われわれは、年初来進められてきた税制抜本改革論議に向けて、3次にわたる提言を順次公表し、税制を経済社会の活力を再生するための政策手段として大胆に活用し、デフレ経済からの脱却を果たし、経済再生の鍵となる企業活力を維持、強化するために必要・不可欠な減税を、先行して実施することを求めてきた。
小泉総理は、「一層の歳出改革を進めるとともに、減税の実施を先行させることとする。すなわち、単年度ではなく多年度で税収中立を図ることにより、財政規律を堅持しつつ、1兆円を超える規模の先行減税を含む税制改革の具体化を進めたい(8月6日:経済財政諮問会議)」と明言し、さらに、9月9日の経済財政諮問会議においては、減税規模をGDP比で0.5%を超えるものとすべきとの提案がなされている。
経済社会の活力再生に向けて、平成15年度において、ネットで1兆円を超える大規模な先行減税を実施することは、既に内外に向けた政府の公約であり、われわれは、これを高く評価するとともに、その具体策を中心に平成15年度税制改正においてなすべきことを提言する。
その基本的考え方は、第一に、先行実施すべき大規模な減税を有効に活用し、デフレ経済からの脱却を確実なものとすることであり、第二に、平成15年度税制改正を税制抜本改革の初年度として、経済構造改革に着実につながる骨太の税制改革を推進することにある。
加えて、証券市場活性化のためには、従来の経緯にとらわれることなく、有価証券譲渡益に関する大胆な簡素化・優遇策を、年次改正を待つことなく実現すべきである。
平成14年第II四半期における実質成長率(GDP)は前期比0.6%(年率換算2.6%)の上昇となり、景気は漸く底入れしたとの見方も示されている。しかし、その実態は、依然として外需に支えられたものでしかなく、民間企業投資は▲0.4%、民間住宅投資は▲0.8%と低迷を続けており、内需主導型の成長には程遠い状況にある。
加えて、米国経済をはじめとする世界経済の先行き不透明感、株価のバブル崩壊後の最安値更新など、日本経済は全く楽観できない状況にある。
しかしながら、経済の現状・見通しが覚束ないとしても、公共事業をはじめとする財政出動による景気刺激策に依存することは、内需主導による経済安定化の道筋からますます乖離し、現在ですら危機的状況にある国・地方の財政をさらに疲弊させるものでしかない。
わが国経済を安定的な成長軌道に戻すために必要なことは、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002(平成14年6月25日閣議決定)」で示されたように、経済活性化戦略、税制改革、歳出改革を三位一体として推進し、「経済社会の活力」を高めていくことでしかない。
その一環として、平成15年度予算編成においては、裁量的経費のみならず、義務的経費についても徹底した見直し・削減を行なうとともに、経済社会の活力を維持・強化するために必要な施策を重点的に実施すべきである。
また、社会保障給付、公務員給与等の削減や、公共事業費削減によるいわゆるデフレ効果をできる限り相殺するためにも、大規模な減税を行なう必要がある。
ネットで1兆円を超える減税額は、デフレ経済を払拭し、経済社会の活力を再生するために不可欠な規模であるが、既に危機的な状況にある国・地方の財政事情を考えるならば、その財源は、できる限り特例公債の増発によることなく、徹底した歳出削減や国有財産売却等により捻出すべきである。
また、減税の内容についても、着実に経済の活性化につながり、近い将来の税収回復・増加につながるものを第一義としつつ、構造改革の端緒としてもふさわしい内容としなければならない。
多年度税収中立の考え方については、基本的にわれわれも支持するものであるが、これを過度に重視し、増税色が前面に出るならば、かえって経済活動の萎縮を招くおそれがある。増税は、先行する減税の効果を打ち消すような内容であってはならず、税制抜本改革の趣旨に基づき、国民が薄く広く、適正な負担を分かち合うものとしなければならない。何よりも、少子・高齢化社会における活力の維持からすれば、将来の消費税率の引き上げを避けることはできない。
企業は、限られた資本の効率的な運用を通じ、一国の経済の活性化を図っていくために最も重要な主体である。わが国企業が熾烈な国際競争に打ち勝ち、高い潜在力を開花させ日本経済活性化の礎となるためには、個々の企業の付加価値増大への努力を支援する税制の構築が重要である。税制抜本改革においては、企業活動の発展こそがわが国経済再生を果たすものであるとの認識の下、企業が国を選ぶ時代にふさわしい、国際的に通用する法人税制の再構築を図り、法人課税への偏重を是正していく道筋を明確にすることが必要である。
