[経団連] [意見書] [ 目次 ]

平成14年度税制改正提言

−経済構造改革の実現を目指して−

2001年9月18日
(社)経済団体連合会

はじめに−経済再生のための税制改革の提案

わが国経済は、90年代の「失われた10年」を経てなお、長期低迷から脱却できずにいる。度重なる財政出動により政府債務残高は累増し、また、急速に進む少子高齢化の下で社会保障制度の持続可能性が問われている。国際市場は日本経済の行く末を疑問視し、国民は将来に対する不安感を拭えずにいる。翻って足元の景気も再び悪化の傾向を強めている。
こうした難局を正面から打開すべく、小泉内閣は「聖域なき構造改革」の推進を打ち出した。もはや抜本的な構造改革の断行なくして、わが国経済がその潜在力に見合った経済成長を手にすることはできない。聖域なき構造改革の方針は、ジェノバサミット、参議院選挙を経て内外の強い信任を得ており、経済界としても、一致協力して、構造改革に向けた取り組みを進めていく。
経済構造改革を実現するために、税制改革は避けて通ることのできない課題である。わが国が有するヒト、モノ、カネの資源を成長分野に効率的に振り向け、経済を再活性化するためには、企業活動の自由度を最大限に高め、ダイナミックな自発的事業展開を促していかねばならない。そのために商法、企業会計その他の諸制度の見直しが積極的に進められており、税制がその足枷となることがあってはならない。また、国民の将来不安を打破するために、財政の健全化、社会保障制度の再構築を図り、中期的に国民負担率を50%以下に抑制するよう、歳入面の見直しを進めなければならない。政府・与党は、税制改革を小泉改革の最重要課題と位置付け、迅速かつ大胆に推進すべきである。
構造改革の推進は一刻の猶予も許されない。平成14年度税制改正は、構造改革下の改正であり、政治の強力なリーダーシップにより直ちに実行に移されるべきである。
かかる観点から、われわれは、税制改革の具体的なあり方について、以下の通り提言する。

1.効率的な企業経営促進のための税制改革

経済構造改革を推進し、全体としての雇用を維持しつつ、わが国経済を再生するためには、活力・創造性に優れ、し烈な国際競争の中で積極的な事業活動を展開できる法人企業の存在が不可欠である。法人企業が、効率的な経営を進め、経済活性化の礎となるためには、ビジネス・インフラとしての法人税制を国際的に遜色のないものに整備していく必要がある。
平成10年度、平成11年度の税制改正において、政治のリーダーシップにより法人税率ならびに法人事業税率が大幅に引き下げられ、わが国の法人税実効税率が米国並みの水準(40.87%)となったことは、近年の企業経営の改善に大きく貢献している。また、平成13年度改正における新しい企業組織再編成税制の構築は、企業の組織形態の柔軟化、グループ経営の展開に大きな役割を果たしている。
しかし、アメリカは再び大胆な税制改革に取り組み、その対象は法人税制にも及ぼうとしている。ヨーロッパにおいても、イギリスにおける法人実効税率は30%であり、ドイツにおいても法人税率の大幅な引き下げが断行されるに至り、加えて両国では法人の有価証券譲渡益が非課税とされるなど、各国とも経済環境に応じた法人課税の見直しが行なわれている。さらに、日本企業との競争関係がますます高まるであろうアジアNIEs諸国においても、シンガポールは法人税率を24.5%に引き下げるなど、法人税率は20%台が中心である。
わが国においても、連結納税制度の確実な導入をはじめ、国際的潮流に合致した法人税制の整備をさらに進める必要がある。

