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「民主導・自律型システム」の確立に向けた
新たな規制改革の推進方策について

―日本経団連新ビジョンに基づく規制改革プログラム―

2003年5月20日
(社)日本経済団体連合会

1.基本的な考え方

(1) スピード感ある大胆な規制改革の必要性

日本経団連では、企業や個人の創意工夫の発揮による新規事業の創出など、民間主導による経済活性化の実現を通じた雇用の拡大や国際競争力の強化を図るべく、経済社会の構造改革の中核的課題として、規制改革の推進に取り組んできた。とりわけ、毎年度、実際の民間事業活動の妨げとなっている個々の規制改革課題を取りまとめ、総合規制改革会議等の政府関係先にその実現方を働きかけることにより着実な実現を図ってきた。
現在、その成果は、いくつかの事業分野で顕在化してきているが、規制改革による新規事業・雇用の創出や競争力強化が経済全体に波及するとともに、利用者・消費者の多様な選択が可能となっているとは言い難い状況にある。とりわけ、医療、農業、教育等、いわゆる官製市場の分野では、今後、市場の拡大と雇用の創出が期待されているものの、改革は緒についたばかりであり、依然多くの課題が残されている。
こうした中で、わが国の将来を展望すると、世界に類を見ないスピードで進展する少子高齢化や国際競争の激化等により、国の経済活力や競争力を維持していくことがますます困難になっている。例えば、IMD (Institute for Management Development) の2002年の国際競争力ランキングを見ると、経済の活性化に関連が深い項目の内、「起業家精神の普及」については49か国中49位、「新規企業の立ち上げ」は48位と、調査国中の最低レベルに低迷したままであり、総合的に見ても、わが国の順位は低下傾向にある(89年〜93年には1位であったものが、2002年には30位まで低下)。
このようなわが国が置かれている危機的状況を速やかに克服していくためには、これまで繰り返し実施されてきた財政・金融政策では、現時点で経済活性化や競争力強化の点で期待した効果を十分に発揮し得ないでいる中においては、経済社会の抜本的な構造改革の早期実現に向け、これまでにないスピード感をもって、集中的かつ大胆な規制改革を実施していくことが急務となっている
そこで、本意見書では、わが国経済の活性化、国際競争力強化の実現ならびに個人の選択肢の多様化を図るため、新ビジョン『活力と魅力溢れる日本を目指して』(2003年1月)に示した「民主導・自律型のシステム」を規制改革分野において確立する観点から、「規制改革基本法(仮称)」の制定等を中心とする今後の規制改革の在り方に関する基本的枠組を、日本経団連「規制改革プログラム」として示すこととする

(2) 事前規制から事後チェックへの転換

1993年の経済改革研究会報告(いわゆる「平岩レポート」)以降、「経済的規制は原則自由に、社会的規制は必要最小限に」との基本方針に基づき、規制改革への取り組みがなされてきた。これらの流れの中で、典型的な経済的規制の一つである需給調整的な参入規制が多くの分野で廃止されるなど、経済的規制分野の改革には進展が見られてきた。その一方で、社会的規制分野については、近年の総合規制改革会議の取り組み等により一定の前進は見られるものの、改革の遅れは否定できない。依然として、市場原理の導入には馴染まないとする聖域的な主張がなされたり、経済的規制と社会的規制の判別が困難なものについては、上記の基本方針を逆手にとって、「社会的規制だから必要」と強弁される場面が少なくない。
公正取引委員会の「社会的規制分野における競争促進の在り方」(2002年11月)によると、公正かつ自由な競争を促進するためには、社会的規制分野について、情報開示の徹底など一定の環境整備が必要であるとしても、経済的規制分野の改革と同様の手法で抜本的な見直しを行なうべきことを明らかにしている。
こうした点を踏まえ、本プログラムでは、経済的規制か社会的規制かを問わず、聖域を設けることなく、「民間で出来ることは民間に委ねる」との原則を徹底し、行政の役割を事前規制から事後チェック型へ転換することの早期実現を求める