日本経済が中長期的に発展していくためには、創造的科学技術立国としての道を目指し、予算の重点的配分や産官学連携、知的財産戦略などを国家戦略として総合的に実施するとともに、民間企業の行なう研究開発を、社会全体の生産性向上の観点からも支援していくべきである。
また、研究開発は、リスクをとった企業の自律的挑戦があってはじめて成果が生じるものであり、有望業種、分野を行政等が事前に取捨選択することは不可能である。技術革新は、他分野の科学技術の発展から独立して生まれるものではなく、幅広い基盤の上にはじめて結実するものである。
民間企業による研究開発の推進を、わが国経済の構造改革の根幹として位置付け、平成15年度税制改正における法人税改正の柱として、業種、分野を限定せず、企業による研究開発を幅広く対象とする以下の税制措置を、法人税における基本的・恒久的な制度として早急に構築すべきである。
現在、わが国法人税の実効税率は40.87%であり、ほぼ米国並み(カリフォルニア州の場合40.75%)とされている。
しかし、40.87%は、地方税の法人所得課税である法人住民税・法人事業税を標準税率とする場合であり、ほとんどの自治体において何らかの超過課税が行なわれている現状を考慮すれば、実際にわが国の大企業に適用されている税率は国税・地方税をあわせて42%程度である(法人住民税・法人事業税について制限税率を適用した場合の実効税率は42.30%)。また、アメリカにおいては州の法人所得税は各州によって異なり、比較対象とされているカリフォルニア州は全米の中では高い水準である。内閣府の報告書によれば、各産業における「実効税負担率」の試算について、いずれの産業においても日米の間で5〜10数%の開きがある。これらを勘案するならば、わが国の法人実効税率を直ちにアメリカ並みとすることには疑問がある。
さらに、OECD加盟国の法人実効税率を比較すれば、日本が最も高く、欧州主要国とは5〜10%程度の乖離がある。
また、シンガポール、オーストラリア等の法人税率引き下げなど、多くの国々が、自国産業の競争力を高め、あるいは外国からの直接投資を誘引するために、引き続き法人税負担の軽減を進めている。加えて、中国の経済特区における「二免三半減制度(黒字転換後2年間は免税、続く3年間は1/2に軽減)」をはじめ、多くの国々が外国からの企業進出を促すために経済特区を設け、大胆な税制優遇措置を講じている。
わが国でも、このような国際的な流れを考慮し、税体系の抜本的見直しの一環として、法人所得課税の実効税率を少なくとも欧州主要国並みの水準まで引き下げていくことが必要である。
また、わが国の法人実効税率の内訳をみれば、地方法人課税の負担が極めて大きいことが特徴である。地域経済の疲弊・空洞化を回避し、企業活力の向上を図るためにも、法人事業税・法人住民税税割の負担を、簡素化・軽減する方向で総合的に見直すべきである。
なお、法人事業税に外形標準課税を導入することにより実効税率を下げるとの考えが示されているが、所得に依らない課税標準を導入して所得課税部分の割合を下げるならば、所得に対する税負担を表すものにすぎない実効税率は下がるとしても、決して企業の税負担が軽減されるわけではない。後述するように、法人事業税への外形標準課税導入は、都道府県の行政サービスに対する適切な負担のあり方として検討すべきであり、実効税率引き下げの手段とすることは本末転倒である。
また、連結納税制度適用企業に対する2%の付加税は、企業の効率的経営を進め経済構造改革に資するとの連結納税制度導入の意義を失わせ、とりわけ優良企業を連結納税制度の活用から遠ざけている。平成15年度税制改正の最優先の課題として付加税を撤廃すべきである。
ゴーイング・コンサーンとしての企業への課税においては、事業年度が事業成果を算定するために人為的に設けられた期間であることから、期間損益を事業年度にまたがって通算することが合理的である。こうした観点から、欠損金の繰越し・繰戻しは、国際的にみて普遍的に認められた制度であり、例えば、米国においては、20年間の繰越控除、2年間の繰戻還付が認められ、また、英国においても、無制限の繰越控除、1年間の繰戻還付が認められている。しかし、わが国における現行の欠損金の扱いは、繰越控除については5年間にとどまっており、また、繰戻還付についても本法において1年間に限られている上、現在は租税特別措置法において凍結されている。
