実効ある安全保障貿易管理に向けて制度の再構築を求める

2007年3月20日
(社)日本経済団体連合会

実効ある安全保障貿易管理に向けて制度の再構築を求める【概要】 <PDF>


はじめに

昨年来、産業構造審議会安全保障貿易管理小委員会においては、テロ対策の強化等を目的とした国連安全保障理事会決議第1540号やワッセナー・アレンジメント合意等を受け、その国内措置等に関し審議が行われているところである。
輸出管理制度のあり方については、日本経団連としても、企業に不合理かつ過大な負担が課されることのないよう、予て意見等を取りまとめ、政府に働きかけてきた。例えば、大量破壊兵器等に関連する貨物・技術のいわゆるスペックダウン品目 #1 を特定して規制する補完的輸出管理規制 #2 の導入に際しては、提言「新輸出管理規制に関する考え方」(1995年12月19日)を取りまとめ、規制の合理化や省令・通達の明確化等を求めた。また、2002年の大量破壊兵器キャッチ・オール規制 #3 の導入に際しては、企業が理解し遵守しやすい簡素で透明な法体系の整備を求めた経緯がある。その他、当会が会員企業の現場の声を反映して取りまとめている規制改革要望の中で、輸出管理関連法体系の簡素化や規制品目項番の欧米との統一等を政府に繰り返し求めてきた。
以上のような経緯を踏まえつつ、今般、改めて輸出管理制度のあり方について検討を行い、本提言を取りまとめた。

1.制度再構築の必要性

国際的な平和と安全の確保は企業活動にとっても不可欠であり、国際条約および国際輸出管理レジーム #4、ならびにそれらに対応した国内法制に従って貨物・技術の管理を徹底することは当然である。企業活動のグローバル化が進み、取引先が多様化、その態様も複雑化するに伴い、輸出管理を要する企業は年々増加しており、管理の内容も、リスト規制への該非判定にとどまらず、キャッチ・オール規制に基づく貨物・技術の用途や需要者の確認等の取引審査に広がっており、そのための体制づくりが行われている。
このように関係する企業、対象となる貨物・技術の裾野が広がる中、現行の重層的で複雑な規制体系を維持したまま、新たな規制を追加していくことになれば、人的・財政的な資源に乏しい企業にとってはもちろん、コンプライアンス維持のための企業の負担は過大なものとなり、国際競争力が著しく損なわれるといった事態も現実に懸念される。今次見直しを機に制度の再構築が求められる所以である。

2.制度再構築の視点

以下の視点に留意して制度の再構築を進めるべきである。

(1)安全保障貿易管理の重要性

世界各地でテロ事件が頻発するとともに、核開発計画や核実験が明らかとなる中、企業活動における安全保障のための貿易管理の重要性はかつてなく高まっている。即ち、通常兵器や大量破壊兵器の開発等に用いられるおそれのある貨物や技術が核兵器等の開発等を行っている国やテロリストの手に渡ることになれば、国際情勢は著しく不安定なものとなり、企業活動や市民生活が脅かされることになる。

(2)簡素でわかりやすい制度

企業の規模にかかわらず、トップから海外子会社等を含む現場、継続的取引先に至るまで管理を徹底できるよう、誰にでも理解・判断しやすい、簡素でわかりやすい制度とすることが重要である。

(3)安全保障と貿易円滑化のバランス

国際的な平和と安全を確保するために最小限必要な手続についても、貿易の円滑化とのバランスに留意する必要がある。限られた資源を真に管理すべきものに集中し、重点的に規制することは、安全保障貿易管理の実効性を向上させることにもなる。

(4)諸外国の制度・運用との調和

一人わが国が規制を強化しても、他国の規制およびその運用ならびにそれらに基づく企業の管理が、わが国の水準を下回っていれば、わが国企業の負担が増すだけで安全保障貿易管理の実効は上がらず、国際的な平和と安全の確保にもつながらない。国際条約や国際輸出管理レジームを基本に各国の制度やその運用との調和を図る必要がある。この点、諸外国の規制の現状や規制に対する考え方を知るためにも、種々の国際レジームにおいて各国が行っている主張につき、可能な限り企業に情報が提供されることが望ましい。

