[経団連] [意見書]

第2次緊急提言
「経済活力再生に向けた税制改革を求める」

2002年5月13日
(社)経済団体連合会

はじめに

税制改革とは、既存の税制の理念、枠組みを超えて、新たな税体系を再構築するものであり、従来の延長線上での手直しに止まるものであってはならない。今回の税制改革においては、「公正・活力・簡素」を基本理念とし、わが国経済活力の再生を目標とする必要がある。
経済活力の再生とは、経済成長すなわち一国の付加価値の増大であり、それを生み出す主体は企業である。バブル崩壊以降の長期にわたる経済、社会の停滞から脱却するためには、企業活動の活性化のための改革が最優先の課題となる。同時に、その成果を経済構造改革につなげることで、少子・高齢化の進展のもとでも持続可能で安定的な税制を築くべきである。また、これらの課題を達成するためには、時間軸を明確に据え、単年度での収支均衡を超えた抜本的な改革とすることが必要である。
経団連は、2月に公表した「税制抜本改革のあり方について」(第1次提言)において、抜本改革の進め方について提言を行なった。今後、経済財政諮問会議および政府税制調査会において、経済活力の再生に向けて税制の効果的な活用が議論されることを期待しつつ、先行すべき減税の具体策について、以下の通り提言する。

I.活力を生む税制

経済活力の「指標」は経済成長(実質GDPの成長)であり、経済成長の原動力は、個人消費、民間住宅投資、民間設備投資、である。しかし、平成14年度政府経済見通し(1月25日閣議決定)によれば、わが国の経済成長は、実質GDPマイナス1%(13年度)〜0%(14年度)に止まり、とりわけ民間住宅投資(対前年度比1.9%程度の減)、民間設備投資(対前年度比3.5%程度の減)の落ち込みが顕著となっている。
他方、経済成長の「源泉」は潜在成長力である。潜在成長力は、技術革新とそれを支える人的資源に依存するが、現時点では、わが国においてはそのいずれもが危機的状況にある。
したがって、現下のデフレから早期に脱却し、経済を成長軌道に戻すための緊急的・時限的対策と、経済の潜在成長力を底上げするための構造的・恒久的対策の両者を併行して実施することによって、はじめて経済の安定的な成長が実現できるのであり、この二つの対策に合致した税制を経済的手段として活用することが不可欠である。
そのためには、税制改革の「工程表」を明確にした上で、減税を先行すべきである。具体的には「構造改革と経済財政の中期展望」(1月25日閣議決定)に沿って、以下のような税制改革のプロセスを確立する必要がある。

  1. 集中調整期間(2002〜2003年度)
    デフレ脱却、経済活性化を最重視し、これに資する戦略的な税制改革を実施する。併せて、社会保障改革、歳出構造改革に着手する。

  2. 経済基盤強化期間(2004〜2006年度)
    税制改革を完成させるとともに、本格的な社会保障改革、歳出構造改革を行なう。

  3. 持続的成長期間(2007年度以降)
    小さく効率的な政府の実現、経済の持続的成長により、少子・高齢社会のもとでの安定的な国民生活を実現する。

また、財政規律の観点から、将来必要な増税策について、できる限り具体的内容や実施時期を明確にすることが必要であるとしても、増税が、先行減税の効果を否定するものとなってはならない。例えば、所得税、法人税について「税の空洞化」を修復するために課税ベースの見直し等が必要であるとしても、税体系全体の中で所得課税に再び偏重するようなことがあってはならない。少子・高齢社会のもとでは、経済への影響が少なく、国民が広く負担を分ち合う消費税の拡充こそが必要である。

II.経済を成長軌道に戻すための税制
  ─ デフレ経済からの脱却(緊急的・時限的措置)

政府は、「構造改革と経済財政の中期展望」において「今後2年程度の集中調整期間は、中長期に民間需要主導の成長を実現するための重要な準備期間である。この期間において最も重要なことはデフレを克服することである」と明示した。現下の最優先課題であるデフレ経済からの脱却のためには、平成14年度内にも、有効な税制措置を講じることが不可欠である。
経団連では既に本年2月の第1次提言において、以下の措置を緊急に講じるべきことを提言したが、国・地方の財政出動の余地が限られている中で、これらの措置は新たな減収を生じるものとはならない。

 1.住宅投資の促進

住宅投資は経済成長の原動力であるばかりでなく、国民誰もが住まいを必要とするという普遍性、良質な住宅への国民のニーズが強く、有効な住宅投資減税を行なえば確実に住宅着工戸数を伸ばしてきたという即効性、建設費の約2倍の生産誘発効果が幅広い産業に及ぶ波及性の観点から、税制による支援措置を講じることが有効・妥当であり、また民間資金による社会的資本形成の観点から不可欠である。

