[ 日本経団連 ] [ 意見書 ]

平成17年度税制改正に関する提言

2004年9月21日
(社)日本経済団体連合会

はじめに

わが国経済は、90年代以降、かつてないほど長期にわたる低迷を経験したが、民間企業の懸命の経営改革努力、さらに、税制改革をはじめとする構造改革の効果もあいまって、ようやくバブル崩壊後のトンネルを抜け出たかに見える。
緒につき始めた景気回復を、自律的かつ本格的な経済成長につなげていくためには、企業の国際競争力強化と個人消費の持続的拡大が必要不可欠であり、あらゆる政策努力を集中していかなければならない。
平成17年度税制改正は、このような重要なタイミングにおいて、行なわれるものである。

一方、今後の日本経済にとっての最大のリスク要因は、財政赤字や社会保障制度の肥大化に歯止めがかからず、潜在的国民負担率が急上昇しかねないことである。
これは、中長期的に解決すべき問題では決してなく、長期金利の急上昇による景気の腰折れの可能性が無視しえないこと、持続可能な社会保障制度の姿が国民に示されない限り個人消費の安定的拡大も見込むことができないことなどから、まさに今そこにある危機と言わなければならない。
その意味で、税・財政、社会保障制度を一体的に改革することこそが、構造改革の真の本丸に位置付けられなければならない。

これから2〜3年間は、計画的かつ集中的に改革を進める好機であり、この間に必ず、新世紀初頭における構造改革の総仕上げをやり遂げなければならない。

I.税・財政、社会保障の一体改革と平成17年度税制改正

1.一体改革の必要性

バブル崩壊後のわが国経済の重しとなってきた民間部門の過剰債務・不良債権問題は、官民双方の努力が奏効し、着実に縮小しつつある。この間、民間企業は、懸命な経営改革努力により、確実に収益の出る企業体質を作り上げ、今まさに「攻めの経営戦略」に乗り出しつつある。
一方で、公的部門の二つの債務、即ち、国・地方の長期債務残高と、公的年金給付債務の急増はとどまるところを知らず、合計で1,000兆円を超える規模となっている。今や過剰債務問題は「民から官」へと明白に移行したと言える。
日本経団連によるシミュレーション<PDF> によれば、現状を放置すれば、2025年度の政府債務残高はGDPの約5倍と、到底制御不可能な領域に達する。ただし、現実にはそれより前に、日本経済そのものが崩落することとなろう。
この公的部門における過剰債務を、早急に適正な規模に抑制し、持続可能な税・財政、社会保障制度を構築していくことこそが、わが国構造改革の最大の課題である。

昨年の平成16年度税制改正が、税制単独での議論にとどまらず、公的年金制度改革、国・地方財政の三位一体改革と並行して議論されたことは、これらを一体で改革することが不可欠、かつ急務であることの何よりの証左である。しかし、平成16年度税制改正大綱においても、あるいは、社会保障改革、三位一体改革のいずれにおいても、現段階では、全体的な改革の絵姿のごく一部が提示されているに過ぎない。
日本経済の活力を将来においても維持・強化していくため、全ての改革に通ずる根本的な目標として、中長期的に潜在的国民負担率を50%程度に抑制することが必要である。かかる目標を達成可能とすることを前提に、国・地方を通じた税・財政、社会保障制度の大胆な組み替えを進めていかなければならない。

2.平成17年度税制改正の位置付けと税制抜本改革の全体像

(1) 平成17年度税制改正は好機

平成16年度税制改正大綱では、平成17〜19年度までの税制改革の大まかなスケジュールが示された。これは、単年度の見直しに終始してきたこれまでの税制改正に比べれば、一歩前進と言うことができる。
しかし、その内容は部分的なものにとどまっており、経済活力の維持・強化と国際的なイコール・フッティングを実現するために必要な税制は何か、中長期的に必要な歳入の水準をどう確保するか、さらに、国と地方でそれぞれに相応しい税目をどう整理するかといった、税体系の抜本改革の全体像は、必ずしも明らかになっていない。
平成17年度税制改正では、平成16年度税制改正大綱が示した姿勢をさらに進め、国・地方を通じた抜本的税制改革の見取り図とスケジュールを示す必要がある。

(2) 税制抜本改革の視点

税制に関する基本原則としては、かねてより公平・簡素・中立の三つが重視されてきたが、少子・高齢社会においても引き続き活力ある経済社会を維持していくためには、これらに加え、経済の「活力」を強化していく観点、また、中長期的な「持続可能性」を確保する観点が重要となる。

これらの観点を踏まえつつ、来たるべき税制の抜本改革を展望すれば、まず、国税においては、消費税と個人所得税の二税を基幹税とし、これらを中心に必要な歳入水準を確保していく必要がある。
とりわけ、社会保障を中心とする歳出増に対応するためには、国民全体が広く負担し、経済への影響も比較的少ない消費税を拡充することが不可欠である。消費税率は、平成19年度に地方消費税とあわせて10%まで引き上げ、その後も、段階的に引き上げていく必要がある。なお、それまでに、インボイス方式、複数税率の導入等の制度整備について検討する必要がある。
一方、法人課税については、国際的なイコール・フッティングを確保し、わが国企業の国際競争力を強化する観点が、第一に求められる。そこで、法人所得に対する課税は、国税への集約を図りつつ、国際的にも高い水準にある法人実効税率の引下げを図る必要がある。
また、そうした観点からすれば、環境税の導入は、わが国産業全体の国際競争力の低下、国内産業の空洞化など、わが国経済に深刻な影響を及ぼすことが懸念されるのみならず、地球規模での温暖化対策としてもマイナスの効果をもたらすものであり、到底容認できるものではない。
また、地方税財政においては、地域における受益と負担の関係を明確にすることが、まず必要である。地方税については、地域住民を主たる担税者とする税目(個人住民税、固定資産税)を中心とするべきであり、さらに、地方消費税の拡充を図っていく必要がある。

