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報告書
「地域経済の活性化を担う地元企業の役割」

2007年6月19日
(社)日本経済団体連合会

はじめに ―激変する地域経済をめぐる環境―

経済の水準が国のレベルで相当水準にまで高まってきた現在、国の一層の発展、国民の福祉のさらなる向上のためには、地方分権、小さな政府の推進などにより、国民の主体的な発想や多様な考え方を活かしていくことが必要となってくる。とりわけ地域経済の発展は、これからの日本経済全体にとって重要な課題である。
しかし、近年の地域経済をめぐる環境は劇的に変化している。第一に、ICTの普及とあいまった経済活動のグローバル化の加速化により、多くの企業は世界規模での最適立地を進めており、産業立地という観点から、日本国内の地域は世界各国との競争を強いられている。第二に、日本国の財政が厳しい中、政府は財政再建路線を続けており、特に公共事業に依存してきた地域は、従来型の発展モデルの大きな転換が迫られている。第三に、日本全体で人口減少と高齢化が急速に進んでいるが、地域経済における人口の減少・高齢化の進展は、需要面からみた経済活動の停滞や、地域の文化・伝統・教育の担い手の不足という懸念をもたらしている。
地域経済はそれぞれに多様な課題を抱えており、その打開策も一様ではない。地域の活動を支える主体はさまざまであるが、本報告書は地域経済の主たる担い手である地元企業の役割に注目し、「小さな政府」「民主導の経済」「地方の自立」が唱えられる中、地域経済の活性化のために、地元企業が自主的に行なうべきことは何か、地元企業の活動を支えるために必要な方策等とは何かについて提示することを目的とする。

1.地域経済活性化のために期待される地元企業の役割

上記のような環境変化が進む中、地域経済の担い手たちは、地元の将来に対して強い危機感を持っている。しかしながら、多くの人々は、現状を改善しなければいけないという意識は高くても、具体的に何をすべきかわからないと悩み、どうすれば成功するかを模索しているというのが現状である。
大事なことは、地域の人々が地元の経済の状況を冷徹に見つめ、危機感を共有し、自主・自立への術を考え、必要な策を実行していくことである。地域活性化の実現には、各々の地域が自らの手で「地域グランドデザイン」を描くことが重要である。
とりわけ、付加価値を創造する主体である地元企業の経営者の役割は大きい。地域経済の活性化においては、そこに生活し、拠点を据えて活動している企業・経営者が、地域経済発展の担い手として活躍することが求められる。特に地元で事業を続けてきた経営者の知恵とノウハウは、地域経済全体を活性化させるためにも有用である場合が多い。
地域に根ざす企業の多くは中小企業である。この中には、規模が小さくとも独自の高度な技術やアイディアを持ち、活力にあふれ、発展している企業も多い。しかし、自社の活動の領域のみに止まっているだけでは、いずれはその発展にも限界が出てくる恐れがある。
製造業・非製造業を問わず、地元にある資源を希少価値のあるものと捉えた上で、地元企業はこれらを競争力の源泉として活用しつつ事業を展開していくことが求められる。さらに、地域全体として、地域外からヒト・カネ・モノなどの経営資源を引き入れていくことを、透徹した戦略をもって実施していくという発想が必要である。

2.地域経済をめぐる諸課題と解決の方向性

地域経済の活性化のための課題と解決策、その中における企業の役割について、ここでは以下の8つを取り上げる。

  1. 地域内協力体制の強化とネットワークの構築
  2. 地域資源の発掘と活用
  3. 「地域ブランド」の構築と定着の推進
  4. 流通・販売システムの改革 ―地域マーケティングの導入―
  5. 文化的イベントの活用
  6. ICT(情報通信技術)の活用
  7. 産学官連携の推進
  8. 企業間連携の推進 ―産業集積形成の促進―

