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特殊法人等の抜本改革を求める

2001年2月20日
(社)経済団体連合会

はじめに

当会では、昨年3月28日に「特殊法人等の改革に関する第一次提言」(以下、第一次提言)をとりまとめ、改革の基本的考えとして、特殊法人等(特殊法人及び認可法人)の設立後の社会経済情勢等の変化や官民の役割分担のあり方についての考え方等を踏まえ、(1) 設立の根拠とされた政策目的が、現在においても妥当かどうか、(2) 政策目的自体が現在においても必要であるとしても、特殊法人等の形態をとる必要があるか、他の手段で代替可能ではないか、などの視点で見直し、廃止・統合・事業の縮小の他、民営化ないしは民間法人化等の自立化、あるいは非公務員型の独立行政法人化や利子補給等の代替手段への移行等を進めること、を指摘した。そして、その具体化のために、権威ある第三者的な機関等を設置し期限を区切って整理・合理化の具体策を策定すること、特殊法人等の定期的な見直しを制度化すること、更には、特殊法人等の形態を維持する法人についても、独立行政法人に準じ、評価、財務・会計・監査、経営内容等の公開等の共通制度を整備することを提言した。
その後、特殊法人等の改革を巡っては、与党行財政改革推進協議会がとりまとめた特殊法人等改革基本法案と政府の行政改革大綱において、新たな時代にふさわしい行政組織・制度への転換をめざす観点から、2005年度末までの「集中改革期間」において抜本的な見直しを行うこととされ、これらの改革が政治のリーダーシップにより進められつつある。また、来年度から財政投融資制度の改革が始まり、間接的な取り組みとは言え、郵便貯金・年金積立金の預託義務が廃止されて、出口の各財投機関による財投機関債の発行による市場原理にのっとった資金調達と財政融資資金特別会計における債券の発行による資金供給へと仕組みが変わる。
こうした動きを踏まえつつ、この度、今後の政府・与党における具体的改革案とりまとめに向けた検討の参考に供すべく、改めて特殊法人等の抜本改革の進め方を提示するとともに、主要な事業別に改革の基本的な考え方や問題点等を提示することとした。

第一部 総論

  1. 問題意識
    1. 財政支出の質的改善の必要性
    2. わが国の財政収支は、当会が昨年10月にとりまとめた「経済・財政等のグランドデザイン策定と当面の財政運営について」等で指摘しているように、著しく悪化しており、国・地方を合わせた長期債務残高は666兆円、対GDP比128.5%(2001年度)に達する見込みである。これに対処するには、財政支出の量的削減にとどまらず、その質的改善を図り、将来の経済成長に寄与しうる事業・分野への政府投資の重点化、適切な受益と負担の対応関係を再構築して国民の信頼が得られる財政構造の確立が不可欠となっている。
      財政資金と特殊法人等との関わりを見ても、フローで特殊法人等に対して約24兆円(2001年度財政投融資計画ベース)、ストックでこれまで40機関以上の特殊法人等に対して約257兆円にのぼる財政投融資資金が投じられているだけでなく、一般会計・特別会計からも約7.6兆円(2001年度予算ベース)の資金が投入されている。しかし、これまで、特殊法人等に対する財政資金が効率よく使われているか、あるいは特殊法人等の業務に係る将来の負担や顕在化していないコストがどうなるのか、といった問題について十分な検証がなされていない。既に他の一部特殊法人等についても、債務超過が顕在化しており、一般会計から救済資金の投入がなければ存続が困難となっている事例が認められる。
      したがって、特殊法人等に係る事業に関しても、財政支出の量的削減はもとより、財政支出の質的改善を進める大きな一歩として、聖域を設けることなく徹底した見直しを行い、効率化・重点化を図るべきである。

