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平成16年度税制改正に関する提言

2003年9月16日
(社)日本経済団体連合会

はじめに

われわれは、先に明らかにした「近い将来の税制改革についての意見(2003年5月29日)」において、
人口が減少する社会を前提として、経済社会システムを転換する
あらゆる既得権を見直し、負担の先送りを回避することで、持続可能な財政、社会保障制度を再構築する
将来における潜在的国民負担率を50%以内に抑制し、個人、企業の公的負担の上昇をできる限り抑制する
などの対応を早急に開始することが必要であると提言した。こうした諸改革は、国民に発想の転換や、時には痛みを求めることにもなるが、21世紀前半において、「成長を続け、豊かさを実感できる日本」を実現するためには、必要不可欠な改革の方向であると考える。
国・地方の財政は、大量の公債発行に依存せざるを得ない状況に陥っており、社会保障制度は世代内・世代間の不公平を是正できないまま、国民・企業の負担ばかりが増えようとしている。
こうした状況を改善しないまま、今の税財政システムを継続することは、責任を持って日本の社会を将来世代に引き継げないばかりか、莫大な負の遺産を将来世代に負わせる結果となる。
国政選挙にあたっては、各政党は、それぞれが目指す日本の将来像とともに、国・地方を通じた歳出の合理化と財政規律の早期回復、社会保障制度の再構築、経済活性化に向けた税制改革を一体として進めるための具体的な方策を「公約」として明らかにし、国民が将来を選択できるようにすべきである。

I.法人企業の公的負担について

(1)企業の公的負担の現状

市場が世界的に統合され、グローバルな競争が激化するなかで、すべての企業は生き残りをかけて、生産・調達・販売の最適化を日々刻々と進めている。そのなかで、租税と社会保険料をあわせた企業の公的負担の水準が、企業が世界立地戦略を決定するにあたり、ますます重要なファクターとなっている。企業の公的負担が相対的に高い経済は、国内産業の空洞化と海外資本の逃避を招き、必要な雇用を維持することすら極めて困難となる。
かかる観点から、日本経団連では本年7月、前回1996年に引き続き、会員企業の公的負担の現状を把握するために、大規模なアンケート調査(以下、公的負担アンケート調査)を実施した。
その結果を見ると、企業の実質税負担率、即ち、企業の本来の収益と言うことができる税引前利益に対する法人所得課税(法人税、法人住民税、法人事業税)の割合は、95年度においては約6割の水準であったものが、経済界の働きかけにより法人実効税率の引下げが実現したことなどを反映し、2002年度においては、40%台後半にまで低下している。海外諸国に比べれば高い水準にあるわが国法人実効税率(40.87%)をさらに上回る水準ではあるものの、狭い意味における企業の税負担は、少なくともこの間の法人税改革の成果として確実に軽減されている。
しかし、この効果を相殺しているのが、土地税制などその他の税負担の高どまりや、社会保険料負担の増加である。
まず、固定資産税については、地価の下落が続いているにも関わらず、税負担は減らない仕組みになっている。企業はこれまで、保有資産の整理等により負担増の抑制に努めてきたが、こうした対応も限界に近づいている。
さらに、租税負担以上に今後の企業経営にとって重い足枷となるものが、社会保険料の負担である。公的負担アンケート調査において、データの連続性があり、かつ利益を計上している企業をとり出して比較すると、2002年度の企業の社会保障費は、95年度に比べ5.4%の伸びとなっている。しかし、この間に従業員数はマイナス16%と大幅に減少しており、従業員一人当りの社会保障費をみると、95年度の約76万円から、2002年度には約95万円と急増している。全体として見れば、社会保険料の上昇に対応するため、利益を出している企業でさえ、雇用の削減を通じて、総額での社会保障費の圧縮に努めざるを得ない状況にあることがわかる。
今後、社会保険料の引上げが続けば、雇用リストラの動きがますます進行し、経済全体に深刻な影響が出ることが予想される。

(2)公的負担の上昇と社会保障制度の持続可能性

ここ数年、法人税率をはじめとする法人課税の軽減は実現してきた。しかし、社会保険料負担については、年金・医療等いずれも抜本的な改革を先送りしてきたため、民間事業主負担だけで23.2兆円(2000年度)と、法人所得課税(法人税、法人住民税、法人事業税の合計で18.7兆円(2000年度))を上回っている。
さらに、国民所得の伸びを上回る水準(厚生労働省推計(2002〜2025年度)によると国民所得は約1.5倍、社会保障負担は約2.2倍)で社会保障負担の増加が予想されている。現在でも高水準の公的負担がこれ以上高まれば、わが国企業の国際競争力や経済活力にも著しい悪影響を及ぼし、日本国内における産業基盤は損なわれ、雇用の喪失は避けられない。それにもかかわらず、残された少ない支え手で社会保障制度を維持しようとすれば、また負担を引き上げるという悪循環に陥り、社会保障制度が持続不可能なものとなることは明らかである。

(3)年金保険料の先行引上げによる悪循環の懸念

2004年には、5年に一度の公的年金制度改正が予定されているが、現在の厚生労働省案は、世代間の給付と負担の不公平是正等の根本的な制度課題を解決しないまま、保険料の先行引上げを最優先課題として位置付けている(現行13.58%から最終的に20%を提案)。しかし、この提案では、公的年金制度に対する国民の不信感を払拭できないばかりか、厚生年金保険料の1%引上げは、法人税率4%引上げに相当し、労働コストの急上昇、国内雇用の減少、保険料率の再引上げという悪循環を間違いなく引き起こす。こうした事態を回避するためには、既裁定者を含めた公的年金の給付水準のあり方、保険料、国庫負担の水準に関して、スケジュール、具体的な数値、財源措置を含めたパッケージで、国民的なコンセンサスを得ることが不可欠である。
これらの改革を行なわずして、保険料の引上げのみを先行するという厚生労働省の提案については、国民経済の持続的発展を存立基盤とする日本経団連として、絶対に容認することはできない。

(4)消費税引上げの必要性

わが国は、2006年を境に人口が減少に転じ、本格的な少子高齢社会を迎える。その状況に至っても、経済活力を維持し、財政・社会保障制度の持続可能性を確保するためには、税制改革、社会保障制度改革、国・地方を通じた行財政改革を一体として進め、潜在的国民負担率を50%以下に抑制していく必要がある。
その内訳として、現役世代の所得に応じた社会保険料、あるいは個人・企業の所得に対する課税は現状程度の水準にとどめるべきであり、経済成長に対する影響が相対的に少なく、高齢者も含めて国民が広く負担を分かち合うことのできる消費税を拡充し、わが国税制の根幹に位置付けることが不可避である。
この見通しの下に、経済状況も勘案しつつ、基礎年金の国庫負担引上げに加えて、高齢者医療や介護の財源を賄い、さらには国と地方の財源見直しをも考慮すれば、消費税率については、遅くとも2007年度までに、地方消費税とあわせて10%まで引き上げることが不可欠となる。
なお、それまでに、消費税の仕組みを、より透明・公正なものに改めるため、複数税率化ならびにインボイス制度の導入等について検討に着手すべきである。

II.具体的提言内容

平成16年度税制改正においては、個人・企業の経済活力の維持・強化を最重要の課題として、持続可能な財政、社会保障制度の構築に向けた第一歩を踏み出す必要があると考える。わが国経済を回復軌道に乗せつつ、構造改革を円滑に進めるためには、経済の活性化に確実につながる最善の組み合わせとして、的を絞った税制改正が必要である。
われわれは、具体的に以下の諸課題を、平成16年度税制改正において実現すべきことを提言する。