2.「規制改革基本法(仮称)」の制定

現在、わが国において、中央省庁等改革基本法、特殊法人等改革基本法はじめ、国政の重要分野について、国の制度、政策、施策等を全般的に規律する理念、基本方針等を示し、それに沿った国等の措置を定めた基本法が制定されている。その中には、競争促進など規制改革の理念を盛り込んだ基本法が制定されている分野もある。基本法の効力は通常の法律と同一であるとされているものの、そこで一定の方針が示されると、これと矛盾する改革を行なうことはできなくなると考えられているなど、基本法は、他の法律や行政を誘導する役割を果たしている
今後、これまで以上に規制改革を推進していくためには、総合規制改革会議の後継機関(以下、後継機関)として、民間人を主体とする、より強力な推進組織を設置することや、新設規制の評価・審査体制の充実を含めた規制の制定・改廃・運用に係わる制度の充実を図っていくことが、規制改革推進のための基盤整備として不可欠である。そのためには、規制改革を、集中的かつ抜本的に改革を行なうべき国全体の重要課題として明確に位置付け、その推進を図るための基本方針や国・地方の責務等を規定した基本法を制定する必要がある
そのため、政府は、「規制改革基本法(仮称)」を本年中に制定すべく、その方針を総合規制改革会議の「中間とりまとめ」や経済財政諮問会議の「骨太方針2003」に明記した上で、立案作業を早急に開始すべきである。なお、規制改革基本法の適用にあたっては、競争促進など規制改革の理念を盛り込んでいる他の基本法と整合を図るものとする。

3.民間人を主体とする改革推進機関の設置

現在、内閣府に設置されている総合規制改革会議は、わが国における規制改革推進の中核的存在として大きな役割を果たしている。同会議の精力的な取り組みにより、従来は聖域とされていた社会的規制分野にも改革のメスが入り、また、特区という画期的な手法の導入など、規制改革は徐々にではあるが、着実に進みつつある。
総合規制改革会議は2003年度末の設置期限まで、引き続き、経済財政諮問会議や構造改革特区関係機関との連携を図りつつ、強力に改革を推進すべきであり、下記の基本方針に基づく取り組みを実施・検討することを期待している。
また、2004年度以降、規制改革を、スピード感を持ってより一層強力に推進していくためには、規制改革について優れた知識・経験を有する民間人を主体とする、より強力な推進機関を設置することとし、内閣総理大臣の任命する委員長及び委員長の推薦に基づき総理が任命する委員で構成する組織とすべきである。加えて、事務局についても、その長も含め、行政の内外より改革志向の人材を集めることにより、推進体制を充実・強化すべきである。
なお、総合規制改革会議及びその後継機関による改革提案に対しては、所管省庁は、規制の必要性、根拠等の立証責任を果たす必要があり、改革提案に従って規制改革を実施した際のメリット・デメリットを客観的かつ明確に比較検討し、その結果を広く公表するものとする。総合規制改革会議及びその後継機関は、これらの所管省庁の対応を踏まえ、内閣総理大臣に対し意見具申する際には、内閣法の規定による措置を講ずることも含めて調査・審議の結果を答申すべきである

4.規制改革推進のための基本方針

(1)-<1> ビジネスの現場からのニーズに基づく個別規制改革の推進

当会がこれまで取り組んできた個別規制の改革については、近年の総合規制改革会議における民間の事業活動円滑化に向けた取り組みなどもあり、進展が見られるところである。しかしながら、事業活動を取りまく、絶えざる環境変化もあり、社会的規制分野はもとより、経済的規制の分野においても、依然多くの改革要望が民間事業者等から寄せられている
規制改革のニーズは、ビジネスの現場や日常生活の中から生まれるものであり、個別項目の実現はいずれもビジネスの活性化、個人の選択肢の拡大、生活利便性の向上に資することから、新事業を円滑に進めるための制度整備を含め、個別規制の改革の推進は引き続き重要な課題である。こうした観点から、当会ではアンケートに基づく個別要望を取りまとめ、その実現を、総合規制改革会議をはじめとする政府関係機関に働きかけていく所存であり、総合規制改革会議及びその後継機関の取り組みに大いに期待している。
したがって、総合規制改革会議を中心に、個別要望を、スピード感を持って、効率的・効果的に実現するため、特区制度で導入されている手法を導入すべきである。即ち、(ア)一定の受付期間を定めた集中的・網羅的な要望の発掘、(イ)要望事項の一覧性を確保するための分野別・担当各省別整理と各省における対応状況等のホームページへの掲載を含めた情報公開の徹底、(ウ)折衝結果の要望元へのフィードバックとそれを踏まえた各省との再折衝、(エ)これらの結果の取りまとめならびに公表等を、年に複数回実施するようなルール作りを行なう必要がある。これらのプロセスを通じても、その規制の必要性等については政府が立証責任を果たすものとする。