    3. 民業補完と地方分権等の徹底
    4. 特殊法人等に関しては、経済社会情勢の変化に伴い、これまで数次に渡り整理・合理化、組織・経営の改善・効率化等が図られてきた。しかし、依然として、設立の趣旨に照らして存在意義の疑わしいもの、所期の政策目的が無くなったにもかかわらず新たに政策目的を見出して業務範囲を広げているもの、民間で対応可能なものにもかかわらず市場の未整備を理由に関与し続けているもの等の指摘がなされる法人が存在している。また、本来、地域と密接な関係を有する生活基盤の整備(住宅、地域振興、医療福祉など)についても、特殊法人等により中央集権的に事業が実施されている。
      今後のわが国の経済を展望すると、経済社会の成熟化がさらに進行し、国民の価値観がますます多様化していくことが予想される。これに的確に対応し、わが国経済・社会が活力を保持していくためには、「官から民へ」「国から地方へ」という基本原則に基づいて、民間主導型の市場原理に基づく自由で公正な経済・社会の実現や各地域住民の選択と負担による特色ある地域づくりや地方振興の推進等が重要である。
      そこで、今回行われようとしている特殊法人等の抜本改革では、特殊法人等が行う個々の事業を徹底的に選別し、廃止、整理・縮小、合理化を進めるとともに、当該事業を実施する手法として国から独立した法人に担わせる以外に民間委託、民営化、地方への移管なども進める必要がある。

    5. 透明性と説明責任の確保
    6. 特殊法人等の情報開示の問題に関しては、1997年に「特殊法人の財務諸表等の作成及び公開の促進に関する法律」(いわゆる「特殊法人ディスクロージャー法」)が制定され、特殊法人の財務内容等の書類作成・公開に関する統一的な整備が一応図られている。
      しかし、第一次提言でも指摘したように、認可法人については何ら法的手当てもなされていないばかりか、特殊法人の子会社等(子会社・関連会社・関連公益法人)の財務諸表等の作成・公開が十分行われておらず、記載事項もまちまちになっている。このため、一部の法人を除いて、業務・財務の実態を正確に把握することは依然として困難である。さらに、特殊法人等と一般会計、特別会計の間の連結財務諸表が作成されていないため、特殊法人等に係る財政資金の流れは不透明なままとなっている。
      このような現状の下、これまで、特殊法人等の財務状況の健全性に対する疑問、あるいは事業実施法人を中心に存在する多数の子会社等(子会社・関連会社・関連公益法人)との発注や調達等に係わる不透明な取引慣行や天下り等の問題が指摘されている。これに対し、政府において、総務庁による行政監察や会計検査院による会計検査が実施されているものの、特殊法人等の抱える問題点の全貌を明らかにするには至っていない。
      同様のことは、政策コスト分析の実施についても言え、公的資金が投入されていても、財投機関以外は基本的に対象外とされているのみならず、現時点では全ての財投機関の政策コスト分析が公表されているわけではない。確かに、有償資金を主に活用した特殊法人等の事業活動により、利用者にとっては様々な面で利便性の向上や負担の軽減等により便益があるものの、それには様々な公費がかかっていて、有償資金以外にも国民の見えない所で補助金や交付金等という形で特殊法人等に対して税金が投入されている。現状ではそれが十分に国民に理解されているとは言い難い。
      したがって、こうした状況を是正するためには、以下 II で指摘するような特殊法人等の抜本改革に資する基盤整備を可及的速やかに行い、今回の改革案の検討に積極的に活用するとともに、可能なものは今後半年以内に制度整備を終え、特殊法人等の情報開示を徹底し、説明責任を全うできるようにすべきである。

  2. 特殊法人等の抜本改革を進めるための基盤整備と積極的活用
    1. 特殊法人等情報公開法(仮称)の早期制定と着実な実施
    2. 「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」において、同法の公布(1999年5月14日)後二年を目途として、法制上の措置を講ずるものとされた特殊法人等の情報公開に関しては、昨年7月27日に政府の特殊法人情報公開検討委員会において「特殊法人等の情報公開制度の整備充実に関する意見(以下「意見」)」がとりまとめられ、現在法制化に向けて作業が進められている。
      経団連としては、第一次提言でも指摘したように、情報公開こそが特殊法人等の改革を進めるに当たり必要不可欠な仕組みと考えており、「意見」において、「特殊法人等情報公開法においては、開示請求権制度に加え、情報提供制度をこれに並ぶものとして明確に位置付けて、情報公開制度を構築する」とされていることを大いに評価している。独立行政法人、特殊法人、認可法人を対象とする特殊法人等情報公開法が、「意見」で指摘された内容に沿って、早期に制定されるとともに、連結財務諸表、セグメント情報等が各特殊法人等により積極的に開示・提供されることを求めたい。