1.法人所得課税

景気は、本年4-6月期の実質GDP成長率が前期比0.6%(年率2.3%)と6期連続してプラス成長となり、また、株価も4月末以降上昇に転じていることから、回復軌道に乗りつつあるとの見方もあるが、今なお金融システム全体の安定性、個人消費の不透明感が払拭されていない。景気の底離れを確実なものとするためには、平成16年度税制改正において、経済活性化のために確実に効果のある法人所得課税改革を行なうべきである。

(1)多年度損益通算の拡充
  1. 欠損金の繰越控除期間の延長
    ゴーイング・コンサーンとしての企業に対する課税において、課税所得を計算する事業年度は人為的・便宜的に設けられたものに過ぎず、ある年度に欠損金が生じた場合は、当然に前後の事業年度との損益通算が認められるべきである。こうした観点から、欠損金の繰越・繰戻制度は、国際的にも普遍的に認められており、例えば、米国では、20年間の繰越控除、2年間の繰戻還付、英国でも、無制限の繰越控除、1年間の繰戻還付が認められている。
    これに対し、わが国では、繰越控除期間は5年間にとどまっており、繰戻還付は停止されている。このような厳しい取扱いは、企業が欧米のような大胆なリストラを躊躇し、業績のV字回復を実現できない一つの要因として、わが国経済の再生を過度に遅らせている。
    わが国でも、法人税負担の合理化及び欧米諸国とのイコール・フッティングの視点から、欠損金の取扱いを抜本的に見直すべきである。具体的には、帳簿保存期間等も考慮し、当面、繰越控除期間を7年(現行5年)に延長すべきである。その際、経済活性化に対するインパクトの観点から、新規発生分にとどまらず、既往の欠損金についても繰越期間延長を認めるべきである。

  2. 繰戻還付制度の復活・延長
    繰戻還付についても、本法においてその期間が1年間に限られている上、現在は租税特別措置法において凍結されている。
    米国では、80年代の不良債権問題の処理や、2001年の同時多発テロ後の対応として、欠損金の繰戻還付制度が大胆かつ機動的に活用されており、わが国でも、繰戻還付が大きく認められていれば、バブル崩壊後の企業の再生は早まっていたはずである。少なくとも繰戻還付を本法通り1年とするべきである。

(2)減価償却制度の見直し

わが国経済を再浮上させるためには、経済成長の原動力である民間設備投資の活性化が欠かせない。しかし、わが国企業の設備投資は、ここにきて下げ止まり傾向が見られるものの、景気の確実な回復に十分な水準とは言えない。また、設備ヴィンテージが諸外国と比して高まっており、個別企業の国際競争力の観点からも問題である。
企業の投資意欲を刺激し、経済を活性化するとともに、企業の国際競争力を強化するために、米国に見られるように、投下した資金をいかに早期に回収し次の投資につなげていくかという「コスト・リカバリー」の考え方を導入し、会計と離れた加速度償却も視野に入れて、欧米に比べて不利となっている現行の減価償却制度を見直すことが必要である。
こうした視点に立って、当面は、残存価額ならびに償却可能限度額の適正化を行なうべきである。諸外国では耐用年数に沿って100%まで償却できるが、わが国では、原則として残存価額が取得価額の10%、耐用年数経過後に償却可能な限度額は5%とされており、極めて問題が大きい。残存価額を少なくとも2〜3%程度に、また、償却可能限度額を備忘価額に早急に改めるべきである。当会の税制委員会企画部会が行なった調査でも、約8割(78.2%)の企業が100%の償却を認めるべきとしており、その理由としては、「除却コストが上昇しており、これを勘案すると設備に価値がない(73.9%)」、「設備のスクラップ価格が低下している(43.4%)」ことなどが挙げられている。
なお、建物の耐震補強に係る資本的支出について、震災対策を促進する観点から加速償却を可能とするなどの取扱いが必要である。

(3)連結付加税の撤廃をはじめとする連結納税制度の改善

平成14年度税制改正において連結納税制度が導入されたが、制度導入に伴う法人税収減補填策の一つとして、連結納税制度採用企業に対して法人税率を2%上乗せする付加税が、2年間の時限措置として決められた。
連結納税制度の狙いは、企業組織に対する税制の中立性を高めることにより、企業の資本・人材の有効活用を促進し、個々の企業の競争力を強化し、経済全体の活力を増進させることにある。関係者の努力により精緻な連結納税制度が早期に完成したにもかかわらず、付加税の存在により、所得の大きい優良な企業であるほど制度を採用せず、結果としてわが国の経済の活性化が阻害されたことは極めて問題である。また、そもそも約8,000億円と試算された減収額についても、実績との乖離が生じている。
そこで、連結付加税は2年間限りで必ず廃止すべきことを、改めて確認しておきたい。
加えて、連結納税制度の普及の障害になっている、適用開始時・加入時の子会社の未処理欠損金の否認、一定の資産の時価評価・課税、連結グループ内の寄附金の全額損金不算入等の問題について見直しを行なう必要がある。

(4)法人実効税率の引下げ

既述の通り、租税と社会保険料をあわせた企業の公的負担が高い経済においては、個々の企業の競争力が低下するだけにとどまらず、産業の空洞化と海外資本の逃避を通じて、経済全体として必要な雇用を維持することが不可能となる。
こうした現実を深刻に受け止めた国々においては、すでに、法人税の引下げ競争が始まっている。法人実効税率は、かつては40%が国際標準とされたが、いまやヨーロッパ諸国では30%台前半が標準となりつつある。また、わが国が直接競合するアジア諸国も、もともと税率が低いところに加え、さらに引下げに動いており、諸外国に比べてわが国企業は相対的に劣位の環境におかれている。
そこで、引き続き企業収益が改善し、わが国経済を回復軌道にのせていく中で、次なる課題として、法人実効税率の引下げ(5%程度)を断行すべきであり、少なくとも、ヨーロッパ主要国並みの水準への引下げが必要である。

(5)法人税制の合理化・適正化
  1. 受取配当の益金不算入制度の見直し
    配当は課税済の利益から支払われるものであり、二重課税防止の観点から、法人が受け取る配当については、連結法人に係る受取配当だけでなく、その他の法人に係る受取配当についても、負債利子控除を廃止の上、全額益金不算入とすることが可能でなければならない。少なくとも、平成14年度税制改正において廃止された特定利子については、早急に復活させるべきである。

  2. 投資促進税制の見直し
    平成15年度税制改正において、研究開発促進税制がかつてない規模で拡充されたことは、科学技術創造立国の実現に向けた極めて効果的な税制改正であり、大いに評価できる。ただし、企業の研究開発投資は将来の収益に向けてなされるものであり、当期ないし1年の繰越期間では税額から控除できない額が往々にして発生する。厳しい収益状況の中にあって必死に研究開発投資を維持・強化している企業を支援するため、税額控除限度超過額の繰越期間を5年間に延長すべきである。

(6)早期事業再生の税制措置

金融機関の不良債権処理の加速化は、過剰債務を抱える企業に対して、従来以上に早期の事業再生への取組みを促すとともに、自力再生が困難な状況に至った企業については、債権者の協力を得つつ産業再生機構を含む再生の枠組みを活用することを求めるものとなる。これにより、わが国経済の構造改革に資することとなる。
こうした中で、会社更生法、民事再生法等の法的整理と産業再生機構案件を含む私的整理との間における税制上の取扱いの違い等が、迅速な再生に着手することを遅らせることのないよう、以下の見直しを早急に行なう必要がある。