II.法人課税

1.法人課税改革の全体像

近年、わが国法人課税については、研究開発・IT投資促進税制の創設や、企業再編税制、連結納税制度の導入など、大規模な改革が着々と実現し、企業の経営改革努力ともあいまって、わが国経済の活性化に貢献してきている。
一方、欧州各国やアジア諸国をはじめ、世界各国においても、法人税率の引下げを中心に法人課税を見直す動きが、急ピッチで進んでいる。
グローバル企業同士の競争は激化の一途をたどっており、これに打ち勝っていくために、わが国企業も、世界規模での経営の最適化を急激な勢いで進めている。
そうしたなかで、わが国としても、経済環境を国際的に競争力あるものへと常に見直していかない限り、国として必要な雇用や投資を維持することはできない。その中心的課題と位置付けられるのが、法人課税の改革である。
法人課税の改革にあたって基本とすべきことは、国際的にイコール・フッティングとなる経済条件の構築である。そうした観点からわが国法人課税をみるならば、諸外国に比べ法人実効税率が高止まりしていること、欧米では日常的にビジネスに活用され、アジア諸国でも導入が進みつつあるパス・スルー税制を伴うLLC等の制度が、経済界の強い要望にもかかわらず依然として日の目を見ていないこと、世界的にも類例のない年金資産にかかる特別法人税が存在していることなど、諸外国に立ち遅れている課題が山積している。まずは、これらの解決に全力を尽くすべきである。
一方で、研究開発・IT投資促進税制の創設のように、世界に先駆けた税制の構築も重要であり、こうした姿勢に立って、今後の法人税制改革の見取り図を作り、改革を進める必要がある。

2.法人課税改革の具体的課題

(1) 特別法人税の廃止

わが国は、本格的な少子・高齢社会へ突入するなかで、経済の活力を損なわずに、安心できる老後保障をいかに確保するかという困難な課題に直面している。公的年金制度については、現役世代への負担のしわ寄せを避けながら、持続可能な制度を築いていくために、給付の削減は避けられない。2004年公的年金制度改革においても、厚生年金給付の所得代替率は50%まで引き下げられた。しかし、制度改革後に判明した出生率の低下を見てもわかるように、この水準でさえも安定的に維持可能とは言えない。
こうしたなかで、個人は、老後の所得保障を公的年金に全面的に頼ることなく、自助努力によって確保することを迫られている。その重要な柱となるのが企業年金である。
厚生年金基金の代行部分の返上が認められ、各企業は確定拠出年金や確定給付企業年金等への移行を模索しているが、確定拠出年金、確定給付企業年金は特別法人税の課税対象とされているため、年金制度の改革が円滑に進まないばかりか、個人・企業の自助努力を大きく阻害することになりかねない。
また、もともと年金税制の基本原則は、掛け金の拠出・運用時は非課税、課税は受給時に行なうというものである。年金の運用資産に課税する特別法人税は、この原則から逸脱し、世界的にも類例のない税制である。わが国ではこれまで、公的年金等控除の範囲が大きく、受給時課税が実質的に行なわれていないことが、特別法人税を撤廃できない理由の一つとされてきたが、平成16年度税制改正において、公的年金等控除の縮小が実現したところである。
平成17年度税制改正においては、特別法人税が適用される私的年金制度(確定給付企業年金、適格退職年金、確定拠出年金)ならびに厚生年金基金の全てにわたり、特別法人税を確実に廃止すべきである。

(2) 日本型LLC(合同会社)税制・LLP制度の創設

経団連はこれまで、日本型LLCの導入を主張してきた。日本型LLCは、法人格を有し経済主体としての確固たる地位を備える一方、税制上は事業体として法人課税を経ることなく、直接その出資者段階でのみ課税(パス・スルー課税)が行なわれるという仕組みである。この仕組みは、共同研究開発や戦略的な新規事業の立ち上げ、設備の統廃合のための合弁事業等、わが国経済の活性化にとって、非常に重要な役割を果たすことが期待されている。
現在、法制審議会は会社法制の現代化を検討しており、そのなかで、日本型LLCの私法上の枠組みである「合同会社(仮称)」制度の導入を提案している。この新たな会社類型の税制上の取扱いとして、「合同会社」への現物出資の際の課税繰延とパス・スルー課税を導入すべきである。
現行税法は、合名会社、合資会社という人的会社も含め、原則として全ての法人を法人課税の対象としているが、近年、特定目的会社(SPC)や投資法人のように、法人格に着目して法人税の対象とはするものの、支払配当について損金算入を認める法人や、特定目的信託のように、法人格がないにもかかわらず法人税の対象としつつも、支払配当については損金算入を認め、SPC等と同様の扱いとする形態も生じている。このような現象は、「法人」に対しては法人税を課すとの原則が現実的ではなくなってきていることの表れである。
また、法人格の有無により法人税課税の対象とするか否かを判断するという考え方は、比較法的にも普遍的とは言えない。例えば、米国では、LLC(Limited Liability Company)は法人格を有しているものの、パス・スルー課税を選択することができ、また、2000年に導入されたイギリスのLLP(Limited Liability Partnership)も、法人格を有するが、パス・スルー課税が適用されている。
なお、民法組合の特例として、全ての組合員が有限責任となる有限責任事業組合(LLP)制度の創設が検討されているが、これに対する税制としては、現物出資の際の課税繰延とパス・スルー課税が適用されることが期待される。

