新たな情報通信技術戦略の策定に関するコメント

2010年4月9日
(社)日本経済団体連合会
情報通信委員会 情報化部会

政府高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部より「新たな情報通信技術戦略の骨子」(3月19日、以下、政府IT戦略骨子)が公表され、提示された14の重点施策に関し、パブリックコメントが募集されている。
日本経団連では、既に3月8日に提言「新しい社会と成長を支えるICT戦略のあり方」を公表し、ICT戦略に対する産業界の考え方を示したところである。
政府IT戦略骨子は、経団連提言と軌を一とする内容であり、今後、本骨子を基礎とした具体的な肉付けや工程表の策定、何より、着実で継続的な遂行を強く期待する。
以下、コメント募集の項目に即してコメントを示す。
なお、「4.その他」に示した点については、戦略の推進に向けた重要課題でありながら、今回の政府IT戦略骨子で十分に触れられていない項目であり、今後の検討を経て反映して頂きたい。

1.重点施策の中で特に優先的に取り組むべきものは何か。

重点施策はいずれも早期実現が望まれるものであり、優劣をつけることは困難であるが、必須と考えられるものを5項目選ぶならば以下の通りである。
(順不同。番号は、第1回企画委員会参考資料2より

2.各重点施策についてそれぞれどのような目標・スケジュールを設定して取り組むべきか。

(3) 国民IDの整備

関連法案を2011年の通常国会へ提出。2年程度の周知期間、関連システム構築期間を経て2013年度から利用開始。

(4) 政府CIOの設置

行政CIOの設置に係る法案を2010年の臨時国会へ提出。2011年度から発足。
なお、企業で業務効率化に向けたシステム投資を行う場合、業務コストの3割カットを目標とすることは通例であり、電子行政の推進による業務コスト削減目標として3割減を掲げることが考えられる。
また、住民の満足度アンケート(電子的に集計)や各種申請の処理時間半減、国民や企業に対して行政内に存在する情報の二重請求を禁止すること(例えば5年後に添付書類全廃)なども目標とすべきである。

(6) 医療分野でのICT利活用

可能なものから実施。医療改革特区による先行的な実施を行う。

(10) 環境技術と情報通信技術の融合

ヒト、モノの移動のグリーン化について、情報通信技術を活用した運転支援システムやプローブ情報等のITS技術と環境技術を融合させた統合的な取り組みを推進し、2012年までに実証実験を行い、渋滞解消や交通事故削減等の成果を2013年ITS世界会議(東京)において世界に向けて発信し、2014年以降の実用展開を目指す。

(14) 官民・府省・産業横断のオールジャパン体制の整備

可能なものから実施。
本年のAPECを有効に活用すべき。

3.各重点施策の推進にあたって取り組むべき課題、留意すべき点は何か。

(3) 国民IDの整備

政府内部での検討を急ぐとともに、国民の理解促進、適正な世論を形成するよう、政府広報活動のほかマスコミや消費者団体などの協力を得つつ進めるべきである。
なお、骨子に示された通り、国民・企業の利便性、国全体の効率性向上に向けて、共通番号は、電子行政の共通基盤となること、官民サービスに汎用可能なものであること、が極めて重要である。同時に、プライバシーやセキュリティー確保に向け、アクセスの監視などを行う第三者機関の設立等が必要である。
また、住基ネットや住民票コードなど既存のネットワークや番号制度を活用すべきである。
(経団連提言「社会保障と税の共通番号制度について」(2010年2月18日)参照)

(4) 政府CIOの設置

省庁・国地方横断的に計画立案から遂行まで責任を持ち、一定期間継続的(最低でも5年程度)に任務に当たる行政CIO(民間からの任命が考えられる)が必要である。
形式だけに終わらないよう、国地方の全体最適に責任を持つのに十分な、省庁・国地方横断的なシステム関連投資(クラウドの活用による統合など)の予算権限と電子行政推進の前提となる業務改革に係る権限を付与し、行政CIOの下に必要なスタッフ組織を置くことが必要である。
無論、行政CIOの活動を支える強い政治のリーダーシップが必要である。
また、参考資料に示されている「企業コード連携等による企業負担の軽減」も国民IDと同様に電子行政の基盤として重要であり、整備を急ぐべきである。

