心を惹きつけるために、以下のような自主的な取り組みを進めている。

    1. 招集通知を読みやすいスタイルに仕立てたり、企業の考え方や財務内容の分析を丁寧に書き込んだ資料を添付したりして、魅力のあるものとする。
    2. 他社と開催日をずらすなど、開催日時を株主が集まりやすいものとする。
    3. プロジェクターを使用して株主に対して視覚的に訴える説明を行うなど、株主総会の演出等に工夫を凝らす。

  5. 株主総会制度の見直し
  6. しかし、企業の自主的な取り組みにも限界があり、機動的な企業経営を実現するためには、株主総会に関する法制度の見直しが必要となっている。具体的には、以下の改善策が考えられる。

    1. 株主総会の定足数の見直し(一定規模数以上の株主を抱える企業の株主総会の定足数を切り下げる、証券投資法人で採用されている制度と同様に行使されない議決権を賛成票とみなす、仮決議を認める、など)
    2. 総会決議事項の見直し(利益処分、役員報酬、役員の退職慰労金、ストック・オプションの付与等の案件を取締役会の決議事項とする)
    3. 基準日制度の見直し(機関投資家の事務手続きの負担となっている総会集中日の緩和のため、基準日制度を見直し、総会開催日の弾力化を図る)
    こうした方策によって、株主総会は、役員の選任など株主の最も基本的な権利の行使とディスクロージャーの場として、実態に見合った法的役割を明確化することができる。
    また、株主総会をより積極的なディスクロージャーの場として活用するとともに、会社のトップが経営プロセスや成果について株主と懇談する、株主との双方向のコミュニケーションの場として、充実することができると考えられる。

  7. ITの活用
  8. 急速なIT化の進展により、株主とのコミュニケーションのあり方も大きく変わることが予想される。テレビ会議システムによる遠隔地での株主懇談会の開催や総会の招集通知送付や議決権行使をインターネットで行うことなどが考えられ、法制面での整備も必要である。

3.取締役(会)、監査役(会)のあり方

経済活動のグローバル化と社会の構造改革の中で、戦略的かつスピーディな経営を実現し、競争力を維持・強化するために、企業は、経営の意思決定機能と執行体制を強化し、また、それに応じたモニタリング・システムを確立する必要がある。一方で、企業のダイナミックな経営を支える上で、取締役の責任論の見直し、D&O保険の充実、役員報酬制度の整備などが重要である。

  1. 現状認識
  2. 近年、多くの企業で、経営体制の強化に向けて、新たな取り組みがみられる。例えば、外国人株主の多い企業を中心に、取締役人数の削減、社外取締役の導入、執行役員制度の導入などの自主的な改革が進んでいる。
    企業がこうした改革を進めるにあたっての問題意識は以下の通りである。

    1. 取締役の人数が多く、取締役会が実質的な議論を行う場として十分機能していない。
    2. 現行商法によって、取締役会に義務付けられている決議事項が多いために、議論に充分な時間が割けない。
    3. 経営効率や適法性のモニタリング機能が不充分である。
    4. 使用人兼務取締役をどう考えるか。
    こうした問題意識に対し、一部の企業からは、次のような反論があった。
    1. 従来から、経営委員会や常務会などで実質的な議論や意思決定を行ってきた。取締役会は意思決定を確認する場として位置づければ良く、むしろ、取締役の人数が多いほうが判断の安定性という点からメリットがある。
    2. 決議事項の具体的な範囲が、各社の内規で定められており、これを自主的に調整すれば、実質的に軽減できる。
    取締役会についての考え方は各企業の業種・業態によって様々であるが、経営が戦略性を持って大胆で迅速な意思決定を行うことを可能とするとともに、内部統制を充実させ、その客観性を高める必要があるという点では一致している。