(3) 人材投資促進税制の創設

わが国産業競争力を強化するためには、企業における人材育成投資の拡充が不可欠である。しかし、これまでのリストラ等の過程で、わが国企業の人材投資は全体としては減少する一方で、技術の高度化や熟練技術者の高齢化により、技術や技能の移転が困難となりつつある。人材の国際競争力の面でも、米国への留学生数が中国に追い抜かれるなど、大きな懸念がある。
わが国企業の競争力を向上させていくためには、人材投資の減少傾向に歯止めをかけ、これを抜本的に拡充していくことが不可欠であり、とりわけ、企業内人材育成の強化が喫緊の課題である。
そこで、企業が、人材育成に係るリスクを乗り越え、長期的な観点から人材投資を行なえるよう、競争力強化のための人材育成費用について、税額控除等の措置を創設することが必要である。

(4) 法人実効税率の引下げ

わが国の法人実効税率は、平成10年度、11年度税制改正において約40%へと引き下げられ、その時点における国際的な水準を達成した。しかし、その後も各国は、競争力確保の観点から法人税率の引下げに動き、今や欧州主要国の税率は30%台前半、アジア諸国はさらに低く、わが国は国際水準から取り残された状況にある。
とくに、競争条件が比較的そろった国からなる欧州経済圏と異なって、わが国は、税制をはじめとする投資コスト面で優位性を持つアジア諸国に近隣を取り囲まれており、相対的に極めて厳しい環境に置かれている。
先に閣議決定されたいわゆる「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2004」では、「今後の法人課税のあり方を税制改革の中で検討する」と明記されているが、国際的なイコール・フッティングの観点から、法人実効税率の5%程度の引下げを早急に断行すべきである。

(5) 減価償却制度の見直し

ようやく立ち直りはじめたわが国経済を、本格的な自律的回復軌道にのせていくためには、企業の設備投資の継続的拡大が不可欠である。ここにきて企業の投資意欲は高まりつつある一方、いわゆるキャッシュフロー経営の重要性が高まるなかで、投資コストを可能な限り早期かつ完全に回収することが、企業経営にとって極めて重要な課題である。
こうした観点からわが国減価償却税制をみるならば、複雑な耐用年数表や、世界に類例のない残存簿価の存在等、国際的に見劣りのするものと言わざるを得ない。
米国の加速度償却制度などを参考に、減価償却制度についても抜本的見直しが必要であり、少なくとも、償却可能限度額の適正化が不可欠である。

(6) 国際租税制度の適正化

わが国企業の国際活動は、単なる一国への進出という段階を過ぎて、地域経済統合の動向などを見据えた、真の意味におけるグローバル経営へと進みつつある。
しかし、わが国の国際租税制度はこのような企業の活動や経済状況の変化に十分に対応してきていないため、国際的な二重課税等が往々にして生じ、わが国企業が競争力を強化する上での阻害要因となっている。
外国税額控除制度(間接外国税額控除対象会社の拡大、繰越限度超過額・控除余裕額の繰越期間の延長等)、タックスヘイブン対策税制(二重課税の排除、軽課税率判定基準の引下げ、適用除外基準の見直し等)、過少資本税制等の国際租税制度について、必要な改革を進めるべきである。
また、約30年ぶりに改正された日米租税条約は、一定の親子会社間配当の源泉徴収非課税など、日米経済界にとって画期的な内容を含むものであり、投資交流の促進に大いに寄与することが期待される。今後、世界的な投資交流の活発化に向けて、政府には、租税条約ネットワークの整備に努めることが期待される。とりわけ、中国、韓国をはじめとするアジア諸国との条約改正を急ぐ必要がある。

(7) 早期事業再生の税制措置

企業の事業再生を加速し、資源の有効配分を進めていく観点から、迅速な事業再生への着手を促すような措置を、税制面からも講じていく必要がある。
私的整理ガイドライン等を活用した企業再生においても、会社更生法・民事再生法と同様に資産評価損の計上を認める必要がある。
また、法的整理および私的整理ガイドライン等を活用した企業再生において、債務免除益課税を繰り延べる措置が必要である。

(8) コンテンツ投資促進税制の拡充等

わが国経済が成長を続ける上で、コンテンツ産業は屋台骨を支える存在の一つであり、政府の「知的財産推進計画2004」においても、コンテンツビジネス振興は「国家戦略の柱」として明確に位置付けられている。
わが国コンテンツ産業は民間の努力によって発展してきたが、一方でビジネス・インフラの整備は遅れている。政府においては、コンテンツ産業の国家戦略上の重要性を認識し、コンテンツ産業の競争力強化に効果的な税制措置を導入すべきである。「知的財産推進計画2004」でも「コンテンツの制作・投資等を促進するためのインセンティブについて、2004年中に検討を行なう」とされているが、コンテンツ製作設備に係るIT投資促進税制の拡充、ソフトウェア資産に係る減価償却制度の見直しなどを行なうべきである。

