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新しい全国総合開発計画に関する提言
−「新たな創造のシステム」による国土・地域づくりを目指して−

I.全国総合開発計画の評価と課題


  1. これまで策定された4つの全総計画に対する評価
    1. 高度成長を目指した最初の2つの全総計画は、それぞれ「拠点開発構想」「大規模プロジェクト」方式によって、その目標を概ね実現したものと評価できよう。しかしその代償として、わが国は公害の深刻化や東京一極集中の激化という問題の解決を迫られることになった。

    2. 2度にわたる石油危機を経験して策定された三全総は、国土、資源・エネルギー等の有限性に着目し、「定住構想」を基本としつつ、大都市の人口・産業の地方分散を図ろうとした。しかし、国際化や情報化の萌芽がみられるなかで、東京の持つ集積を活用した産業活動の活発化により、東京への一極集中はさらに加速されていった。

    3. そうしたなか策定された四全総は、多極分散型国土の形成を目指し、「交流ネットワーク構想」を基本に、主に民間の活力や地域の創意工夫による国土づくりを目指した。その目標自体は時代背景に合致したものであり、「官から民へ」あるいは「国から地方へ」という行政改革の理念を具現化するものとして、その意義は十分認められるものであった。
      その後、大都市圏の非効率な土地利用を背景とした土地需給の逼迫に伴って発生したバブル経済が、急激な引き締め政策への転換によって一気に崩壊するなど、わが国はかつてないハードランディングを経験した。そうしたなか、急激な円高や近隣アジア諸国の成長加速を受けて、わが国企業の国際競争力は急速に低下していったが、5年に及ぶ長期不況をバネに、企業は思い切った合理化に取り組み、新たな発展の方向を模索している。しかしながら、こうした企業の体質強化に向けた努力の一方で、地域は企業活動にとり最適のプラットホームを提供できない状況にある。

    4. 四全総は、正しい理念のもと、適切な基本目標が設定された。にもかかわらず、所期の目標は実現されず、かえって高コスト構造といびつな国土・地域構造が形成される流れをつくり出してしまったといえる。その背景には、全総計画を実効あるものとする各省庁の政策が、多様性の重視という国民の指向や本格的な国際化・情報化の進展といった時代の大きな潮流を見落とし、従来までの全国一律を基本とした発想から脱しきれなかったことがある。そのため、地域がその個性を伸ばせないまま、大競争時代の到来という大きな流れのなかで、取り残されるという事態を招いてしまった。

  2. 新しい全総計画の位置づけと求められる役割
    1. 国の地域関連施策展開の指針となる権威ある計画
    2. いうまでもなく狭隘な国土の有効利用は、わが国にとって最重要の政策課題である。土地利用に係わる関係省庁の縦割り行政のなかで、国土の最適利用が実現されていない現在の状況を打開するためには、各省庁の地域関連施策をある程度しばる権威のある国土計画が必要となろう。
      これまでの全総計画は各省庁の政策、インフラ整備計画を追認するかたちでその主要な柱が立てられているのみならず、細部に至るまで縦割りの色あいが強い計画になっていた感は拭えない。新しい全総計画を「21世紀の国家のグランドデザイン」のひとつと位置づけ、今後、新しい全総計画に基づき関係省庁の施策・計画が大幅に見直されていくという仕組みを予め明確にしておくことが何よりも重要である。
      関係省庁も、全国一律を基本とした既存の施策の延長線上の施策ではなく、地域の自主性を尊重した大胆な政策体系を早急につくりあげ、積極的に展開することが不可欠である。全総計画は、そうした新政策を誘導する指針として活用される長期的かつ総合的な上位計画としての機能を果たすことが求められる。また2004年を目標年次とする「公共投資基本計画」や先般策定された「新経済計画」などとも連携をとるという視点が重要であり、とりわけ財源面での裏づけを計画において明確にしておくことが必要である。

    3. 地域の個性・主体性を認める柔軟性に富んだ計画
    4. 前述のように、「国土の均衡ある発展」は、四全総からの積み残しの課題となっている。しかし、国民の価値観が多様化し、本格的に国際化・情報化が進展するなかで、「国土の均衡ある発展」という目標を改めて掲げるとしても、各地域が同質で同じような形態での発展を目指すということを意味するものであってはならない。したがって、新しい全総計画では、地域がそれぞれの特徴を活かした独自の発展を遂げていくため、地域の「個性化」「自立化」さらには「地域間競争」を促していくことを基本に据えることが何よりも重要である。
      そうした全総計画を策定するためには、国民各層、とりわけ地域の企業、住民の主体的な参加を得て、最終的に国民的なコンセンサスを得ていくことが不可欠である。これまでの全総計画は、国民の認知度の低い官主導の計画であった。今後さらに積極的な広聴活動を展開し、国民参加型の民主的な計画としていくことが必要である。そうした観点から見ると、既に公表されている国土審議会計画部会の「新しい全国総合開発計画の基本的考え方」は、国民の全総計画策定に向けた参加を促すには、あまりにも抽象的であり難解である。まずは秋に予定されている中間案のとりまとめにあたっては、より具体的で国民にわかりやすいものにすることが不可欠である。さもないと、新しい全総計画は、評価以前に見向きもされない計画となりかねない。


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