新たな食料・農業・農村基本計画に望む

〜農業を日本の成長産業として確立するために〜

2010年2月16日
(社)日本経済団体連合会

はじめに

日本経団連では、2009年3月、「わが国の総合的な食料供給力強化に向けた提言」を取りまとめ公表した。世界的な人口増加等による食料需給の不安定化が懸念される一方、国内では耕作放棄地の増加や農業従事者の高齢化・後継者難等により食料供給基盤が崩壊の危機に直面している状況を踏まえ、国民が必要とする食料を安定的に供給できる体制を確立することは国家存立の基盤であるとして、そのために必要な施策を総合的に講じていくべきことを提言した。

具体的には、国内における食料自給力の向上を図るべく、農地の確保と多様な担い手による有効利用の促進により生産基盤を維持・強化するとともに、国民や市場のニーズに対応した開発から生産・流通・販売に至る一体的な取り組みを進めることが喫緊の課題であり、同時に、海外との連携・協力等の強化により食料輸入を安定的に確保する体制を充実し、自給力の向上と相俟って、総合的な食料供給力の強化を図っていくべきことを指摘した。

同提言以降、2009年12月には改正農地法が施行されるなど経団連の提言内容が着実に実施されるとともに、戸別所得補償モデル対策の2010年度からの実施が決定されるなど、農政の新たな展開が見られている。また、現在、政府では、今後10年間の農政の方向性を決める、新たな「食料・農業・農村基本計画」を本年3月に策定すべく、精力的な検討を行っている。

今後のわが国の食料・農業・農村の在り方を考える際には、農業は、食料その他の農産物を供給するという基本的な役割に加え、水源の涵養や自然環境の保全など様々な機能を有するととともに、地域の基幹産業として地域社会の維持にも重要な役割を果たしていることを改めて認識する必要がある。そして、これらは農業の生産活動が農村等の地域で活発に行われることにより有効に機能するものであることから、必要な国土・環境保全対策等を行いつつも、わが国の国家戦略の一環として農業を成長産業として確立していくことが、地域の活性化のみならず、わが国経済社会全体の発展に不可欠である。その際には、道州制導入も見据えて、地域がそれぞれの個性と強みを活かした独自戦略を確立・実施し得るよう地方分権型の取組みも進めていくべきである。

かかる観点から当会では、昨年3月の提言を基本としつつ、今後の農政の課題につき改めて考え方を整理し、本提言を取りまとめた。政府には、新たな「食料・農業・農村基本計画」において、今後の食料・農業・農村の展望を示すとともに具体的な課題の可視化を進め、国全体としてこれらの課題や問題意識を共有しつつ改革方策を確立し、可能な限り速やかに実行に移していただきたい。

経済界としても、農業界との連携・協力等を更に推進し、農産物の高付加価値化や販路の拡大など、農業イノベーションの創出に貢献していきたい。

1.効率的・安定的な農業経営構造の確立

2009年3月の経団連提言では、農業の限りある経営・生産資源である農地の確保と有効利用の促進により食料生産基盤を強化すべく、(1)農地に係る権利を有する全ての農業者による農地の有効利用責務の法定化、農用地区域からの除外手続きの厳格化等転用規制の見直しなどによる優良農地の確保と有効利用の徹底、(2)リース方式による農業参入の区域制限の廃止や20年超の長期賃貸借制度の導入、農業生産法人の構成員要件の緩和などによる多様な担い手による農地の有効利用の促進、(3)農地を貸しても納税猶予の対象とする相続税納税猶予制度の見直しなどによる経営面積の大規模化と農地集約への支援、(4)これらを内容とする改正農地法の早期成立・施行を求めた。

また、農業生産法人の構成員要件緩和に関して、農業生産法人と他の事業者との戦略的な連携や資本の充実が可能となるよう、二分の一未満まで出資が認められる特例の対象となる関連事業者の範囲を政令で幅広く定めるとともに、リース方式による企業の農業参入に関する地域調和要件について、可能な限り具体的な審査基準を設定・公表すべきことを求めた。