(9) 非営利法人課税

現在、政府において、公益法人制度の改革が検討されており、これとあわせて税制のあり方も議論される見込みであるが、業界団体を含む公益法人の活動については、現行通り、非課税の取扱いとするべきである。

(10) その他
  1. 課税ベースの見直し

    イ)受取配当益金不算入制度の見直し
    配当は課税済の利益から支払われるものであり、二重課税防止の観点から、法人が受け取る配当については、本来、全額益金不算入とする必要がある。平成14年度税制改正において廃止された特定利子に係る措置については、早急に復活させるべきである。
    ロ)欠損金の繰戻還付制度の復活等
    わが国法人税制においては、本来、欠損金の1年間の繰戻還付が認められているにもかかわらず、税収不足を理由に凍結が続いている。法人税収の回復が視野に入った現在、繰戻還付制度を復活させるべきである。
    ハ)役員賞与の取扱い
    平成14年の商法改正により、不確定金額を役員報酬とすることが認められたが、法人税法上、こうした報酬を損金算入できるかどうかは必ずしも明らかではない。また、委員会等設置会社においては、利益処分として役員等に賞与等を支払うことは認められない。さらに、来年予定される会社法制の現代化が実現すれば、役員賞与は利益処分の必要がなくなることが予想される。
    こうしたなかで、これまでの税法上、役員報酬は損金算入、利益処分により支払われる役員賞与は損金不算入と形式的に決めてきた取扱いは、齟齬をきたしており、賞与も含め役員報酬全体として、実質的に業務執行の対価と認められるものは損金算入が認められる必要がある。
  2. 連結納税制度等の改善
    連結欠損金個別帰属額を有する連結子法人を清算する場合等において、現行制度上、当該子法人株式に係る投資価額修正によって清算損計上の途が断たれる場合があり、このような取扱いを見直すべきである。
    連結納税制度適用開始・加入時の子会社の未処理欠損金の取扱い、一定の資産の時価評価・課税、連結グループ内の寄附金の全額損金不算入等について、運用の実態を踏まえつつ、見直す必要がある。
    また、企業組織再編税制について、組織再編のより一層の円滑化に向けて、個別事例の公表などを通じた制度運用の予見可能性の向上を図ることが必要である。

  3. 産業活力再生特別措置法の特例の延長
    民間における事業再編・産業再編を推進するため、事業革新設備に対する特別償却をはじめとする、産業活力再生特別措置法に基づく税制優遇措置の適用期限を延長するべきである。

  4. 印紙税の見直し
    印紙税は、不動産等の経済取引の促進を阻害している面も大きく、そのあり方について見直す必要がある。
    当面、不動産売買契約書等に係る印紙税の軽減措置の延長が不可欠である。
    また、手形に関する印紙税については、とりわけ中小企業にとって資金調達・決済の両面で負担となっており減免を図る必要がある。

  5. 電話加入権
    固定電話の電話加入権は現行税法上、非減価償却資産とされている。現在、政府等において、固定電話に係る「施設設置負担金」の見直しが議論されているが、これが廃止される場合は、税法上、電話加入権の即時償却を可能とするべきである。

3.地方法人課税の見直し

(1) 法人住民税・法人事業税の縮減

法人の所得に対する課税は、他の基幹税目に比べ、地域ごとの税収格差や、経済情勢による変動が大きく、本来、安定性や普遍性が求められる地方税の税目には相応しくない。法人事業税については、所得課税にかえて、部分的に外形標準課税が導入されたが、税制が極端に複雑化する一方で、制度本来の趣旨である赤字法人課税の徹底は果たされず、地方税収への効果も限られているなど、さしたる成果をあげるとは思えない。
また、わが国の法人実効税率が諸外国に比べ高水準にある一つの要因は、地方法人課税の負担が大きいことにある。
こうした点を踏まえれば、法人住民税、事業税については縮減を図り、国税への集約を図っていくことが必要である。

(2) 法定外税のあり方

地方法定外税は、その趣旨からすれば、地方が、特色ある行政サービスを行なうため、その地域における受益と負担の関係と自己責任に基づいて、財源を確保する際に活用されることが期待される。
しかし、現実に実施・検討されている税目を見れば、核燃料や産業廃棄物、放置自転車などごく一部のカテゴリーに限られており、しかも、地域住民でなく、企業に負担を求めるものが大半であるなど、法定外税本来の趣旨が生かされているとは言いがたい。地方法定外税のあり方としては、地方税の原則に照らし、住民が主たる担税者となる税を基本とすべきであり、負担が法人に偏った法定外税は排除されるべきである。

(3) 超過課税の見直し

地方財政における受益と負担の関係を確立しつつ、地方が独自に財源を確保するという観点からは、超過課税の活用は有用である。しかし、現実には、法人のみを狙い撃ちとした超過課税が多くの自治体で実施されている一方、住民への超過課税の実施はごくわずかでしかない。
超過課税の活用にあたっては、まずは地域住民を対象とするべきであり、少なくとも、法人に対して超過課税を行なう場合は、当該税目について個人も同様の扱いとする等の制度的担保が必要である。

III.環境税は断固反対

1.温暖化対策は技術革新と省エネ努力が基本

環境税は、国民や企業の健全な経済活動を制約し、わが国の経済活力を大きく殺ぐものであり、絶対に容認できない。
地球温暖化対策にあたっては、政府の地球温暖化対策推進大綱が強調しているように、経済と環境の両立を基本に据えなければならない。そのためには、税や経済統制色の強い政策ではなく、技術革新とその普及および地道な省エネ努力を推進するための国民等への情報提供・啓発を対策の中心とすべきである。