    3. 政策評価の着実な実施
    4. 特殊法人は主に国の政策に基づく事業の実施機関として特別の法律によって特別の設立行為により設立され、認可法人も特別の法律に基づき主務大臣の認可によって設立されている。従って、特殊法人等のあり方を議論するに当たっては、特殊法人等の行う事業の実績評価だけでなく、各特殊法人等を所管する省庁の政策の企画立案段階から吟味するなど、政策評価を実施することが不可欠である。
      そこで、新たに導入された政策評価制度において、各省庁が最初に取り組むべき課題として、特殊法人等が関わる政策・事務事業の評価を取り上げ、第三者評価機関の厳密な評価を加えた上で、速やかにその結果を公表することを提案する。また、通常国会に提出予定の政策評価法(仮称)においては、評価結果の客観性・中立性・公正性・実効性が確保され、評価システムがより有機的に機能するよう、第三者評価機能の拡充強化、関連情報の公表の義務づけ、評価結果と予算、組織・人事、計画の連動性確保等の仕組みを整える必要がある。さらに、この政策評価システムが政治主導による政策決定に積極的に活用されることも期待したい。

    5. 財務・会計の透明性確保
      1. 特殊法人等を巡る財政資金の流れの明確化
        現在、公会計の見直しに関して、自民党においては特別会計と特殊法人等を巡る財政資金の流れを明らかにする観点から、特別会計と特殊法人等との連結財務諸表の作成作業が行われている。一方で、政府においても特殊法人等の会計処理基準の見直しが検討されている。こうした作業も今回の抜本改革の検討に極めて有用であり、可及的速やかに進められることを期待する。可能なものから、新しい基準案を先取りした2000年度決算の財務諸表等を作成することとし、その検討成果を今回改革に積極的に活用すべきである。

      2. 独立行政法人の会計処理基準の充実
        III で示すように、我々が考える特殊法人等の抜本改革の基本方針は、原則、特殊法人等としての存続を認めないこととし、政治の決断により廃止または民営化に進むか、実施主体として国から独立した法人格を有する組織が必要であると判断されれば、独立行政法人通則法に基づく非公務員型の独立行政法人へ移行することを基本としている。
        従って、特殊法人等の受け皿の一つとなる独立行政法人の会計処理基準1 について、人事、資金、技術、取引等の関係を通じて支配、影響力を及ぼし得る子会社等との連結会計基準を整備して、業務・財務の実態の全容を明らかにし、国民に対する説明責任を全うできるようにする必要がある。それと同時に、一般会計や特別会計との間の資金の流れを把握できるようにする必要がある。
        また、「中央省庁等改革の推進に関する方針」(1999年4月27日、中央省庁等改革推進本部決定)では、「独立行政法人による出資等は、独立行政法人の本来業務及びそれに附帯する業務に係るもの以外には認めないものとし、個別法令に定めがある場合に限ることとする。」とされていることから、特殊法人等の既存の子会社等については、かかる観点から独立行政法人への移行に際して整理すべきである。

        1. なお、政治の判断によって、例外的に存続が決まった特殊法人等の会計基準については、将来的に発生するコストも把握できるように、引当金や減価償却等の会計処理の見直しや行政サービス実施コスト計算書を財務諸表の体系に位置付ける等、少なくとも独立行政法人並みに改定し、外部監査を義務づけるべきである。また、独立行政法人の会計処理基準の充実と合わせて、子会社等との連結財務諸表の作成も義務づける必要がある。