(1)-<2> 民間の事業活動に係る規制の分野横断的な見直し等

個別規制の改革と並んで、事前規制から事後チェック型行政への転換を徹底させるためには、これまでの規制改革の成果をも踏まえ、自己責任原則のもと、経済的規制、社会的規制に係わらず、民間事業活動に課せられている規制全般について分野横断的に規制の必要性の有無を評価し、集中的に見直すことが必要である
例えば、現在、民間の事業活動に対しては、各種業法 #1 により、参入・退出、価格、設備、業務範囲等につき、様々な規制が課せられている。当初は明確な政策目的に基づき、社会のニーズを踏まえて導入された規制であっても、技術の進歩、国際化の進展、地球環境問題の顕在化、少子高齢化等に代表される経済社会環境の変化に伴い、その意義が薄れ、実効性が失われたものも少なくない。これらが放置されることにより、内外を問わず、意欲ある事業者の新規参入や自由な事業活動が妨げられたり、わが国が直面する今日的な課題を解決する上での弊害となっていることも少なくない。
従って、政府においては、これまでの規制改革の成果をも踏まえ、民間事業活動に課せられている規制全般について分野横断的に規制の必要性の有無を評価すべきである。その結果、経済社会環境の変化に伴い、意義が薄れ、実効性が失われたと判断される規制については、別紙の見直し基準に基づき、集中的に見直しを行なうこととする。存続する規制についても、民間の事業活動の妨げや競争阻害要因とならないよう、必要最小限に留めるものとし、政府はその立証責任を果たすものとする。
その際には、同種・類似の事業分野における規制については、他の業法における先進的事例を参考に、費用対効果の観点をも踏まえ、より自由な事業活動を確保し、競争を促進するための体系に移行する必要がある。また、国際条約を背景とするとされている規制についても、経済社会環境の変化を踏まえ、より柔軟な解釈・運用により、常にその見直しを図っていかねばならない。
また、業法以外による規制についても、上記と同様の問題が生じているものもあり、これらについても、常に経済社会環境の変化等を踏まえ、民間事業者の創意工夫の発揮が妨げられることのないよう見直していく必要がある。
なお、規制以外にも、例えば公共調達(国等が発注する公共工事、物件納入等)のように、硬直的な官民関係を構築し、民間事業者における新規参入や自由な事業活動を阻害していると指摘されるものがある。こうした規制以外の官民関係のあり方についても、公正かつ自由な競争を促進していくために、常時見直しを行なうべきである。
総合規制改革会議及びその後継機関は、これらの作業の重要事項につき、調査審議するとともに、政府の作業を監視し、必要な意見具申を行なうものとする。

#1 業法とは、目的に、「○○事業の健全な発展を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的とする」等の規定があるものを典型とするが、それ以外に、特定の事業運営について、参入・退出、価格、設備、業務範囲などに一定の制限が課せられているものを、広く業法として捉えることとする。

(1)-<3> 規制の新設に際し政策評価の視点からの審査

むやみに不要な規制が新設され、自由な民間事業活動が妨げられることのないよう、新たな規制の制定に際しては、法的整合性、予算、組織・定員等の観点に加えて、政策評価の視点(規制の必要性、規制内容の妥当性、重複規制の排除と他の規制との整合性確保、期待される効果、予想される国民負担、制定手続の透明性など)から、内容を厳格かつ客観的に評価・審査すべきである。その際、規制を所管する省庁がその一次評価を行ない公表することに加え、総合規制改革会議の後継機関等による第三者評価も活用し、政策評価や上記の「規制の見直し基準」(4.(1)-<2>)の視点から、統一的・総合的な評価・審査を行なう体制を整備することを検討すべきである
また、評価・審査の結果を踏まえて、規制を新設する場合には、原則として、当該規制を一定期間経過後に、廃止も含め見直すこととする条項を盛り込むこととすべきである

