経済のグローバル化、IT(情報通信技術)革命、少子高齢化等の急激な進展は、わが国経済社会構造そのものの抜本的な変革を迫っている。かかる環境変化に対応し、民間主導型の活力と創意に満ちた21世紀の繁栄を築くためには、民間の経済活動に対する広範な規制や介入などを撤廃するとともに、行政の関与の在り方も、事前規制型から事後チェック型に転換していく必要がある。同時に、競争条件の整備等により市場の信頼性を確保しつつ、市場機能を補完する体制も整備していかねばならない。規制改革はこれらの構造改革の柱であり、改めてその推進を図っていく必要がある。
政府では、昨年12月1日の行政改革大綱において、規制改革委員会の見解や内外からの意見・要望等を踏まえ、2001年度を初年度とする新たな「規制改革推進3か年計画」を策定する旨閣議決定した。その後、各省庁は本年1月、この新計画策定作業の一環として、内外からの要望に関する検討状況を中間的に公表した。そこで経団連では、今般、昨年10月に政府に提出した経団連要望事項に対する各省庁の回答状況を精査し、対応が不十分と判断される事項の中で、以下の観点から特に緊急度・重要度が高く、新計画に是非とも盛り込むことを希望する36項目について再要望することとした。政府の今後の取り組みに期待するとともに、これらの要望項目が新計画に盛り込まれることを要望したい。
「経済的規制は原則自由」との基本方針のもとに、これまで規制改革への取り組みがなされてきたが、いまだに経済的規制の多くに参入・設備・価格等に行政が事前に関与する事業法体系の仕組みが温存されている。今後は、このような業法に基づいて事業者を規制し適正な事業運営を図ろうとする体系から、市場における自由かつ公正な競争を確保しつつ、利用者や消費者の利益を図ることを目的とする法制へと転換して行く必要がある。また、行政が関与する場合でも、事業者の創意工夫と自己責任原則による自主的な取り組みを促すべく、例えば、検査・検定等においては、自己確認・自主保安を基本とした制度に移行すべきである。
(具体例:主なもの)
経済のグローバル化は、企業の活動範囲を飛躍的に拡大し、新たな事業機会を創出していくことが期待される一方、国際競争の激化をもたらすことから、わが国企業の競争力の維持・強化も重要な課題となる。従って、人、モノ、サービス、金、情報の国境を越えた双方向の円滑な移動を阻害する規制・制度・運用を徹底的に是正するとともに、国内における高コスト構造をもたらす要因を除去し、わが国企業が自由な選択な下で機動的に行動しうる基盤を整備する必要がある。
(具体例:主なもの)
情報通信技術の進展は、新産業・新事業の創出とともに、コミュニケーション手段の高度化等により国民生活を質的に向上させる。また、企業や行政にとって、情報通信技術の活用により業務の効率化、コストの削減が可能となる。従って、あらゆる産業分野において、情報通信技術の活用を進めるべく、その阻害要因を徹底的に排除するとともに、各種行政手続きの電子化を積極的に進めていく必要がある。
(具体例:主なもの)
世界に類を見ない少子高齢化の進展、さらには個人のライフスタイルの多様化や雇用の流動化等によって、経済社会構造が大きく変わりつつある。また、少子高齢化の進展は、基本的に、経済成長率の鈍化、財政事情の悪化、社会保障負担の増嵩等を通じ、国民負担率の上昇を招くことが懸念される。財政支出を抑制しつつ、国民の将来不安を払底するためには、医療保険制度はじめ我が国の社会保障制度を抜本的に見直し、持続可能な制度に再構築する必要がある。また、今後、ますます重要性の高まる企業年金の制度設計の一層の弾力化を図る等、少子高齢化社会に対応した企業等の機動的対応を可能とすべく各種規制・制度等を見直す必要がある。
(具体例:主なもの)
環境対応の面では、循環型社会の推進がますます重要な課題となっており、廃棄物処理法はじめ、廃棄物の有効利用、リサイクルを推進する上で妨げとなっている規制・制度の見直しを進めることが強く求められる。また、都市の再生・再構築を図り、居住環境の改善を図ることも重要となっている。
(具体例:主なもの)
行革大綱では、経済社会の構造改革の視点も含めて幅広く規制改革を推進していくことがうたわれており、経済界は、来年度以降の政府の取り組みにおいて、個々の規制のみならず、関係する制度・政策、更には行政の組織・運営も含めた抜本的な見直しを行なわれることを期待する。特に、事前規制型から事後チェック型の行政への転換等、上記で提起した観点から分野横断的に関連する規制、制度等を全般的に見直すとともに、医療・福祉、雇用・労働、教育等の分野に加え、国民の関心の高い年金、社会保障等の制度改革を伴う分野について重点的に取り組むことを求めたい。
これらの改革に向けた政治の強いリーダーシップを期待するとともに、経済界としても、自立・自助・自己責任の原則にたって行動しなければならない。