この後、農地の確保と貸借を通じた効率的な利用を促進する改正農地法が2009年6月に成立し、関連政省令等とともに12月に施行された。また、2009年12月22日、農林水産省は、2011年度の戸別所得補償制度の本格実施に向け、2010年度に「戸別所得補償制度モデル対策」を実施することを正式決定するなど、「戦後農政の大転換」とでもいうべき動きが見られる。

(1) 改正農地法の適正運用と活用の促進

農業生産法人の構成員要件の緩和に関しては、二分の一未満まで出資が認められる関連事業者として、「中小企業者と農林漁業者との連携による事業活動の促進に関する法律の認定を受けた計画に従って農商工等連携事業を実施する中小企業者」とともに、「食品流通構造改善促進法の認定を受けた計画に従って食品生産製造等連携計画事業を実施する食品製造業者等又は食品製造事業協同組合等」などが政令で定められた。この「食品生産製造等提携計画事業」とは、食品製造業者等(食品の製造、加工又は販売の事業を行う者)と生産者の安定的提携関係を促進する事業とされており、農商工等連携促進法と異なり企業規模の制限はなく、農業界と経済界のより幅広い連携・協力が可能となるものと評価できる。

また、リース方式による農業参入の地域調和要件に関しては、農地法処理基準において、農地の集団化、農作業の効率化その他の周辺の地域における農地の農業上の効率的かつ総合的な利用の確保に支障を生じるおそれがあり不許可相当と判断される例として、「既に集落営農や経営体へ農地が面的にまとまった形で利用されている地域で、その利用を分断するような権利取得」、「地域の農業者が一体となって水利調整を行っているような地域で、この水利調整に参加しない営農が行われることにより、他の農業者の農業水利が阻害されるような権利取得」などが示された。

更に、農地の権利移動等に関する行政手続きを担う農業委員会の全国組織である全国農業会議所は、改正農地法の施行に当たって、「審議の透明性を通じた信頼性の確保、目標・ 計画に基づく活動とその点検・評価、農地の利用状況の把握や耕作放棄地の発生防止と解消、担い手への農地の利用集積など、これまでの取り組みをさらに強化していく」との会長談話を公表している。

経団連としては、こうした取組みを評価するとともに、引き続き、行政手続法に規定する内容(申請に対する審査・応答、拒否処分の際の理由提示、審査の進行状況や処分の時期の見通し等の情報提供等)が適切に行われるなど、現場レベルで手続きの公正・透明性が確保されるよう求めていきたい。また、経済界における改正農地法の理解や活用の促進に向け、農地法に関するセミナーや地域に調和した企業の農業参入の優良事例の紹介等を行っていきたい。

(2) 地域における適切な役割分担による担い手の確保・育成等

2010年度に実施される「戸別所得補償制度モデル対策」は、(1)水田を有効活用して、麦・大豆・米粉用米・飼料用米等の戦略作物の生産を行う販売農家に対して、主食用米並の所得を確保し得る水準を直接支払により交付する「水田利活用自給力向上事業」、ならびに、(2)恒常的に生産に要する費用が販売価格を上回る米に対して、所得補償を直接支払により実施する「米戸別所得補償モデル事業」からなる。

この実施決定に合わせて赤松農林水産大臣が発表した談話では、特に「米戸別所得補償モデル事業」について、「決してバラマキを行って不効率な農業構造を温存するものではなく、標準的な生産費を算出して、農家手取りの岩盤補償を全国的に行うものであり、効率的な経営を行うほど報われる」仕組みだとしている。また、農林水産省の資料によれば、稲作の担い手である農家の所得が10年間で4割以上も減少し、その経営継続が困難になりつつあり、今回の「岩盤」の導入により、担い手にとって収入額の見通しが立つようになることで、規模拡大に取り組む環境ができるとしている。同時に、現在、米の生産の太宗はサラリーマン農家等の主業農家以外が担い、農業を主とする担い手のいない水田集落が全体の過半を占めており、今回の措置により、主業農家以外からも担い手を出現させることが期待できるとしている。