(1) 地域内協力体制の強化とネットワークの構築

地域における経済活動の担い手は、企業のみならず、地方自治体、地域社会、地域住民、NPOなどさまざまである。しかし、地域経済の活性化という目的から見たときに、それぞれの役割が不明確なまま論議されることが多い。
企業の役割は、付加価値=富の創造である。地方自治体の役割は、地域内外の資源を取り込んで、それを効果的に再配分していくことである。NPOの役割は地元住民の視点に立って、自治体や企業が進出しづらい分野をカバーする活動を行なうことである。
地域経済の活性化を図るためには、それぞれの関係者が各々の役割を明確に意識し、それを実行していかなければならない。地元の企業・経営者の発想は、地域における他の担い手との協力関係があってこそ実現できる。これらの担い手との協力関係・ネットワークを築きつつ、地域全体で発展していくという姿を描くことが必要である。
特に、付加価値・雇用を創造する立場にある地元の経営者自身がこのことに気付き、連携して行動していくことが不可欠である。ネットワーキング・協力体制の必要性を理解してもらうための経営者教育や、それを実践するさまざまな機会を、地元の経済団体、自治体など様々な機関が提供することが求められる。

(2) 地域資源の発掘と活用

経営資源の優位性は、希少性、代替・模倣の困難性を基本に、それらが独自のアイディアに結びつくことで確立される。
地元資源には、農産物などの一次産品、観光資源、既存の工場集積、大学、研究機関などの知的な集積などが挙げられる。
自分たちの地域には、発展のための種(シーズ)として何があるかを、地元の人々が認識することが必要である。他の地域から来た人は、訪れた地域にあるすばらしいものがわかるが、地元の人は何がすばらしいものかわからないことが多い。そのような種(シーズ)を発掘し、商品として発展させることができる専門家を、地元や地元外からスカウトしていくことが必要である。そのような専門家が地元の人々と協力して種を発見し、発展させることが求められる。
地域経済もグローバルな競争が避けられない以上、単にコスト競争だけで勝ち残るのは難しい。差別化の要素を改めて考え、地域にある資源を見直し、それを利用して市場において競争力がある製品・サービスをつくっていく必要がある。地域の活性化は一朝一夕になるものではなく、地域にある資源(蓄積されてきた技術・技能、伝統文化、観光資源、農産品など)をもう一度見つめ直し、それを大都市圏、さらには世界のマーケットをにらんで、高品質の製品・サービスを開発し、提供していくことが必要である。
観光については、近年、グリーンツーリズムのように、地方における「滞在型・体験型」の旅行へのニーズが、都会の人々の間で高まっている。今まで地元では見過ごされてきた農村などでの日常生活が、都会の人々に新鮮な経験をもたらすことがその理由である。これも、人の往来を盛んにするための、地域資源の有効活用である。
一方で、市場経済の拡大、経済活動のグローバル化に伴い、地域に固有といわれる資源の価値が相対的に低下している傾向もみられる。特に都市部に本社を持つ企業や高い競争力を持つ企業は、世界中から資源を調達する能力があるために、全世界で最適立地を目指して活動している。
このような企業にとっては、立地のために考慮する重要な地域資源は人材である。人件費のコスト競争力では他の国々に劣る現実を鑑みるに、地域における高度な人材の育成は、地方へと企業を誘致するために必要な条件である。実際に、優秀な人材を定期的に都会の企業に送り込み続けることで、企業誘致に成功したという事例も報告されている。

事例1 地域資源の発掘と活用―新潟県「かんずり」の事例―

地元(新潟県妙高市)で古くから伝わる唐辛子を使った調味料を基本に、新しい製法を導入して全国的なブランドの香辛料を製造・販売

事例2 グリーンツーリズム―山形県飯豊(いいで)町の事例―

おもてなし・観光型から体験型・講習型へのツアーに転換し、新たなライフスタイルを提案するツアーを企画・実施

事例3 人材育成を地域資源とした事例―山形県長井市の事例―

山形県立長井工業高校は、卒業生を在京企業に毎年送り込み続けたが、その人材の優秀さに目をつけた在京の企業は、長井市に工場進出することを決定した。

(3) 「地域ブランド」の構築と定着の推進

地域の関係者が主体となり、商品企画や品質を高めつつ、「地域の産品」の魅力を高めていくためにも、「ブランド」構築という戦略は有効である。
ブランド化を進めていくためには、ブランドを共有できる地元の産業等が、中長期的な観点で緊密な体制を構築していく必要がある。
「ブランド」の対象は、必ずしも物品に限らない。地域の伝統芸能や、映画、芸術などの「コンテンツ」や「ソフト」も、地域の特徴を象徴する「ブランド」の構成要素となる。
地域ブランドを成功させるためには、以下の3つの要素をそろえ、総合的に機能させることが大切である。