  3. 特殊法人等の抜本改革の具体的な進め方
    1. はじめに
    2. 特殊法人等は、戦後復興期から高度経済成長期を中心にその時々の時代の要請を受けて、特別の法律に基づき設立され、公団、事業団、金庫、公庫、特殊銀行、特殊会社、共済組合等多種多様なものとなっている。しかし、行政改革会議の「最終報告」においても、特殊法人等については、主務官庁による強い事前関与・統制による自立性・自主性の欠如、事業運営の非効率性・硬直性の顕在化、組織・業務の自己増殖等様々な問題点が指摘されている。
      そこで、今回の中央省庁等改革の中で、特殊法人等の抱える問題点を克服するため、独立行政法人が創設され、組織・運営に関する共通の原則が制度化された。国家行政組織外に独立行政法人という独立の法人格を有し、公共性、透明性、自主性を兼ね備えた新たな行政サービスの実施主体が確立された以上、特殊法人等という形態は基本的に存在意義を失ったと判断でき、今回進められようとしている特殊法人等の抜本改革の中で、特殊法人等という形態での法人の存続は原則認められるべきでない。

    3. 基本方針
    4. 特殊法人等の抜本改革を考える際には、まず多種多様な法人を第一義的に大きく2つに分けて、それぞれの最終的なあり方を示しておくことが重要と考える。具体的には、政府の行政改革推進本部の下に設けられた特殊法人等情報公開検討委員会が2000年7月にまとめた、政府の一部を構成するか否かという一般的基準2 を採用することが望ましい。
      この基準を元に、政府の一部とみなされた法人3 は、その法人が行う事業の背後にある政策の必要十分性を吟味し、法人や事業の廃止・整理合理化を進めた上で、政策遂行の手段として国から独立した法人に事業を担わせることが不可欠であるならば、原則として独立行政法人通則法に基づく非公務員型の独立行政法人へ移行し、ごく一部の例外として特殊法人等としての存続を認める。なお、非公務員型の独立行政法人へ移行する際には、現在の特殊法人等とその所管省庁が持つ企画立案部門と事業実施部門との責任分担を各法人が行う事業の性質に応じて明確にする必要がある。
      一方、政府の一部とみなされなかった法人4 については、法人や事業の廃止・整理合理化を進めつつ、原則として民営化や民間法人化5 を目指し計画を策定する。そして、政府からの補助金・交付金を最終的に廃止する方向で順次縮減を図り、自立化を促進するとともに、一部は専ら組合員等の相互扶助・救済を行う法人として存続を認めることとする。

      1. 特殊法人等情報公開法(仮称)の検討対象法人に関する一般的判断基準では、理事長等の法人の業務執行に関する最高責任者を大臣等が任命することとされていること、ないし当該法人に対し政府が出資できることとされていること、いずれかを満たすことを掲げ、「政府の一部を構成する法人」として、情報公開法の対象法人としている。なお、関西国際空港株式会社を除く特殊会社、共済組合等の専ら組合員等の相互の扶助・救済を行う法人、日本放送協会は情報公開法の対象外となっている。
      2. 本文では、基本的に特殊法人等情報公開法(仮称)の対象法人(一般的基準に基づく「政府の一部を構成する法人」及び公営競技関係法人、日本銀行)とし、日本放送協会も含めるものとする。
      3. 本文では、基本的に特殊法人等情報公開法(仮称)の対象外の法人(一般的基準に基づく「政府の一部を構成する法人」及び特殊会社、共済組合等)とする。
      4. 「民間法人化された特殊法人」は、臨時行政調査会第5次答申における特殊法人等の自立化の原則に基づき、特殊法人としての設立形式を変えずに当該法人の制度的独占を排除するとともに、(1) 国又はこれに準ずるものの出資を制度上、実態上廃止する、(2) 役員の選任を自主的に行う、(3) 経常的事業運営経費に対する国又はこれに準ずるものからの補助金等を廃止する、(4) その他政府の関与を最小限にするための制度改正を行い、経営の活性化、事業の効率化を図ることとされたものである。

