2001年10月16日 (社)経済団体連合会 |
経団連では、提言「科学・技術開発基盤の強化について~次期科学技術基本計画の策定に望む」(1999年11月)及び、「科学技術戦略の変革に向けて」(2001年6月)において、国際競争力強化の観点から、産学官連携の必要性と推進施策について指摘を行ってきた。すでに、文部科学省および経済産業省の審議会においても、産学官連携にむけた検討がなされ、中間報告が提出されている。また、現在、総合科学技術会議においても検討が行われており、今こそ、国立大学改革の動きと連動して、産学官連携を実際に動かす好機である。
このように、産学官連携についての総論および個別の問題点についてはすでに出尽くし、政府による各種施策やTLO等の設置も進みつつあるが、わが国の大学と企業間の本格的な共同研究・受託研究等の件数が大幅に増加するまでには至っていない。この背景には、国立大学の改革が検討の途上にあることと、産学官がその連携の必要性と価値観を共有できるような交流の場や、共同して推進すべき具体的な施策を欠いていることにある。
本提言の策定においては、当部会のメンバーにアンケート調査を実施し、過去の具体的な成功・失敗事例を分析し、複雑に絡み合っている課題を解き、産学官が取り組むべき具体的な施策を提示することを目的としている。本提言が総合科学技術会議をはじめとする政府の検討に盛り込まれるとともに、同会議のリーダーシップで産学官の交流が実際に推進されることを強く望みたい。
なお、本提言は企業と大学との関係について述べているが、企業と公的な試験研究機関との関係についてもあわせて検討していく必要がある。
経団連では、技術革新こそが経済発展の原動力であり、わが国経済が再活性化するための鍵を握っていると認識している。そのためには、「知の創造」(大学等の基礎研究の充実)、「知の活用」(基礎研究を産業化に結びつけるプロセス)、「知の理解」(新しい知識に対する国民の理解と市場の受容性の向上)を、同時並行的に進める好循環を作り出す必要がある。
米国では、近年、情報技術やバイオテクノロジー等の分野で、大学の研究が産学連携を通じて実用化に結びつき、国の産業競争力の向上に大きく貢献した。この背景には、日本の躍進を見て、80年代に米国企業の研究開発が、基礎研究重視から応用開発へシフトし、基礎研究については大学からシーズを見つけることが一般化した事実が指摘されている。また、米国の大学においても、明確な設立理念と大学トップのリーダーシップの下、世界最高水準を目指した研究、社会のニーズを踏まえた研究テーマの選定、産学の人材交流等が推進された。同時に、産学連携による資金獲得、特許取得やベンチャーの起業等が高く評価され、バイ=ドール法の制定を機に、大学側に産学連携を推進するインセンティブや環境が作り出されていた。このように、企業と大学の目指す方向がうまく一致する中で、大学と企業の双方にメリットのある産学連携が推進されてきた。
一方、わが国では、産学官の連携が必ずしも十分に行われておらず、これが日米間の産業競争力格差の大きな要因となっている。近年、わが国の企業も、従来からの自前主義から脱却し、研究開発の一部を大学等へ委託する傾向が見られる。また、国内外を問わず世界中の大学から実用化に向けたシーズを積極的に探している。従って、意欲と実力のある大学の中には、少ないながらも産学官連携に積極的に取り組んでいる事例もあり、そのような大学に対して、重点的な産学官連携を推進するための施策を講じるべきである。国内の大学等が世界最高水準の研究を増やすとともに、大学等における産学連携への環境を整備すれば、わが国においても米国と同様の好循環を作り出すことが可能である。また、国際競争力強化のみならず地域経済・産業への貢献等の観点からも、産学官連携に積極的に取り組む必要性は増している。
社会が大学に期待する役割としては、(1)教育分野(優れた人材の育成)、(2)真理の追求を目的とした研究の分野(純粋基礎科学)、(3)実用化につながる研究分野(目的基礎・応用技術)がある。この中で、産学官連携の対象となるのは、(3)実用化につながる研究分野であり、本提言もその分野を対象としている。
大学と企業は、それぞれ歴史と文化を異にしており、その連携の推進のためには、異文化を認識し認め合う中で、目的意識を共有し、互恵的な関係を築くとともに、産学官連携が評価されるシステムを構築していくことが欠かせない。その中で、大学は世界最高水準の研究を行い、企業は大学のシーズを活用した応用・製品開発に取り組んでいくべきである。
現状における産学連携の最大の障害は、大学側において、企業との連携(共同・受託研究、特許の取得、ベンチャーの起業等)が教授や研究者の評価の対象となることが少ない点である。そのため、産学連携へのインセンティブが弱すぎる点が指摘できる。