法人税負担の合理化および欧米諸国とのイコール・フッティングの視点から、法人税の一般的な制度として、少なくとも10年間の繰越控除および2年間の繰戻還付を認めるべきである。
また、連結納税制度適用開始時・子会社の加入時の繰越欠損金の扱い、企業組織再編における繰越欠損金の引継ぎのあり方についても、さらに検討が必要である。
わが国経済の活力を将来にわたり維持・強化していくためには、次代を担う新産業・新事業の活発な立ち上げが不可欠である。リスクを冒す新産業・新事業への挑戦を支援するため、税制面から新事業への投資を促すとともに、事業環境の整備を行なうことが必要である。
かかる観点から、新事業への投資を促進するため、(イ)創業後一定期間内の企業に対する出資に関し、その額の一定割合を税額控除できる制度の導入を図るべきである。また、(ロ)現行のエンジェル税制を拡充し、(i)上場前株式の譲渡損失を他の所得と通算できるようにするとともに(現行は、他の株式譲渡益とのみ通算可)、(ii)繰越控除期間を5年に延長し、(iii)対象企業についても、できるだけ限定的なものとならないようにすべきである(現行は、研究開発型企業に限定)。さらに、新事業のための事業環境を整備するため、(ハ)欠損金の発生割合が高い創業期(具体的には創業後5年間)に生じた欠損金については、無期限に繰越控除を認めるべきである。
現行の産業活力再生特別措置法(以下、産活法)は、経団連の発意により、わが国産業の「選択と集中」を進め産業競争力を強化する観点から制定され、1999年10月1日より施行されている。これまで同法に基づき147件の事業再構築案件が認定され(2002年7月31日現在)、着実に事業再編が進められてきている。
しかしながら、例えば、スイスのIMD(International Institute for Management Development(経営開発国際研究所))が公表している世界競争力年鑑(The World Competitiveness Yearbook)によれば、わが国の産業競争力の順位は低下し続け、2002年には49カ国・地域中30位となっており、引き続き、「選択と集中」・競争力の強化への企業の取り組みを政策的に支援していく必要がある。そこで、2003年3月末で失効する現行の産活法を延長するとともに、以下の通りその内容を拡充すべきである。
近年、SPC・投資法人に対する課税の特例など、経済的な実態に着目したパス・スルー課税の活用が進められてきたが、さらに、個人事業に異ならない中小零細法人に対する課税、組合、パートナーシップ等の多様な事業体への課税、LLC、LLP等の新しい事業体への課税のあり方について整備を進める必要がある。
地方税財政の規模と質のあり方は、本来、地域における受益と負担の関係を明確にした上で、どのような組み合わせを選択するかというプロセスを経て、地域住民により自律的に決定されるべきであり、国からの財政移転に依存していては真の地方の自立は実現不可能である。
とりわけ、地方の財政事情が悪化している中、まずは、各地方自治体における行財政改革を加速させ、徹底した歳出削減を行なうべきである。同時に、効率的で自立可能な組織を作るために、地方自治体の大胆な再編・統合を進める必要がある。その上で、歳入面においても、地方の公的サービスの財源はできる限り地方自らが賄うことを主眼に、国と地方の財政・税制の関係の見直しを進めるべきである。
地方の公共サービスは地域住民への直接の便益となることから、地方税の財源は、基本的には住民個々人が主たる担税者である税目、即ち、地方住民税と固定資産税により賄うことが望ましい。
企業も地域の一員として、必要な応益負担を行なう責務がある。企業は現在、地方における外形的課税として、黒字企業、赤字企業とに関わりなく、固定資産税、都市計画税、事業所税、損金不算入となっている法人住民税均等割等を負担している。加えて、所得の多寡に応じ、法人事業税、法人住民税税割が課されている。さらに、個人に対して超過課税を行なっている自治体はごく僅かであるのに比べ、極めて多くの自治体が法人に対する超過課税を実施している。