(6) 医療分野でのICT利活用

急速な高齢化社会への突入により、わが国の医療は、財政面でも医師不足などの人的な側面でも深刻な危機に直面している。医療分野では、人命やプライバシーに万般の配慮が必要であることは論をまたないが、利用可能なICTは積極的に活用し、「コスト増なき医療イノベーション」を推進すべきである。ICTの円滑な活用に向けて、技術的な向上のみならず、遠隔診療に即した診療報酬制度のあり方、設備導入時のインセンティブの付与などを措置するとともに、対面診療原則のあり方など、制度の根幹に係る検討も必要である。

(10) 環境技術と情報通信技術の融合

環境・エネルギー技術、安心・安全に係る技術はわが国の強みであり、ICTとの融合を更に推進することにより、経済成長と雇用の確保、国際貢献を図るべきである。
とりわけ、運輸部門でのCO2排出削減に向け、エコカーの普及に加えて、ITS技術を活用した運転支援システムの普及やプローブ情報の集約・配信等に基づいた交通流円滑化による面的な省エネを図ることが重要である。さらに、スマートグリッドと電気自動車などをつなげることにより、エネルギー消費の全体最適化を目指す新たな都市づくりを目指すべきである。

(14) 官民・府省・産業横断のオールジャパン体制の整備

オールジャパン体制を確立するために、ICT戦略に係る国民や企業の理解促進に努め、世論喚起、参加意識を高めていくことが重要である。
環境・エネルギー技術や安心・安全な社会システムづくりなど、日本の強みとなる分野を中心に、社会システムづくりについて、インフラ整備、運用ノウハウ、ファイナンス、人材育成等々をパッケージとしてアジアを始めとする海外へ展開していくべきである。特に、本年、日本で開催されるAPECの場を活用し、国際標準作りや国境を越えたルール形成に貢献すべきである。革新的な技術の研究開発の加速や標準化、知財戦略などを含めた一体的な取り組みが必要である。

4.その他

  1. (1)戦略に盛り込まれた施策を、確実に実現していくためには、閣議での了解に終わることなく、法律を制定(例えば、電子行政に関しては「電子行政推進法」など)し、推進していくことが必要である。
    政府IT戦略骨子では、参考資料において「電子政府・電子自治体を一体的に推進していく上で必要となる法制を整備」することが触れられているが、本文において法制化を明記すべきである。

  2. (2)国民が日々の生活で触れる行政サービスは国ではなく、地方自治体がほとんどである。この点、骨子においては、国民視点に立った地方自治体の電子化と電子行政の推進の整合性に係る言及が欠如していると思われる。また、省庁間、国地方間の情報連携などについてもより具体的に言及すべきである。
    (経団連提言「ICTの利活用による新たな政府の構築に向けて」(2009年11月)参照)

  3. (3)わが国が直面する課題として、環境制約、急速な少子高齢化、国・地方の財政悪化がある。これらの課題解決に向けICTを利活用し、課題を乗り越える新たな社会システムづくり、都市づくり、人づくりをどう推進するかという観点が重要である。医療分野のICT、環境技術と情報通信技術の融合に係る言及はあるが、更に、新しい社会システムの構築という総合的な観点を重視すべきである。例えば、交通システムの革新的な改善(モビリティー・イノベーション)もその一つであり、ICTの利活用により多種多様な移動手段を円滑かつバリアフリーにつなぐ社会基盤と総合的な交通戦略が必要である。
    また、ICTを利活用した新しい社会システムを構築するためには、人材の育成を含め、5〜10年といった期間が必要である。ICT戦略は基本的に政権交代等にかかわらず、国として確固たる長期整備計画に基づいて遂行すべきである。これまでの戦略が十分な実現に至らなかった理由を分析の上、その反省を活かし、中長期的な工程表、複数年度予算、責任・権限の明確化、数値目標、評価手法などを予め設定し、国民に進捗状況を公開しながら実施していく必要がある。

  4. (4)IT戦略の実現を担うとともに、ICTを利活用して新たな社会的課題の解決を図る高度情報通信人材の育成は、国家戦略の要諦である。高度情報通信人材は、産業界のみならず、中央省庁、自治体、医療、教育などあらゆる分野で必要である。
    参考資料には「高度情報通信技術人材の育成・登用の推進」が示されているが、戦略本体の重点項目として明記すべきである。

以上

日本語のトップページへ