  1. 繰越欠損金
    (ア) 民事再生法・私的整理ガイドラインについても、会社更生法と同様に債務免除益を期限切れ繰越欠損金から優先して利用できるようにすること。
    (イ) 資産整理に伴う私財提供等があった場合の欠損金の損金算入額の算定に際して、資本積立金を控除しないこととすること。

  2. 仮装経理
    (ア) 仮装経理の場合の更正期間に関連し、税務署長が行なう減額更正期間を現行の5年から7年に延長すること。
    (イ) 仮装経理に基づく過大申告の場合について、更正前事業年度に係る法人税額の還付対象期間を現行の1年から7年とすること。
    (ウ) 仮装経理に基づく過大申告の場合について、現行の税額控除制度から還付制度に変更すること。

  3. 資産評価損益
    (ア) 私的整理ガイドライン等に基づく恣意性がなく合理性が担保される再生計画についても、会社更生法・民事再生法と同様に資産評価損の損金計上を認めること。
    (イ) 民事再生法についても、会社更生法と同様に資産評価益を益金計上し欠損金との相殺を認めること。
    (ウ) 金銭債権についても、評価損の損金計上を認めること。

  4. 貸倒損失
    (ア) 担保価値を考慮することに意味がないことが明らかな場合には、担保付金銭債権の貸倒損失の計上を容認すること。
    (イ) 関係会社の整理・支援損の扱いについて、現行法人税基本通達9−4−1、9−4−2の要件を緩和し、経営悪化の段階での支援を弾力的に認めること。

  5. 貸倒引当金
    (ア) いわゆる形式基準による貸倒引当金の計上事由に、私的整理ガイドライン等を含めること。
    (イ) いわゆる形式基準による貸倒引当金の繰入率を拡大すること。

  6. 債務の株式化(デット・エクイティ・スワップ)
    (ア) 債権の帳簿価額により株式化を行なう限り、債務免除益が生じないことを明確化すること。
    (イ) デット・エクイティ・スワップによる増資については、登録免許税を軽減すること。

  7. 地方税
    法人事業税の外形標準課税に係る資本割及び法人住民税の均等割の課税標準である「資本等の額」から欠損金の填補のために行なわれる資本等の減少を控除すること。

(7)国際租税の適正化
  1. 外国税額控除制度の適正化
    国際的な二重課税を排除し、課税の合理化を図るとともに、海外企業とのイコール・フッティングを実現するため、外国税額控除制度を以下の通り、適正化すべきである。なお、みなし外国税額控除制度のあり方については、わが国企業への影響等を勘案し、慎重な検討が必要である。

    (ア) 繰越限度超過額・控除余裕額の繰越期間の延長
    控除限度額・余裕額の繰越期間を超えて外国税金の確定や修正が遅れることにより、当該外国税金が控除できないケースが多いことから、控除限度超過額・控除余裕額の繰越期間を現行の3年から5年に延長すべきである。

    (イ) 間接外国税額控除対象会社の拡大
    間接税額控除の対象となる会社に係る持株比率の要件を、現行の25%以上から、欧米諸国並みの10%以上とすべきである。
    また、間接税額控除の対象となる会社の範囲を孫会社までから曾孫会社にまで拡大すべきである。

  2. タックス・ヘイブン税制の見直し
    タックス・ヘイブン税制は、いわゆるタックス・ヘイブン国(軽課税国)を利用した税負担の回避を防止する制度である。しかし、現行のタックス・ヘイブン国の判定基準である法人実効税率25%を適用した場合、シンガポール、スイス、台湾といった、いわゆる「タックス・ヘイブン」でない国も軽課税国として認定されることとなる。法人実効税率の引下げの国際的な傾向に対応するためにも、タックス・ヘイブン国の判定基準の「法人実効税率25%」を引き下げるべきである。

  3. 日米租税条約の早期署名・批准
    本年6月に基本合意に達した日米租税条約は、ロイヤリティ、一定の利子・配当の源泉地国非課税等が盛り込まれており、画期的な内容である。早期に署名・批准がなされることが望まれる。

(8)企業組織再編税制の見直し
  1. 分割型新設分割に係る税制措置の整備
    平成13年度税制改正によって導入された企業組織再編税制は、合併、会社分割、現物出資等の企業組織再編を対象とする包括的な制度である。しかし、持分割合が50%を超える株主がいない場合の分割型新設分割は、適格再編の対象とされていない。
    上場会社が分割型新設分割を活用する場合には、持分割合が50%を超える株主がいない場合が通常であるが、米国では、コングロマリット・ディスカウントの除去のため、上場会社による分割型新設分割を活用する事例が多く見られる。このようなコングロマリット・ディスカウントを解消するための分割型新設分割の活用は、資本の効率性の向上及びわが国産業の構造改革に資するものであり、税制がそれを阻害することがあってはならない。
    そこで、持分割合が50%を超える株主がいない場合の分割型新設分割も、企業組織再編税制の適格再編の対象とすべきである。

  2. 親会社株式を対価とする企業組織再編成(産業活力再生特別措置法の特例措置)に係る税制措置の整備
    2003年4月より施行されている改正産業活力再生特別措置法によって、親会社株式等を対価とする合併、株式交換、吸収分割が認められた。しかし、これらの組織再編は、企業組織再編税制における適格再編の対象となっておらず、消滅会社等の株主によるその株式の譲渡・消滅会社等の資産の移転にあたり、課税の繰延べが認められていない。産業活力再生特別措置法に基づく親会社株式を用いた組織再編は、産業競争力強化、わが国産業の構造改革の重要なツールであり、企業組織再編税制と同様に、消滅会社等株式等の譲渡・消滅会社等資産の移転にあたって、課税の繰延べが認められるべきである。

(9)日本型LLC(有限責任会社)の早期導入
  1. 新たな法人税課税のあり方の提案
    現行税法は、原則として、合名・合資会社などの人的会社も含め、全ての法人を法人税課税の対象としている。
    しかし、近年、特定目的会社(SPC)や投資法人のように、法人格に着目して法人税の対象とはするものの、支払配当について損金算入を認める法人や、特定目的信託のように、法人格がないにもかかわらず、法人税の対象としつつ、支払配当については損金算入を認め、SPC等と同様の扱いとする形態も生じている。また、中小企業等投資事業有限責任組合のように、合資会社同様に、有限責任の出資者と無限責任の出資者から構成されるにもかかわらず、任意組合と同様のパス・スルー課税が認められる事業形態も出現している。
    このような現象は、「法人」に対しては法人税を課すとの原則が現実的ではなくなってきていることの表れであり、また、法人格の有無により法人税課税の対象とするか否かを判断するという考え方は、比較法的にも普遍的とは言えない。例えば、米国では、LLC(Limited Liability Company)は法人格を有しているものの、構成員課税を選択することができ、また、ドイツの合名会社、合資会社は、法人格を有するが、構成員課税である。
    したがって、法人格の有無ではなく、経済的実態に着目し、実際の担税力の主体に対して課税を行なうという観点から、法人税課税か構成員課税かを決定すべきである。
    例えば、出資者の持分が転々流通しないことを前提とした組織は構成員課税とすべきである。