(1) 住宅取得資金に係る贈与税特例の拡充

個人は1,400兆円に及ぶ金融資産を持っているが、その多くは高齢者の保有するところであり、消費や住宅投資につながりにくい。贈与税を大幅に減免して、高齢者から潜在的な消費需要の高い若年〜中堅世代に資産を移転することにより、当面の財政に負担をかけることなく、有効な景気対策とすることができる。
与党政策責任者会議がとりまとめた「『デフレ対策』についての緊急提言」(4月2日)でも指摘されているように、住宅取得(リフォームを含む)資金等の贈与税の特例を大幅に拡充し、10分10乗方式(1,100万円まで非課税)に拡充すべきである。これにより、直接効果・波及効果を合わせ約5,200億円の住宅関連投資の増加が期待できる。

(2) 現行住宅取得促進税制の拡充

現行の住宅ローン税額控除制度について、セカンドハウスを取得する場合や転勤者が再び居住の用に供した場合にも適用すべきである。また、増改築やリフォームへの活用を容易にするために、ローン期間要件(現行10年以上)を3年以上に短縮するとともに、所得要件(現行3,000万円)を撤廃し、良質な住宅ストックの拡充を図るべきである。

(3) 民間賃貸住宅建設の支援

良質な民間賃貸住宅の供給を促進するために、建設・購入費の一定額を貸主の所得課税から税額控除する賃貸住宅投資減税を行なうべきである。これにより、直接の減収額を上回る投資効果が期待できる。
また、一定の新築の優良賃貸住宅については、5年間にわたり減価償却費を割り増して必要経費にすることができるが、持家を賃貸住宅に振り替えた場合の特例はない。一定の良質な持家を賃貸住宅に振り替えた場合に、賃貸住宅に振り替えた時点での時価を基準(未償却残高)として減価償却の割増償却ができるような制度を設けるべきである。

 2.土地の流動化による都市再生の促進

デフレ経済からの脱却のためには、その原因である資産に対する需要を喚起する必要がある。とりわけ今年1月に公表された公示地価は全国平均で11年連続の下落が記録されており、土地の流動化、集約化を図り、有効利用することは喫緊の課題である。再開発事業の経済効果は汐留規模の約30haの開発で約3,600億円/年のGDP押し上げ効果があるとされている。円滑な不動産取引や新たな投資を妨げている税制の見直しを行ない、従来型の公共事業ではない民間による土地の有効活用を通じた都市の再生を行なうことは、内外からの投資を呼び込み、21世紀のわが国の魅力ある国づくり、ひいては競争力維持のために重要なインフラ整備につながる。

(1) 不動産流通課税の見直し

不動産には、その流通・建設段階において、不動産取得税、登録免許税、印紙税、消費税(建物のみ)、さらには特別土地保有税(取得分)、事業所税(新増設分)などが課されている。課税の根拠である不動産取引の背後の担税力が乏しい現状において、他の資産と比較しても過大な課税を多重に負担させられており、これらの課税につき、税目の撤廃を含む整理・合理化を行ない、不動産の流動化を促進することが必要である。

(2) 土地の集約・有効利用の促進に向けた税制

地価税、法人の譲渡益重課制度(いずれも凍結中)を先行き不安感の払拭のためにも廃止するとともに、個人の土地の長期譲渡所得課税の税率(26%一律分離課税)を軽減すべきである。
構造改革の一環として都市再生を強力に推進するため、政府は、今通常国会において「都市再生特別措置法」を制定し、4月5日に公布した。現在、都市再生本部においては、都市再生緊急整備地域の指定に向けた検討を進めている。しかし同法では、税制上の手当てがなされておらず、内外の投資を呼び込む上では、同法に基づき国土交通大臣の認定を受けた「都市再生事業」に対して、(1)本事業区域からの転出者、(2)事業区域内で新たに土地や建物を取得する法人、(3)都市再生事業を行なう者、(4)開発後の入居企業、(5)施設所有者にわたる税制上の特例措置を講ずるべきである。

(3) 不動産証券化等に係る課税の軽減

昨年9月に日本でも本格的なJ-REITが開始され、5月には東証で4つ目の銘柄の上場が認められるなど、不動産投資市場の整備は着実に進みつつある。証券税制の見直しと併せて不動産証券税制の見直しを進めることにより、投資市場全体の活性化のみならず、オフィス・商業・住宅関連の賃貸事業の採算性向上を図ることが重要である。
投資法人、SPC、不動産特定共同事業者等が取得する不動産の流通課税について非課税とすべきである。

