豊かなアジアを築く広域インフラ整備の推進を求める

2010年3月16日
(社)日本経済団体連合会

豊かなアジアを築く広域インフラ整備の推進を求める【概要】 <PDF>

はじめに

われわれは、昨年秋に、提言『危機を乗り越え、アジアから世界経済の成長を切り拓く』(2009年10月20日)と提言『アジア経済の成長アクション・プランの実現に向けて』(2009年11月17日)を通じて、域内経済統合の推進とこれを支えるハード・ソフトの広域インフラ整備の2つを柱とするアジア経済成長戦略を打ち出した。同戦略は、地域経済統合の推進で市場拡大と貿易投資の活性化を図り、ハード・ソフトの広域インフラの整備で成長のボトルネックを解消することで、域内格差の縮小と成長基盤の確立を図り、結果として、豊かなアジアを築いていくことを目指している。

昨年11月と本年1月の二次に亘る経団連ASEANミッションでは、わが国経済界のアジア重視を内外に示すとともに、回復基調にある各国政府・経済界首脳との政策対話において、われわれの打ち出したアジア成長戦略への支持と賛同を得た。

おりしも、国際通貨基金(IMF)によれば、アジア新興国の2010年の実質GDP成長率は+8.4%と予測 1 されており、アジアは世界経済の力強い牽引役として期待されている。今こそ、わが国はアジアがもつ潜在成長力を顕在化させ、さらなるダイナミックな成長をアジアで実現するために、特に、ハード・ソフトの広域インフラ整備を通じた貢献を推進し、アジアとともに成長していくことが必要である。

かかる中、広域インフラ整備を具体化するためのアジア総合開発計画の策定が、東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)、ASEAN事務局、アジア開発銀行(ADB)で進められている。われわれは、これら3つの国際機関と同計画をめぐり政策協議を進めることとしている。

また、海外の大規模プロジェクトで、各国が政府の強いリーダーシップのもと国を挙げて対応する一方、わが国企業が敗退するケースも見られ、インフラ整備における今後のわが国の官民連携、オールジャパン体制のあり方を検討していくことが求められている。

政府は新成長戦略の中で、アジアの成長を重要な柱としており、この機会に改めてアジア経済成長戦略を実現する上で重要な、(1)地域経済統合の推進、(2)アジア総合開発計画での重点プロジェクト、(3)広域インフラ等の整備を進める上での政府開発援助(ODA)等のあり方、(4)官民連携(PPP)の推進、(5)海外大規模プロジェクトでのトップ外交の推進の5つの課題について、求められる対応を下記の通り整理した。わが国がアジアとともに成長するという基本的なビジョンのもと、新成長戦略を推進する日本政府ならびに内外の関係機関に、その実現を求める。

1 2010年1月26日公表 World Economic Outlook UPDATE

1.地域経済統合の推進

アジアがダイナミックかつ持続的な成長を実現していくには、地域経済統合を進め、域内におけるヒト、モノ、カネ、サービスの自由な移動を前提とする、オープンで柔軟な経済社会を実現していくことが重要である。

東アジアの各国・地域の間では、多くの自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)が締結され、貿易・投資の促進に貢献している。これらの経済ネットワークを積極的に活用するとともに、面的な拡大と質的な向上を進め、より広域レベルでの経済統合を実現することが望まれる。既にASEAN+3やASEAN+6の枠組みについて、政府間で議論を進めることとされている。

本年は、わが国がアジア太平洋経済協力(APEC)議長国であることから、さらに踏み込み、アジア・太平洋地域規模の自由貿易圏構想であるFTAAP(Free Trade Area of Asia-Pacific)を含む望ましい地域経済統合について、早急に検討を進め、その実現を目指すべきである。その中で、北東アジアにおけるFTA/EPAの空白を埋めるとともに、日印包括的EPAの早期締結に努めることが必要である。

また、FTA/EPAの下に設置されたビジネス環境整備委員会を通じて、関係国はハード・ソフトのインフラ整備のための対話を具体的に進めることが必要である。

2.アジア総合開発計画での重点プロジェクト

地域経済統合を実質的に支える広域インフラと、その結節点におけるインフラ整備を推進する上では、相手国・地域との十分な政策対話を通じてニーズを的確に汲み取り、わが国企業の持つ技術、ノウハウを効果的に活用する観点から、以下のプロジェクトに重点的に取り組むべきである。