  2. 日本型LLCの提案
    また、現在法制審議会において検討が行なわれているいわゆるLLC(有限責任会社)については、ベンチャー等の新規事業の育成、共同研究開発や戦略的な設備の統廃合のための合弁事業、投資ファンドの受け皿、専門的職業のための事業体となること等、わが国経済の活性化にとって、非常に重要な役割を果たすことが期待されている。こうしたニーズに応えるためには、上述の経済実態に着目した課税の考え方に沿って、LLCに法人格を付与する一方、構成員課税とするとともに、出資者全員の有限責任、ガバナンス・利益分配ルールに関するフレキシビリティを確保すべきである。出資者全員の有限責任の確保に関しては、(ア)財務情報の開示による債権者保護か、(イ)資本金による債権者保護が必要となると考えられるが、両者の間に、理論的・経験則的優劣はないため、この点でもフレキシビリティを重視し、(ア)、(イ)は、選択制とすべきである。また、ガバナンス・利益分配ルールに関するフレキシビリティの確保に当たっては、多数決による濫用が行なわれないよう必要な手当てがなされるべきである。

(10)商法等の改正に対応した税制措置等
  1. 不確定金額による報酬の損金算入の容認
    本年4月1日に施行された改正商法により、具体的な算定方法を定款または株主総会で定めれば、不確定金額を役員報酬とすることが明示的に容認された。しかし、現行法人税法上、このような給与を、報酬として損金算入できるかどうかは、必ずしも明らかではない。
    わが国企業が構造改革に取り組む中で、役員の報酬体系も大きく変容を迫られている。こうした中で、形式的・外形的基準によって、報酬と賞与を区別することは適当ではなく、当該給与が実質的に業務執行の対価たる性質を有するかどうかという実質基準を用いるべきである。
    仮に、形式基準を用いるとしても、予め決められた方法によって定期にされるのであれば、報酬として、損金算入を認めるべきであり、「定額」を要件とする必要はない。

  2. 使用人が執行役員に就任した際に支払われる金銭等に対する退職所得としての取扱い
    近年、わが国企業のガバナンス改革の一環として、個別企業独自の制度として「執行役員制度」等を導入する企業が増えている。このような「執行役員制度」の下では、通常の会社において使用人を退職し役員に就任する際に退職金を支給するのと同様に、執行役員に就任する際に退職金を支給するケースが見られる。わが国企業が、競争力強化・株主利益の最大化を求めて行なう自由で独創的なガバナンス改革を阻害しないため、このように支給される金銭を退職所得として統一して扱うべきである。

  3. 外国法人が発行する電子CP(いわゆるサムライ電子CP)の償還差益に係る源泉徴収の免除
    平成14年度税制改正によって、電子CPの償還差益については、源泉徴収が免除されているが、外国法人が発行する電子CPの償還差益については、引き続き源泉徴収の対象となっており、18%の課税がなされている。
    わが国資本市場の発展、円の国際化、内外無差別の観点から、外国法人が発行する電子CPの償還差益についても、源泉徴収を免除すべきである。

  4. 約束手形方式で発行されるCPに係る印紙税の特例措置(1通5,000円の定額税率)の適用期限(平成16年3月末)の延長
    CPについては、いわゆる電子CPに係る制度の整備が進められているが、未だ十分に定着しているとは言えず、約束手形方式によるCPが、引き続き存続することが見込まれている。そうした中で、約束手形方式で発行されるCPに係る印紙税の特例措置が廃止されれば、CP市場・企業の資金調達に与える影響は甚大であり、本特例措置の延長を行なうべきである。

  5. 手形に係る印紙税の減免
    手形に関しては、現在、額面に応じた印紙税課税がなされているが、その額が過大であり、とりわけ中小企業にとって、資金調達・決済の両面で負担となっている。手形に係る印紙税を減免すべきである。

  6. 株券発行に係る印紙税の見直し
    2001年10月の商法改正により、額面株式制度が廃止された。これに伴い、それまで額面を基準としていた株券発行に係る印紙税額の計算方法が変更され、事実上、増税となっている。株券の不発行制度が検討されている折、そもそも券面の発行に対して課税することの根拠は乏しい。そこで、当面、株券発行に係る印紙税は一律1枚200円とし、株券の無券面化に関する法制実現の際には、本印紙税を廃止すべきである。

(11)企業会計基準変更に伴う税制上の取扱い

現行法人税法は、いわゆる「確定決算主義」のもと、法人の収益・費用等の額は一般に公正妥当と認められる会計処理の基準によって計算されるべき旨を定め(法人税法22条)、確定申告は確定した決算に基づき行なう旨を規定している(同74条1項)。この確定決算主義は、企業側の事務負担を軽減するのみならず、課税当局にとっても、税制の簡素化・徴税コストの軽減に資するものであり、なお当分の間は、課税の原則として維持されるべきであると考える。
しかし、近年、国際的整合性の観点から企業会計制度の急速な見直しが進むにつれて、企業会計と税務会計の乖離が著しくなっており、今後、減損会計、企業結合会計が導入されるならば、両者の乖離はますます広がっていく可能性がある。企業会計基準の変化を念頭に置きつつ税制においても適宜必要な改正を行なうべきであり、今後両者のあり方について早期の検討が必要である。

2.個人所得課税

先に「近い将来における税制改革のあり方についての意見(2003年5月)」において指摘したように、わが国の個人の所得課税負担(所得税・個人住民税)と社会保険料負担(給与所得者であれば被用者負担分)を合計した公的負担全体の水準は、現状においてはヨーロッパ諸国よりも低い水準にある。
しかしながら、公的年金、医療保険、介護保険の保険料の水準は、政府の将来予測に従うならば今後大幅に増加する。そのため、税負担が現状の水準に止まるとしても、2025年には社会保険料負担と税負担をあわせた個人ベースでの公的負担全体の水準は大きく上昇し、経済活力に対する重大な阻害要因となる。
一方、所得税の課税最低限については、平成15年度税制改正で専業主婦に対する配偶者特別控除の上乗せ分が廃止されたことにより、モデル給与所得者世帯(夫婦子2人、うち1人が特定扶養控除の対象)では384.2万円から一挙に325万円まで低下し、ドイツ、フランスよりも低水準、ほぼ米国並みとなり、少なくとも現役世代については、これ以上の負担増を求めることはできない。
今後の個人所得課税の改革は、現役世代と年金受給者との間の負担のアンバランスの解消に重点をおくべきであり、また、各種控除の見直し等により課税ベースを拡大するならば、併せて累進税率構造の緩和により全体としての負担水準の増加を抑制していくことが必要である。

(1)年金税制の見直し

年金税制については、2004年の公的年金改革で検討されている給付のスリム化も見据えつつ、抜本的な改革を実現すべきである。見直しに当たっては、世代間の税負担の不公平是正、国民の自助努力を促す税制の構築を目指すことを重視し、拠出時・運用時非課税、受給時課税の原則を確立しつつ、以下の改革を実現すべきである。

  1. 運用時非課税の原則に鑑みて、年金積立金に係る特別法人税は即刻廃止すべきである。
  2. 高齢者世代と現役世代との間に税負担の不公平をもたらしている公的年金等控除について、原則として廃止すべきである。
  3. 確定拠出年金を、確定給付企業年金と並ぶ基幹制度として確立し、国民一人ひとりの自己責任や自助努力による老後の生活保障の確保を支援するためには、拠出限度額を大幅に引き上げることが必要不可欠である。また、加入者からの強い要望に応えられるよう、死亡・高度障害以外の事由及び中途脱退時の少額資産の引出しを容認すべきである。さらに、加入者の自助努力をより一層促すため、マッチング拠出を認めることも必要である。
  4. 企業年金のポータビリティについて、企業の組織再編や雇用の流動化の阻害要因とならないよう、確定給付企業年金間及び確定給付企業年金と確定拠出年金との間で、非課税による年金原資の移管を可能とすべきである。

