[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]

民主導・自律型の経済社会の実現に向け改革を進める

〜2003年度総会決議〜

2003年5月27日
(社)日本経済団体連合会

日本経済は、非常事態ともいうべき深刻な状況にある。
すなわち、少子化・高齢化、グローバル化、情報化といった内外の環境変化への対応の遅れが、バブル崩壊の後遺症と相まって、経済の長期的な低迷をもたらし、国民に強い閉塞感を与えている。これは、変化や痛みをおそれて、政府や一部の企業が、必要な改革を先送りした結果に他ならない。
この危機を乗り越えるべく、官民は総力をあげて、資産デフレの克服や構造改革を通じた国際競争力の強化に向け行動すると同時に、新たな時代にふさわしい日本独自の経済社会モデルを確立しなければならない。
われわれは、新ビジョン「活力と魅力溢れる日本をめざして」で描いた、民主導・自律型の成長メカニズムが機能する経済社会の早期実現を目指し、下記の重要課題に全力をあげて取り組むことを決意する。

1.産業・金融一体の再生を早急に進める

産業と金融の一体的再生と資産デフレの克服が、当面の緊急課題である。
企業は、経営基盤の強化に向け、不良債権及び過剰債務の処理を加速するとともに、高収益分野への経営資源の重点的な再配分を進める。
政府は、日銀と一体となり、過去の枠組みにとらわれず、あらゆる政策手段を大胆に遂行すべきである。特に、法人税負担の軽減、土地住宅税制の抜本改革、都市再生事業の推進と併せて、株式市場の活性化に向けた証券税制の思い切った見直しや独立性ある監視体制の構築等の施策を、直ちに講じなければならない。
更に、雇用不安の深刻化を回避するため、新規雇用の創出促進に加えて、民間を活用した職業訓練、能力開発や職業紹介機能の強化等、セーフティネットの再構築が急務である。
労使は、より緊密な関係を確立し、雇用の維持・安定、生産性の向上に努める。

2.社会保障、財政、税制を一体的に抜本改革する

危機感の欠如から、政府が、財政、社会保障制度の抜本的な改革に着手せず、その場しのぎの対応に終始してきたことが、国民の制度への不信感や将来への不安感を高めている。
政府は、社会保障制度、財政、税制を、経済活力を削がず、長期的に持続可能な制度として再設計するため、整合性ある改革案を早急に提示し、実現すべきである。特に、年金、医療、介護、雇用保険等、社会労働保険分野全体の給付と負担のバランスの将来像を、具体的に明示しなければならない。その際、徹底した歳出削減等を前提に、消費税を活用することにも躊躇すべきではない。

3.国としての競争基盤を強化する

新たな需要を創造し、雇用を創出するため、企業は、独創的な技術の開発やその事業化の推進等、知的財産を核に、国際競争力を持つ高付加価値の製品・サービスを生み出す。
政府は、こうした取り組みを支援すべく、知的財産政策の強化や、大学改革、人材育成、産学官連携を推進し、真の科学技術創造立国の実現に寄与すべきである。
また、規制改革基本法の制定や、総合規制改革会議の後継機関として民間人主体のより強力な機関を設置するなど、規制改革の推進体制の強化が不可欠である。併せて、事前規制から事後チェック型への転換、自己責任原則を前提とした消費者行政の確立等、行政のあり方を見直さなければならない。
更に、高コスト構造の是正に向け、大都市圏の交通・物流や都市基盤等、社会資本の戦略的・効率的な整備が急務である。

4.環境・エネルギー戦略を強化し環境立国を実現する

企業は、環境立国戦略の一環として、環境技術の革新を進め、環境自主行動計画の着実な実施や循環型社会の形成に取り組む。
政府は、これを支援するとともに、米国や途上国が参加する地球温暖化防止の実効ある国際的枠組みが実現するよう、強いリーダーシップを発揮すべきである。
また、総合的なエネルギー戦略を確立し、供給源の多様化、革新的技術の支援、核燃料サイクルを含む原子力の積極的活用を推進しなければならない。

5.多様な個人の力を活かす社会を実現する

経済社会の活性化には、多様な人材の育成、活用が不可欠である。
企業は、多様な人材の採用・抜擢と能力開発の多様化・充実を図るとともに、男女共同参画の実現に努める。また、各分野で活躍できる次世代の人づくりに貢献する。
政府は、教育があらゆる課題の根底にあるという認識のもとに、基本法改正をはじめ教育改革への取り組みを強化すると同時に、能力・個性に合った多様な働き方を可能とするため、関係法規を抜本改正すべきである。併せて、外国人を積極的に受け入れるための体制整備を急がなければならない。

6.地方の自立と活性化を促す

地方が多様性を活かした発展を遂げられるよう、企業は、産学官連携、構造改革特区を最大限に活用して、地域密着型の新規事業を推進し、地方の雇用の維持・拡大に努める。われわれは、各地の経営者協会や経済連合会と協力し、地域の取り組みを支援する。
地方の中央依存からの脱却を図るため、政府は、州制の導入を視野に入れつつ、当面は、権限の移譲と国庫補助負担金の削減を前提に、地方交付税制度、税源配分の見直しを一体として推進することで、地方行財政の自立を進めなければならない。

7.対外経済政策を強化する

自由な貿易・投資活動を支援すべく、政府は、WTO交渉の促進、東アジア自由経済圏の形成、二国間自由貿易協定の締結等、通商政策を戦略的に推進すると同時に、対日直接投資促進の環境整備に努めるべきである。
われわれは、WTO、ILO、OECD、世銀、国際会計基準審議会(IASB)等との協力関係の強化や、様々な国際ルールへの産業界の意見の反映に努める。また、民間経済外交を積極的に展開し、各国の産業界との交流を進めるとともに、途上国の人材育成、環境対策等の分野で重要な役割を果す。

8.社会からの共感と信頼を得られる企業を目指す

企業は、自らに課せられた社会的責任を自覚し、経営の透明性確保や企業倫理の確立により一層努め、併せてNPOへの支援を含めた社会貢献活動を強化する。
われわれは、企業行動憲章の遵守を企業に強く働きかけると同時に、コーポレートガバナンスの機能強化を支える内部統制のあり方を更に検討していく。

以上の諸課題の実現のため、企業人は、政治に対し積極的に行動し、また、必要な協力を行うことで、政治との新たな関係を構築しなければならない。われわれは、その一環として、各政党が、目指すべき経済社会の明確なビジョンを示し、その実現に向けた政策を立案、実施するよう働きかける。そして、その実績をもとに、企業・団体が資金協力する際の参考となるガイドラインを提示する。
企業人が主体的に関与することで、政治を動かし、われわれが目指す経済社会を実現できるものと確信する。

以上

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