内閣府の試算によれば、わが国企業の実効税負担率は、欧米諸国を大幅に上回っており、その大きな要因は地方税負担によるものとされている。地域経済の疲弊・空洞化を回避し、企業活力の向上を図る観点からは、地方における法人の税負担を、簡素化・軽減する方向で総合的に見直すべきである。とりわけ、日本企業の競争力の確保、海外からの直接投資の拡大に向けて、法人実効税率の引き下げが不可欠の課題となっており、そのために、法人事業税・法人住民税税割の引き下げが求められる。
一昨年来、総務省(旧自治省)より、法人事業税に外形標準課税を導入するとの提案がされているが、地方法人課税全体を総合的に見直すことなしに、法人事業税のみを取り出して、従来にない課税ベースを新設することは、いたずらに税体系を複雑化し、地方税制の簡素化に逆行するものと言わざるをえない。
また、その具体的内容を見ても、付加価値割(旧自治省案、総務省案)は、実質的な賃金課税にほかならない。企業は、厳しい経済情勢の中で、雇用の維持・拡大を図るために必死の努力をしているが、外形標準課税はこうした企業努力に大きな悪影響を与えるものである。加えて、付加価値割の各要素について極めて複雑な規定となることが予想され、納税側、徴税側の双方において混乱が生じる事が懸念される。
さらに、資本割(総務省案)は、そもそも、事業規模を表す適切な指標と言えないばかりか、企業の自己資本の充実、分社化等の企業組織の再編、設備投資の拡大を阻害するものとなる。
その上、総務省案は過去10年程度の平均的な事業税収に対してほぼ同程度の税収を見込んでいるため、直近の事業税収に比して増税となることは明らかであり、現下の経済情勢を鑑みても、その導入は不適当と言わざるを得ない。
日本経団連では、かねてより法人の受益に対する応益負担としての法人事業税の改革のあり方について、真摯な検討を続けてきた。
まず、景気変動による法人事業税の変動を平準化し、都道府県財政収入の安定を図る観点から、法人事業税に係る繰越欠損金の控除可能額を一部制限し、利益計上事業年度には一定の事業税を課すことが考えられる。その場合、未使用の欠損金は翌年以降に繰り越せることとし、なおかつ、繰越期間の延長(現行5年)が必須の条件である。
さらに、現在も法人の所得に関わらず課されている法人住民税均等割について、その都道府県分を事業規模に応じて、さらに拡充することも一案である。
2000年4月の地方分権一括法施行に伴う地方税法改正により、法定外税の実施が総務大臣の許可制から同意を要する協議制に改められ、全国の地方自治体に独自課税の動きが広がっている。
地方自治体の独自課税においても、上述の地方税の原則に照らせば、地域住民の自己責任と自主的な判断に基づき、住民個々人が負担する税を基本とするべきである。しかし、実際には、法人企業を狙い撃ちするかのごとき課税も多く行なわれ、地域の企業活動を阻害し、かえって地域経済を停滞させる要因となっている。選挙を通じて意思を明らかにすることができない法人企業を対象として課税を行なう場合には、少なくとも、事前に納税者となる法人企業から意見を聴する制度を創設すべきである。併せて、法定外税に係る大臣同意要件についても、適切な見直しが必要である。
土地に係る固定資産税・都市計画税は、平成12年度評価替えにおいて、商業地等の宅地について、税負担の上限が若干見直されたものの、依然として都市部の商業地等では過重な税負担となっており、大都市の商業地等では、固定資産税評価額に対する課税標準額の割合(いわゆる「負担水準」)が全国平均56.8%、町村部48.0%に対し、65.1%に達している(2001年度)。景気の低迷により収益力が悪化している中で、利益に関係ない課税による負担が重くのしかかっており、競争力にマイナスの影響を与えている。都市の活性化や企業立地を促進するために、固定資産税の負担水準全体の上限を現行の70%から全国平均並みの55%に引き下げることが喫緊の課題である。
その上で、市町村税の基幹税としてふさわしい評価のあり方を確立すべく、地価公示価格に対する7割評価の是非も含め、収益力に対して過重な負担とならないような固定資産税のあり方を検討すべきである。小規模住宅用地(200m2以下)の特例見直しについても、そうした水準の適正化が図られることが大前提である。
また、収益還元価格など一定の根拠をつけた自己査定による評価額を申告すれば、公示地価を基準とした固定資産税評価額とは別に審査を受けて課税を受けることができるような仕組みの導入を検討すべきである。