3.制度再構築に向けた施策

2で掲げた視点に立って、具体的には、以下を含む措置を一体的に講ずべきである。

(1)安全保障貿易管理法体系の整理・簡素化

安全保障貿易管理の必要性が高まる中、2002年のキャッチ・オール規制の導入を契機に用途や需要者の確認等の取引審査まで含め、企業による管理の裾野は大きく広がっている。また、輸出者である企業は、貨物の転売、技術の再移転にあたって、輸入者から求められなくても経済産業省の事前同意を得なければならない場合があり、その場合は輸出後も将来にわたって管理を求められる。
翻って、現行の輸出管理制度を見ると、外為法令の規定だけでは規制内容の理解や該非の判定等が難しく、企業に不合理な負担を強いるだけでなく、自主管理の徹底自体を困難なものにしている。特に、法律、政令、省令、大臣告示、通達、「お知らせ」と重層的でかつ例外の多い複雑な体系を辿らないと規制対象の特定が困難であり、また、政省令以下がつぎはぎ的に追加・改正されて検索が容易でない。さらに、運用・解釈の一貫性が必ずしも確保されていない。こうした問題は、社内における監査・教育の実施や海外子会社等のコンプライアンス指導に支障をもたらしている。
加えて、外為法上の概念が安全保障貿易管理の実態に合わない点も多い。例えば、国連安保理決議第1540号で国内対応が求められている、贈与や貸与など「貨物の売買」以外の形態による仲介は、外為法の現行規定では規制対象に含まれない。許可の対象となる役務取引についても、「居住者」と「非居住者」との間の取引を対象としており、技術移転の実態にそぐわないなど、管理を徹底する上での問題点が今次見直しにおいても指摘されている。
これらの問題を解決するため、安全保障貿易管理の法体系を外為法のその他の法体系と区分の上、整理、簡素化し、誰にでも理解・判断しやすい、簡素でわかりやすいものとすべきである。
なお、「2002年度日本経団連規制改革要望」(2002年10月15日)において、「安全保障輸出管理規制は、『国際的な平和及び安全の維持』という目的を達成するために最低限必要なものに限定し、民間企業の事業活動にとって不必要な妨げとならないようにすべき」として、規制体系の簡素化を求めたところ、政府からは「規制体系が複雑であることが、事業者に過度の負担をかけているとの指摘もあり、現在、規制体系の整理・簡素化を検討している」との説明 #5 があったところであり、その具体化が求められる。

(2)規制品目項番の国際的ハーモナイゼーション等

上記(1)に関連して、わが国の規制品目の項番が国際的に用いられている規制品目リスト番号ではなく独自の体系となっていることから、企業のコンプライアンスに不都合が生じている。特に、海外子会社・支店等にコンプライアンスを徹底させるためには、わが国の項番を現地でも通用する形に置き換えて説明する必要があり、手間がかかるだけでなく、遺漏の原因となるおそれがある。
国際的に用いられている規制品目リスト番号を参照する形で項番の国際的ハーモナイゼーションが実現すれば、企業のコンプライアンスの確立に寄与するのみならず、管理業務の電子化・効率化につながることも期待される。この点に関連して、わが国の安全保障貿易管理制度に関する英語の解説をホームページに掲載すべきである。
なお、「2004年度日本経団連規制改革要望」(2004年11月16日)において、欧米コードとの対比表の策定による対照化、さらに中長期的な検討課題として欧米先進国と同様の国際基準のコードへの統一化を要望したところ、政府からは、(1)輸出管理レジームにおいて合意された同じ規制品目リストに基づく海外との対照に非常な手間はかからない、(2)わが国には欧米のコードについての解釈権がなく、コードの変更等にもわが国の関与は及ばない、(3)各国独自の現行法体系を大幅に超えて統一することにかかるコストとそれによって得られる効果を比較衡量すれば、対応は困難である、(4)項番等の現行体系の大幅な変更による各企業の社内文書や輸出管理体制の変更によりコストがかかる、また、現行体系と新体系との対照に混乱が生じ、規制品目の不許可輸出が発生するおそれがある、などの理由から対応は困難との回答 #6 があった。
しかしながら、欧米コードを軸とした対照化・統一化ではなく、国際的に用いられている規制品目リスト番号を参照するハーモナイゼーションであれば、実現に向け大きな障害はないものと考えられる。また、(4)の従来の項番に対応した社内文書や体制の変更コストについては、それを考慮してもなお、上述のようなハーモナイゼーションのメリットがそれを上回ると考えられる。産業界としても、ハーモナイゼーションに要する作業に関しては、積極的に政府に協力していく用意がある。

(3)コンプライアンス優良事業者に対する優遇措置の拡充

安全保障貿易管理手続に従って関連法令を遵守している企業については、許可申請・審査手続を大幅に簡略化する優遇措置を講じるべきである。そうすることにより、企業や規制当局の限られた資源を真に取り締まるべきものに集中させることが可能となる。
既に社内規定の整備と確実な実施など企業の自主管理を前提として、特定の仕向地や貨物・技術に着目した一般包括許可や、取引の継続性に着目した特定包括許可といった簡略化措置が講じられてきている。また、自主管理が確実に実施されている企業に対する迅速な審査処理(いわゆるファスト・トラック #7。ただし審査が終了するまでの期間を保証するものではない)が行われてきた。これら既存の仕組みを拡充するとともに、それらとは別に、自主管理が確実に実施されている企業については、例えば、年1回のコンプライアンスの確認をもって海外現地子会社向けの輸出許可申請を不要とするなどのインセンティブ制度を導入すべきである。

