[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]

若年者を中心とする雇用促進・人材育成に関する共同提言

2003年5月13日
(社)日本経済団体連合会
日本商工会議所

若年者を中心とする雇用促進・人材育成に関する共同提言(概念図) <PDF形式>


はじめに

完全失業率は平成14年度平均で過去最悪の5.4%を記録し、平成15年3月の完全失業者は384万人と過去最多となっており、雇用情勢は依然厳しい状況にある。中でも、25歳未満の若年者の失業が著しく増大していることと、200万人とも言われるフリーターの多くの者が定職に就くことを希望しながら、やむなくフリーターとなっているということに、目を向ける必要がある。
若年者が長期にわたって失業状態にとどまることや、漫然とフリーター生活を送ることは、適切なキャリアの形成の妨げとなり、若年者自身のその後の職業人生に大きな影響を与えることとなる。また、適切なキャリアの形成がなされない若年者が増加することは、将来的には我が国経済社会を担うべき人材の不足や失業者の増加をもたらし、経済の成長性の低下、社会保障制度の破綻や社会不安を招きかねないなど、我が国の将来にとって極めて重大な問題である。
したがって、今後の雇用政策においては、これまでの短期的な失業対策では十分にカバーしきれない若年者をも念頭に、適切なキャリア形成、将来に向けた人材育成にも十分目を配る必要がある。人材育成は、学校教育や職業訓練と密接に関連しており、雇用面からの対策だけでなく、教育機関・企業・行政が一体となった、新たな取り組みが必要であり、そのための戦略的なトータルプランを策定すべきである。その際、(1)国からの押し付けではなく地域が主体となる、(2)民に任せるものは民に任せ競争原理を導入する、という2つの視点が重要であり、産業界も以下の具体的施策の積極的推進に協力する。

官民協力して取り組むべき具体的施策

I.地域における新たなパートナーシップの形成

地域の特性に応じたきめ細かい職業紹介、カウンセリング、職業訓練等の雇用関連事業を、一体的かつ効率的に推進するための新たな枠組み(キャリアセンター)を設ける。キャリアセンターは、地域の産業界、人材ビジネス会社、NPO、学校、地方公共団体、国などのパートナーシップにより、公共職業安定所等、既に社会に定着し同様の業務を行っている機関と、相互に業務を補完しあいながら、地域主体で設立・運営されることが望まれる。
キャリアセンターでは、雇用情報の充実や、インターンシップ等の職業意識の啓発支援のコーディネートを行う他、従来さまざまな機関でばらばらに行われていた、(1)企業や求人に関する情報提供、(2)就職先の斡旋、(3)職業観・仕事観の形成、志向の明確化などのためのカウンセリング、(4)訓練プログラムの紹介等のサービスをワンストップで実施する。中でも、カウンセリングは、サービスの中核として重要である。これらのサービスは、効率性やスピード、ホスピタリティの観点から、民間事業者に委託する。委託する業務の一部は成功報酬制とし、受託する事業者間の健全な競争を促進する。

II.充実すべき施策

  1. インターンシップ、トライアル雇用等の推進
    産・学・官の円滑な連携による生徒・学生を対象としたインターンシップを積極的に推進する。そのため、インターンシップを推進する行政(経済産業省、厚生労働省、文部科学省)の支援体制の一本化を図る。また、雇用のミスマッチを解消するために、トライアル雇用や民間の職業紹介会社、人材派遣会社による紹介予定派遣制度を積極的に活用する。

  2. 官民の協力による雇用情報提供
    官民の協力により、公共職業安定所、民間の人材ビジネス会社、地域の経済団体が有する雇用情報の総合的な活用を図る。公共職業安定所においては、業務の効率性を向上させるとともに、特に職業紹介・相談機能を十分に発揮するため、民間人材の活用、職業紹介・職業相談における官民の協力体制を整備する。その推進にあたっては、地域の主体性の尊重、民間による競争の促進の観点から、地方公共団体への一定の事業の移管や、公設民営方式やPFI方式等の多様な方法も検討する。

  3. 企業のニーズに応じた効果的な職業訓練の実施
    意欲のある個人が職業能力を高めるための投資を効率的に行えるようにするために、商工会議所における検定事業等、総合人材育成事業の内容もとり入れながら、職業別のキャリアマップを作成し、これに基づく標準的な人材育成プログラムを策定する。
    公共職業訓練施設での職業訓練カリキュラムを見直すとともに、民間事業者(人材ビジネス会社、専門・専修学校等)の活用によって、効果的な職業訓練を行い、その際、就職成功報酬等の誘引を付与する。そこでの教育・指導には、企業での豊富な職業経験を有する職業人も活用する。
    なお、現行の職業訓練カリキュラムについては、雇用に結びついたかどうかの効果測定を行い、より実効性の高いコースへの絞り込みを行う。特に、直接雇用に結びつくよう、関係者が連絡をとり、地元の企業ニーズを反映したカリキュラムに再編し、機動的な研修実施に努める。また、カリキュラムにおいては、座学のほかに、実技・実務訓練を加える。

  4. 学校でのキャリア教育の充実
    学校教育においては、基礎学力の確立を図ることがまずもって求められる。加えて、小学校段階からキャリア教育を充実させ、就業意欲の涵養、就業能力の開発を継続的・体系的に推進する。企業は、小中高校生を対象にした総合的な学習への支援として、職場見学・実習プログラムや企業人による授業の実施に積極的に協力するとともに、その内容について学校側と連携の上充実を図る。また、教員の企業体験プログラムを拡大実施する。一方、高校は、民間のキャリアアドバイザーを活用し、適切な就職指導を行う。就職のあり方についても、生徒に複数企業への応募や事前の会社見学・訪問を認める等、学校の進路指導に対する意識改革が求められる。