    5. 特殊法人等が行う個々の事業の徹底的な検証
    6. 特殊法人等が実施している事業は、道路・住宅等の社会資本整備や地域の振興、産業の育成・中小企業等の振興から、近年では情報通信、環境・高齢化対策など国民生活・産業活動の広範な分野に及んでおり、その事業内容等も多種多様である。このため、個々の事業ごとに細分化して、その背後にある政策の妥当性及び政策の実施手段として特殊法人等を設立して事業遂行しなければならない必要十分性を徹底的に検証することが不可欠である。
      具体的な進め方としては、まず、今後半年以内に、特殊法人等を所管する各省庁が、個々の事業ごとに、特殊法人等情報公開法(仮称)や政策評価法(仮称)の主旨を踏まえ、また公会計処理基準の見直しの検討状況も可能な限り前倒しして取り込み、その背後にある政策の全体像と妥当性を明らかにして、その妥当性(十分性)を吟味し、政策の全体像の中で国から独立した法人に事業遂行を担わせる必然性を自ら挙証し、立証すべきである。そのためには、当該事業を廃止・整理合理化や代替手段(例えば、民間委託、地方への移管、場合によっては国による直轄施行等)を比較検討し、コスト分析等を使って国民に分かりやすい形で客観的に評価し提示する必要がある。その情報を補完する観点から、総務省と財務省は、特殊法人等に対する財務内容調査(行政監察)や政策コスト分析の対象の拡充あるいは再点検を行って、特殊法人等に係る問題点を明らかにすべきである。

    7. 政治の決断による抜本改革の実行
    8. 次に、2によって集められた情報をもとに、今後1年以内に、客観性と透明性を確保しつつ、政治の強力なリーダーシップや決断によって、個々の事業の必要性の可否、更には事業を実施するにふさわしい組織形態の見直しに関する最終的な結論をとりまとめることが求められる。同時に、II で指摘した改革のツールの整備を着実に行い、今後も特殊法人等の見直しを継続して定期的に行うことのできる体制を整備する必要がある。

    9. 公務員制度改革との連携の必要性
    10. 特殊法人等と国家公務員を巡っては、官僚OBが天下りして、特殊法人等相互間におけるたらい回し的異動(いわゆる「渡り」)が行われているという批判がかねてよりなされており、公務員制度改革と特殊法人等の抜本改革を連携して進めることが望まれる。
      特に、特殊法人等の抜本改革と関連性の強い「天下り」問題については、いわゆる「天下り予備軍」を縮減するため、引き続き新規採用の抑制を図るとともに、企画立案機能と実施機能の分離を徹底し、実施機能の外部化を推進すべきである。同時に、公務員の早期勧奨退職制度を是正すべく、主にライン職に就くことを想定した現在の単線型の人事管理制度を見直し、専門性を有するスタッフ職として活用すること等も検討する必要がある。


第二部 主な事業別の課題

  1. 公共事業
    1. 改革の基本的考え方
    2. わが国の社会資本整備は、これまで官主導により、国・地方公共団体による直轄事業方式、特殊法人等による事業方式、そして民間活力を利用した第三セクター方式等によって行われ、それぞれ大きな役割を果たしてきたと言える。このうち、特殊法人等は、主務大臣から認可を得てから、主に財政投融資からの有償資金を活用して、民間企業だけでは困難な大規模・超長期プロジェクト等を実施してきた。
      しかし、今後は、国・地方公共団体ともに厳しい財政状況の中で、従来までの官主導による社会資本整備には厳密な選別が求められている。特殊法人等を通じた事業方式についても、これまでにおける社会資本整備の進捗に伴い、今後は費用対効果の良くない案件の増加が懸念される。また、資金調達の手法が、本年4月から実施される財政投融資制度の改革により、これまでのように有償資金の財投資金を借り入れるやり方から、債券発行等による市場原理にのっとった資金調達(まずは政府保証のない財投機関債で、財投機関債の発行が困難な機関については財投債で)に変わることから、調達コストが従来に比べて高まる可能性もあり、今までと全く同じように事業遂行することが難しくなる可能性も高い。
      冒頭にも述べたように、財政支出の質的改善が求められる中で、特殊法人等による社会資本整備に関して、その重点化と効率化を進めるとともに、有償資金を特殊法人等に対して大量に投入する仕組みを継続する必要性、妥当性を改めて検討すべきである。