わが国の稲作農業は、国民の主食である米を生産し単一品目では最大の産出額を持つ基幹的農業分野である。また、生産に不可欠な水利調整など地域の農業は様々な農業者によって担われているものであり、こうして維持された水田には水資源の涵養や洪水防止等の様々な機能を有していることから、稲作農業の担い手等を確保・育成していくことは極めて重要である。一方で、行政機関は、所掌する政策の効果を把握し、これを基礎として必要性、効率性、有効性等の観点から自ら評価するとともに、その評価の結果を当該政策に適切に反映させることなどを通じて、国民への説明責任を果たすことも求められている。

従って、新たな食料・農業・農村基本計画においては、地域における適切な役割分担の下で稲作農業の担い手を確保・育成すべく、今後の稲作農業の展望を示し、担い手が規模拡大等の経営計画を策定・実施し得る環境を整備するとともに、地域の実状に応じて担い手を確保・育成する道筋をつけていくべきであり、併せて、適時に、その政策効果を検証していくことが求められる。また、担い手が地域の実情や「水田利活用自給力向上事業」及び「米戸別所得補償モデル事業」による支援水準等を考慮し、自らの経営判断により主食用米・米粉用米・飼料用米・麦・大豆等の作物を選択できる環境を徹底していく必要がある。

(3) 農地の集積と基盤整備への支援

わが国稲作農業は、上記の通りわが国における基幹的農業分野であるものの、平均経営規模は1ha程度であり、野菜や畜産などの他の経営部門に比較し規模拡大が進んでいない。農林水産省「米生産費調査」が示すように、経営規模の拡大は生産費の低減を通じた農家所得の増大につながることから、地域での合意形成に基づき農地の集積を図っていくことは、産業としての農業の魅力向上を通じた地域全体の農業の活性化と後継者の育成・確保のためにも不可欠である。

特に、改正農地法の下で貸借等を通じた効率的かつ安定的な農業経営を地域全体で一層推進していくためには、「戸別所得補償制度モデル対策」に加え、地代支払能力の向上等を含めた農地集積への一層の支援を行うとともに、農業イノベーションに資する農地の大区画化や汎用化、用排水路等の基盤整備も着実に推進すべきである。

なお、厳しい国家財政のもと、農地集約への支援を時限的かつ集中的に実施し、農地集積の進展により標準的な生産に要する費用が低減すれば、支援水準の見直しを通じて財政支出の縮減も可能となる。

2.戦略的な産業間連携等への支援

2009年3月の経団連提言では、わが国の食料自給力を高めるためには、食料生産基盤の強化に加え、国民や市場のニーズに対応した開発から生産・流通・販売に至る一体的な取り組みを進めることが重要であるとして、(1)大企業も含めた幅広い事業者との連携事業を実施する農業者への各種支援措置の適用などの農商工連携制度の拡充、(2)有望な市場・品目の優先的な二国間検疫交渉を通じた輸出相手国での輸入制限緩和などによる高品質な農産物・加工品の輸出促進、(3)消費者の安全・安心、健康志向に対応した付加価値の高い農産物・加工品の開発、(4)民間企業の意見・要望を踏まえた農林水産研究基本計画の見直しと産学官連携推進などの農業分野における研究開発の更なる促進を求めた。

その後、企業規模を問わず食品事業者と農業者が新商品を連携して生産・販売する場合の施設整備への支援(食農連携促進施設整備事業)が実施され、また、2009年6月には、農林水産省国産農林水産物・食品輸出促進本部の議を経て「我が国農林水産物・食品の総合的な輸出戦略」が改訂されるとともに、タイへの牛肉の輸出条件の確立や台湾へのリンゴ輸出の際に課題となっていた残留農薬基準の一部設定など、輸出環境の整備について具体的な進展がみられている。研究開発促進については、食料・農業・農村基本計画の見直しに合わせて、民間の意見・要望を踏まえつつ農林水産研究基本計画の見直し作業が進められている。