  5. 創業・起業の活性化のための高度職業教育の充実
    中小・ベンチャー企業が多数誕生し、成長することは、経済成長の原動力であり、同時に雇用の受け皿としても期待できる。税制や資金調達、人材確保の面での創業・起業を支援する一方、経営や事業再生、ベンチャーなど、わが国の競争力強化、経済活性化の核となる高度専門人材の育成のため、スキル標準の策定やカリキュラム・教材開発などに取り組む。併せて、専門職大学院の設置促進等を通じた高等教育機関の充実を図るとともに、専門学校の設置基準に係る規制改革の推進、コーポレートユニバーシティの立ち上げの促進等、設置主体の多様化を含め、高度職業教育を行う機関の環境整備を進める。

III.既存の助成金・予算、規制の見直し

これまでの政策の事前事後両面で政策評価を行い、施策の効果を高める必要がある。例えば雇用保険三事業における助成金の中には、活用されていないものも多く、現場ニーズと乖離しているのではないかとの懸念がある。政策評価の結果、政策効果の乏しいものは廃止すべきである。もちろん、雇用保険全体の見直しのみならず、一般会計による雇用対策関係予算・教育関係予算についても、人材育成の観点から総合的に見直しを行い新たな枠組みの財源とする。
また、経済・産業の構造変化の中で新事業・新産業分野への労働移動を円滑なものとするためには、働く者の意識変化や労働・雇用現場の実態を踏まえ、労働者派遣、有期労働契約、裁量労働に係る規制改革を積極的に進める。

産業界の取り組み

産業界は、官民協力して推進すべき上記の各施策に関して積極的に協力する他、従来から取り組んできた活動をさらに強化、推進する(商工会議所、経営者協会における具体的取り組みについては別紙参照)。

  1. 地域におけるキャリアセンターへの協力
    各地経済団体は、地域におけるキャリアセンターの設立に積極的に協力するとともに、企業の求人ニーズの提供、就職先の斡旋、カウンセリング、職業訓練等、同センターの事業の運営に積極的に参画する。

  2. インターンシップ、トライアル雇用等の積極的受け入れ
    各地経済団体は、インターンシップやトライアル雇用、紹介予定派遣について、受け入れ企業の拡大や、制度の周知等、制度の活用促進に取り組む。また、公的職業訓練機関からの委託訓練の受け入れを促進する。

  3. 求人情報をはじめとする情報提供の強化
    企業は、求人情報を積極的に提供する。また、ミスマッチを防ぎ、定着率の向上を図る観点から、求人の人材要件を明確化する。
    各地経済団体は、企業の潜在的な求人ニーズの掘り起こし等を行うとともに、インターネットによる就職情報提供、企業ガイドブックの作成、合同説明会・就職ガイダンスの開催等の就職情報提供事業を強化する。また、必要な知識・技能、仕事の具体的な内容等を含む説明会と就職面接会をセットで実施する。その際、地域の特性を踏まえ、対象者別、業種別、職種別に特化した就職説明・面接会を実施する。その他、職業意識啓発のためのセミナー開催や職業の内容、労働条件などの職業に関する情報提供を行う。

  4. 産業界による人材育成・職業訓練の実施・協力
    企業の人材投資の積極化に向けた取り組みを促進するとともに、各地経済団体における人材育成事業を一層推進する。
    職業別のキャリアマップの作成、これに基づく標準的な人材育成プログラムの策定に関し、これまでの商工会議所における検定事業等、総合人材育成事業で培われたノウハウを活用する。
    職業訓練機関へ積極的に企業人を講師として派遣し、より実践的な職業訓練が提供されるよう協力する。
    経営や事業再生、ベンチャーなど、競争力強化、経済活性化の核となる高度専門人材育成のため、産業界は、スキル標準の策定やカリキュラム・教材開発に積極的に参画する等、高度職業教育のための環境整備に取り組む。

  5. 学校でのキャリア教育への協力
    各地経済団体は、小学校段階からキャリア教育を充実させ、健全な職業観の醸成や職業意識の向上に資するため、企業における生徒・教師の社会体験の受け入れ、学校への社会人講師やボランティアの登録ならびに派遣の斡旋機能(ナレッジフォーラム機能)への取り組みを強化する。また、キッズマート事業、ビジネスコンテストなど、起業家精神を醸成する事業や中小企業の役割、意義についての理解を促進するための取り組みを推進する。
    各地経済団体は、学校運営を改善するために、学校評議員制へ積極的に参画し、民間人校長の推薦など人材面での学校活性化を支援する。

  6. 創業・起業の活性化支援
    ベンチャー企業経営者と日本経団連会員企業経営者との情報交流、人的交流を行う「起業フォーラム」の活動を通じて、起業家精神の涵養と企業間連携の推進を図り、新産業・新事業の創出を促進する。また、各地経済団体による、創業・起業についての講習会、相談対応、事例紹介、資金・人材マッチング等の支援事業を強化する。

おわりに

本来、労働需要が高まり、企業の採用が増加し、就労を通じて実践的な能力訓練・人材育成が進むことが最も望ましいことである。労働需要の改善には景況の改善が何よりも重要であり、政府は、一刻も早く景気を回復軌道にのせるため万全の対策を講じることが望まれる。加えて、新規雇用創出のための環境整備・支援策も必要である。
一方、企業の経営者は自らの責任によってリスクに挑戦し、経営の効率化を図り、現有の雇用を維持しながら、1人でも多くの人材を採用できるよう業績の向上に努めることが求められる。

以上

別紙資料
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