(2)諸控除の見直しと累進税率構造の緩和
  1. 人的控除の見直し
    現行の所得税・個人住民税は、各種控除制度により、課税ベースが大きく狭められている。加えて、これらの控除制度は、少子高齢化の進展、単身・核家族世帯の増加等をはじめとする家族構成の変化、女性の社会進出や就業形態の変化等の社会の移り変わりに対応しないまま、半ば既得権化されている。
    国民一人ひとりが広く薄く税負担を分かち合うという基本理念に立ち、所得課税について課税ベースを適正化するとともに、累進税率構造の緩和を進めることによって、活力を引き出すことが喫緊の課題である。
    同時に、個々の納税者にとって分かり易い簡素な制度にすることによって、納税に対する意識と納得性を高め、より多くの国民が納税を通じた社会への参加意識を向上できる制度としていくことが重要である。
    具体的には、人的な所得控除制度は、基礎、配偶者、扶養の3控除に集中し、とりわけ扶養控除に重点を置くべきである。一方で、現役世代と高齢者世帯との負担のひずみを是正するために、公的年金等控除の廃止に加えて、老年者控除、及び配偶者控除・扶養控除の老人加算は速やかに縮減すべきである。

  2. 給与所得控除の見直し
    給与所得控除制度については、給与所得者の必要経費の概算控除との性格を超えた優遇措置となっていることは否定できず、公的年金等控除の廃止と併せて、そのあり方を見直していく必要がある。しかしながら、給与所得控除制度には、実質的に自営業者、農業者等との負担格差を緩和する効果、あるいは累進税率構造を緩和している効果が期待されており、そのあり方を見直すには、同時に、累進税率構造の一層の緩和や恒久的な住宅税制、能力向上を目指す個人の自己投資を促す税制などの検討が不可欠であるとともに、自営業者などに対する所得捕捉を厳格に行ない、税負担の格差や不公平感の解消を行なうことが前提となる。

  3. 累進税率構造の緩和
    わが国の所得税は、急激な累進税率構造を特徴としており、各種控除の見直しを進めることにより課税最低限がさらに引き下げられるならば、中堅以上の所得層の負担は過重なものとなる。
    所得再分配が所得課税の機能の一つであるとしても、累進課税に過度に依存するならば、高い能力をもった個人の勤労意欲が損なわれ、ひいては経済活力が削がれる惧れがある。終身雇用制度や年功序列などの旧来の日本型労働慣行が急速に形を変え、年俸制度やストックオプション等により成果主義的な報酬制度を採用する企業が増えていくなかで、個人の勤労意欲を高め、その努力が実際に手にする報酬に結びつくような所得課税に改めていくことが必要である。
    そのためにも、恒久的減税として措置されている定率減税を制度化するとともに、所得税・個人住民税をあわせた最高税率を法人税実効税率の水準にまで引き下げることをはじめ、一層の税率の軽減を行ない、急激な累進税率構造を緩和していく必要がある。

(3)住宅税制の改革

良質な住宅・住環境の整備は、国民にゆとりある生活を実現させ、明日への創造力と活力を生み出す源泉となる。加えて、家族の絆の強化や良好なコミュニティの形成等を通じて、わが国社会の安定化にも寄与する。このように住宅は社会インフラとしての側面を持っており、諸外国においても住宅取得には国が手厚い支援を講じている。例えば米国では約7兆9,300億円もの住宅減税(2003年・予算ベース)を行なっている。政府の住宅関係予算総額の対GDP比割合を見ても、わが国が0.18%(2002年度)であるのに対し、米国では0.34%(2001年度)、英国1.48%(2001年度)、フランス0.70%(2002年度)、ドイツ0.22%(2002年度)となっている。わが国においても、質の高い住宅・住環境づくりを誘導する税制を構築し、ひいてはその高い経済波及効果により経済全体の回復の原動力とすべきである。日本経団連では2003年6月に『「住みやすさ」で世界に誇れる国づくり−住宅政策への提言−』を公表し、税制・規制改革一体となった住宅政策の充実を求めているが、来年度税制改正においては、とくに以下の措置を講じるべきである。

  1. 「住宅ローン減税」の延長・拡充、「住宅投資減税」の導入
    すでに住宅総数が総世帯数を上回っているわが国では、住宅の量から質への転換が求められている。住宅の質の向上を図るためには、住宅への投資そのものを奨励し、促進させる政策税制が必要であり、従来の「借入れをした個人」に対する支援から、社会インフラとしての「住宅」それ自体に着目し、自己資金を含めた減税措置を講じるべきである。そのため、本年12月末に適用期限を迎える住宅ローン減税制度を延長するとともに、この際、借入金に加えて自己資金の一定比率を控除する「住宅投資減税」として再構築すべきである。

    具体的には、
    (ア) 住宅ローン減税制度を延長するとともに、住宅投資減税として拡充する。
    (イ) 借入れによらない自己資金を含めた住宅投資額の一定率(1%/年)を税額控除する(現行:借入金残高の1%/年を10年間にわたり税額控除)。
    (ウ) 控除対象期間を延長する(10年→15年)。
    (エ) 所得要件(3,000万円以下)を撤廃する。
    (オ) 築後経過年数要件を緩和する(鉄筋コンクリート造等25年以内→30年以内。その他20年以内→25年以内)。
    (カ) 償還期間の要件(10年以上)を撤廃する。
    (キ) 二戸目住宅に適用を拡大する。

  2. 居住用財産の譲渡損失の繰越控除制度の拡充・延長
    個人のライフステージに応じた住み替えの促進などの観点から、居住用財産の買換えに伴う譲渡損失の繰越控除制度について、ローンを組まずに買い換えた場合や賃貸住宅に住み替えた場合にも適用するなど、買換要件を撤廃した上で、本特例の適用期限を延長すべきである。

  3. 住宅の買換・取得に係る特例の延長
    特定の居住用財産の買換特例の延長や住宅等に係る不動産取得税の特例の適用期限延長等の措置も必要である。

(4)金融証券税制
  1. 金融証券税制の一元化の推進
    日本経団連では、かねてより、資本から得られる金融所得を一括して認識し、金融商品間の損益通算や損失の繰越しを可能としたうえで、勤労所得とは別途に定率で課税する仕組みとしての「二元的所得税」の導入を主張してきた。
    平成15年度改正では、金融証券税制について、資本市場活性化の観点、さらには、金融証券税制一元化の展望のもとに、株式譲渡益、株式投信、配当について、確定申告を要しない簡素な課税の仕組みが導入されるとともに、税率についても当面5年間は預貯金利子よりも有利な10%に統一されるなど、大きな前進がなされた。昨今、株式市場が一時期の危機的状況を脱し、回復への道筋をたどりはじめたことは、有効な税制措置が講じられるならば、経済の活性化に着実に結びつくことの証左である。
    引き続き、納税者番号制度の導入をはじめとするインフラ面からの整備を進めつつ、金融証券税制一元化に向けた改正を段階的に進めるべきであり、当面、平成15年度改正に続く第二弾として、株式配当等を損益通算の対象に含めることが必要である。