また、「新成長戦略(基本方針)」(2009年12月30日閣議決定)でも、「いわゆる6次産業化(生産・加工・流通の一体化等)や農商工連携、縦割り型規制の見直し等により、農林水産業の川下に広がる潜在需要を発掘し、新たな産業を創出していく」ことや、「日本の農林水産物・食品の輸出の拡大に向け、特に潜在需要が高いと見込まれる品目・地域を中心に検疫協議や販売ルートの開拓に注力し、現在の2.5倍の1 兆円水準を目指す」旨が盛り込まれている。

更に、全国農業協同組合中央会(JA全中)では、2009年10月の第25回JA全国大会決議において、「大転換期における新たな協同の創造〜農業の復権、地域の再生、JA経営の変革〜」を掲げ、新たな農業に携わる人との協同や地域の食品関係企業との協同など、多様な連携・ネットワークの構築の推進に組織をあげて取組んでいくとしている。

(1) 農産物の輸出促進に対する戦略的な支援

わが国では少子高齢化・人口減少が進み、農産物やその加工品のマーケットが縮小する一方、海外ではわが国の高品質な農産物・加工品が高い評価を受けている。わが国農業全体にとって、輸出促進は新たな販路拡大や所得の向上、国内ブランド価値の向上、更には農業経営の意識改革を促進する観点からも重要である。

今後とも、更に成長が見込まれる中国、香港、台湾等への付加価値の高い牛肉や果実、米等の輸出を促進すべく、これら有望品目・仕向け地域における検疫問題の解決や販売施設運営への助成の継続・拡大などに優先的に取組むべきである。併せて、GAP、ハラル、コーシャ、有機栽培規格等の認証等の輸出先国の各種基準への対応、空港・港湾における冷凍・冷蔵設備の整備等についても更に支援を集中していく必要がある。

更には、「新成長戦略(基本方針)」での数値目標の達成に向け、各地域等がそれぞれの強みを活かしつつ、輸出相手国の嗜好や消費動向、購買可能な価格帯、相手側のニーズ等を踏まえた商品提案の強化を進めるとともに、これを補完する形でオールジャパンとしての輸出戦略を官民関係者が一体となって推進することにより、農業をわが国の輸出産業に育成していくべきである。

(2) 農業分野での研究開発の促進

わが国農業が今後も多様化・高度化する国民・市場のニーズに対応した食料供給を行っていくためには、農業分野における研究開発を積極的に推進し、わが国農業にイノベーションを創出し続けていくことが重要である。そのためには、新たな農林水産研究基本計画の重点目標に掲げられている、(1)食料安定供給、(2)地球規模環境変動対応、(3)新需要創出、(4)地域資源活用、(5)シーズ創出等の分野の研究を進め、世界をリードしていくことが求められる。

とりわけ、産業間連携による地域資源の活用や農産物の付加価値向上という観点からは、主要農産物について、加工適性等の形質の確保や安定供給、あるいは、需要期に合わせた生産・供給などを進めるための品種改良や生産・保管・流通技術等の研究開発を集中的に推進することが重要である。

また、「戸別所得補償制度モデル対策」の「水田利活用自給力向上事業」では、米粉用・飼料用米等の新規需要米の栽培に取り組む販売農家について、主食用米並みの所得を確保すべく、10aあたり8万円の助成を行うこととしている。こうした取り組みは、水田の有効活用を図るという観点からは重要であるが、実需者との契約が助成の要件とされていることから、その活用のためには需要の創造・拡大を進めていかねばならない。

従って、米粉としての加工に適した形質や成分、飼料としての家畜の嗜好性や畜産品の品質向上に資する形質や成分、生産コストの削減等、用途に応じた稲の研究開発・普及をこれまで以上に推進していく必要がある。また、これらに合わせて、米粉用米・飼料用米の保管・流通システムの整備や米粉製品の市場拡大等も進めていく必要がある。