(1) 日本型連結納税制度の具体的提案

  1. 連結納税制度導入の必要性
    企業は、経済環境や需要構造の変化に迅速に対応し、法制度の改正も踏まえ、その組織を柔軟に改編しようとしている。特に、経営資源の集中や新規事業展開を行なうために、戦略的分社化や企業グループ全体を括り直す動きが進みつつあり、さらに持株会社の解禁によって、本格的なグループ経営の時代を迎えつつある。
    一方、すでに企業会計制度においては、従来の単体重視から連結重視へと方向転換がなされており、税制面でも、グループ経営の進展に対応するために、企業グループを一体とした中立的な納税の仕組みである連結納税制度を早期に整備する必要がある。
    連結納税制度の導入により、グループ経営のメリットを活かした新規事業分野への展開や既存事業の再構築を行なうに際しての、キャッシュフロー上のマイナスを取り除き、税制を企業経営に対してより中立的なものに改めて事業組織形態選択の自由度を拡げることが、結果として企業活力の強化を通じた経済の活性化につながる。国際的にも、先進諸外国の大部分が、何らかの形で企業グループを一体として納税する方法を採用している。
    すでに産業界では、連結納税制度導入を前提とした企業グループの再編が数多く計画されているところであり、わが国企業の活力、競争力を維持し、経済全体の活性化、経済構造の改革を進めていくためにも、「効率的な企業経営を促進するための制度整備」(6月26日閣議決定「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」)にふさわしい連結納税制度を、平成14年度において確実に導入することが不可欠である。

  2. 連結納税制度をめぐる具体的論点について
    経団連では、先に日本型連結納税制度について具体的提言を明らかにしたが(本年7月11日
    「当面の税制をめぐる課題についての提言」)、その後の政府税制調査会における検討の進展と、そこで意見の整理が終えられていない問題点を踏まえ、以下のとおり、経団連の考え方を再度、提示するものである。
    ア)連結納税制度導入の対象法人
    連結親会社となる法人が直接又は間接に、その発行済み株式(種類株式を含む)の全てを保有する法人を連結納税の対象となりうる子会社とする。
    なお、子会社の従業員持株会(閉鎖型に限る)が保有する子会社株式ならびに子会社の役員(現役に限る)が保有する子会社株式は、親会社の持分とみなす。
    イ)連結子会社
    連結納税制度採用時において、連結納税対象となる要件を充たす子会社は、原則として全て連結するものとする。
    ウ)寄附金の取扱い
    グループメンバー間の寄附金については、現行の個社の損金算入枠を維持するか、少なくともグループ全体で認められる枠の範囲で損金算入を認めるものとする。
    エ)連結グループに新たに加入する場合の適格要件について
    含み損益を利用した租税回避行為を防止する観点から、連結グループへの新たな加入については、当該会社の資産を時価評価し、課税関係を清算することを原則としつつ、適格企業組織再編成、株式交換による完全子会社化等一定の要件を充たす場合については、課税上弊害がないことから、時価評価・課税を要しないこととすべきである。
    オ)租税回避行為防止措置について
    加入前の繰越欠損金
    連結子会社あるいは親会社となる以前の繰越欠損金は連結所得計算上利用することができず、個別法人における所得においてのみ損金算入できることとする。
    加入前の含み損
    繰越欠損金の場合と同様、連結グループ加入以前から発生し連結グループ加入後一定期間内に実現した含み損について、一定の租税回避行為防止措置を講ずる。
    子会社への投資価額修正
    投資価額修正は毎期行なうのではなく、子会社株式譲渡の際に調整を行なうこととする。
    脱退時の取扱い
    連結所得計算上計上された欠損金については、当該欠損金を生じた連結メンバー法人がグループを離脱した場合、当該離脱法人は、連結所得に計上された欠損金を引き継ぐことはできない。
    連結所得計算上繰り延べられた内部取引に係る譲渡損益等は、当該取引の当事者である連結メンバー法人がグループを離脱した場合、その年度において課税を行なう。
    なお、連結グループに加入後短期間で連結グループから離脱することを禁止するなど、租税回避行為防止措置を講ずる。
    カ)連結納税導入に伴う一時的な税収減について
    連結納税制度を採用する企業に対して付加税を課すことは、連結納税のメリットを著しく減殺するものであり容認できない。ただし、連結納税制度導入時の一時的な税収減については、経団連としても必要な検討を進める。