  3. 企業の自主的な取り組みの内容とその課題
  4. 各企業における自主的な経営体制の改革の動きとして、具体的には以下のような取り組みが見られる。

    1. (監査役制度の活用)現行のわが国の監査役(会)制度は、取締役の職務執行を別の機関がモニタリングするという点で合理的な制度であり、法的にも単独で調査権、取締役の行為の差止請求権を有するなど強い権限を持つ独立した経営のモニタリング機関であると評価し、監査役制度を活用する。大物監査役や社外監査役が内部監査の充実や取締役会で積極的な意見陳述を行って、モニタリング機能を果たしている実例も多い。
    2. (社外取締役の導入)代表取締役への牽制を強化したり、取締役会の緊張感を高めたりするために、取締役会の中に社外取締役を導入する。社外取締役の大所高所からの意見、高い見識、市場の声に敏感な感覚を意思決定や経営判断に反映させる。
    3. (執行役員制)使用人兼務取締役が取締役会の本来のモニタリング機能を阻害しているとの認識から、取締役会を日常一般的な業務執行の決定から解放するために、執行役員制を導入して取締役会の規模を縮小し、取締役会を重要な業務意思決定と取締役の職務執行の監督機関として特化する。
    ただし、これらの取り組みには、それぞれ以下のような課題があると指摘されている。
    1. (監査役制度の活用)OECDのコーポレート・ガバナンス報告でも言及されているにも拘わらず、わが国の監査役(会)制度、とりわけ社内監査役についての海外での認知度が低く、海外の投資家に対して周知する必要性がある。
      また、監査役と会計監査人との関係を整理し、連携を強化することが必要である。これとの関連で、公認会計士の商法上の責任の拡大について検討をすべきである。
    2. (社外取締役の導入)社外取締役については、会社の業務についての専門的知識や経験からして、業務意思決定や監督の機能を十分に果たせない可能性がある。社外取締役を多くの企業が導入した場合、社外取締役の供給源をどこに求めるか。社外取締役にとっては過酷な取締役の無過失、無限、連帯責任を見直す、あるいは、会社に対する賠償責任額のキャップ制を導入するといった対応をしなければ、優良な人材を得られないのではないか。また、委員会制度を設けるなどして、人事や報酬の決定権を付与しなければ実効が上がらないのではないか。
      社外監査役を中心とした監査役(会)機能の強化を法制化すれば負担が大きいため、社外取締役を導入した企業に対しては、監査役を不要とすべきではないか。
    3. (執行役員制)執行役員制については、意思決定機能や執行機能の重層化を招くとの意見が多い。また、既にコーポレート・ガバナンス改革の中心施策として導入している企業も多いものの、こうした企業においては、画一的な法制化は、これまでの取り組みとの齟齬をきたすとの懸念が強い。他方、法的性格付けの明確化が必要との意見もあった。
    以上のように各社の取り組みは様々であり、それぞれに問題点や課題がある。
    各企業の取締役会を中心とする経営機構改革の動向が今後の趨勢となるとして、これらの制度に関する法整備が必要であるとの意見もあるが、経営のあり方は、業種・業態によって様々であり、改革の方向は決して収斂しているわけではない。会社機関のあり方に関する法制化については、具体的な構造を一律に強制する必要はなく、「規制緩和」と「市場重視」の視点からミニマムな規制にとどめて、各社の自主判断と裁量に任せ、その上で、選択した機関のあり方についてディスクロージャーをすることで市場の評価を見れば良いとの意見が多数を占めた。この観点から、ディスクロージャーを前提として、監査役と社外取締役の選択制も検討に値する。

  5. 公開会社の取締役の責任論
  6. わが国の株式会社の取締役は、会社に与えた損害について無限に責任を負い、その行為が取締役会の決議による場合には、その決議に賛成した取締役全員が連帯して責任を負うものとされており、決議に参加して議事録に異議をとどめなかった取締役も賛成したものと推定される。また、商法266条第1項の1〜4号(違法配当、利益供与、他の取締役への金銭の貸付、利益相反取引)の行為については無過失責任を負うこととなっている。また、利益相反取引以外の取締役の責任の減免は、総株主の同意が必要となっており、大規模公開会社においては事実上不可能である。
    特に、取締役の無限責任の問題は、代表訴訟の濫用ケースの増加と相まって、わが国の企業経営の萎縮を招いており、社外取締役を招く上での障害にもなっている。最近では総額約830億円もの損害賠償の支払を求める判決が出ており、大規模公開会社の経済活動において生じうる巨大な損害額を全て取締役個人に賠償させようとする制度は、やはり問題である。
    公開会社の取締役の責任論は、以下の方向で見直すべきであり、特に(1)は速やかな対応が求められる。