(2) 継続的な規制改革推進計画の策定

民間の事業活動に対する規制は、経済社会環境の変化等を踏まえ、常に見直す必要がある。また、今後、継続的に実施される構造改革特区における実施事例を評価し、その成果を全国的に拡大していくことも求められている。したがって、政府は、2004年度以降も引き続き、規制改革を集中的・総合的・計画的に推進するため、新たな規制改革推進計画を策定すべきである。その際、政府は、上記 (1)-<1> 及び (1)-<2> に基づく規制の見直し結果や総合規制改革会議の意見等を踏まえるものとする。また、2004年度以降、「規制改革推進計画」は、後継機関の審議を経て、内外からの意見・要望等を踏まえ、毎年度改定するものとする。
また、規制改革にスピード感をもって取り組むため、「規制改革推進計画」には、概ね3年毎の改革期間を設け、計画に盛り込まれた事項は、この改革期間内に実施を完了するものとする。更に、改革期間の終了に際し、政府は再度、当初計画策定の際と同様の観点から、規制全般の評価及び見直しを実施し、全面的に改定するものとする。これらの概ね3年毎の規制の抜本的な見直しに際し、引き続き存続させる規制については、当該規制を所管する行政機関が、その必要性、根拠を明確にすべきである。

(3) 市場監視機能の強化等規制改革の推進に伴う措置

規制改革の進展、あるいは規制改革推進のための環境整備として、市場における公正かつ自由な競争と消費者利益を適正に確保していくための措置を講じていくことがますます重要となる。総合規制改革会議及びその後継機関は、2003年4月より内閣府に移管された公正取引委員会とより密接に連携し、そうした環境整備と市場監視機能の強化に取り組む必要がある
同時に、個別市場における監視機能の強化や公正・透明な競争を確保するための措置等の整備も求められる。また、情報の非対称性の是正と消費者に対する適正サービスを確保するために、民間における自主的な取り組みを基本として、情報開示の一層の徹底等の措置の充実を図る必要がある。

5.規制の制定・改廃・運用にかかる手続の充実

上述のような既存規制の見直しや新設規制の審査だけでなく、規制の制定・改廃・運用にかかる手続も、規制改革の一環として常時見直すとともに、苦情処理相談窓口において、その適正運用を確保していく必要がある。

(1) パブリックコメント手続の法制化等

1998年12月に閣議決定されたパブリックコメント手続では、行政機関が規制に係る政令、府令、省令、告示、行政手続法上の審査基準・処分基準等を策定する過程において、広く一般国民・事業者の意見・情報を考慮して意思決定を行なう仕組みが定められている。
規制の制定・改廃に関する意思決定過程をより一層透明にするためには、パブリックコメント手続を見直し、意見募集の周知を徹底するとともに、企業や個人から寄せられた意見に対し行政機関側が真摯に対応すべきこと、各省庁に苦情処理体制を整備すべきこと等を明確に定めるべきである。同時に、意見募集の対象、期間、その公表方法等の原則も明確にし、各省庁がこれを遵守すべきこと、及び遵守できない場合の説明責任を各省庁が負うべきこととすべきである。また、地方公共団体の規則等についても、国に準じた措置を講ずべきこととし、上記の改善状況を踏まえ、パブリックコメント手続の法制化を検討すべきである

(2) 日本版ノーアクションレター制度の改善

日本版ノーアクションレター制度は、民間企業等がある行為を行なう場合、法令に抵触するか否かについて、行政機関に照会する制度である。2001年3月に政府の統一指針が閣議決定され、以後、順次導入が進んでいる。しかし、統一指針では、対象法令(条項)の範囲は、申請に対する処分や不利益処分の根拠を定めるものとされ、地方公共団体の事務も対象外とされているなど、改善すべき課題もある。
一方で、構造改革特別区域法においては、地方公共団体が、特定の事業に関する規制の根拠となる法令の解釈について、行政機関の長に確認することの出来る制度が導入されており、その対象は、統一指針のように限定されていない。
新しい事業活動を円滑に展開する上で、法的リスクの予測可能性を高められる本制度の意義は非常に大きく、今後は、統一指針の見直しを行ない、本制度の対象法令(条項)を、直罰規定や地方公共団体が処理する事務(法定受託事務および自治事務)に係るものを含め、広く規制に係る法令(条項)の解釈にまで拡大すべきである。また、照会者の円滑な事業活動に資するよう、行政機関が法令に抵触するか否かを回答する際には、なぜ処分基準に該当するのか等、極力具体的な法令の解釈や見解を付すようにするとともに、これらが不十分な場合には、再度照会できるようにする等により、制度の充実を図るべきである。