4.併せて講ずべき施策

(1)通常兵器キャッチ・オール規制導入にあたっての課題

現在、ワッセナー・アレンジメント合意を踏まえて制度化を検討中の通常兵器キャッチ・オール規制については、通常兵器の過剰な蓄積を防止するという同アレンジメントの目的に照らして、また、2003年12月の覚書 #8 に基づき、対象仕向地を国連武器禁輸国に限定すべきである。また、対象品目の範囲や「軍事用途」の定義についても、企業活動を不必要に阻害することのないよう、限定的かつ明確なものとする必要がある。さらに、規制の発動については、ワッセナー・アレンジメント合意 #9 や欧州の制度 #10 のように、当該貨物・技術の輸出・提供時点で当局によるインフォームがない場合は、原則、許可申請を不要とすべきである。
なお、大量破壊兵器キャッチ・オール規制を含めて、企業の判断を支援する事前相談制度や政府による適時適切なインフォームは不可欠であり、それら機能を併せて充実する必要がある。

(2)大量破壊兵器等関連技術の移転上の課題

上述のとおり、技術移転を含む役務の提供については、居住者と非居住者との間の取引を規制対象とすること自体、最早実態にそぐわないという問題があるが、少なくとも企業内部の情報共有が妨げられることのないよう、規制対象となる移転について実態に即した基準を設ける必要がある。

5.米国の再輸出規制

米国から輸出された貨物がさらに第三国に輸出される場合に適用される米国の再輸出規制が、企業にとって多大なコストとなっており、見直しが必要である。この点は、日米規制改革・競争政策パートナーシップ協議においても、日本側より再三指摘しているところであり、米国輸出管理規則のA:1国群(旧ココム加盟国)である日本からの再輸出は最終的に全面適用除外とすべきである。なお、それまでの間、再輸出許可の要否の判断や許可の申請に要する情報を米国の輸出者から速やかに入手できる環境を整える必要がある。

以上

  1. 輸出貿易管理令別表第1の2〜4の項に掲げられている大量破壊兵器の開発等に使用される蓋然性が高いものとして国際的にリストで合意され、規制されている貨物の技術的レベルの低いもの。(経済産業省ホームページより)
  2. 1996年よりわが国で導入された輸出規制。特定の品目(リスト規制品のスペックダウン品)について、大量破壊兵器の開発等に使われることを (1)知っている場合、(2)政府より通知を受けた場合、を規制するもの。(経済産業省ホームページより)
  3. 従来の「リスト規制」に対して全貨物・技術について、大量破壊兵器の開発等に使われることを (1)知っている場合、(2)政府より通知を受けた場合、を規制する輸出規制の総称。(経済産業省ホームページより)
  4. 通常兵器、ミサイル等の大量破壊兵器等の開発に用いられる汎用品等の管理を目的とする国際的なアレンジメント、会合、グループ等
  5. 内閣府「各府省等における規制改革に関する内外からの意見・要望等に係る対応状況」 (2003年5月)
  6. 内閣府「全国規模の規制改革・民間開放要望に対する各省庁からの再回答について」 (2005年1月19日)
  7. 経済産業省「政省令等改正の概要」(平成17年12月)
  8. "Statement of Understanding on Control of Non-Listed Dual-Use Items" (agreed at the 2003 Plenary of the Wassenaar Arrangement on Export Controls for Conventional Arms and Dual-Use Goods and Technologies) の第1パラグラフ「参加国は、国連安保理の拘束力のある武器禁輸の、あるいは拘束力がある、または参加国が自主的に遵守することに同意した地域的な武器禁輸の対象地域への非リスト汎用品目の移転につき、輸出国の当局が輸出者に対し、当該品目が全部または一部において、軍事目的に使用される、またはそのおそれがあることを通知(inform)した場合に、許可を要するような規制を行うべく適切な措置をとる」
  9. 注8参照。
  10. Council Regulation(EC) No.1334/2000 of 22 June 2000の Article 4.1「附属書Iにリストされていない汎用品目の輸出については、輸出者が拠点を置く加盟国の当局より、当該品目が、全部または一部において、化学・生物・核兵器または他の核爆発装置の開発・製造・操作・運転・維持・貯蔵・探知・特定・拡散、あるいはそれらの武器を運搬可能なミサイルの開発・製造・維持・貯蔵に関連する用途に用いられる、あるいは用いられるおそれがあることを通知(inform)された場合には、許可を要する」

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