2.環境税は地球規模での問題解決に逆行

懸命な省エネ努力が実を結んだ結果、わが国の産業はすでに世界最高水準のエネルギー効率を達成しており、諸外国の企業に比べてわが国企業がさらなる省エネを進める余地は小さい一方、限界コストは極めて大きなものとなっている。
また、とりわけデフレ経済下においては、環境税の消費者への転嫁は極めて困難であり、事実上の企業課税となりうる。
こうした状況のなかで、環境税が導入されれば、企業の国際競争力は失われ、産業の空洞化がさらに進みかねない。地球的視野にたって温暖化対策を進めるのであれば、本来、エネルギー効率が高い日本企業の生産を増やすことこそが解決策となりうるはずである。しかし、海外での生産が増えれば、結果として、地球規模での温室効果ガスの排出増加につながる。
このように、環境税は、温暖化対策としての効果が全くないばかりか、地球規模での問題解決に逆行するものである。

一方、わが国では、石油・石炭税、揮発油税、地方道路税、軽油引取税など、エネルギーに対する課税は、現在でも重畳的に行なわれており、かつ、その負担は過大である。そこへ加えて、環境税を課すことは、まったくの多重課税である。すでに、石油・石炭税の導入により、石炭を含む全ての化石燃料に対して温室効果ガス排出量を加味した課税が行なわれ、温暖化対策に関する税制としても実質的に確立されている。
環境税導入論者は、エネルギー価格が上がれば、自然に省エネのための技術革新が行なわれるので、企業の競争力には影響を与えないばかりか、新たな産業がうまれるので好ましいと考えている。こうした産業の実態を全く知らない極度の楽観論に基づいて政策が打ち出されていることに、産業界は強い危機感を覚える。環境税がなくとも、企業は現状の過重なエネルギー課税のなかで、すでに全力をあげて技術革新に取り組んでいる。むしろ新たな企業負担の結果、研究開発や設備投資にまわすべき資金が失われてしまう。

さらに、温暖化対策に必要な財源という面から見ても、石油・石炭税の使途をグリーン化するなど、今でも必要な財源は措置されており、どのような理由・目的で追加的な財源が必要なのか、理解できない。新たな税収が必要であるならば、既存の毎年1兆2千億円を越える地球温暖化対策予算の効果について、なによりもまず厳格な評価を行ない、納税者に開示すべきである。とくに、地球規模の温室効果ガスの削減にあたっては、CDM(クリーン開発メカニズム)など、より費用対効果に優れた施策があることを忘れるべきではない。

また、EU諸国で導入しているから日本でも入れるべきであるという考え方も、全く短絡的な議論である。EU諸国では税制の全体的な見直しのなかで導入されており、歳入増を狙ったものではない。しかも、EUの貿易の大半は域内取引であり、環境税が域内企業の競争力に及ぼす影響は極めて限定的である。これに対し、日本企業は環境税を導入していない米国やアジアの企業との競争に晒されていることに留意すべきである。
以上の点から、環境税に対しては、課税段階の上流・下流を問わず断固反対である。

3.国内排出量取引制度にも断固反対

温室効果ガスの排出枠を政府が割り当てる国内排出量取引制度についても、エネルギーの適正な使用量を政府が事前に決めるという極めて規制色、経済統制色の強い施策であり、産業構造の転換、高度化を阻害する要因となることから、断固反対する。
そもそも、温室効果ガスは民生・運輸部門を中心に増加しており、地球温暖化対策はこうした部門での増加の抑制にこそ取り組まなければならない。環境税や国内排出量取引制度は、この解決策としての効果が全く不明確である。

4.産業界は自主行動計画を中心に積極的に貢献

産業界は、これまで環境自主行動計画の推進など積極的な取組みを進め、産業部門において着実な成果をあげてきたが、今後は自主行動計画の信頼性、透明性の一層の強化に加え、民生・運輸部門においてもさらなる貢献を行なっていく所存である。
地球温暖化問題は長期的、地球的規模で取り組むべき課題である。企業は世界に誇る環境技術、省エネ・新エネ技術にさらにみがきをかけながら、問題の真の解決に貢献していきたいと考えている。こうした技術革新の主体たる企業の活力を殺ぐような政策は絶対にとるべきではない。

IV.個人所得課税

1.個人所得課税見直しの全体像

個人所得税は、消費税とならぶ国の基幹税の一つであり、必要な歳入を調達する機能は重視されなければならないが、一方で、個人にとっては、年金をはじめとする保険料も、直接税と同様の負担であることに違いはなく、しかも、今後、料率の上昇が確実視されている。
かかる状況においては、個人所得税のみを単純に取り出してあるべき負担の水準を議論することはできず、年金・医療・介護等の保険料負担をあわせた、個人に対する公的負担の総体として捉える必要がある。基本的な原則として、経済活力を維持する観点から、現役世代の負担の増加は可能な限り抑制すべきである。
こうした考え方を前提に、当面の個人所得課税の見直しに当たっては、現役世代の活力の発揮と、高齢世代等との負担のアンバランス解消に重点を置くべきである。