建物に係る固定資産税の実効税率は、バブル崩壊後もほぼ一貫して上昇を続け、非住宅の建物の実効税率は91年の0.59%から2000年には0.79%に達している。これはその間の固定資産税評価総額が非木造非住宅で1.49倍(7,407百億円→11,011百億円)に達していることに見られるように評価額の伸びに要因がある。建物の評価が実勢よりも高くなり、固定資産税評価額が時価を上回るケースも多いが、時価を上回る評価額を課税標準とすることは、地方税法の規定に反している。固定資産税の評価には、再建築価格を基準とする評価方法がとられているが、不動産の交換価値が担保価値=資金調達力を示していた時代の評価方法となっており、デフレ時代にあっては不適切である。建物の評価方法を抜本的に見直し、建物の収益力(収益還元価値)を基準とする評価方式へ転換することが必要である。 収益力基準に転換するための当面の措置として、(1)固定資産税に係る建物評価の基準となっている経年減点補正率基準表に定める「経過年数」を、法人税法上の減価償却資産の「耐用年数」(投下資本の費用配分期間を算出)並みに短縮するとともに(鉄筋コンクリート造事務所の経過年数65年を50年、建物附属設備を15年(最長)とする等)、(2)経年減点補正率基準表における残価率20%を、減価償却資産並みの10%に引き下げるべきである。
事業用の償却資産に対する課税は特定の設備型産業に偏重して行なわれており、業種に対する課税の中立性に問題がある。そもそも償却資産に課税することについては国際的に見ても普遍的なものとはいえず、その課税のあり方については抜本的に見直すべきである。
都市の競争力は国の競争力に直結する。政府は、都市再生を強力に推進するため、「都市再生特別措置法」を制定し、現在、都市再生緊急整備地域の指定を受けた地域では、急ピッチで具体的な地域整備に向けた検討を進めている。しかし、同法では税制上の手当てがなされておらず、民間投資を呼び込むインセンティブに乏しい。都市再生特別措置法に基づき国土交通大臣の認定を受けた都市再生事業に対して、(1)事業区域からの転出者、(2)事業区域内で新たに土地や建物を取得する法人、(3)都市再生事業を行なう者、(4)開発後の入居企業、(5)施設所有者それぞれにわたる譲渡・流通・保有・事業活動に係る課税につき税制上の特例措置を講ずるべきである。
また、民間のノウハウや創意工夫により公共施設の整備を行なうPFI事業について、公共事業として実施する場合との課税のイコール・フッティングを図るべきである。税制がPFIの事業方式の選択を歪めたり、事業の効率的な運営を妨げたりしないよう、税制措置を講ずるべきである。具体的には、(1)BTO方式(民間事業者が施設を建設し、完成後に公共に所有権を移転し、民間事業者が管理・運営をする方式)のみならずBOT方式(民間が施設を建設・管理・運営をし、事業終了後に公共に所有権を移転する)の場合においても固定資産税・都市計画税等を非課税とすべきである。(2)PFI事業の契約期間に応じた償却や大規模修繕費等の積み立てを可能とする税制上の措置を講ずるべきである。
不動産には、その流通・建設段階において、多重に流通税が課されている。課税の根拠である不動産取引の背後の担税力が乏しい現状において、他の資産と比較しても過大な課税を多重に負担させられており、これらの課税を整理・合理化し、不動産の流動化を促進することが必要である。
具体的には、(1)登録免許税の低額定額化、(2)不動産取得税の撤廃、(3)事業所税(新増設分)の廃止が必要である。
加えて、不動産の証券化を推進し、不動産投資市場へ内外の資金を呼び込むために、投資法人、SPC、不動産特定共同事業者が取得する不動産の流通税を非課税とすること、配当課税負担の軽減を図ることが必要である。
なお、既にその役割を終えている地価税、特別土地保有税、法人の土地譲渡益重課を廃止し、また、個人の土地譲渡益課税は26%を20%に引き下げるべきである。個人の不動産取得に係る損失のうち、土地を取得するために要した借入金の利子相当額を損益通算の対象から除外する措置を廃止すべきである。
年金税制については、世代間の公平を図るとともに、今後想定される社会保障負担の増大を踏まえ、国民の自助努力を促す税制を構築することが不可欠である。基本的な考え方として、拠出時・運用時非課税、受給時課税の原則に基づき、年金税制全体の見直しを急がねばならない。
第一に、高齢者世代と現役世代との間に税負担の不公平をもたらしている公的年金等控除については、原則として廃止すべきである。
第二に、運用時非課税の原則に鑑みて、現在課税が停止されている特別法人税については、即刻廃止すべきである。
