[経団連] [意見書] [ 目次 ]

2001年度経団連規制改革要望

−経済社会の構造改革と行政改革の断行に向けて−

2001年10月16日
(社)経済団体連合会

1.規制改革についての基本的考え方 ―改めて今何故規制改革か―

(1)経済構造改革の視点

 規制改革は市場原理を活用した経済構造改革の要である。特に、我が国経済の官公需依存体質を改めるとともに、非効率な資源配分を是正し、グローバルな競争に耐え得る強い経済体質を構築するためには、民間活力が最大限に発揮できる基盤を構築することが求められる。そのためには、民間の自由な事業展開や創意・工夫の発揮を妨げている政府の規制や、受注配分等を含めた関与・介入を徹底的に排除する必要がある。

(2)社会構造変化への対応の視点

 規制改革は我が国社会の構造変化への対応にも不可欠である。特に、近年の急速な情報化社会や少子・高齢化社会の進展に的確に対応するとともに、循環型社会の構築を推進していくためには、競争条件を整備し、多様な事業やサービスの提供を可能とする制度の確立が求められる。そのためには、情報通信、医療、福祉・保育、人材、教育、環境等の分野を中心に、聖域を設けることなく、既存の規制や制度を抜本的に見直すべきである。

(3)行政システム改革の視点

 規制改革は我が国行政システム改革の中核的課題である。今こそ「民間でできることは民間に委ねる」との原則を徹底し、行政の外延部たる特殊法人等を含めて政府部門の果たすべき役割を限定するとともに、行政の役割を事前規制から事後チェック型に転換していくことが求められる。そのためには、先ずもって郵政三事業や特殊法人等の事務・事業の廃止・民営化等の改革を進めるとともに、許認可・検査・検定等の事前規制をゼロ・ベースで見直す必要がある。

(4)経済活性化、雇用創出の視点

 規制改革は現下の緊急課題に対応する上でも有効である。この観点から、経済の活性化や国際化に対応した産業競争力の強化に早急に取り組むとともに、不良債権処理に伴って発生する離職者の問題にも適切に対応していくことが求められる。そのためには、不良債権処理の円滑化、高コスト構造の是正、都市再生等を図るべく、上記視点をも踏まえ、関連する規制・制度の抜本改革に取り組むとともに、生活関連産業分野における雇用創出や円滑な労働移動を可能とする諸改革を早期に実行すべきである。

 これらは、いずれも小泉内閣の進める「聖域なき構造改革」の中核をなす課題であり、21世紀に相応しい民主導・民自律型の健全なる競争に基づく活力ある経済社会を実現するためには、早急に規制改革を実行に移すことが不可欠である。

2.規制改革の推進に伴う諸課題への対応

(1)競争政策の徹底、紛争処理機能の整備等

 より一層の規制改革を推進するとともに、これまでの改革の成果を活用するためには、競争条件の整備をはじめ競争政策の徹底が不可欠である。同時に、情報の非対称性を是正するための情報開示の推進や、司法制度改革も含めた事後的紛争処理手続きの迅速化・有効性確保等にも取り組む必要がある。とりわけ公正取引委員会の機能強化に向け、組織の位置付けの見直し(内閣総理大臣の所轄機関化)等を検討すべきである。

(2)セーフティネットの充実と産業基盤の整備

 規制改革による活力ある競争社会を実現していくためには、各種の社会的安定機能(セーフティネット)の整備・拡充や電子商取引促進のための個人情報保護法の早期制定等の基盤整備も重要となる。特に、構造改革を進める過程で市場から退出を余儀なくされるものが生じる場合、それらの再挑戦のための支援とともに、雇用面でのセーフティネットの充実が緊急の課題となっている。とりわけ、民間の再就職支援サービスや職業紹介事業、労働者派遣事業等を活用した円滑な労働移動を進めるとともに、教育訓練給付制度の見直しを含めた能力開発プログラムの多様化・充実、求職者給付に係わる国庫負担割合の引き上げ等に早急に取り組む必要がある。

(3)行政運営の公正・透明性確保と積極的活用

 規制改革の実効をあげるためには、規制の制定・改廃から実際の運用に至るまで、行政運営の公正性を確保し透明性の向上を図る必要がある。このため、パブリック・コメント手続、行政手続法、行政機関による法令適用事前確認手続(日本版ノーアクション・レター制度)の対象範囲を拡大する等の制度の充実を図るとともに、民間事業者による制度の積極的活用を推進する必要がある。とりわけ、2001年3月に閣議決定された日本版ノーアクション・レター制度については、早急に全省庁で幅広く実施すべきであり、各省庁の細則の策定にあたっては、パブリック・コメント手続に付すとともに、法令解釈の対象の拡大や回答の際の見解・根拠の明記等を進めるべきである。