 3.地方からの活性化

各自治体では地域の特色を活かし「経済特別区」構想を打ち出している。これを税制面からも支援すべきであり、少なくとも、各自治体が独自に地方税を軽減できる制度が必要である。

 4.個人消費の活性化

住宅取得資金の贈与税特例に加え、時限的な措置として、贈与税の基礎控除額(現行 年間110万円)を大幅に引き上げ、目的を問わず、高齢者から若年〜中堅世代への資金移転を容易にすべきである。
なお、この措置の適用を受けた場合には、相続の際の基礎控除額から贈与相当額を減額することとする。

III.経済の安定的成長を図るための税制
  ― 企業活力の再生(構造的・恒久的措置)

経済成長の大きな原動力は民間設備投資である。また、企業収益の向上は雇用・賃金の増大を通じて個人消費の活性化に直結する。しかしながら、従来型の景気対策的な政策税制では効果が限られており、むしろ、企業経営の革新を税制面から支援することこそが重要である。
新たな製品・サービスの開発は新たな需要を創造し、生産プロセスの革新は設備投資に直結する。企業研究開発およびIT化投資は、企業経営革新、企業成長の鍵であり、経済活力の再生のためにも、以下の分野に焦点を当てた税制改革を早急に実施すべきである。

 1.企業研究開発

研究開発は「正の外部性」を持ち、社会全体の生産性向上に寄与するものである。今後、日本経済が中長期的に安定成長していくためには、創造的科学技術立国としての道を目指し、国家的政策として、予算の重点投入、委託研究、教育、知的財産保護等の施策を総合的に実施していくことが必要である。その基軸として相応しい研究開発促進税制の抜本的拡充を行なうべきである。
また、研究開発は、リスクをとった企業の自律的挑戦があってはじめて成果が生じるものであり、有望業種、分野を行政等が事前に取捨選択することは不可能である。技術革新は、他分野の科学技術の発展から独立して生まれるものではなく、幅広い基盤の上にはじめて結実するものである。したがって、研究開発促進税制は、業種、分野を限定せず、企業による研究開発を幅広く対象として、法人税の基本的な制度として早急に構築すべきである。今回の税制抜本改革においては、研究開発をわが国経済の構造改革の根幹として位置付け、特別措置でなく、企業税制における恒久的制度として措置する必要がある。
具体的な制度としては、まず、試験研究費の総額を対象とする税額控除制度の創設が必要である。その上で、年度内に未使用となった税額控除枠の残高については、翌年度以降への繰越を認める必要がある。さらに、新規取得研究開発用資産の即時償却を認めるべきである。また、産官学の連携を推進する観点から、共同研究開発のための支出や大学等への寄附金を優遇すべきである。

 2.IT化投資

米国における1990年代の経済成長は、経済・社会全体におけるIT革命によるものであり、特に経営の根幹にまでわたるIT化が進展したことにより米国企業の生産性は大きく向上した。e-Japan計画を着実に推進し、わが国企業を再生させるためにも、集中的なIT化投資による企業経営革新は急務である。
IT化投資に係る税制は、全ての企業が活用できる制度とすべきであり、また、ハードだけではなくソフトをも対象にすべきである。
具体的には、IT化投資について税額控除あるいは加速度償却を導入すべきである。特に、ソフトウエアについては、自社開発・外部購入を問わず即時償却を容認する必要がある。

 3.設備投資促進

日本企業の競争力回復・維持のためには減価償却制度の抜本的な見直しが必要である。そのためには、まず税制と企業会計制度の両面の足枷となっている減価償却費計上の損金経理要件を撤廃(会計上の償却と分離)することが不可欠である。その上で、加速度償却制度の導入あるいは一般的な設備投資に対する軽減措置を検討すべきである。

 4.事業再編税制

企業が選択と集中により競争力を強化するために行なう事業再編、産業再編を税制面からも支援する必要があり、産業活力再生特別措置法を延長したうえで、事業撤退や企業再編・再生に係る税制上の支援措置を拡充すべきである。

おわりに

以上の提言は、特に集中調整期間(2002〜2003年度)内においてもなお先行して実施すべき税制改革の具体的提案である。政府・与党が早急に検討に着手し、断行することを期待する。
経団連では、6月に改めて税制抜本改革に関する具体的提言(第3次提言)を示すこととしたい。

以 上

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