    3. 適正な将来見通しの開示による事業継続の適否の判断
    4. 公共事業を実施する特殊法人等においては、将来の需要推計(高速道路・有料道路の交通量、航空旅客の利用者数、鉄道の輸送需要量、水資源の需要量、国産木材の需要量等)に基づいて、事業計画・償還計画を策定し、利用者負担の水準もこれを参考に決定されている。しかし、これまで往々にして、成長を前提とした右肩上がりの需要見通しによる償還計画が立てられた結果、実態と見通しの乖離幅が拡大する度に、償還計画の変更や利用者の負担増が求められてきた。今後、需要見通しが好転せず、なおかつ利用者の負担増も求められない場合、その負担が国民全体に転嫁される惧れが大きい。
      そこで、今回の事業の見直しに当たっては、各事業に係わるコストとベネフィットを改めて定量的かつ客観的に計算し直し、第三者評価をも加えて適正な将来見通しを策定すべきである。その際、実態と見通しの乖離幅の大きな事業の傾向を徹底的に分析し、事業計画に的確に反映させるとともに、乖離が長期化している、あるいは償還の見通しが立たない事業については、該当事業計画の上位計画に当たる基本計画に遡って徹底した見直しを行い、事業継続の適否を判断し、廃止・縮小、合理化等の措置を講じるべきである。仮に政策的に必要と判断された場合であっても、民間委託、地方への移管、国への直轄事業化等も検討する必要がある。
      また、事業の整理合理化の結果、自立化が可能と判断された法人については民営化を目指すべきである。なお、将来見通しに係わる前提条件や結果(将来見通しと現実の乖離の実態)等の基礎データも国民に対して公表すべきである。

    5. 意思決定プロセスの問題
    6. これまで公共事業を担う特殊法人等に対しては、主務大臣から基本計画の指示あるいは命令が出され、事業計画を策定し、認可を得て、事業を遂行している法人が少なくない。このため、個別事業の決定に関しては、特殊法人等の経営責任の範囲外となっている場合がある。
      例えば、水資源開発公団の場合、これまで内閣総理大臣による水資源開発水系の指定、開発、基本計画の決定に基づき、公団が事業主体となって建設する施設(ダム、河口堰等)が定められ、事業実施方針が主務大臣から公団に対し指示が出されている。こうした意思決定プロセスのあり方自体が、特殊法人等自らの経営責任を不明確にして、コスト意識を希薄にしてきた側面があることは否定できない。
      従って、上記(2)の見直しの結果、事業の継続が必要であり、その事業を引き続き国から独立した法人格を有して事業遂行する必要があると認められる場合については、当該法人が権限と責任を持って事業運営にあたることができるような組織とすべく、独立行政法人通則法に基づく非公務員型の独立行政法人へ移行すべきである。

    7. 公共事業に期待される役割の変化への対応
    8. 公共事業に期待される役割は経済社会情勢とともに変化していく。今後、本格的な少子・高齢社会を迎え、財政制約がますます高まっていくことが予想されることから、これまでのように全国一律にインフラの量的拡大を進めていくことは難しく、その重点化と効率化を進めていくことが求めされている。かかる観点から、新規の社会資本整備においては、わが国の高コスト構造を是正し産業競争力の強化に資する基幹的な交通・物流インフラの整備(例えば、大都市圏における環状道路の整備等)、あるいは国民に真の豊かさをもたらす環境調和的な生活関連インフラの整備(例えば、子育て関連施設等)について、優先的に実行していく必要がある。また、既存インフラの維持・更新に関わる投資の重要性が高まるのに伴い、特に利用度の低い既存インフラの必要性の是非についても再検討する必要がある。

  2. 政策金融
    1. 改革の基本的考え方
    2. 政策金融に関しては、現在2銀行、6公庫、1金庫の政府系金融機関が存在し、また政府系金融機関以外にも出融資機能を有する特殊法人等もあり、設立以来、マクロ経済政策、産業・開発政策、国際経済政策、中小企業政策、住宅政策、農業政策等の分野でその時々の政策課題に機動的に対応し、資源配分機能、所得再分配機能、景気調整機能等の役割を果たしてきた。
      しかし、経済社会構造の変化に伴い、本来の融資対象が先細りとなっても、スクラップがなかなか進まない一方で新たな融資対象を加えることにより組織・事業の維持が図られてきた面も否定できない。また、民間分野の発達にも係わらず、事業分野の見直しが充分に行われてこなかった結果、民業を圧迫しているとの批判もなされている。
      近年、金融システムや財政投融資制度の改革が進展する中で、政府系金融機関が行う超長期・低利・固定による融資の必要性について、国からの交付金、補給金等のコストをも踏まえ、再検討すべきである。