  2. 個人投資家育成のための税制措置
    株式市場の安定化を実現するためには、個人が保有する1,400兆円とされる巨額の金融資産が、株式市場に振り向けられることが欠かせない課題である。個人投資家育成のために、税制面からも一層の奨励策が必要であり、例えば、個人の株式投資を税制面から奨励する日本型PEP(パーソナル・エクイティ・プラン)の導入や、従業員持株会に対する奨励金を非課税扱いにするなどの措置を検討すべきである。
    また、個人金融資産の大部分が高齢者に保有されていることからは、相続税・贈与税において、上場株式等を固定資産等に比べて結果的に不利な扱いとしている現行評価制度の見直しが必要である。

  3. 起業投資への支援措置
    経済の新たな発展には、様々な分野で新たな事業が生成していくことが不可欠であり、リスクの高い創業期における企業への投資について税制においてもさらなる支援を行なうことが求められている。具体的には、既存のエンジェル税制を拡充し、個人投資家が創業期にある企業に対して出資する場合の所得控除制度、あるいは譲渡損失の他所得との相殺を検討すべきである。また、平成15年度税制改正で導入されたベンチャー企業への投資額を株式譲渡益から控除可能とする措置について、地方税(住民税)についても導入すべきである。

  4. 緊急的な市場安定化措置
    一方で、株式市場は未だ構造的な不安定的要因を抱えており、今後、株価が極端に下落し、金融システムの動揺などを通じて、わが国経済が壊滅的な打撃を受けることが予想される場合には、株式需給の改善をはじめとする緊急市場対策の一環として、譲渡損失の他所得との通算、配当・譲渡益の一時的非課税など、平時のロジックをこえた言わば有事としての税制措置を迅速に講じることも必要である。

3.土地税制

わが国の土地税制は、法人の土地譲渡益重課の凍結などの措置はとられているものの、土地を有利な資産として重く課税する体系を維持している。企業が国を選び、地域を選ぶことが求められる大競争時代の中で、わが国に立地し、わが国経済を支える多くの企業に対し、不動産や設備に対する過大な保有コストを強いる固定資産税・都市計画税の放置は、不動産等の資産価値を引き下げ、デフレを深刻化させるのみならず、わが国産業の競争力の低下を招いている。また産業構造の転換を円滑なものとするためにも、不動産等の譲渡・買換えに多大なコストがかかることがあってはならない。わが国産業の競争力を強化する観点から、保有・譲渡の両面にわたる土地税制の改革が必要である。

(1)固定資産税・都市計画税の見直し
  1. 土地に係る固定資産税の適正化・均衡化
    土地に係る固定資産税・都市計画税は、地価が一貫して下落を続けるなかで、その負担が過重なものとなっている。とりわけ、大都市部の商業地、工場用地の固定資産税は、負担が平均の実効税率(全国商業地等で0.57%[2001年度])を大きく超えているものも少なくなく、景気の低迷により収益力が悪化しているなかで、事業自体の存続を脅かすものとなっている。本年6月26日の最高裁判決は、「適正な時価」を「客観的な交換価値」とした上でこれを上回る固定資産税の価格を違法であると判示したが、この判決が示唆するところは大きい。
    地方財政の逼迫を理由に、平成15年度税制改正において固定資産税・都市計画税の見直しがなされなかったのは大きな問題であり、平成15年度与党税制改正大綱に掲げられた通り、土地に係る固定資産税のあり方については、直ちに以下の見直しをすべきである。

    (ア) 負担水準の適正化
    現在、土地の固定資産税の負担水準(評価額に対する課税標準額の割合)は、60〜70%を据え置くべき水準とし、60%以下のものは60%まで一定割合で引き上げ、70%超のものは70%まで引き下げる負担調整措置が講じられている。しかし、60〜70%という水準は「あるべき負担水準」として妥当とする根拠に乏しい。現実に、バブル以前に比べて地価は13%減少(全国商業地等・昭和58年を100とすると平成14年は87)しているのにもかかわらず、固定資産税収は2.3倍(同9,401億円→2兆1,990億円)となっており、60〜70%という高すぎる水準を目標とする負担調整措置は、かかる異常な負担増を調整する機能を果たし得ていない。平成14年度の全国商業地等の負担水準は57.6%に到達しているが、懸命に事業のリストラクチャリングに取り組む経済界の収益力から見て、これ以上の負担水準が「あるべき負担水準」とは思われない。バブル前の地価安定期の負担水準に鑑み、負担水準を55%へと適正化するよう、改革のスケジュールを明示すべきである。

    (イ) 負担水準の均衡化
    固定資産税の負担水準は地域・業態によってのばらつきが顕著であり、課税の公平性を害している。現在の10%もの幅を認めた負担調整の仕組みは、同評価の土地に対して異なる税負担を容認している。さらに、下限値への到達に数十年を要するというのは、制度に問題があるといわざるを得ない。早急にこうした不公平を是正すべきである。まずは負担水準の上限70%を速やかに引き下げ、均衡化に向けた取組みを進めるべきである。

    (ウ) 分かりやすい制度の構築
    固定資産税を市町村税の基幹税と位置付けていく以上、負担水準の適正化・均衡化を進めつつ、地価公示価格に対する7割評価の是非も含め制度のあり方を今一度見直すことが必要である。土地に係る固定資産税は、公示地価の7割程度とされる評価額に負担水準に応じた負担調整率をかけた上で税率をかけるという複雑な仕組みとなっており、分かりやすい仕組みとするよう、制度を見直すべきである。

  2. 建物に係る固定資産税の抜本改革
    建物に係る固定資産税の実効税率は、バブル崩壊後もほぼ一貫して上昇を続け、非住宅の建物の実効税率は1991年の0.59%から2000年には0.79%に達している。これはその間の固定資産税評価総額が非木造非住宅で1.49倍(7,407百億円→11,011百億円)に達していることに見られるように評価額の伸びに一因がある。建物の評価が実勢よりも高くなり、固定資産税評価額が時価を上回るケースも多いが、時価を上回る評価額を課税標準とすることは、地方税法の規定に反している。固定資産税の評価には、再建築価格を基準とする評価方法がとられているが、不動産の交換価値が担保価値=資金調達力を示していた時代の評価方法となっており、デフレ時代にあっては不適切である。建物に係る固定資産税の趣旨が不明確なものとなっていることは多くの識者が指摘するところであり(例えば自由民主党「土地にかかる固定資産税のあり方勉強会」)、建物の評価方法を抜本的に見直し、建物の収益力(収益還元価値)を基準とする評価方式へ転換することが必要である。
    当面の措置として、(a)固定資産税に係る建物評価の基準となっている経年減点補正率基準表に定める「経過年数」を、法人税法上の減価償却資産の「耐用年数」(投下資本の費用配分期間を算出)並みに短縮するとともに、建築設備については別途の経年減点補正率表を設けるべきである(鉄筋コンクリート造事務所の経過年数65年を50年、建築設備を15年(最長)とする等)。また、(b)経年減点補正率基準表における残価率20%を、減価償却資産並みの10%に引き下げるべきである。