2.個人所得課税改革の具体的課題

(1) 住宅税制の拡充

良質な住宅・住環境は、国民にゆとりある生活をもたらし、明日への創造力と活力を生み出す源泉であり、重要な社会インフラとしての側面を持っている。住宅ストックのさらなる質の向上を図り、その流通を促進させることは極めて重要な課題である。こうした観点から、現行住宅税制の柱をなす住宅ローン減税制度は、平成16年度税制改正で延長され、住宅投資の活性化に大いに役立っている。本制度については、将来にわたって一定規模を維持していく必要がある。
平成17年度税制改正においては、安全と安心が確保された質の高い住宅の供給、住宅の質を維持・向上させるためのリフォーム、良質な既存住宅の流通市場の整備を支援するための税制措置を講じるべきである。

  1. 住宅取得・リフォームに係る自己資金に対する税額控除制度の導入
    質の高い住宅ストックの形成を促進する観点から、一定の質を満たす住宅を取得した場合の自己資金の一定比率を所得税から税額控除する措置を創設すべきである。また、住宅のリフォームも、耐震、高齢化対応等を含めた住宅の質の維持・向上に役立つものである。そこで、住宅のリフォームについても同様に、自己資金の一定比率を税額控除する措置を創設すべきである。

  2. 既存住宅流通の促進(築後年数要件の撤廃)
    住宅ストックの活用、既存流通市場の活性化のため、住宅ローン減税、特定居住用財産の買い換え特例などの住宅関係税制において定められている築後年数要件を、新耐震基準を満たすことを条件に撤廃すべきである。

  3. 新耐震基準以前の住宅の建替支援税制の創設
    政府における「中央防災会議」において、大地震の発生時に人命を守るための重要な対策は住宅の耐震性向上であるとの指摘がある(平成15年5月の「中央防災会議 東海地震対策専門調査会」では、仮に昭和55年以前の建物すべてが昭和56年以降の建物の耐震レベルと同程度となった場合には、建物の全壊棟数は約17万棟から約6万棟に、死者数は約6,700人から約1,700人に減少する見込みであると報告されている)。
    国土交通省の推計によれば、現状において、昭和56年に定められた新耐震基準を満たしていない住宅は約1400万戸も存在し、日本の総住宅ストック4400万戸の32%にのぼる。そこで、こうした新耐震基準を満たしていない住宅の建替や耐震改修に対し、10年間の時限措置として不動産取得税の非課税、固定資産税の減免等の税制措置を講じるべきである。

なお、中期的課題として、今後予定される抜本的税制改革ともあわせて、住宅ローン減税をさらに進めた「住宅投資減税」をはじめとする、本格的かつ恒久的な支援税制の導入など、住宅税制の抜本的見直しを行なうべきである。

(2) 定率減税の見直し

個人所得税の定率減税は、景気の回復や国民の勤労意欲を高める観点から、平成11年度税制改正において「恒久的」措置として講じられたものである。その内容は、中堅所得層に配慮しながらあらゆる所得階層に減税効果が及ぶ仕組みとなっている。ただし、平成16年度税制改正大綱では「定率減税の縮減、廃止」とあわせて「個人所得課税の抜本的見直しを行なう」ことが決められている。定率減税を見直すのであれば、その本来の趣旨を生かし、中堅所得層等の負担に配慮した累進税率構造の緩和とセットで行なうべきである。
一方、平成16年度以降、基礎年金の国庫負担割合の引上げが予定されている。年金財源については、現役世代など、特定の階層への負担となるものは望ましくない。基本的には、国民全体が幅広く負担することが可能となる消費税の税率を引き上げることによって、財源を確保すべきである。

(3) 個人住民税の見直し

地方の財源は、住民が主たる担税者である税目で賄うことを基本とするべきであり、個人住民税は地方の基幹税の柱となるものである。しかし、現状をみると、地方税収全体に占める個人住民税の割合は、低い水準にとどまっており、その充実は切実な課題と言える。
個人住民税の仕組みを見れば、税率の上限を定める制限税率はすでに撤廃されており、各自治体は、独自に地域の受益と負担のあり方を勘案し、税率の水準を決定することが可能である。個人住民税の充実は、本来は、こうした自治体自らの努力によって果たされるべき課題である。
しかし、地方財政が置かれた現在の厳しい状況を考えれば、補助金の削減や地方交付税の抜本的な改革とあわせて、個人所得税から個人住民税へ税源を移譲することも、一概に否定されるべきではなく、国・地方の三位一体改革の中で具体的に検討すべき課題と考える。

(4) 所得税の課税ベースの見直し
  1. 人的控除の見直し
    近年、人的控除については、着々と見直しが進められている。配偶者特別控除(上乗せ分)廃止により、現役世代の課税最低限はすでに国際的な水準へと低下し、これをさらに引き下げる余地は乏しい。また、公的年金等控除の縮小とあわせて、老年者控除の廃止も決められている。
    今後の人的控除のあり方を考えるにあたっては、少子化対策の観点から、子育て世代への支援を考えていく必要があることから、扶養控除の充実に重点を置くべきである。また、配偶者控除・扶養控除それぞれの老人加算については縮減・廃止が必要である。

  2. 給与所得控除の見直し
    現在の給与所得控除は、給与所得者の経費の概算控除としての性格とともに、給与所得の特異性に基づいた他所得との負担の調整や、累進税率構造による税負担増加の緩和など、様々な役割を担っている。給与所得控除を見直す場合には、同時に、累進構造の見直しや、恒久的な住宅税制などの検討が不可欠であるとともに、税負担の不公平感を解消することが前提となる。