    3. 政策金融にふさわしい分野の絞り込み
    4. 従来、有償資金を活用する政策金融にふさわしい分野として、

      1. 市場メカニズムになじまない分野(例:環境対策関連の設備投資、国際金融秩序安定化のための緊急融資)、
      2. 受益者負担を求めるべき分野(例:鉄道事業における混雑緩和・輸送力増強のための設備投資)、
      3. 政策的に民間経済活動を奨励・補完すべき分野(例:中小企業者に対する貸し渋り対策、良質な住宅ストック形成)、
      4. 自助努力を促す分野(例:農林漁業者の設備取得融資、小企業の経営改善資金融資)、
      の4つの分野が掲げられてきたが、今回の抜本改革の下では、民間主導による金融システムの活性化を第一に考え、真に政策的要請が強い分野や事業を厳選して、政策金融の質的補完を徹底し、今後の重点分野を絞り込むべきである。
      そこで、政策金融を実施する特殊法人等については、財政資金の投入額、不良債権総額、繰上償還額等のディスクロージャーを民間金融機関並みに徹底して行なうとともに、融資対象の分野や事業を精査すべきである。その結果、民間金融機関でも対応可能と判断された分野や政策金融の必要性が薄れた分野に関しては、時限措置を設けた退出戦略を策定すべきであり、財政負担との兼ね合いを十分考慮した上で、代替手法(例えば、民間金融機関の融資に対する利子補給、民間金融機関からの借入れに関する税制上の措置等)の採用を検討する必要がある。
      上記の見直しの結果、厳選された分野に対する政策金融を継続する場合については、当該法人が権限と責任を持って事業運営にあたることができるような組織とすべく、独立行政法人通則法に基づく非公務員型の独立行政法人へ移行すべきである。また、自立化が可能と判断された法人については民営化を目指すべきである。

    5. 特殊法人等が有する出融資機能の整理統合
    6. 政策金融機関以外の特殊法人等の中には、出融資機能を持つものもある。こうした機能の中には、複数の特殊法人等間で出融資対象に重複が見られるもの、貸付枠を消化しきれず余剰金が出ているもの等非効率な運営が行われているものも存在している。例えば、政策金融機関以外で出融資機能を持つ特殊法人等(例えば、社会福祉・医療事業団、中小企業総合事業団、産業基盤整備基金等)の出融資機能は、政策金融機関(中でも日本政策投資銀行)の出融資分野のうち、環境問題や高齢化への対応、ベンチャー企業に対する支援等の分野との重複が見られる。
      そこで、検討の結果、当該分野に対する政策金融の継続性が認められたとしても、利用者がワンストップサービスで利用できるように利便性を高める観点、及び政策金融機関が有する出融資審査のノウハウを有効活用する観点から、複数の法人に分散している出融資機能を整理統合すべきである。

  3. その他の事業に関する法人
  4. 上記の事業類型に該当しない法人については、産業の振興・助成、施設の設置・管理、研究・開発、共済・年金事業、公営競技の管理等、非常に幅広い分野の事業をカバーしている。これらについても、いくつかの事業類型に分けて、問題点を抽出し、検討する必要がある。下記において、見直しの視点をいくつか提起したい。
    なお、特殊法人の中で、巨額の財政投融資資金を扱っている機関として、資金運用を行うもの(年金福祉事業団、簡易保険福祉事業団)があるが、これについては、金融システムとの関連での検討が不可欠である。
    また、財政投融資の大きな投融資先として、地方公共団体も取り上げる必要があると考えられるが、これらは地方行財政改革、とりわけ国と地方の財政関係を見直す観点からの検討が必要である。