(2) 多様な経営形態を可能とするための税制改革

経済が多様化するに従い、経営形態もまた多様な選択肢が求められる。特に、複数の者が共同して、リスクを分担しながら新規事業に取り組む場合や、産業構造の転換に対応してスクラップ・アンド・ビルドを進めるためには、全ての出資者の有限責任と、税制上の導管としての仕組み(事業体の段階では所得課税を行なわず、その損益を出資者の損益と通算)を兼ね備える新たな事業形態が必要である。
米国には、複数の企業が共同して、リスクの高い新規事業への進出や事業の再構築を行なうための手段として、各州法においてLLC(リミテッド・ライアビリティ・カンパニー)、LLP(リミテッド・ライアビリティ・パートナーシップ)という事業形態が認められており、わが国においても、これと同種の事業形態を、有限責任事業組合契約として創設すべきである。
なお、有限責任事業組合に対する出資は金銭その他の財産とし、現物出資の場合においては、他の会社分割・分社化と同様、資産の移転時においては譲渡益課税を繰延べ、後日、当該資産が売却された場合に、現物出資を行なった構成員が自分の資産を売却したものとみなして、譲渡益課税を行なうとともに、資産の移転に係る登録免許税・不動産取得税の課税の特例に係る措置を講ずることが必要である。

(3) 公正で簡素な法人税制の確立

法人税制については、簡素、中立、公正、活力、国際的整合性の観点から、さらに見直しを進めていくことが必要である。特に、欠損金の取扱い、減価償却制度などは、諸外国の制度との比較を踏まえた見直しが必要である。

  1. 欠損金の繰戻し還付・繰越期間
    ゴーイング・コンサーンとしての企業にとって、課税上の期間損益の通算は、中長期的な観点から将来を見据えた経営を行なう上で非常に重要である。しかし、現行法人税における欠損金の扱いは、繰越控除については5年間に止まり、繰戻し還付についても1年間に限られている。
    一方、諸外国においては、例えば、アメリカでは2年間の繰戻しと20年間の繰越、イギリスでは3年間の繰戻しと無期限の繰越が認められているなど、わが国の現行制度は明らかに不利な扱いとなっている。欧米諸国とのイコール・フッティングの視点から、少なくとも法人税の一般的な制度として、過去2年分の繰戻し還付および10年間の繰越の実現を求める。

  2. 減価償却制度の抜本見直し
    企業が生産効率を高め、新たな事業分野への進出を進めていくためには、減価償却制度が大きな鍵となる。かつて、アメリカと比べて優位にあったわが国全体としての設備ヴィンテージ(平均年齢)は、1996年を境に逆転し、その後、その差は拡がりつつある(日本政策投資銀行調査)。アメリカの設備ヴィンテージの改善には、税制における加速度償却制度の導入が大きな役割を果たしており、わが国においても、次のような減価償却制度の抜本的な見直しが必要である。
    ア) 現行「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」別表一及び別表二を大幅に簡素化した上で、耐用年数を短縮すること。
    イ) 現行法人税法施行令第61条第1項一号に規定する償却可能限度額を現行の取得価額の100分の95から、備忘価額を残すまでに改めること。
    ウ) 減価償却制度における損金経理要件を見直すこと

  3. 政策税制の見直し
    租税特別措置(政策税制)については、国際競争力の維持、産業の構造転換促進、起業・創業支援、研究開発、エネルギー・環境問題への対応などの政策目的と、税制措置の有効性を不断に検証しつつ、見直しを進めていくべきである。