(3) 農商工連携の一層の推進

経団連では、農業経営の安定と消費者に豊かな食生活を提供する観点から、また、開発・生産・加工・流通・販売・消費まで一貫したわが国のフードシステムの活性化の観点から、農業者、製造業、流通・販売業者等が互いに連携・協力して付加価値を高めていくこと等を目指して、経済界と農業界との連携・協力等の強化のための取組みを進めている。そして、これらの連携・協力等の事例は、製造業、商社、流通・小売、銀行、輸送等の幅広い業種において、契約栽培、農業生産法人への出資、野菜屑等を利用した資源循環、資金調達やリース、生産技術・資機材等の提供、新品種・新商品の開発・普及促進、社員食堂等における地産地消の推進、輸出促進や販路開拓に向けたビジネスマッチング等、様々な広がりを見せている。また、経団連でも、JAグループとの共催で、一昨年には「地産地消セミナー」を、昨年10月に「農商工連携セミナー」を開催している。

昨年12月に施行された改正農地法等により、農業生産法人への出資や農地のリース方式による農業参入など、農業界との連携・協力を進める企業が更に増加することが見込まれることから、経団連としても、農業界との連携・協力の事例を収集し、農業の6次産業化や農商工連携において経済界として今後どのような連携・協力ができるか検討を深めるとともに、引き続きセミナーの開催や事例集の作成等を通じて、農商工連携の機運の維持・向上と優良事例の拡大のための活動を強化していきたい。

3.わが国の強みを生かした国際連携の推進

2009年3月の経団連提言では、国内生産基盤の維持・強化と国民や市場のニーズに対応した開発から生産・流通・販売に至る一体的な取り組みにより食料自給力の向上を図るとともに、併せて、海外との連携・協力等の強化により食料輸入を安定的に確保する体制を充実すべく、(1)競争力のある国内農業の確立を目指した国内の農業構造改革の進展とWTO・EPA交渉の一層の推進、(2)WTO・EPAにおける輸出規律の強化と東アジア連携の強化、(3)EPA・投資協定による投資ルールの整備などを通じた海外での食料生産のための基盤整備、(4)農業生産基盤の整備、生産技術や新品種等の開発等に関する資金・技術面での協力を通じた世界の食料生産の促進に貢献する国際協力等の重要性を指摘した。

その後、昨年11月から12月にかけて行われたWTO閣僚会議では、ドーハ・ラウンド交渉の2010年中の終結の必要性が再確認されるとともに、EPAについては、スイス・ベトナムとのEPAがそれぞれ9月と10月に発効するなどの進展が見られた。また、わが国政府においては、WTO・EPA交渉を更に推進するため、外務・財務・農林水産・経済産業の4大臣を中心とした閣僚委員会を昨年11月以降、月1回程度のペースで開催していく方針を明らかにしている。

東アジア連携の強化という観点からは、昨年10月のASEAN+3首脳会議においてASEAN+3FTA構想の政府間検討開始が合意されるとともに、11月のASEAN+3農林大臣会合で、「東アジア緊急米備蓄パイロット・プロジェクト」を恒久的メカニズムに移行させることに合意している。また、10月の東アジアサミットにおいては、ASEAN+6EPA構想についても政府間検討開始を合意している。更に、「新成長戦略(基本方針)」(2009年12月30日閣議決定)では、「2010 年に日本がホスト国となるAPEC の枠組みを活用し、2020 年を目標にアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)を構築するための我が国としての道筋(ロードマップ)を策定する」とされている。

海外での食料生産のための基盤整備に関しては、2009年8月20日に農林水産省及び外務省共催による「食料安全保障のための海外投資促進に関する会議」が、「食料安全保障のための海外投資促進に関する指針」を取りまとめられ、公表している。

(1) 本格化するWTO・EPA交渉への積極的対応

わが国は、グローバルな貿易自由化等のルール整備と紛争処理機能を有するWTO体制の最大の受益国の一つであり、総合的な国益実現の観点からWTO体制の維持・発展に向け、その取り組みを強化する必要がある。また、地域経済連携・統合への取り組みが世界的に活発化する中、東アジア諸国などわが国にとって重要な国・地域との間で、EPA・FTAの締結を促進していくことも極めて重要である。