    1. 特殊法人等による産業助成等のあり方
    2. 特殊法人等による産業助成に関しては、出融資や価格安定等の形態により行われ、これまでも、助成内容、助成手段、受益者負担のあり方を巡って、受益者の過度の依存や限界的な事業者の温存を招かないよう、見直しが検討されてきた。今般の見直しに当たっては、わが国経済社会を取り巻く環境変化を踏まえ、公的資金を投じて特定の産業助成を行う必要性があるのか、コストに比して十分な効果が上がっているのかを十分検証した上で、事業の廃止、縮小・合理化を図るとともに、財政負担も考慮しつつ、税制、補助金等の代替手段への移行も検討すべきである。
      また、特定産業あるいは特定地域への振興に関しては、特殊法人等に依存しない形で社会保障や社会福祉等他の施策を活用することも求められる。

    3. 競争原理の徹底、事業運営の効率化と情報開示の徹底
    4. その他の事業を遂行する特殊法人の中には、民間でも対応可能にも拘わらず、独占的な事業運営が継続しているため、非効率かつ透明性に欠けた運営が温存されている法人も見られる。
      例えば、診療報酬明細書(以下、レセプト)の一次審査について、健康保険法上は各健康保険組合で行うこととされているが、旧厚生省の行政指導により、社会保険診療報酬支払基金(以下、支払基金)に委託せざるを得ない。このため、独占的な事業運営を任され、巨額の資金決済を扱う支払基金では、審査・支払業務の効率化が遅々として進まないばかりか、業務コストや審査内容、審査結果に関する情報開示が不十分なままとなっている。よって、レセプトの一次審査に関して、法律の規定通りに見直し、個々の健康保険組合や、その委託により、複数の民間組織でも一次審査を行えるようにするとともに、事務事業の見直しの結果、引き続き法人としての存続が認められたとしても、独立行政法人通則法に基づく非公務員型の独立行政法人への移行ないし自立化が可能と判断された場合には民営化を目指すべきである。それによって、審査・支払業務の効率化と情報開示の徹底を進めるべきである。

    5. 試験研究法人等のあり方
    6. これまで各省庁等の執行部門として置かれていた試験研究機関、検査検定機関、文教研修施設等に関しては、本年4月から独立行政法人へ移行する予定である。その他の事業を遂行する特殊法人等の中にもこれに類すると見られる法人がいくつか存在している。これらの法人は、一部民間ないし地方公共団体からの出資を受けているものの、その大半を国から出資、補助金ないし交付金を受けて事業運営している。
      例えば、試験研究を行っている特殊法人等についても、基礎研究を中心とする研究開発から技術の普及、活用・事業化等の技術革新のプロセス支援まで幅広い分野で活動しているが、これまで所管省庁ごとの縦割り政策のため、事業の重複や競合が起きて、横断的かつ総合的な事業実施が十分なされてきたとは言い難かった。そこで、今回の特殊法人等の抜本改革を機に、改めて、個々の事務事業を徹底的に精査して、類似・重複する研究部門を見直す必要がある。
      そして、国として引き続き重要かつ総合的に取り組む必要のある分野・事業に関しては、総合科学技術会議が定める国としての基本戦略を踏まえつつ、その推進に当たっては既に独立行政法人への移行が決まった法人も含めた再編成を行って、中核的な法人を育成する必要がある。その際には、活動の自律性、柔軟性、競争性を高めるとともに、厳格な事業評価の下に事業を行えるように、独立行政法人通則法に基づく非公務員型の独立行政法人へ移行する。
      また、試験研究以外のその他の事業(例えば、設備・施設等の管理業務、国際交流業務、普及啓発業務、広報活動等)を行う特殊法人等に関しても、(2)でも述べたように、業務の効率性及び事業運営の透明性の向上が求められる。行政改革会議の「最終報告」でも指摘されているように、こうした分野の事業の見直しを進める際には、民間移譲、民営化の可能性も十分検討して、個々の事業だけでなく、包括的に民間委託する手法も積極的に進めるべきである。その上で、引き続き存続が認められた法人に関しては、独立行政法人通則法に基づく非公務員型の独立行政法人へ移行する。

以 上

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