2.資産デフレ解消のための税制改革

(1) 個人金融資産の活用・証券市場活性化のための税制改正

資産デフレが深刻化するなかで、企業の資金調達と個人の金融資産運用を結びつける証券市場を活性化させることが喫緊の課題となっている。間接金融に偏重した課税の仕組みを改めて、直接金融へ重心を移すことにより、成長産業へのリスクキャピタルの供給を促進し、個人金融資産を証券市場に振り向ける必要がある。
現下の株式市場を取り巻く環境に鑑みれば、証券税制の見直しは、年次改正を待たずに早急に取り組むべきであり、当面、個人の有価証券譲渡益について、申告分離課税のあり方に焦点を絞った見直しを先行して実施すべきである。具体的には、申告分離課税の税率を現行の26%から10%まで引き下げるとともに、譲渡損失の翌年以降(5年間程度)の繰越控除、株式と株式投信の損益通算を認めるべきである。キャピタルゲインに対する課税を軽減し、譲渡損の繰越や株式・株式投信間の損益通算を認めることで、新たな投資インセンティブが増すことが期待される。
また、投資対象としての株式の魅力を高め、株式の長期保有を促すため、個人が受け取る配当については、預貯金利子と同様に20%の源泉徴収で課税関係が完結する制度とし、法人の受取配当金に関しては全額を益金不算入とすべきである。自己株取得等に関わるみなし配当課税については、現行の免除措置を恒久化すべきである。
さらには、納税者番号制度の導入を含め、各種金融資産への課税について、各々の特性に配慮しつつ、総合的・体系的な見直しが必要である。

(2) 不動産市場活性化のための税制改正

  1. 不動産の流動化を促進するための流通課税・譲渡益課税等の整理・合理化
    土地の有効利用を通じた都市再生を進めるためには、円滑な不動産取引や新たな投資を妨げている税制の見直しが不可欠である。
    不動産には、その流通・建設段階において、不動産取得税、登録免許税、印紙税、消費税(建物のみ)、さらには特別土地保有税(取得分)、事業所税(新増設分)などが課されている。課税の根拠である不動産取引の背後の担税力が乏しい現状において、他の資産と比較しても過大な課税を多重に負担させられており、これらの課税を整理・合理化することが必要である。
    不動産の流動化を促進するために、登録免許税を手数料化するとともに、不動産取得税を廃止すべきである。また、課税の意義を失った特別土地保有税や都市再生の足枷となっている事業所税は廃止を含め抜本的に見直すべきである。
    また、法人の譲渡益重課制度(凍結中)を先行き不安感の払拭のためにも廃止するとともに、個人の土地の長期譲渡所得課税の税率(26%一律分離課税)を適正化すべきである。さらに、含み損を抱える買換え層に配慮した住宅税制の見直しを行なうべきである。

  2. 不動産証券化促進税制の拡充
    本年9月にJ-REITが上場を果たすなど、不動産投資市場の整備が着実に進みつつある。証券税制の見直しと併せて不動産証券税制の見直しを進めることにより、投資市場全体の活性化を図ることが重要である。具体的には、株式についての少額譲渡益非課税制度と同様の措置を不動産証券化商品にも適用すること、申告分離課税の税率(26%)、少額配当申告不要制度の限度額(10万円)等について株式同様の措置を講ずることが必要である。

3.経済構造改革を進めるための税制改革

(1) 不良債権・不良資産処理と税制措置

金融機関が多額の不良債権を抱えていることにより、収益性の低下や追加処理のリスクが高まるなか、金融本来の機能が低下している。経団連も政府の要請を受け、「私的整理に関するガイドライン」の策定に参画しているところであるが、金融機関の不良債権と企業の過剰債務の早期処理を進めるために、以下の措置を講じるべきである。

  1. 私的整理ガイドラインによる債権放棄に係る無税償却
    私的整理に関するガイドラインによって成立した再建計画は、「利害の対立する複数の支援者の合意により策定」されるものであり、法人税基本通達9-4-2の「合理的な再建計画」に該当する。従って、債権者サイドの不良債権の償却を進めるため、当該再建計画に基づく債権放棄については寄附金に該当せず、損金算入できることを明らかにする。