  3. 償却資産に係る固定資産税の廃止
    事業用の償却資産に係る固定資産税は、税収1.7兆円が見込まれ、市町村税収(18.7兆円)の8.9%を占める(平成15年度計画)。そもそも生産財である償却資産に対する保有課税は収益課税との二重課税であり、課税の根拠が不明確である。国際的に見ても償却資産に対する課税は極めて異例であり、産業の国際競争力を阻害するものとなっている。また、課税が特定の設備型産業に偏重し、課税の中立性にも問題がある。
    償却資産に対する課税は廃止すべきである。

(2)土地譲渡益重課の廃止

土地譲渡益重課は、土地を他の資産と比較して不公平に取り扱うものであり、土地神話が崩壊した土地市場の状況に鑑みれば、土地の投機を防止するという観点からの根拠にも乏しい。仮に、現在停止されている重課措置が復活すれば、企業のリストラ、事業再編に重い足枷となる(日本経団連の関係部会で平成16年度末までに土地を売却する予定のある企業43社のうち、売却面積を減らす、あるいは事業計画等に影響ありとした企業40社)。法人の土地譲渡所得課税の重課措置(長期・短期)については廃止すべきである。
また、個人の土地長期譲渡所得課税については、株式など他の資産との均衡の観点から、一般長期譲渡について税率を一律20%、優良長期譲渡については14%に引き下げるべきである。

(3)特定の事業用資産の買換特例の延長

事業の再編、新規事業分野への進出などを円滑に進める上で、特定の事業用資産の買換特例(とくに22号買換え)は、現在、各企業で有効に活用されている(日本経団連関係部会の企業で過去3年間に同特例を活用した企業中、更新・維持補修目的・生産能力増強目的で買い換えを行なった案件56%、合理化省力化目的同17%、省エネルギー目的同16%)。こうした買換えを促進することにより、産業構造の転換を円滑に進めるため、適用期限を延長すべきである。

(4)都市再生に資する税制の整備

わが国都市を魅力あるものとし、都市の国際競争力を向上させるために、都市部での民間プロジェクトを推進することが重要である。不動産の証券化の促進に有効な、投資法人及び特定目的会社が不動産を取得した場合の登録免許税の軽減措置(所有権の移転登記1000分の6、質権・抵当権の設定登記1000分の1)を拡充し、適用期限を延長すべきである。また、投資法人等による特定目的会社発行の優先出資証券の保有規制の撤廃や、金融機関が投資法人や特定目的会社等への貸出債権を流動化できる措置を講じるべきである。
さらに、民間のノウハウや創意工夫により公共施設の整備を行なうPFI事業の一層の拡充のためには、公共事業として実施する場合との課税のイコール・フッティングを図るべきである。具体的には、(1)BTO方式(民間事業者が施設を建設し、完成後に公共に所有権を移転し、民間事業者が管理・運営をする方式)のみならずBOT方式(民間が施設を建設・管理・運営をし、事業終了後に公共に所有権を移転する)の場合においても固定資産税・都市計画税等を非課税とすべきである。(2)PFI事業の契約期間に応じた償却や大規模修繕費等の積立を可能とする税制上の措置をさらに充実すべきである。

4.地方税

新しい豊かさを発信できる特色ある地域が新たな発展の礎となるとの考え方は、もはや共通の認識である。「官から民へ」、「国から地方へ」という諸改革の流れの中で、地域の主体性を最大限活かし、真の意味での地方分権を推進するためには、国から地方へ各種の行政権限を移管するとともに、各地方自治体が財源に対する責任を有し、自らの力で財政運営を行なっていく必要がある。そのため、国庫補助負担金、地方交付税の見直し、税源の移譲の三位一体の改革に早急に取り組むことが求められている。
とりわけ、国と地方の歳出割合が4対6であるのに対し、租税総額に占める地方税の割合は約4割に過ぎず、歳出規模と地方税収入との間に大きな乖離が生じている現状において、地方の財政基盤の確立に向けて、国から地方への税源移譲を進めることが地方分権改革における実質的な推進力となる。

(1)基幹税としての個人住民税等の拡充
  1. 受益と負担の選択による税割分税率の自由化
    地方分権社会においては、受益者である地域住民にとって身近な地方自治体が、地域の特性や住民の多様なニーズを的確に反映した地域づくりを通じて行政サービス水準の向上を図ることが、結果として、地域に新たな財源を生み出すこととなる。そのため、各地方自治体が提供する行政サービスは、受益と負担の関係を明確にしたうえで、選挙権を有する地域住民の自立的な選択により決定される必要がある。
    そのため、そうした行政サービスの財源となる地方税は、基本的には、個々の住民が主たる担税者である税目によることが望ましい。とりわけ、地域住民が薄く広く負担を分かち合える「個人住民税」を、地方自治体を支える基本的な税制と位置付けて、地方税改革を進めるべきである。
    住民税については、一応の標準税率は設定されているが、現行地方税法上も地方自治体が独自に税率を設定することが可能であり、2000年4月の地方分権一括法施行により、その上限となる制限税率も撤廃されている。しかし、超過課税を実施している地方自治体2,433団体のうち、法人住民税に対して市町村1,428団体、都道府県46団体が超過課税を行なっているのに対し、個人住民税に対して超過課税を行なっている地方自治体は18団体にすぎないのが実態である。
    各地方自治体が、地域の個性や特性を活かした課税を行なうためには、国から移譲された税源に止まらず、住民の理解を得つつ、超過課税や不均一課税を積極的に活用し、その税率についても自由化を図るべきである。

  2. 均等割の引上げ
    また、個人住民税均等割についても、均等割が創設された昭和25年度には、個人住民税収全体に占める均等割額は18.3%であったのに対し、平成13年度には2.0%まで低下しており、「負担分任」との考え方にそぐわない低い水準に止まっている。その後の国民所得等の推移を踏まえ、地域住民が、受益に見合った負担を行なうためには、個人住民税均等割の水準についても、大幅に引き上げる必要がある。

(2)地方法人課税の見直し
  1. 法人事業税の外形標準課税の再検討
    平成15年度税制改正により、資本金1億円超の法人を対象に、法人事業税の外形標準課税が導入され、平成16年4月から施行される予定である。本制度の導入の趣旨は、法人事業税収が、景気に左右されることなく、安定財源となるよう、法人の事業規模に応じて薄く、広く、公平に、地方自治体の行なう各種の行政サービスに対する負担を行なうようにすることである。
    本来、このような制度の導入は、地方自治体の行財政改革の徹底が大前提となるが、実際には、「税収の確保」のみが優先され、地方法人課税全体を総合的に見直すことなしに、法人事業税のみを取り出して、従来にない課税ベースを新設するものであり、いたずらに税体系を複雑化させ、税制の簡素化に逆行するものでしかない。
    また、その仕組みについても、課税対象を資本金1億円超の法人に限定したために、赤字法人に対しても受益に応じて適正な負担を求めるとの制度本来の趣旨と乖離したものとなっている。加えて、資本等の金額に課税を行なう「資本割」は、企業の自己資本の充実、分社化等の企業組織の再編、設備投資の拡大など、企業の競争力強化に向けた取り組みを阻害する可能性がある。さらに、「付加価値割」は賃金課税に他ならず、厳しい経済情勢のなかで、雇用の維持・拡大を図るために必死の努力を行なっている企業の活動に重大な悪影響を与える。
    以上のように、外形標準課税は、極めて問題が多い税制であり、日本経済が正念場を迎えるこの時期に、このような制度を拙速に導入することは望ましくないと思われる。本制度の仕組みについては、制度本来の趣旨を徹底させ、企業の規模にかかわらず、その受益に見合った負担を行なうとともに、個人事業者に対しても、応益に応じて同等の負担を求めることなど、受益と負担の一致を基本に、導入時期もあわせて再度検討する必要がある。