(1) 重点を置くべき地域とプロジェクト

2 後掲資料参照

(2) 重点を置くべきセクター

(3) その他

3.広域インフラ等の整備を進める上でのODA等のあり方

(1) アジア総合開発計画実現へのあらゆる開発スキームの活用

ADBとアジア開発銀行研究所のリポート「シームレス・アジアに向けたインフラストラクチャー(2009年)」によれば、2010年から2020年までの11年間にアジアでは約8兆ドルのインフラ需要が発生すると見込まれている。この需要に積極的に対応していくためには、その莫大な必要財源をアジア域内各国の財政や関係各国のODAだけで賄うことは困難である。

そこで、現在、ERIA、ASEAN事務局、ADBが策定を進めているアジア総合開発計画の推進にあたって、わが国としては、国際協力機構(JICA)の研究機能、公共事業等の計画策定機能、個別案件形成機能、国際協力銀行(JBIC)や日本貿易保険(NEXI)等の政府資金(OOF)、民間投資、官民連携(PPP)スキームなど開発のためのあらゆるスキームを動員することが必要である。とくに新JICAの発足により、円借款に加え、技術協力・無償資金協力を同時に実施できる機能が確立されており、この3つとともに再開が期待される海外投融資機能を組み合わせて活用することが重要である。

(2) わが国ODAの抜本的見直し

アジア総合開発計画に沿った広域インフラならびに結節点における重要インフラの整備にわが国の優れた技術を活用していくためには、わが国ODAが積極的に関与していくことが重要であり、その抜本的見直しを並行して進めるべきである。その際、財源の拡充も必要であり、1997年をピークに続いているODAの一般会計当初予算の減少に歯止めをかけるべきである。

円借款を中核とするわが国のODAは、主としてアジア諸国の自助努力を促し、その経済発展に貢献してきたとの評価を得てきた。近年、開発途上国の経済発展が加速しており、多くのアジア諸国が中所得国へと移行し、円借款の対象国から卒業を果たしてきている。また、わが国企業のビジネスモデルは、かつてのプラント輸出主体から、海外の資源やインフラへの投資、海外拠点における継続的な事業展開へと変化し、加えて、ビジネスの迅速性が求められてきている。そのため、途上国の公共事業として行う円借款単独によるインフラ建設は、時代の要請に応えることが出来なくなっている。

政府はこうした状況に鑑み、円借款供与にかかる期間を従来の7年から3年半に半減する取り組みを進めており、経済界はこれを評価しているが、制度自体の抜本的見直しは避けることができなくなってきている。制度開始から既に50余年を経たわが国ODAは、国際協力の現場のニーズに的確に対応することが困難となっており、例えばJBICの投融資との有機的連携を視野に入れて、広義の開発金融という枠組みで捉え直すことが求められる。既に政府では、ODAの更なる見直しに着手しているが、見直しにあたっては、この分野の知見を数多く有するJICAとともに、企業が途上国の開発事業の主要な担い手であることを念頭におくべきである。特に、政府の新成長戦略では、わが国ODAによってアジアの産業発展を通じた経済成長を促し、結果としてわが国の国民経済や企業がともに成長するという視点を忘れてはならない。

(3) 無償資金協力の拡充

アジア域内の低所得国が必要とする社会インフラをはじめ、各種の開発需要に対して、わが国として積極的に無償資金協力を活用していくことが必要である。例えば、質の高い労働力確保のため、日系企業の工場周辺地域の住環境整備を進める際、緊急度の高い、住宅、学校、保健施設などについては、無償資金協力を積極的に供与していくことが考えられる。そのためには、財源の大幅な拡充と対象案件あたり10億円といわれる規模の制約の改善が求められる。

また、日本側が設計・建設の窓口になり、プロジェクトを完成させてから被援助国に贈与する「直営型スキーム」を拡大し、迅速な無償資金協力によるプロジェクトを実現すべきである。

(4) JICA海外投融資の再開

円借款は供与までに時間がかかること、リスケジュールなどの相手国の事情により供与ができなくなること、対象国が減少してきていることなど、制度上の困難を抱えている。こうした中で、日本企業がアジア域内のインフラ事業に参画する際に、インフラ支援の経験を有するJICAの投融資を再開することが求められる。とくに、開発効果が高く政策的に推進するべきプロジェクトについては、従来のJBICの海外投融資に加えて、JICAの海外投融資を円借款とともに供与することを可能とすべきである。例えば、官民連携(PPP:パブリック・プライベート・パートナーシップ)の上下分離方式で民間投資部分に海外投融資を活用することで、支援案件の選択肢が広がることとなる。