    1. 代表訴訟制度の見直し(犯罪等を除く賠償責任の定款による軽減、会社の被告取締役に対する訴訟支援、原告適格の見直し、等)
    2. 商法266条第1項の1〜4号の行為についての過失責任化
    3. 他の取締役や使用人の報告を信頼した場合の取締役を保護する「信頼の法理」の導入
    また、取締役が、思わぬ損害賠償請求に対応するために、訴訟費用や損害賠償額を補償する会社役員損害賠償責任保険(D&O保険)があるが、これについては以下のような指摘があり、今後、取締役の責任論の見直しとあわせて、よりニーズにあった商品の開発が進むことが望まれる。
    1. 取締役の損害賠償責任が認定された場合、どのようなケースで保険金が支払われ、どのようなケースで支払われないのかについて、保険の約款の免責条項がわかりにくい部分がある。
    2. 代表訴訟の大きな訴額に比較すれば、補償限度額の設定が小さいとの指摘がある。

  7. 役員の報酬
  8. 現在、取締役に対して、ストック・オプションその他の業績連動型報酬を与えることが、より株主価値を意識した経営が行われるインセンティブとして注目されている。
    一方で、現在のストック・オプション制度については、

    1. 新株引受権方式には、株主総会の特別決議が必要とされ、発行に関する手続きが厳格にすぎる。
    2. 子会社の役員等にも付与できるよう付与対象者を拡大すべきである。
    3. 金庫株の活用、開示項目を簡素化するなど、より活用しやすい制度にすべきである。
    などの指摘があり、制度の更なる充実が求められている。
    なお、報酬額や退職慰労金の額について、個別の開示を求める動きがあるが、
    1. お手盛り防止という法の趣旨は、株主総会における報酬総額の決定で全うされており、個別の額の公開は必要ではないこと。
    2. 個別の開示は、個人のプライバシーやセキュリティ等の問題があること。
    などから、今後、慎重に対応を検討すべきであると思われる。
    ただし、グローバルな観点からは、わが国でも報酬決定に当たって、社外の人材をメンバーに加えた報酬委員会を設置するなど、客観的な第三者のチェックができる体制を作り、役員報酬決定プロセスの透明性を確保することも一つの方法である。

4.IR・ディスクロージャーのあり方

資本市場の要請に対応し、柔軟かつ効率的・合理的な経営を行うためには、公開会社のコーポレート・ガバナンスは、法律による規制よりも、市場原理によって律せられることが望ましい。ただし、その前提として、資本市場が的確に企業を評価するための積極的な情報提供が不可欠である。情報提供のあり方は、法令に基づくもの、証券取引所が要請するもの、企業が任意におこなうもの(IR)、の3つの点から検討できる。

  1. 法定開示の充実
  2. 近年の大幅な企業会計基準の整備によって、財務諸表の質はグローバル・スタンダードに近づいたとの評価を得ている。
    なお、今後さらにディスクロージャーを充実させる方向性としては、以下のような意見があった。

    • 市場のニーズに合致するよう会計基準を引き続き整備する。
    • ディスクロージャーの公正性を担保するよう会計監査制度を改善する。
    • 附属明細書に開示する情報を一部営業報告書に移し、直接株主に届ける。
    • 法定開示に加え、企業が自主的に四半期開示を行う。
    法定開示に関しては、他に商法開示と証券取引法開示の重複と齟齬の問題がある。また、国内外で資金調達を行う場合、国ごとに会計基準が異なり、2つの財務諸表を開示するという問題もある。公開会社にとって重要なのは、より資本市場の要請に即して経営の実態を表す証券取引法開示であり、その作成の基礎となる会計基準も単一であるべきと考えられる。
    したがって、証券取引法開示に商法開示を吸収していくことも考えられるが、商法開示の求める配当計算を中心とする単独決算報告と証券取引法上の連結決算報告の調整などをどう考えるかといった問題もあり、さらに検討が必要である。
    さらに、国内外での二重開示の問題については、国際的に通用する会計基準で作成した財務諸表は国内でも容認する措置を講じるべきである。

  3. 証券取引所の自主ルールの方向性
  4. 証券取引所が要請するディスクロージャーは、近年、コーポレート・ガバナンスの分野にも及んでいる。東京証券取引所では、98年3月期より決算短信の記載事項にコーポレート・ガバナンスの充実に関する施策を盛り込むことを要請している。これにより、各企業が自主的に取り組んでいる経営管理組織の整備などを開示することになった。コーポレート・ガバナンスに関する取り組みの開示は、株価への積極的な影響をもたらしている。
    こうした自主ルールは、資本市場の要請に即して柔軟に見直しが可能なことから、こうした法律によらない柔軟な手法については基本的に評価できる。ただ、そのルールの要求する事項については、企業の資本市場における評価を左右することから、引き続き注視していく必要がある。