  1. 固有の地域資源を活かし、独自のブランドの確立を目指す事業を起こすこと。その地域の企業・団体・自治体が独自の上質なサービスをつくらないと、ブランドは構築されない。
  2. ブランドづくりを支援する地域社会基盤を整備すること。そのためには企業の努力のみならず、地方自治体との連携も必要になる。
  3. ブランドづくりに必要な知的創造のための専門能力(プランニング、リサーチ、デザイン、プロモーション等)を内外から獲得すること。

これらを実現していくためのアイディアやノウハウは、都会に集積していると思われがちだが、地元をよく知る経営者や住民、自治体による共同作業の気運が各地で現れつつある。地域が自らのブランドを展開するには、必要な資源を一時的に都会などから集めるだけでなく、それぞれの地域の企業・住民・自治体が特徴を確立させるべく、長期的視野に立った持続的な努力を継続していくことが大切である。

事例4 地域ブランドの展開―長野県の事例―

長野県では、産学官が連携し、「信州ブランド戦略」を策定するプロジェクトを始めた。2006年6月にブランドづくりに要する知的創造業を集め、要請に応じ県下のブランドづくりを支援する「ブランドづくりネットワーク信州」を結成して展開している。

(4) 流通・販売システムの改革―地域マーケティングの導入―

地域内の企業はその地域の中の顧客だけをターゲットにしていることが多く、地域の経済が停滞・縮小している場合には、直接的に受けるダメージが大きい。また、地域外に販路を開拓しようとしても、既存の複雑な流通機構を目前にして自社の製品を売る術を持たない、販売していくためのアイディアに欠ける、などの課題を抱えている。
地域の経済活動とその産品全体を「メッセージ」として発信していくという、「地域マーケティング」という考え方が、最近注目されている。マーケティングの4P(Product:製品、Price:価格、Place:販路、Promotion:宣伝)を、製品個別ごとにではなく、地域として実施していこうとする試みである。とりわけ、地域ブランド構築と組み合わせての効果が期待されている(図表1)。
市場のニーズを適切に把握し、高い品質の商品を開発・製造し、適正な価格で、継続的に販売していくというシステムを構築することが、消費者の信頼を得るためには不可欠である。マーケティングを単独で実施することは難しい地域の企業にとって、地域全体でこのような仕組みをつくっていくことにより、高い効果が見込まれる。
地域マーケティングの展開の際には、販売のためのチャンネルを幅広く考えていく必要がある。特に大都市圏という大規模市場へのアクセスが不十分であれば、優れた製品・サービスを提供する努力も実らずに終わる。伝統的な流通経路のみならず、拠点を都市部に設けての直接販売、博覧会や展示会などの活用や通信販売、インターネットなど、多様な方策を考えていくことが求められる。
地域マーケティングは、地域レベルでの「顧客の創造」の試みとも言える。決して容易ではない、マーケティングのための多様な方策を考え、実施していくためには、地元企業を中心とした産学官などの関係者との組織的な対応が不可欠である。

図表1 地域ブランドと地域マーケティングの一体的な活用

(5) 文化的イベントの活用

地域の資源とかけあわせた文化イベントなどは、域外の人を地域に呼び込む起爆剤となる。イベントは、地域の伝統芸能、祭り、近代アートなど、さまざまなテーマで行なわれるが、入念に準備されたイベントは、地元経済の発展の呼び水となる可能性が高い。このようなイベントは、地域が一体となって開催されなければ成功しない。地域経済の担い手である地元企業としても、効果が見込めるような優れたアイディアについては、協賛するなど積極的に関与していくことも考慮するべきである。そして、このような手間と時間がかかるイベントを成功させるためには、企画・制作から集客・宣伝、さらには地元との共同作業の実現に尽力できる優れたプロデューサー的な人材が不可欠である。
一方、イベントによる活性化施策を考える場合、イベントを起爆剤として地域経済を持続的に発展させていくための仕組みづくりを同時に考案していくことが必要である。盛り上がりを一過性のものにしないためには、イベントの企画・実施者は、日常の活動においてイベントの必要性を浸透させ、イベントへの関与が日々の経済活動と関係していることを示すような仕掛けづくりを、関係者の密接な協力関係を基本に、共同して考案し、行なっていく必要があろう。