意欲と実力のある大学と企業とが、組織対組織の明確な契約関係のもとに、産学官連携に積極的に取り組めるよう環境整備を行うとともに、大学のインセンティブを高めることに取り組むべきである。その際、大学内での評価にとどまらず、社会全体として産学官連携を評価する仕組みを作ることが必要である。
そのためには、当事者である企業と大学等が、産学官連携の推進について建設的な対話を行う必要があり、経団連としても、今後、この提言で取り上げたテーマを中心に大学と積極的な対話を行い、産学官連携の好循環を作りだすためのシステム改革を目指したい。
当部会がメンバー企業を対象として実施したアンケート調査(本年8月、回答総数25社)によると、全ての企業において件数では国内の大学との連携が海外との大学との連携を上回っているが、共同研究・委託研究の1件当りの金額は海外の大学との連携の方が大きいという結果が出ている。これは、わが国の企業が海外の大学と連携を行う場合には、世界最高水準の研究開発成果や特許の活用という目的が明確で、それに相応しい規模の投資を行っているからである。一方、わが国の大学に対しては、小規模の投資が中心であり、その目的も明確でなく、その多くは、人材採用等を目的とした奨学寄付金のような契約によらない形態が多い。わが国の企業と日本の大学との連携が本格的なシステムとして構築されるためには、大学と企業という組織間の契約に基づく、共同・受託研究等へと移行すべきであり、わが国企業および大学関係者の意識の改革から始めなくてはならない。
同アンケート調査で、大学等の連携で失敗した要因を尋ねたところ、(1)成果の取り扱いが不明確、(2)アイディアどまりで実用化に耐えられない、(3)目的が不明確といった回答が大半を占め、シーズとニーズの合致が見られない。また、大学側(研究者、事務部門)が、契約等の手続きを雑務として厭う傾向もある。失敗例ではわが国の大学との事例が大半を占めているが、わが国の大学自体が産学官連携について魅力を感じ、積極的に大学自らが取り組むようなシステムになっていないことが読みとれる。
一方、成功事例については、海外の大学との連携の大半および国内の一部特定の大学との連携について回答があった。成功の要因としては、(1)目標の明確な設定等のテーマの合致が大きく、企業と大学で目的を同じレベルで共有できたことや、大学が連携を良い意味でビジネスと捉え、顧客ニーズに応える提案等を行っていることが評価されている。また、(2)人材交流、(3)世界トップ水準の研究・情報内容、(4)成果の取り扱いについての明確な契約意識、(5)大学内の幅広い協力体制、(6)リエゾンオィス等の事務部門の協力が挙げられており、大学自らが産学連携に強いインセンティブを持っていることがわかる。
海外の大学と国内の大学を比較した際、(1)企業ニーズを踏まえた提案、(2)大学が法人格を持ち、責任ある契約を柔軟に締結できること、(3)事務部門や他学部の教授等の学内における人的リソースの横断的協力体制等の面で、海外の大学が優れていると回答している。海外の大学との産学連携では、大学の組織体としての活動、及び、意識の高さが、産学官連携を推進する際の大きな差となって出てきている。
本章では、前章での産学官連携を推進する上での課題を踏まえ、
大学における実用化につながる研究分野(目的基礎・応用技術)において、大学、教員等が自ら積極的に産学官連携に取り組むためには、大学、教員等の主要業務の一つとして産学官連携を加え、産学官連携に積極的に取り組む教員等も評価・賞賛されるよう、インセンティブを高めるための制度等を導入することが重要である。また、産業界の行動や政府による支援制度を通じ、そのインセンティブが実効ある形で機能するよう取り組みを強化する必要がある。
大学や政府における取り組みも踏まえ、積極的なシーズの発掘を行う。また、成功例を通じて、豊富な資金が集まり、高度な教育・研究環境を実現できる互恵的なモデルケースを具体的に示し、新たな成功事例の創出に貢献する。
産学官連携を推進する上で、企業と大学のお互いの文化への深い理解に基づいたシーズとニーズのマッチングのためには、産学官を跨ぐ人材交流が重要である。経団連アンケート調査でも、大学側において企業ニーズを把握している教授や民間出身の教授がいたことが、産学連携がスムースに進んだ成功要因であることが指摘されおり、産学官連携を推進する上で人材交流の活性化は重要な鍵である。
私立大学と国立大学のイコールフッティングの確保の観点から、民間から私立大学への委託研究費の非課税化を図るなど、私立大学税制の見直しを行うとともに、私立大学に対して、国立大学を上回る規制緩和を行うべきである。