2009年3月の経団連提言で指摘した通り、わが国がこのようなWTOやEPAの交渉により一層積極的に関与し、その推進を図っていくためには、まずもって農業の構造改革を加速化し国際化に対応した競争力のある国内農業を確立すべきである。同時に、わが国農業を取り巻く内外環境や今後の農業展望等を踏まえた品目別の交渉戦略と国内対策等を、戸別所得補償制度などの新たな措置も含めて総合的に策定し、国際化への対応と健全な国内農業とを両立させる方策を確立していくことが求められる。

かかる取組みにあたっては、政府の総合的な司令塔の確立と強力な政治のリーダーシップの発揮が求められ、前述の4大臣を中心としたEPA・WTO閣僚委員会が、かかる機能を果たすことを強く期待するものである。

(2) 多様な農業の共存を可能とする広域経済連携の検討と技術協力等の推進

わが国は、すでにシンガポール、メキシコ、マレーシア、チリ、タイ、インドネシア、ブルネイ、フィリピン、スイス、ベトナムの10カ国との二国間EPAとともに、ASEAN10カ国全体との広域経済連携である日アセアン包括的経済連携(AJCEP)協定を発効させている。

わが国は引き続き重要な国・地域とのEPAを推進すべきであり、とりわけ、経団連提言「危機を乗り越え、アジアから世界経済の成長を切り拓く」(2009年10月)等で指摘した通り、アジア経済が持続的で安定的な成長を達成していくための方策の1つとして、物品貿易に加え、サービス貿易、投資、人の移動を含む包括的なEPAの集積からなる経済ネットワークの面的拡大(例えばASEAN+6やAPEC規模のFTAAP)を目指す必要がある。

これらの広域経済連携を進めるにあたっては、参加国が増加するほどその経済産業構造や輸出入品目構成等が多様なものとなることから、WTOルールに基づき極力貿易・投資等の自由化を進めつつも、参加国の実情が柔軟に反映できる枠組みを構築していく必要がある。とりわけ、自然環境の影響を大きく受ける農産物については多様な農業の共存を可能とする方策も必要であり、AJCEPの枠組みなども参考にしつつ、アジア地域等の経済連携の戦略的な推進を検討すべきである。

また、2009年11月のASEAN+3農林大臣会合で、恒久的メカニズムに移行させることに合意したASEAN+3での「東アジア緊急米備蓄」については、わが国が優位性を持つ米の生産・備蓄に関する技術の提供等を通じて、今後も積極的に関与し、もってアジア地域の食料安全保障に貢献すべきである。

(3) 政府の海外農業投資支援における品目・地域の柔軟な取扱い

2009年8月に「食料安全保障のための海外投資促進に関する会議」が取りまとめた「食料安全保障のための海外投資促進に関する指針」において、わが国からの海外農業投資を促進すべく、政府及び関係諸機関が、民間企業や被投資国との緊密な連携の下で農産物及び地域に応じた最も効果的な支援を総合的・戦略的に実施し、本邦企業の事業展開のリスク削減を図っていく方針を明らかにしたことは高く評価できる。今後の具体的な取り組みに当たっては、引き続き民間の意見等を踏まえ実情や具体的なニーズを反映したものとして進めていくことが望まれる。

とりわけ、指針で当面の対象とされた農産物と地域(大豆、とうもろこし等及び中南米、中央アジア、東欧等)については、今後の世界的な食料需給の動向、国民や民間企業、被投資国の具体的なニーズ等を踏まえ、農産加工品も含め、より幅広く支援の対象とするなど、柔軟な対応を行うべきである。特に、地理的な近接性と密接な貿易・投資関係を有するアジア諸国との関係は、戦略的にも重要であり、政府がこうした地域における農業投資環境整備の一環として、知的財産権の保護強化や農業資機材の関税の引下げ等にも取り組んでいくことを期待する。

以上

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