事例5 芸術による地域の活性化―新潟県越後妻有(えちごつまり)の事例―

新潟県越後妻有(十日町及び津南町)で過去3回開催されてきた「大地の芸術祭―越後妻有ア―トトリエンナーレ」はいずれも大きな成功を収めてきた。成功の理由は、里山の魅力、地元と地元外の人々の交流の深まり、プロデュース人材の活躍などが挙げられる。

(6) ICT(情報通信技術)の活用

大量の情報を瞬時に処理し、送信・交換することを可能にしたICTの飛躍的発展は、時間の壁・距離の壁・知識の偏在の克服に寄与してきた。地域経済においては、ICTは情報発信力を強化するための強力な手段となる。とりわけ地域ブランドの普及や地域マーケティングの推進には、ICTの活用は欠かせない。さらに、遠隔教育のツールとして活用できれば、知識の偏在を克服することも可能となる。
また、ICTは多様な働き方・柔軟な雇用形態を実現させるためにも有効である。ユビキタスネット社会※の実現によりICTを利用したテレワークが一層普及することで、地域における就労機会の拡大が期待できる。

※ユビキタスとは、「至る所にある」の意の略。総務省は2004年8月に発表した「平成17年度ICT政策大綱」において、2010年までには「いつでも・どこでも・何でも・誰でも」という次世代のユビキタスネット社会の実現を掲げている。
事例6 ICTの活用による雇用創出―いわきテレワークセンターの事例―

いわきテレワークセンター(福島県いわき市)は、在宅勤務を行なうテレワーカーを対象としたテレワークセンターを街に設け、ICTスキル・業務ノウハウを習得するためのトレーニングを実施したり、テレワーカー同士が情報交換したりする場としている。結果として、テレワークセンターは地域コミュニティの場としての役割も担い、潜在的な雇用の発掘のみならず、地域の活性化にも寄与した。

(7) 産学官連携の推進

地域の資源を活用するという観点から、地元の研究機関や学校との産学官連携も推奨される。大都市に拠点がある大企業の多くは産学官連携を進めているが、地域の中小企業の場合、単独で取り組むのは難しい場合が多い。その理由としては、大学・研究機関の敷居が高い、自分たちのニーズに合う研究が存在するのか判断できない、そもそもどのような研究が行なわれているのかわからない、などが挙げられている。
地域における産学官連携は、地元の企業にとっては、新規事業の種を発見できる、研究開発を共同で行なうことで時間や経営資源の大幅な節約を期待できる、異分野の人々との交流により自社の人材育成の機会を得られるというメリットがある。
地域における産学官連携の推進には、ICTを活用した情報提供体制を強化しつつ、専門知識をもつ行政やNPOなどの第三者が、研究機関と企業の間を取り持つような役割を果たすことが求められる。
さらに、産学官連携の対象としては、大学や研究機関だけでなく、地元の工業高等専門学校(高専)も視野に入れるべきである。技術水準が高く、意欲ある地元の若者を数多く擁する高専は、中小企業にとってのパートナーとして適している。
また、「地域の担い手を育てていく」、「競争力の基盤となる技術を自らの手で開発できる人材をつくる」といった人材教育の視点は重要である。若年者を地域に定着させるためにも産学官の連携は欠かせない。たとえば、産業人材育成に向け、地元の産業や地域のかかわりを幅広く学ばせるような「地域産業論」などのセミナーを、産学官が連携し、地元の若年者に提供する仕組みづくりを構築することが望まれる。