  3. 退職所得控除のあり方
    退職金制度については、企業年金と一体での改革や、退職金の前払い制度の導入など、各企業において様々な見直しが進められている。これは、老後保障に対する自助努力の必要性や、雇用の流動化など、近年の経済社会の変革の方向性を踏まえてのものである。
    退職所得控除のあり方を考えるにあたっては、こうした流れのなかで、年金税制との関連をはじめとする総合的な検討が必要となる一方で、サラリーマンの老後の人生設計への重大な影響が懸念されることから、当面は現行制度を維持する必要があると考える。

(5) 金融課税
  1. 一体化の推進
    貯蓄から投資へのシフトを進め、わが国金融・証券市場を活性化する観点から、平成15年度、16年度税制改正において、金融証券税制の合理化・簡素化が進展した。最近になり、証券市場は復調しつつあるが、これは、民間企業の経営努力とあいまって、金融証券税制改革の効果もあるものと考えられる。
    一連の金融証券税制改革は、金融資産性所得については分離課税とした上で、低率の比例税率による課税と、その枠内では幅広く損益通算を認めるというものであり、その基本的考え方は、資本から得られる金融所得を一括して認識し、勤労所得とは切り離して課税するいわゆる「二元的所得税」に通じるものと考えられる。
    わが国の個人所得税は、所得分類が10種類もに細分化され、極めて複雑化しているが、これを抜本的に整理し、簡素でわかりやすい税制としていく観点からも、今後、金融所得課税を一体化するだけにとどまらず、個人所得課税全体の見直しを進めていく必要がある。

  2. 金融所得課税の一体化の具体的課題
    課税の合理化・簡素化をさらに進めるとともに、投資に係るリスク軽減を図る観点から、金融商品間の損益通算は幅広く認められるべきであり、その対象は、株式(譲渡損益・配当、未上場株式を含む)、株式投資信託(収益分配金、譲渡損益、償還差損益)、公社債・公社債投信、ETF、Jリート、預貯金等、その他(合同運用信託、有価証券・商品先物等)、できる限り広く考えるべきである。

  3. その他

    イ)自己株式に係るみなし配当課税免除措置の延長
    上場会社等による自己株式の公開買付等が行なわれる場合、株主におけるみなし配当課税は行なわれず、譲渡所得課税に一本化されているが、本措置を延長すべきである。
    ロ)エンジェル税制の延長
    エンジェル税制において、ベンチャー企業等に対する出資に関し、その後の売却により譲渡益が生じた場合に、課税所得を二分の一に圧縮する措置が講じられているが、本措置を延長すべきである。
    ハ)財形制度における非課税措置の継続期間の統一
    財形制度において、会社等を転職する場合は、2年間の非課税措置の継続が認められているが、退職の場合は1年間と期間に違いがあることが、制度の円滑な運用を阻害していることから、非課税期間を2年間に統一する必要がある。
(6) 番号制度

全ての納税者の所得を確実に捕捉し、納税者間の公平性を確保することは、税制に対する国民の信頼のもとにあらゆる税制改正を進める上での大前提となるものであり、こうした観点から、経団連としても、かねてより納税に係る番号制度の導入を強く主張してきた。
近年の金融取引の高度化・複雑化等に対応し、金融所得の一体化を図る上でも番号制度は有用であるが、とりわけ最近では、社会保障制度改革の一環として、年金や医療、介護等、個人への社会保障給付を統一的に把握・調整する観点からも、個人への番号付与の必要性が高まっている。
こうしたことから、納税に係る番号制度の導入にあたっては、金融所得の損益通算への利用にとどまらず、個人所得全体の適正な捕捉、さらには、年金をはじめとする社会保障制度改革とも整合性がとれ、かつ、将来的・社会的に重複投資とならないよう、総合的な検討を進めるべきである。

(7) 年金税制
  1. 特別法人税の撤廃前掲

  2. 確定拠出年金税制の拡充
    確定拠出年金は、公的年金給付の縮減が確実となるなかで、私的年金制度の中核として発展することが期待されている。平成16年度税制改正で、拠出限度額が若干引き上げられたものの、既存の退職一時金や企業年金から確定拠出年金への移行を行なうためには不十分であり、拠出限度額のさらなる引上げが必要である。
    さらに、加入者からの要望が強い、死亡・高度障害以外の事由による資産の引出し、中途脱退時の少額資産の引出し、加入者個人によるマッチング拠出を認めることも必要である。

  3. 公的年金等控除の更なる見直し
    公的年金等控除は、現役世代と高齢世代との課税の不公平をもたらすとともに、拠出・運用時非課税、給付時課税という年金税制の原則からしても問題が大きい。平成16年度税制改正では一部縮小が図られたが、さらに進んで、原則として廃止すべきである。

V.土地税制

1.固定資産税・都市計画税の見直し

(1) 基本的考え方

固定資産税については、バブル崩壊後、土地をはじめとする資産価格が急落するなかで、負担が過重なものとなっている。平成15年度、16年度税制改正において、全国の経済界の強い要望に関わらず抜本的見直しが見送られたことは極めて問題である。
見直しが行なわれない最大の理由として、地方財政の厳しい状況が挙げられるが、地方自治体の歳出改革は、民間企業はおろか、国に比べても遅れており、歳出構造のリストラを進めることが先決である。
一方、すでに地方財政の固定資産税収への依存は過大であるだけではなく、なかでも都市部の商業地など特定の資産への負担の偏りが大きく、都市部の再生や企業活力の回復を阻害している。
商業地等に係る固定資産税については、早急に負担を軽減すべきである。