  2. 私的整理ガイドラインによる債務免除の扱い
    また、私的整理に関するガイドラインによって成立した再建計画は、「多数の債権者によって協議の上決められ」ており、「その決定について恣意性がなく、かつ、その内容に合理性があると認められる資産の整理」に該当し、法人税基本通達12-3-1(3)の「整理開始の命令に準ずる事実」があると認められることから、このような再建計画に基づいて債権者から債務免除を受けた場合は、法人税法59条に基づき、当該事業年度以前の事業年度において生じた欠損金額のうち債務免除益に達するまでの金額は、損金算入できることを明確にする。

(2) 商法改正と税制措置

経済構造改革の進展に伴い、企業活動を律する商法も改正の頻度を増しているが、税制の対応の遅れが改正法の活用を妨げることのないよう、商法改正に対応した税制改正を迅速に進めるべきである。

  1. 金庫株に係る税制措置
    目的を問わない自己株式の取得保有制度、いわゆる金庫株が解禁されたことに伴い、自己株式の処分時の税制措置を改める必要がある。商法においては、自己株式の取得は資本からの控除項目となり、自己株式の処分は新株発行と同様の手続を要し、また、会計規則上も自己株式の取得・処分は資本取引として扱われることから、税制においても、これを資産の取得・譲渡とするのではなく資本等取引とすべきである。

  2. ストック・オプション税制の拡充
    商法改正によりストック・オプションの付与対象者が拡大されることから、その趣旨を踏まえ、税制上の特例対象となるストック・オプション税制の範囲を子会社、関連会社の役員・従業員等に拡大すべきである。

  3. CPに関する税制
    短期金融市場の中心的な役割を担うコマーシャル・ペーパー(CP)の電子化を図ることを目的とした短期社債法が来年度より施行される。今後、段階的に現行の手形CPからペーパーレスCPへ移行していくことが期待されるが、現行CPの商品性を維持継続するため、短期社債に係る源泉徴収を免除する措置が必要である。また、ペーパーレスCPが市場に浸透するまでの当分の間は、現行CPに係る印紙税の定額化措置を維持すべきである。

(3) 財政構造改革と税制

抜本的な財政構造改革を進めていく上で、硬直的な特別会計制度をはじめとする特定財源制度、それに対応する各種目的税のあり方の見直しは避けて通れない課題である。
ある税目から得られる税収を特定の事業・公的サービスに要する費用に充てることは、その事業・公的サービスの受益と負担の間に密接な対応関係が認められる場合には、一定の合理性をもつものである。しかし、それが資源の適正な配分を歪め、財政の硬直化を招く傾向があることも事実であり、特定財源の妥当性については常に吟味していく必要がある。
ただし、特定財源制度は受益と負担の関係から成り立っていることに鑑み、使途の見直しと併せて負担水準の見直しが検討されるべきである。特に、特定財源税目とされている自動車関係諸税は複雑、かつ諸外国に比べて過重な負担となっており、公平、中立、簡素という税の基本理念を踏まえて見直す必要がある。

4.社会保障制度の抜本的改革と税制

少子・高齢化が本格化し、労働力人口の減少と毎年の社会保障支出の大幅な増加が既に現実のものとなっている。このままでは税負担と社会保険料負担を合わせた国民負担率の大幅な上昇は不可避であり、わが国の経済活力が急速に失われていくことが懸念される。持続的な社会保障制度を構築していくことは、財政の健全化に資することはもとより、国民に対して将来に対する安心感を付与することから、経済社会の安定化に寄与することとなる。
世界に例を見ない急速な少子・高齢化の進行に対応するためには、現行の社会保障制度を、現役世代にとって過重な負担とならないようなものに改革していくことが急務である。国民負担率の抑制に加えて、制度の目的に照らした財源方式の適正化や民間活力の最大限の活用といった観点から、制度そのものを総合的に見直す必要がある。