(3) 行政手続法の遵守と見直しの検討

1994年に施行された行政手続法では、申請に対する処分、不利益処分、行政指導、届出などの行政手続きの一般原則が示され、行政運営の公正の確保と透明性の向上が図られている。特に、申請等の到達主義原則が確立されたことにより、行政の窓口での不透明な取扱いに対抗する上で、同法が大きな役割を果たしていると言える。一方で、行政指導の文書化については、請求制度が採られたこと等により、その活用が充分に進んでいないとの指摘もある。
従って、行政手続法についても、その遵守を一層徹底すると共に、施行後かなりの年月が経過したこともあり、規制を含む行政運営全般のあり方をめぐる状況を踏まえ、その実態等を改めて調査し、必要な見直しを検討すべきである

6.地方公共団体における取り組み

規制改革の推進のためには、国と地方の一体的取り組みが不可欠であり、地方公共団体は、その根拠が条例又は規則におかれている規制の改革について、集中的・総合的・計画的に規制改革を推進するための体制整備や、規制の制定・改廃・運用に係る手続の充実など、「規制改革基本法(仮称)」等で定める国に準じた措置を講ずるよう努めるべきである
また、その根拠が国の法令におかれている規制についても、地域や担当者の裁量や不透明な行政指導により、法令の趣旨・内容を逸脱した運用がなされ、民間企業等の負担になっているという弊害も指摘されている。したがって、地方公共団体においては、分権された事務処理の適正化を図るべきである。同時に法令を所管する省庁においては、地方公共団体の事務処理が法令の規定を著しく逸脱していると認めるとき等は、地方自治法に基づいて、当該地方公共団体に対し、技術的助言・勧告等を行なうなど、必要な措置を講じるべきである

7.政府のガバナンス機能の見直し

規制改革推進の阻害要因を除去し、よりスピード感を持った規制改革を行なう上で何より重要なのが、総理を中心とした政治の強いリーダーシップの発揮である。
中央省庁等の改革において、内閣総理大臣の指導性と補佐体制の充実・強化を目的として、総理の発議権の明確化、幹部職員の任免の内閣承認、内閣官房の強化、内閣府や特命担当大臣の新設等が導入された。内閣総理大臣には、これらの制度・組織をなお一層活用し、人事権の行使も含め、政治の強力なリーダーシップに基づく規制改革の断行に、一層強力に取り組まれることを期待する。同時に、縦割り行政の弊害是正や各省庁間の連携強化を目途として中央省庁等改革によって導入された総合調整機能の強化や政策調整制度などを、積極的に活用することにより、政府全体が一体となって規制改革を推進すべきである。
また、規制による権益を守るために、官僚組織が規制改革に抵抗するとの指摘もあることから、上記の内閣承認制度の活用に加え、現在の省庁別採用(当面は幹部職員の任免権の内閣への移管)、ピラミッド型人事システムと早期勧奨退職制度、各省庁による再就職の斡旋等を含めた公務員制度全体の再検討も必要である。なお、わが国全体として規制改革を推進していくためには、立法府においても、国権の最高機関としての見識を持って改革を主導されることを期待している。

8.民間事業者における民主導・自律型経済社会の実現に向けた取り組み

わが国経済の長期低迷、国際競争力の低下という危機的状況において、我々に残された最後の切り札である規制改革を速やかに実施していくためには、規制を所管する省庁だけではなく、民間事業者自らが、新ビジョンで指摘した通り、「画一的な官製のシステムは機能不全を起こしつつある」ことを認識し、「日本経済を従来の官主導型から民主導型へと転換させる」という強い意志を持って取り組んでいくことが不可欠である
そのため、民間事業者においては、いたずらに規制が強化されることのないよう、改めて自己責任原則を徹底し、企業倫理の確立と不祥事の再発防止ならびに積極的な情報開示を図ることはもとより、規制改革の提案や実現した改革の活用、産学官連携の推進等により、新ビジネス・新市場の創出、事業活動の効率化等に取り組むことが求められる。同時に、行政運営の公正・透明性確保に係わる手続きを積極的に活用することなどにより、規制の制定・改廃・運用の改善にも強く関与していくべきである。
併せて、構造改革特区制度においても、民間事業者が地方公共団体と連携を取りつつ、積極的に特区制度を活用し、成功事例を積み重ねていく必要がある。
こうした、官民による取り組みが規制改革を加速し、低迷するわが国経済や国際競争力の牽引役となるものと確信している。

以上

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