第三に、確定拠出年金について、国民一人ひとりの自己責任、自助努力による老後の生活保障の確保を支援するとともに、資本市場の活性化の観点から市場の主要な担い手としてその活用に関する期待が高まっていることから、現行の拠出限度額を撤廃するとともに、マッチング拠出の容認などを行なうべきである。
第四に、確定給付企業年金制度については、自助努力支援の観点から本人拠出分の課税上の制限を撤廃すべきである。
住宅は、国民の最も重要かつ基盤となる不可欠な資産であり、その取得のための費用である住宅ローン利子は課税所得から控除されるべきである。また、住宅金融公庫が廃止されること、民間金融機関が住宅ローンに本格的に乗り出してきたことも踏まえて、金利の変動による影響を低減させるような恒久税制が必要である。第二次ベビーブーマー世代が住宅取得期に入るこれからの10年間こそ、良質な住宅ストック形成の最後のチャンスであり、住宅ローン利子の所得控除制度(利子額に連動する恒久制度)を創設し、当面は現行住宅ローン税額控除制度との選択適用を認めるべきである。
新制度(住宅ローン利子所得控除制度)は、制度導入後入居(取得)した住宅からの適用とするが、現行住宅ローン税額控除制度で課題となっているセカンドハウスへの適用、転勤時の中断・復帰措置の導入なども行なうべきである(当面、選択適用される現行住宅ローン税額控除制度へも同様に適用)。
また、民間賃貸住宅を支援するため、賃貸住宅投資減税(税額控除あるいは割増償却)や、持家を含む既存の建築ストックを賃貸住宅に振り替えた場合の割増償却制度を導入すべきである。
金融・資本市場の活性化に向けて、これまで数次にわたって株式譲渡益課税の見直し、特別措置の創設が行なわれてきたが、結果的には制度が極めて複雑化し、市場への参加が最も期待される一般の国民にとっては理解が困難なものとなっている。このために、証券市場はさらに混迷を深め、金融システム全体の動揺、さらには景気回復の遅れが懸念されている。
ドイツでは、シュレーダー政権の決断により、株式譲渡益について非課税とすることで大きな成果を挙げているが、わが国においても、従来の経緯にとらわれることなく、株式譲渡益に対する課税の大胆な簡素化、あるいは時限的な非課税措置の導入を、年次改正を待つことなく行なうべきである。
金融証券税制の本来の見直しの方向は、簡素化とともに各種金融資産間の課税の均衡の実現である。
そのためには、納税者番号制度の導入等、インフラの整備とともに、資本から得られる金融所得を一括して認識し、金融商品間の損益通算や損失の繰越しを可能とした上で、勤労所得とは別途に低率で課税する仕組み(二元的所得税)の導入を目指すべきである。
その第一段階として、一般投資家が購入しやすい株式投信と株式との間の損益通算を認めるとともに、投資対象としての株式の魅力を高め株式の長期保有を促すため、個人が受け取る配当については預貯金利子と同様に20%の源泉徴収で課税関係が完結する制度とするべきである。
また、申告不要制度に係る特定の口座や信託勘定など一定の口座を選択した場合には、配当、株式・株式投信譲渡損益、債券償還益等の金融所得を合算の上、一律20%の源泉徴収により課税を行なう簡易な制度を創設すべきである。
昨年10月に額面株式制度が廃止され、それまで額面を基準としていた株券発行に係る印紙税額の計算方法が変更となり、事実上、税額が引き上げられた。株券の不発行制度が検討されている折、そもそも券面の発行に対して課税することの根拠は乏しい。当面、株券発行に係る印紙税は一律1枚200円とし、株券の無券面化に関する法制実現の際には、本印紙税を廃止すべきである。
また、中小企業を含む企業が市場から直接に資金を調達する手法として売掛債権の流動化を進める必要があるが、割引手形の印紙税が過重な負担となっている。売掛債権担保融資に係る手形については、印紙税を非課税とすべきである。
証券市場における円滑な債権取引を確保するために、一般事業法人(非金融法人)が受け取る国債・公社債利子について、源泉徴収を免除すべきである。
1年超保有の上場株式等に係る譲渡益課税の特例(租税特別措置法37条の10、同法37条の11)における取得時期および平成13年9月30日以前に取得した上場株式等のみなし取得費(租税特別措置法37条の11の2)の適用については、金銭の交付がない株式交換・株式移転につき、合併・分割等と同様の扱いとすべきである。