  2. 法人住民税・法人事業税の縮減
    企業も地域の一員として、必要な応益負担を行なう責務があるとしても、現状の負担水準は、行政サービスに対する受益とは関係なく、多くの地方自治体が法人に対する超過課税を実施しており、法人に対して、過度に依存した税体系となっている。
    法人所得に対する課税は景気状況により大きく変動する一方、不況期には景気対策として地方自治体に過大な単独事業や信用保証・融資の実施を求めるなど、景気変動リスクを地方自治体に負わせることにはそもそも限界がある。そのため、自治体の果たすべき役割から、景気対策や中小・零細企業対策以外の産業振興を削除する一方、一般企業の応益負担はその負担の適正化を図った上で固定資産税・都市計画税、事業所税を中心とし、法人事業税・法人住民税を縮減すべきである。

(3)法定外地方税の見直し等
  1. 超過課税等
    前述の通り、地方税は、それぞれの地域の住民の受益と負担の選択によるものであり、その税率についても、国が一律に定める必要はないことから、住民による受益と負担の選択のうえで、超過課税や不均一課税を積極的に活用し、その税率について各自治体の自主的な決定に委ねるべきである。しかしながら、地方自治体が実施している超過課税の実態を見るならば、事実上、企業のみへの重課となっており、地域の企業活動を阻害し、地域経済を停滞させる要因となっている。
    このように、選挙を通じて意思決定に参加することのない法人企業に対してのみ超過負担を求めるのではなく、同一税目について超過課税を行なうならば、個人と法人双方に対して同様の扱いとすることを、制度面からも担保すべきである。

  2. 法定外税のあり方
    また、2000年4月の地方分権一括法施行により、課税自主権の観点から、法定外税の実施が総務大臣の許可制から同意を要する協議制に改められ、全国の地方自治体に独自課税の動きが活発化しつつある。
    地方自治体の独自課税においても、前述の地方税の原則に照らせば、地域住民の自己責任と自主的な判断に基づき、住民個々人が負担する税を基本とするべきであり、法定外普通税や法定外目的税についても、特色ある行政サービスを提供する財源として積極的に活用することも必要である。
    その際、地方の自立性のみが一人歩きし、無駄な事業の実施を通じて、住民に過度な負担を強いることがあってはならない。法定外税においても課税の合理性、負担水準の適正性、負担者である納税者や特別徴収義務者の納得、同意は不可欠であることから、法定外税に係る大臣同意要件について、適切な見直しを行なう必要がある。
    また、選挙を通じて意思を明らかにすることができない法人企業を対象として課税を行なう場合には、少なくとも、事前に納税者となる法人企業から意見を聴する制度を創設すべきである。

5.環境税

(1)地球温暖化対策と「環境税」

地球温暖化問題は国民一人ひとりの日常生活や経済活動に深く関わる問題であり、その解決には国民全体の理解と主体的な参加・協力が不可欠である。こうした観点から、地球温暖化対策を進める上でまず求められるのは、すでに国民の間でコンセンサスのある地球温暖化対策推進大綱に盛り込まれた施策を着実に実施することである。
地球温暖化対策推進大綱においては、まず、第1ステップ(2002〜2004年)の対策を講じ、「第2ステップ及び第3ステップの前に対策・施策の進捗状況・排出状況等を評価し、必要な追加的対策・施策を講じていくステップ・バイ・ステップのアプローチを採用する」としている。当面これに沿って、まず、第1ステップの各部門における対策の成果を評価し、これに基づき、必要な追加策を検討すべきである。
また、大綱は、税、課徴金等の経済的手法について、「他の手法との比較を行ないながら、環境保全上の効果、マクロ経済・産業競争力等国民経済に与える影響、諸外国における取組みの現状等の論点について、地球環境保全上の効果が適切に確保されるよう国際的な連携に配慮しつつ、様々な場で引き続き総合的に検討する」としている。政府税制調査会の「少子・高齢社会における税制のあり方(2003年6月)」も、「それぞれの環境問題の性格に応じて、各種の手法の特徴を踏まえた適切な組み合わせを考えていくことが必要である」とし、この考え方を踏襲している。政府税調は、これに加えて、公的サービスの財源調達という租税の基本的な機能に照らして環境問題に対して税制面で対応することが適当かどうか、環境負荷の原因者に追加的な負担を求めることで生じる税収を地球温暖化対策などの環境対策のために用いるべきかどうか、一般財源か目的税・特定財源か、揮発油税、軽油引取税、石油石炭税など既存のエネルギー課税との関係をどう考えるか、といった論点・留意点を指摘している。
経済的手法を検討するにあたっては、これらの諸点について、徹底的な議論・検証が必要である。また、歳出面に関してもエネルギー特別会計等との調整や一般会計との整理の問題も検討されるべきである。
以上のような総合的・網羅的な検討が行なわれないまま、「環境税」の導入の議論を進めることは、本末転倒である。

(2)「森林環境・水源税」

また、最近、「森林環境・水源税」の創設に関する議論が行なわれているが、工業用水等の利水者は、すでに取水量に応じて応分の負担をしており、また、森林整備対策費などの基金にも協力してきている。森林・河川の保全については、その利益は国民一般が受けるものであり、基本的に国民が広く負担する一般財源で賄うべきものである。

6.公平かつ効率的な徴税システムの確立

(1)納税者番号制度の早期導入

全ての納税者の所得を確実に捕捉し、納税者間の公平性を確保することは、税制に対する国民の信頼のもとにあらゆる税制改正を進める上での大前提となるものである。かかる観点から、わが国ではかねてより納税者番号制度の導入に向けた検討が進められてきたが、依然として実現に向けた道筋は明らかとなっていない。近年の金融取引の高度化・複雑化等に対応し、いわゆる「二元的所得税(金融・証券税制の一元化)」を導入するためにも、納税者番号は不可欠であり、制度導入の必要性は以前にもまして高まっている。政府・与党においては、納税者番号制度の早期導入に向けて、国民の間のコンセンサス作りに努めるとともに、まずは、具体的な導入方法・スケジュールを明確に示すべきである。

(2)電子申告・納税制度の導入

簡素かつ簡便な納税申告が可能になれば、納税者自身による申告の慣行が広がり、納税を通じた社会参加の意識を一層高揚させ、税金の使途や行政への関心をより高めていくことが期待される。経済社会の電子化・情報化の進展と歩調を合わせ、簡易な電子申告制度を確立・普及させていくべきである。
とくに、納税者番号制度の導入と併せて電子申告制度が普及すれば、納税者にとって納税コストの削減などのメリットが大きいばかりでなく、徴税者側の徴税コストが大幅に削減されることも期待される。本格的な導入を急ぐべきである。

(3)納税者の権利の尊重

租税制度に対する納税者の信頼を高めるとともに、税務執行における無用なトラブルをなくすためには、税務行政における適正かつ具体的な手続規定を定め、納税者の権利を尊重する必要がある。海外諸国では、納税者の権利保護法や権利憲章を定めている国も多いが、わが国でも少なくとも、税務調査に際しては事前の通知と調査期間の明示、終了の通知を行なうようにするとともに、提出書類についても明文化すべきである。また、調査により税額を変更する場合は理由を明記した更正処分によるべきである。さらに、税務行政を行政手続法の対象に含めるべきである。

以上

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