  5. IRにおける課題
  6. 企業が戦略的な経営を行うためには、安定株主を確保することが重要であり、そのためには株主にできるだけ長期にわたって株式を保有してもらえるよう、IRを通じて企業の成長戦略などの経営情報を、市場に積極的に提供していくことが必要である。また、現実的な問題として、市場に強い影響力を持つ格付け機関やアナリストによる情報開示の要請にどのように応えるかという問題もある。
    IRについては、以下のような課題が指摘された。

    1. 海外のアナリストや投資家が要求している、トップマネジメントへのアクセスの容易さ、ROEなどの具体的な目標の設定、長期事業戦略の明示などの要請にどう応えるか。
    2. 企業にとって不都合な情報をどのように開示していくか(ネガティブ・サプライズの問題)。
    3. 米国では、会社が重要な非公開情報を意図して開示する場合にはその開示を選択的にではなく一般に対して行うよう要求し、また、意図せずに選択開示してしまった場合については、会社は同一情報をただちに一般開示しなければならないとする規則が入れられたが、国内でも情報開示の対象とタイミングについて再検討する必要があるのではないか。
    4. 市場への影響力を増すアナリストや格付け機関の評価についてどう考えるか。例えば、日本的経営や慣行について、海外のアナリストや格付け機関がマイナスの評価をする場合、その評価基準をディスクローズするよう求めていく必要があるのではないか。
    これらの問題については、現在、各企業において自主的に対応が進められており、例えば、(1)については、IRの場でトップが積極的に成長戦略について説明を行うなどの取り組みが見られる。当面はこうした動きを見守るのが適当である。

5.まとめ

  1. 公開会社法制のあり方
  2. 我々は、過去1年にわたり、日本企業のコーポレート・ガバナンスを改革する上での課題を検討してきた。これまでの過程で、

    1. コーポレート・ガバナンスのあり方は、依然、各社の規模や業種・業態などによって様々であり、ただ一つのモデルに限定することはできないこと、
    2. 国民経済に大きな影響を有する大規模公開会社については、その特性に着目した議論を進めることが適切であること、
    との結論に至った。
    そして、大規模公開会社の課題として、株主総会や取締役会・監査役(会)のあり方、IR・ディスクロージャーの取り組み方に焦点を絞り、企業実務関係者の視点から、問題点を洗い出して、さらにあるべき姿について検討を進めた。
    その結果、大規模公開会社については、商法(会社法)の規制緩和を進め、経営の機動性を確保するために企業経営者の裁量権を拡大する一方、経営のプロセスと成果を明らかにし、資本市場の評価に委ねるという方向に進むことが望ましいのではないかと考える。
    当面は、現行の法的枠組みの中でも、ある程度各社が自主的にコーポレート・ガバナンス改革を進めることができるので、それを推奨するとともに、それに関連した情報を企業の任意なディスクロージャー手法であるIRを通じて、資本市場に提供していくことが望まれる。
    こうした各社の取り組みを法的に支援する意味で、市場メカニズムを最大限に活用できるような「公開会社法(仮称)」の立法化の検討が必要になってくるものと思われる。

  3. 今後の資本市場の可能性とコーポレート・ガバナンスの課題
  4. 資金調達の手法はさらに発展する兆しがある。2001年の完結を目指して、金融・証券システム改革が急ピッチで進められ、証券取引所の株式会社化、有価証券のペーパーレス化を含む証券取引・決済システムの改革も目前である。また、確定拠出型年金制度の導入や投資信託の拡大も見込まれている。
    こうした中で、事業会社の直接金融への依存が本格化することが予想され、それに対応する形で株主の再機関化が進むことになれば、コーポレート・ガバナンスにおける機関投資家の発言力は従来以上に高まってくることが考えられる。投資信託などの新たな機関投資家は、生保など従来の機関投資家と共に、短期的な利益追求よりも、むしろ長期的視点に立った経営をより強く求めることになろう。事業会社としても、IR・ディスクロージャーの一層の充実等をはじめとして、こうした株主の再機関化への対応について引き続き検討していくことが必要である。

以 上

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