(4)行政組織・定員の見直しと自己責任原則の徹底

 規制改革の進展に伴い、行政組織や定員の見直しも必要である。特に、事前規制型から事後チェック型の行政システムを定着させるためには、規制の廃止等による事前規制分野の職員を配置転換させ、競争監視・紛争処理等の事後チェック部門の充実を図る必要がある。また、規制改革や市場環境の変化に伴い新しい商品・サービスの創造が期待できる分野(例えば、金融、IT関連等)については、事後チェック型への移行を中心に手続きの遅延が生じないような体制整備を進めるべきである。
 かかる行政システムの改革には、企業、消費者、マスコミを含めた意識改革が必須であり、安易に行政に依存する姿勢を改める必要がある。

3.総合規制改革会議等における規制改革の取り組みについて

(1)総合規制改革会議「中間取りまとめ」等の早期実施

 2001年4月に発足した内閣府の総合規制改革会議は、7月24日に「重点6分野に関する中間取りまとめ」を公表した。中間取りまとめでは、改革の緒についたばかりの「生活者向けサービス分野」に重点を置き、特に医療、福祉・保育等、人材(労働)、教育、環境、都市再生の6分野について、分野に差異はあるものの、検討の方向性や具体的施策を明らかにするとともに、具体的措置時期についても規制改革推進3か年計画を前倒しする形で明記した。
 これらが、その後の経済財政諮問会議における「改革先行プログラム」や「改革工程表」における規制改革の前倒し実施方針の基礎となっており、その取り組みを高く評価したい。
 今後はこれらに盛り込まれた具体的施策の迅速且つ着実な実施が重要であり、例えば法改正が必要なものについては、秋の臨時国会や次期通常国会へ関連法案を一括して提出し、早期成立を図るべきである。

(2)「規制改革推進3か年計画」改定について

 総合規制改革会議では、秋以降、規制改革推進3か年計画の改定作業に着手するとされている。これらの検討にあたって、まず取り組むべき課題は、重点6分野で「中間取りまとめ」で取上げられなかった項目を含め、分野を限定することなく規制改革推進3か年計画に盛り込まれた事項の拡充と前倒し(検討結論時期・実施時期の明確化・前倒し)を進めることである。同時に、内外から寄せられた規制改革要望を幅広く検討し、「中間取りまとめ」の手法を踏襲し、年末を待つことなく総合規制改革会議としての意見を取りまとめ公表すべきである。その際には、各省庁に対し、内外からの規制改革要望を検討し、その結果を逐次理由を付して公表(ホームページへの掲載等)することを求め、総合規制改革会議等の検討の参考とするととともに改革の過程を広く公開すべきである。これらの検討結果を踏まえ、閣議決定等で政府方針を確立しつつ政治のリーダーシップの下で順次改革を実行していくべきである。

(3)他の組織との連携について

 現在、内閣府の経済財政諮問会議、あるいは内閣に設置されたIT戦略本部や都市再生本部等において、それぞれの所掌分野における規制改革事項が議論されている。総合規制改革会議においては、全体として規制改革が効率的に進められるよう、これらの組織における規制改革の検討と連携を図りつつ、IT分野や都市再生に係わる事項を含め、早期に具体策が策定されるよう積極的役割を果たすべきである。
 また、3か年計画の改定作業、とりわけ新規事項等への取り組みについては対象分野が広範なため、検討内容や事務作業量が膨大なものとなることが予想される。従って、総合規制改革会議の検討体制や事務局機能の充実・強化を図るとともに、作業効率を高めるという観点から、行政内部に蓄積された知識・ノウハウを活用すべく、一定の事項の調査等につき関連省庁に協力依頼することも検討すべきである。

4.政治のリーダーシップと民間産業界の役割

 規制改革は、歴代の内閣と規制改革委員会等の推進組織のリーダーシップにより、一定の前進が見られている。しかしながら、「原則自由」との方針で進められた経済的規制についても、依然、流通、運輸、エネルギー、通商等の分野で、典型的な経済的規制である需給調整的な規制が残されている。また、これまで市場原理にはなじまないとされ、いわば「聖域」とされてきた社会的規制分野(医療、福祉・保育、人材、教育、環境等の生活者向けサービス分野)については、改革の取り組みが大きく遅れている。既得権者等の抵抗を排除し、国民の理解と支持の下に、これら残された課題に積極的に取り組み、我が国経済社会の構造改革を断行するには、政治の強いリーダーシップが不可欠である。引き続き、小泉総理、石原大臣をはじめとする改革断行内閣の強力なリーダーシップによって、早急に抜本的な規制改革が実行されることを期待する。
 経済界としても、自主・自律・自己責任原則に基づいて行動することを徹底し、今後も規制改革の断行に向けて、政府の取り組みを全面的に支援するとともに、引き続き関係先への働きかけを行なっていきたい。

以 上

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