(2) 土地に係る固定資産税の適正化

平成16年度税制改正において、商業地等の固定資産税について、その「負担水準(固定資産税評価額に対する課税標準額の割合)」を地方自治体の裁量により一定の範囲で減額することを可能とする「条例減額制度」が創設されたが、実施を表明・決定したのは、ごく少数の自治体に止まっている。
かねてより、商業地等に係る固定資産税については「負担水準」を全国的に収斂させる「負担調整措置」が講じられてきた。これは、国全体として「あるべき負担水準」への調整を目指す仕組みであり、現在調整の途上にある。この中途段階において、自治体の裁量で地域ごとに固定資産税の「負担水準」をばらばらに決めることは、制度的な矛盾と言わざるを得ない。自治体が地域の受益と負担の関係に基づいて独自に固定資産税の負担のあり方を決めることは、本来の地方自治のあり方からして否定されるべきではないが、それは標準税率と異なる税率の活用によるべきであり、これは従来から自治体の判断で可能とされてきたところである。
「負担水準」自体は全国的に一本化されることが、「負担調整措置」制度本来の趣旨からしても望ましく、「条例減額措置」は国として行なうべきことを、自治体の責任におしつけるものと言わざるを得ない。商業地等の「負担水準」については、国の政策として速やかに上限を60%にまで引き下げるべきである。

(3) 家屋・償却資産に係る固定資産税の改革

家屋に係る固定資産税については、その評価額が時価を上回るケースも見られることから、評価方法のあり方を抜本的に見直し、家屋の収益力(収益還元価値)を基準とする評価方式へ転換することが必要である。当面の措置として、家屋評価の基準となっている経年減点補正率基準表に定める「経過年数」を、法人税法上の減価償却資産の「耐用年数」並みに短縮すること、また、家屋と一体と見なされる建築設備については別途の経年減点補正率表を設けること、経年減点補正率基準表における残価率20%を引き下げること等が必要である。
事業用の償却資産に係る固定資産税は、そもそも課税根拠に問題があり、また、国際的にも償却資産に対する課税は異例である。また、負担が特定の設備型産業に偏重しており、課税の中立性にも問題がある。償却資産に対する課税は廃止する必要がある。

2.都市再生税制等

(1) 都市再生促進税制等

都市の再生に資する開発事業を推進する観点から、認定民間都市再生事業に係る特例ならびに市街地再開発事業および認定再開発事業に係る特例の拡充・延長等を図るべきである。

(2) 資産流動化に有効な税制措置

資産の流動化・証券化は、都市部の再開発等を進め、わが国都市の国際競争力を高めるだけでなく、民間企業のバランスシート改善を通じて、企業体質の強化を可能とする観点からも重要な手段であり、近年、様々な政策措置が急ピッチで講じられてきたが、引き続きその拡充・強化を図る必要がある。
具体的には、(1) SPC等が不動産を取得した場合の不動産取得税の特例措置の延長、(2) SPC等に係る支払配当損金算入要件の緩和、(3) SPC等に係る借入先要件の改善(適格機関投資家によるCMBS(商業不動産担保証券)への対応)等の措置を講じるべきである。

(3) PFI事業促進税制

民間のノウハウや創意工夫により公共施設の整備を行なうPFI事業の一層の拡充に向けて、PFI事業と一般公共事業との税制上のイコール・フッティングを図るべきである。

(4) その他

各地域におけるまちづくり活動を支援する観点から、認定特定公益信託の対象範囲を、まちづくりに関する様々な活動を支援するものへと拡大することなど、地域のまちづくりを一体的に支援するための税制措置が必要である。

3.法人の土地譲渡益重課の廃止、特別土地保有税の廃止、地価税の廃止

土地税制の分野においては、バブル期の地価高騰を阻止すること等を目的に作られた税制措置が、課税停止等の措置がとられたとしても、バブル崩壊以後もなお、制度自体存置されている例が多く、民間経済取引の予見可能性を低めている。
法人の土地譲渡益重課制度、特別土地保有税、地価税については、いずれも当初の政策目的は失われており、速やかに制度そのものを撤廃すべきである。

4.定期借地権に係る特例措置

定期借地権を設定している建物の使用期間にあわせた償却や、定期借地権に係る権利金の契約期間にあわせた償却を認めることなど、必要な税制措置を講じる必要がある。

VI.その他

1.税務書類の電子的保存の推進

経済界がかねてから要望していた税務書類の電子保存範囲の拡大に関し、「e−文書イニシアティブについて」(6月15日IT戦略本部報告)において、原則全ての書類について電子保存を可能とする方針が打ち出されたが、企業のコスト負担を軽減し、業務効率を改善するためにも、可能な限り早期の法制化を期待する。
今後、検討される技術的要件等については、多くの企業が広く活用できる内容となるような配慮が必要である。

2.納税者の権利の尊重

租税制度に対する納税者の信頼を高めるとともに、税務執行における無用なトラブルをなくすためには、税務行政における適正かつ具体的な手続規定を定め、納税者の権利を尊重する必要がある。海外諸国では、納税者の権利保護法や権利憲章を定めている国も多いが、わが国でも少なくとも、税務調査に際しては事前の通知と調査期間の明示、終了の通知を行なうようにするとともに、提出書類についても明文化する必要がある。また、調査により税額を変更する場合は理由を明記した更正処分によること、さらに、税務行政を行政手続法の対象に含めることが必要である。

以上

日本語のトップページへ