(1) 基礎年金・高齢者医療の国庫負担拡充と消費税率の引上げ

公的年金については、世代間の負担のバランスを適正化することが重要である。そのためには、真に必要な年金給付を明確にしていく必要があり、特に、既存の基礎年金部分と報酬比例部分の位置付けを明確にして所要の見直しを行なうべきである。基礎年金部分については「高齢者の必要最低限の生活保障」を目的とし、財源を現状の社会保険料中心から税中心に移行することが望ましい。報酬比例部分については、給付水準を適正化した上で、現行の事実上の賦課方式から積立の要素を高めていき、最終的には自助努力に委ねていく必要がある。
わが国の医療制度は、世界に類を見ない高齢化の進展や再三にわたる改革の先送り等により、医療費が際限なく増え続け、医療保険財政は危機的状況にある。2002年度医療制度改革にあたっては、保険財政を圧迫する高齢者医療制度の抜本改革なくして、持続可能な医療制度の再構築は望み得ない。現行の高齢者医療制度の最大の問題点である老人保健拠出金は、現役世代の保険者に対して、老人医療費の負担を自動的に求める仕組みであり、拠出金の増加をコントロールする仕組みが存在せず、現役世代の保険制度としての本来の趣旨を歪めている。低経済成長へと移行し、保険料収入の伸びが期待できない中で、このまま高齢者医療費が伸び続ければ、保険財政は破綻し、医療保険制度を支える基盤そのものが崩壊する。2002年度においては、少なくとも公費負担割合を現行の3割から5割まで引き上げることにより、老人保健拠出金負担に一定の歯止めをかけるべきである。
こうした医療・年金制度の改革にあたっては公費負担の増加が避けられないが、公費増分の財源については、経済活力への影響が少なく、国民が広く負担を分ち合う税制である消費税の税率引上げによって賄うべきである。

(2) 企業年金に係る税制の整備

企業年金については、先の国会において経済界が長年にわたってその成立を要望してきた私的年金2法が成立したことにより、労使合意の下で、自由な制度設計が可能となる基盤が築かれたことは高く評価できる。また、証券市場活性化のためには、個人投資家の育成とともに年金ファンドによる株式取得の拡大が不可欠である。
しかしながら、税制上の制約によって、労使双方にとって必ずしも使い勝手の良い企業年金制度を構築することができない状況にある。

  1. 特別法人税の撤廃
    諸外国においても例をみない年金運用資産への課税である特別法人税の存在は、新たな企業年金制度の普及にとって大いなる障害であり、とりわけ、既存制度から新型年金への移行を妨げるものとなっている。国民が自らの努力と責任において老後の所得確保を図るうえでは、年金税制を拠出時・運用時非課税、受給時課税の原則の観点から再構築する必要がある。特別法人税は、異常な低金利下にあって現在、停止されているが、即時廃止すべきである。

  2. 確定拠出年金に係る課税の見直し
    確定拠出年金法の成立により、労使双方にとって、企業年金制度の選択肢は大きく拡大することとなった。しかし、拠出限度額が低すぎる上、労使のマッチング拠出の禁止等の制約があることから、企業は退職給付制度の総合的な見直しにあたって、確定拠出年金を見直しの主たる制度として位置付けることができない。確定拠出年金は貯蓄ではなく、自助努力による老後の生活保障のための年金であることに鑑み、より使い易い制度としていくことが必要である。拠出限度額の早期引上げを図るとともに、マッチング拠出の容認、老齢給付金の給付開始年齢の弾力化を行なうべきである。

  3. その他
    確定給付企業年金制度と併せて、既存制度からの円滑な移行を図る観点から、過去勤務債務の一括償却を容認すべきである。
    米国におけるキャッシュ・バランス・プランに代表されるような、ハイブリッド型年金の制度設計を認めることにより、労使が多様な制度設計を行なえるようにすべきである。