証券決済制度改革の一環として、本年6月に財団法人証券保管振替機構は解散し、その営業の全部を株式会社証券保管振替機構へと譲渡した。解散した財団の残余財産の金銭は、証券決済制度改革のセーフティーネットである加入者保護信託に支払われるが、これについては非課税とすべきである。
また短期社債(電子CP) の低コスト・省力性という特性を活かすため、短期社債に支払調書の提出を義務付けることには反対である。
外国会社が当事者となる組織再編成の際、例えば、現地においては非課税となる会社分割方法(間接分割)であっても、わが国の税制によって国内の株主には配当課税やみなし配当課税がなされる場合がある。
グローバルな規模で企業組織再編成が進められる中で、各国の課税上の扱いの違いは大きな問題であるが、当面、諸外国における企業組織再編法制・税制を尊重し、わが国株主が不利益を被ることのないような手当てを講ずるべきである。
現行税制では、いわゆる業績連動型報酬は賞与として扱われているが、本年5月の商法改正により業績連動型報酬に関する規程が整備されたことに鑑み、報酬として損金算入を認めるべきである。
相続や贈与による所得に対する過度な税負担は、資産の取得に対するインセンティブを減殺し、富の海外流出を招く要因ともなる。カナダやオーストラリアなどには既に相続税はなく、米国でも2010年に向けて、段階的に相続税を廃止することとしている。
贈与税は相続税の補完税としての役割を担うものである。しかし、贈与税の非課税枠(年間110万円、住宅贈与特例の5分5乗方式で550万円)と相続税の非課税枠(基礎控除5,000万円に加え、法定相続人一人につき1,000万円)を比べると相続税のほうが有利なため、生前贈与が起こりにくい構造になっている。さらに、日本人の寿命が延び、相続が発生する年齢が高齢化したため、資産需要の旺盛な世代に相続(資産の移転)がなされず、資産の有効活用につながらない。
そこで、現下のデフレからの脱却のために、まずは、住宅取得に係る贈与税特例(現行5分5乗方式、非課税枠550万円)を10分10乗方式、非課税枠1,100万円まで引き上げるべきである。加えて時限的に贈与税の基礎控除の引き上げを実施することにより、贈与税の不利性を軽減することが必要である。
相続税・贈与税の基礎控除と税率について、負担軽減に向けた見直しを進め、特に、最高税率の引き下げをはじめとする累進税率の緩和を行なうべきである。
さらに、相続・贈与時における株式・株式投信の評価額について、大幅な軽減措置等を講ずることにより、事業承継の円滑化を図るべきである。また、機動的な取得・処分を可能とする金庫株の解禁を踏まえ、同族会社の判定の対象から自己株式の保有数は除外すべきである。
日本と同じ相続税の相続人課税方式(遺産取得課税方式)をとるフランス、ドイツでは、相続税・贈与税の基礎控除、税率を基本的に共通化した上で10年間累積課税方式をとっている。
日本においても、住宅取得に係る贈与税特例に続き、生前贈与と相続を通算する累積課税方式(10年間程度)を導入し、世代間の資産移転が円滑に進むようにすべきである。
一般に、ある税目から得られる税収を特定の事業・公的サービスに要する費用に充てることは、その事業・公的サービスの受益と負担の間に密接な対応関係が認められる場合には、一定の合理性をもつものである。しかし、それが資源の適正な配分を歪め、財政の硬直化を招く傾向があることも事実であり、特定財源の妥当性については常に吟味していく必要がある。
現在、石油諸税のうち揮発油税、地方道路税、軽油引取税については、「道路特定財源」として使途が道路整備に法定され(道路整備緊急措置法)、また、道路整備に要する経費を賄うために租税特別措置法により「暫定税率」が定められている。自動車重量税は、同じく「道路特定財源」とされているが、本来は、税収の1/4が地方道路財源とすることが法定されている(自動車重量譲与税法)のみであり、税収の3/4は、国の一般財源であり、運用によりその8割相当額を道路整備に充てることとされてきたところである。
これらは、受益者負担の原則のもとに、自動車ユーザーが道路整備財源を負担するものであるが、財源が得られる限り道路整備を行なう構造となってきたことも否定できない。
公共事業費全体の抑制を図る中で、道路特定財源制度のあり方については、現行の道路整備5ヵ年計画が終了する機会において、歳入・歳出を含めた抜本的な見直しが必要である。これにより、総事業費が抑制される部分については、道路整備のために自動車ユーザーに特別の負担を課してきた趣旨からは、まずは、「暫定税率」を引き下げ、納税者の負担を軽減すべきである。