事例7 産学官の連携―島根県の事例―

島根大学では年間約100件の企業との共同研究がなされており、共同研究の相手先には中小企業や県内の企業が多い。中小企業は産学連携の面においても資金・人材等の経営資源が限られており、また開発段階、事業化段階で連携を行なえる能力が不足している等、課題が多い。そうした中、島根大学では地域産業の活性化、さらには地域イノベーションを創出すべく、産学連携に取り組んでいる。

(8) 企業間連携の推進―産業集積形成の促進―

元来、多くの地域経済では、地元の企業による産業集積や企業間での分業化が進んで発展してきた。しかし、過疎化・後継者難で存続できない企業が増えている。いわゆる「伝統的な地場産業集積」の多くは厳しい状況に直面している。
伝統的な地場産業集積の復興のためには、産業集積を構成する企業自身が、その強みと弱みを徹底的に分析し、マーケットのニーズに見合った製品は何か、既存の経営資源でそれを提供する可能性があるか否かについて検証していかなければならない。しかしそれがどうしても不可能である場合には、既存の産業集積自体の見直しを含めた抜本的な改革に迫られることになる。
一方で近年、政策主導による新しい産業クラスターの登場、もしくは企業間連携(強者連合)などが注目を集めている。
産業クラスターの定義は「新事業が次々と生み出されるような事業環境を整備することにより、競争優位を持つ産業が核となって広域的な産業集積が進む状態のこと」である。その目的は、日本の産業の国際競争力の強化と地域経済の活性化であり、手法としては、全国各地の企業や大学が産学連携を実施したり、企業間での異業種連携をベースにした広域的なネットワークをつくることなどが用いられる。
地域経済の競争力を高めていくためには、産学官の連携、地元企業間の連携、さらには大企業の工場、支店との連携を強めて、産業クラスターを形成・推進していくことも有効な方策である。そのためには、地元の企業が中心となり、地域の資源を再発見し、その効果的な活用を考え、周囲の関係者(企業、経済団体、地方自治体など)といかなる連携が可能であるかを検討し、実現させていくという姿勢が求められる。

事例8 産業クラスター―浜松地域の事例―

浜松地域では、1993年に製造品出荷額が前年比7.8%も減少(1兆9,986億円)したことをきっかけに、地域産業の空洞化に対する危機感が強まり、次世代新産業への取り組みがはじまった。新産業の柱として、以前から浜松地域に現存した「光」に着目し、同事業を高付加価値化し、オプトロニクス産業として拡大、発展していく浜松地域オプトロニクスクラスター構想が推進されることとなった。

3.地域の企業活動を支援するための方策 ―地域コーディネーターの必要性―

前述した8つの施策を実現し、地域経済を活性化させていくためには、それぞれの地域経済の担い手の役割を理解した上で、個々の企業や諸機関との連携を円滑に進め、地域をひとつにまとめ、その力を最大限に引き出していくという「触媒の機能」としての「コーディネート機能」の展開・充実が鍵となる。

(1) 地域コーディネーター人材の育成と活用

地域経済を活性化させるためには、コーディネーターの役割を担う人材をいかに発掘・育成・活用していくかを考える必要がある。
コーディネーターに求められる資質は、地域に内在するさまざまな資源の将来性を見出す観察力・洞察力、長期的視野に立って地域開発・復興に情熱を注ぐ意欲、などが挙げられる。
コーディネーターに求められる役割は、個別の企業経営に対して必要な支援の実施、地域内の企業・地方自治体・大学や研究機関等との間のネットワークの構築、地域外の諸機関との関係をつくり、外部からの資源を取り込むための仕組みづくり、などである。
地域コーディネーターを育成する方法としては、第一に、地域の人材を育成し、核となるように促すこと、第二に、自然発生的、自発的に地域を盛り立てているような活動を進めている人材に、明確な役割と支援を付与すること、第三に、地域の外から広く専門家やふさわしい人材を募り、核になる人材として地域活性化に参画してもらうこと、などが考えられる。
地域コーディネーターには、1人のカリスマ的な人材がリーダーシップを発揮し、周囲がそれに触発されることで活性化が起こるケースと、それぞれの専門性を持った人材がネットワークをつくり、チームとなって地域活性化を促すケースがある。地域コーディネーターになりうる人材はさまざまな分野に存在するが、中でも、企業活動に精通した人材(企業のOB、企業活動をよく理解している経済団体、支援団体、地方自治体の職員など)が、有力な候補である。
地域の企業経営者においては、地域コーディネーターの重要性をよく認識し、有用な人材の発掘・育成といった積極的な人的貢献が求められる。