5.地方の自立・活性化を支えるための税制改革

(1) 一層の地方行財政改革の徹底と地方分権の推進

地方分権を進めるためには、国の財政構造改革との密接な連携の下で、国と地方の財政的関係を見直すとともに、自治体の体力に見合った歳出構造への転換と、自立的な歳入の確保を可能とする財政的枠組みの確立を図ることが重要である。国と地方の事務区分に対応した経費負担の区分を確立して地方自治体のディスクロージャーを充実させ、徹底的な歳出削減を行なうこと、さらには、市町村合併を進め、地方自治体を適正規模に再編することが必要である。
当面、平成14年度地方財政計画において、段階補正の縮減等により地方交付税に係る基準財政需要を徹底的に見直すこと等を通じて歳出の削減を図り、地方交付税の総額を縮減すべきである。
さらに、将来的には、地方交付税・補助金など国から地方への財政移転を縮小・廃止しつつ、国から地方への税源移譲も含め地方財源の充実を進め、財源調整を必要最小限にとどめることで地方財政の自立を図り、地方行政サービスにおける受益と負担の対応関係を明確化していく必要がある。

(2) 地方独自課税の問題

2000年4月の地方分権一括法施行に伴う地方税法改正により、法定外普通税が総務大臣の許可制から同意を要する協議制に改められ、法定外目的税が創設されたのを契機に、全国の地方自治体に独自課税の動きが広がっている。
地方自治体の独自課税は、単なる歳入増加の手段であってはならず、それぞれの自治体が独自の行政施策を行なうために必要である場合に、住民=納税者の受益と負担の選択の下に行なわれるべきである。しかし、実情は、選挙権をもたない法人企業のみに偏った課税が行なわれていることが多く、地域における企業活動を阻害し、却って地域経済の停滞要因となっていることは大きな問題である。法人企業を対象として新たに課税を行なう場合には、事前に納税者となる法人企業から意見を聴する制度を検討すべきである。

(3) 地方課税の抜本改革

地方税においても、法人・個人の所得に対する直接的な課税に依存することは限界があり、税源の偏在性も小さく、広く薄く負担を求める地方消費税を、将来の地方税の基幹税目としていくべきである。
地方法人課税については、地方行政サービスの受益に応じた適正な負担が必要であるとしても、既に法人企業は、固定資産税、都市計画税、事業所税、損金不算入となっている法人住民税均等割等の所得によらない外形的な地方課税を負担しており、これらに加えて税収確保を目的として、新たに外形標準課税を導入することは、地方税体系を一層複雑にするものである。
とりわけ、自治省(現総務省)から示された法人事業税の外形標準課税案は実質的な賃金課税として企業の雇用・投資活動に悪影響を及ぼし、経済の活性化を阻害するものとして容認できない。

6.国際租税に関わる問題

(1) 日米租税条約改定への適切な対応

日米租税条約については、1971年以来約30年ぶりに正式な改定交渉が開始されることとなった。同条約は日米経済関係を支える基本的枠組みであり、本邦企業の米国における円滑な事業活動の促進と、わが国への対内直接投資の拡大の観点を踏まえた改定交渉が強く望まれる。基本的には、OECDモデル租税条約に則った改定が必要であり、支店課税の強化や第三国による仲裁等に関しては慎重に対応すべきである。

(2) 外国税額控除の拡充

企業が自由な国際展開を進めるためには、税制上、国際的な二重課税を排除することが不可欠である。外国税額控除制度の控除限度超過額及び控除余裕額の繰越期間の5年への延長(現行3年)と、間接税額控除対象会社の範囲の曾孫会社以下への拡大(現行孫会社まで)が必要である。

(3) タックス・ヘイブン税制の見直し

タックス・ヘイブン税制は、本来、実体的な事業活動を行なわずに軽課税国に外国子会社を設立するといった国際的な租税回避行為に対応するための税制である。しかし、継続して実体的な活動を行なっているにもかかわらず、現地の法人税率の引下げ等により、後発的にタックス・ヘイブン税制が適用される惧れがあるなど本来の趣旨に合致しないケースが生じている。現状の事業活動に即した、適用除外要件の見直しが必要である。

以 上

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