なお、道路特定財源を含めた燃料・自動車関係諸税は、油種間・車種間で負担格差があるなど複雑な制度となっており、かつ、付加価値税・消費税部分を除いて比較するならば諸外国に比べて重い負担となっている。道路特定財源のあり方に併せて、簡素化・国際的整合性の観点から見直す必要がある。
限りある資源の有効活用、さらには、地球温暖化への対応のためには、企業活動のみならず国民生活の隅々において循環型社会の構築が求められている。循環型社会構築を支援するために、省エネルギー・省資源、廃棄物の適正処理、低公害化対策をはじめとする様々な分野において有効な手法を、税制を含めて検討すべきである。
本年3月に改正された地球温暖化対策推進大綱では「税、課徴金等の経済的手法について、・・・中略・・・様々な場で引き続き総合的に検討する」とされており、京都議定書発効の動きも踏まえつつ、日本経団連としても前広に検討を行なっているところである。
しかしながら、現在の環境問題はかつての公害問題と異なり、被害者、加害者が区別できず、国民一人ひとりの日常生活や経済活動に深く関わる問題であり、国民全体の主体的な参加と協力が不可欠である。産業界は、既に自らの創意工夫が活かせる自主的取り組みを中心に据えて、温暖化対策や廃棄物削減対策に積極的に取り組み、成果を挙げている。こうした取り組みは、健全な経営基盤の上にこそ成り立つものであることから、規制的措置、環境税の議論に際しては、官民あげての取り組みの成果を十分に見極める必要があり、とりわけ企業の競争力低下につながる措置の検討は慎重を要する。
はじめに、環境税のありきの姿勢は本末転倒であり、まずは、環境税導入による効果と経済への影響についてエネルギー・自動車諸税をはじめとする既存税制との調整等も含め、中長期的な視点に立った幅広い調査・研究が行なわれる必要があり、経済界としても、真摯な検討を進めていく。
以上、平成15年度を、税制抜本改革の文字通り初年度とするために必要な税制改正について経済界の考え方を提示した。
しかし、これらが全て実現されたとしても税制抜本改革の前半が実現されるに過ぎない。21世紀において持続可能な税体系の構築に向けて、避けて通ることのできない課題が残されているからである。
経済社会の活力の回復に向けて、経済活性化戦略、税制改革、歳出改革を三位一体として有効な施策が進められるならば、経済は自律的成長軌道に戻り、企業収益の増大、雇用の増加を通じて税収の回復、さらには増大が期待できる。しかし、それでもなお、「構造改革と経済財政の中期展望(平成14年1月25日閣議決定)」が示すように2010年代初頭にプライマリー・バランスを回復し、さらには2010年度には800兆円を超えると推計されている累積債務を解消していくためには、別途、大規模な歳入確保策が不可欠である。
一方で、わが国の国民負担率は、平成14度予算ベースで38.3%(租税負担率22.9%、社会保障負担率15.5%)とアメリカを除き主要先進国中最も低い水準にあるが、将来に先送りされた国民負担である財政赤字を加えて考えれば、既にその水準は46.9%と40%台の半ばにまで達している。
今後とも、少子・高齢化の進展により、国民負担率の増加は不可避であるとしても、経済社会の活力を維持していくためには、将来においても国民負担率が50%を超えない範囲に止めることが必要である。また、その内訳も、個人・法人の所得に係る所得課税(平成14年度11.8%)や、社会保険料は、できる限り現状の程度に止め、増加分については、経済成長に対する影響が相対的に少ない間接税(同7.1%)、とりわけ消費税のウェイトを高めていくことで対応することが不可欠である。
日本経団連では、財政構造改革、社会保障改革、税制改革を有効に組み合わせた場合における、将来の財政のグランド・デザインの策定を進めているが、高齢化に伴う社会保障支出の増加に対応していくためには、消費税率を欧州主要国並みの水準に引き上げていくことは不可避である。
そのためには、まず、消費税に対する国民の信頼を高めていくことが必要であり、インボイス方式の導入や免税点の引き下げ、簡易課税制度の見直しによる「益税」の解消を進めるとともに、政府は、近い将来に、消費税率の引き上げが不可避であること、また、早期に消費税率の引き上げを行なうならば、財政赤字や長期債務の増嵩を止め、最終的な消費税率の水準をより低い水準に抑えることができることを国民に明らかにし、合意形成を進めるべきである。