なお、JICAの投資は返済問題を抱える国にとって、追加的な負担とならないという利点がある。

(5) 技術協力の推進

アジア域内のインフラ整備にあたっては、技術協力のツールを活用し、民間プロジェクトを含むインフラプロジェクトのフィージビリティ・スタディ(FS)の拡充、鉄道システム等のインフラに係る基準認証整備への支援、発電・港湾・浄水場等のオペレーション・メンテナンスサービス支援、事業開発権入札書類の作成や入札評価支援などの対応が求められる。加えて、JICAの計画策定支援機能を活かすことも重要である。

(6) その他政府資金の活用

  1. JBICの機能拡充
    JBICは民間金融機関を補完する観点から、鳩山イニシアティブによる環境案件やわが国企業が関与する海外大規模インフラプロジェクトを投資金融で支援したり、金融危機対応など不測の事態に迅速に対応する必要がある。そこで、関連する法令変更を行い、JBICが民間金融機関だけでは対応できない案件に、より機動的かつ積極的に対応することが求められる。また、港湾、鉄道、電力等のインフラ運営に従事し、収入の大半が現地通貨であるような進出企業に対し、現地通貨建ての投資金融を行うべきである。

  2. 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の機能拡充
    資源エネルギー安全保障の観点から、JOGMECのエネルギー資源開発でのPPPの推進、出資機能の拡充や政府保証による市中銀行からの調達容認などの機能拡充が必要である。

(7) アジア域内における資本市場整備 3

アジア総合開発計画を推進するためには膨大な資金手当てが必要であり、わが国のODAの活用、各国の財政出動、ならびにADBの協力が重要となる。加えて、アジア域内における資本市場の整備を加速し、官民の連携によりインフラファンドの開発を進め、民間資金の活用に道を拓いていくことが必要である。

3 アジア域内における資本市場整備の具体的な推進方法については、提言「豊かなアジアを築く金融協力の推進を求める」(2010年3月16日)を参照。

4.官民連携(PPP)の推進

民間活力を引き出すなど、ODAとの相乗効果を最大にし、当該プロジェクトの開発効果を高める点で、PPPの推進が不可欠である。

PPPの態様としては、まず、民間投資プロジェクトの物流インフラの調査、計画策定、必要とする人材育成をODAで進めることが考えられる。さらに、PPP推進のためには、被援助国側の法制度整備が重要であり、キャパシティ・ビルディングを行う必要がある。

また、開発効果の高いプロジェクトについては、一社だけが関与しているようなものであっても、政府はODAとの連携を率先して図るべきである。加えて、前後方式、上下分離方式、運営民間委託方式のいずれに対しても支援を行うことができる無償資金協力も活用した、バイアビリティ・ギャップ・ファンディング(VGF)のスキーム構築が重要である。

なお、JICAが準備を進めている「民間提案型PPPインフラ事業(円借款供与を前提としたPPPインフラ事業のFSもしくはFSの補完)」の早急な実施を求める。

5.海外大規模プロジェクトでのトップ外交の推進

広域インフラ整備と結節点における大規模インフラ整備のために、わが国の優れた技術を活用していくことが重要である。とくに、電力、都市交通システム、水資源のリサイクル等のプロジェクト推進に当たっては、個々の設備・機材供与だけでなく、事業を運営していく上で必要なノウハウ(例えば、原子力や高効率石炭火力発電の運営、鉄道事業での運行管理、水道事業の運営など)をパッケージとして各国に提案していくことが有効である。日本の国益を踏まえ戦略を持って、在外公館や担当省庁の横断的なバックアップを得て、官民が一体となったオールジャパンの推進体制を確立しなければならない。

また、大規模なナショナルプロジェクトへのわが国企業連合の参画について、例えば、総理大臣が率先し、より大胆な経済外交活動を展開するなど、積極的に対応すべきである。

以上

参考資料
インドネシアにおける6経済回廊
(2010年1月、日本・インドネシア両国の官民により、6つの経済回廊を
中心に産業振興とインフラ整備を総合的に進めることで合意)
出所:経済産業省資料より作成

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