図表2 地域コーディネーターの機能

(2) 行政に期待される役割

「小さな政府」、「地方分権」が唱えられている中、地方自治体は、地域経済活性化のために、単なる補助金等の支給ではなく、地元の資源・人材を活用し、それを取りまとめるコーディネート事業の実施や、民間によるコーディネート事業の支援を一層重視していく必要がある。地方自治体には、地元企業と密接に連絡を取り、企業の動向を常に注視し、地元の企業活動に必要な施策は何かについて考え、それを実施していくという仕事がより強く求められる。
具体的には、地域経済を活性化させる担い手である地域コーディネーター・地域プロデューサーを、地方自治体から選抜して自ら育成する、地元の企業などから人材を発掘してその活動を支援する、必要であれば地域の外部から招聘する、などの活動を推進していくことが挙げられよう。
コーディネート機能は、短期的な視野に立った発想では進められない。地方自治体においては、地域の産業を長期的に育成していくという視点から、いわゆる「縦割り行政」の枠組みを超えた取り組みが必要である。
地域経済の動向については、地元の企業・自治体・経済団体がより多くの情報を保有し、実状にも通じている。中央政府に対しては、地域活性化の政策遂行に際して、これらの機関と連携を取りながら、現場の意見を尊重し、その施策を支援していくことが求められる。

(3) 地域の諸機関との連携

地域コーディネーターが円滑に仕事を進めていくためには、地方自治体の支援だけでなく、地元の経済団体、NPO、場合によっては町内会などからの支援協力が欠かせない。支援や協力は、金銭面だけでなく、コーディネート事業への積極的な参画、人材の提供(ボランティアなど)、会合への出席など、さまざまな形が可能である。地域経済の活性化の役割を担う地域コーディネーターの役割を関係者が理解し、その活動に積極的に参画していくことが、「地域の力を1つにして強みを活かしていく」ために必要である。

まとめ ―人を引き付ける地域づくり―

地域経済の活性化には、なによりヒト・カネ・モノ・情報・技術の集まる仕組みをつくらなければならない。まずは地域にある既存の資源の可能性を再発見し、内外の消費者の需要に応える、次いで新たな需要を掘り起こす製品・サービスを提供するという発想が必要である。さらに、地域の外から呼び込んだ資源を地域の資源と結合させることで、新しいニーズとシーズを開拓し、顧客を創造し続けていくことが求められよう。そのためには、地域の企業経営者と地方自治体、地元経済団体などが連携していくことが重要な課題である。
活力ある地域には人々が、特に若者が集まる。人々が地域に根付き、地元の経済活動や文化・教育を支えていくことが、持続的な地域経済発展の礎である。地域経済が自立していくためには、国のマニュアルに沿った運営ではなく、自分たちでルールをつくり、個性的な地域をつくるという姿勢が求められる。
これらの活動を進めていくためには、地域の企業・経営者の役割は大きい。富=付加価値を生み出す主体である地域の企業が活力を得て発展していくことは、地域が自信を取り戻すことに直結する。地域の資源を活用し、域外市場からも必要な資源を取り込み、元気な企業・人々が活動している地域に、人々は引き付けられ、自らもその活動に参画したいと思うことであろう。豊富な経験と技術・ノウハウを持つ企業の経営者がそのような視点を持ち、自社のみならず、地域経済全体の活動に参画していくことが必要である。そして、それを支えるようなソフト面、ハード面でのインフラを、企業経営者のみならず地方自治体、経済団体、支援団体、大学、研究機関などが協力しつつ整えていくことが、今後の地域経済の活性化施策の方向性である。

以上

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