[目次] [はじめに] [第I章] [第II章] [第III章] [第IV章]
新しい全国総合開発計画に関する提言
−「新たな創造のシステム」による国土・地域づくりを目指して−

III.国土づくり・地域づくりの基本目標と具体的な政策課題


  1. 基本目標
    1. 新しい国土・地域づくりを推進するためには、まず地域がそれぞれの基本目標を明確にし、その実現のために必要な具体的な施策を積極的に提案することが重要である。その観点から見れば、既に各地域の経済界が中心となって広域的な開発計画・構想がとりまとめられていることは高く評価できる。

    2. 地域が掲げるべき基本目標としては、
      1. 国際化の進展を視野に入れた広域経済文化交流圏の形成、
      2. 魅力ある都市機能の充実(理想の職住環境の創造、文化・教育・レジャー機能の充実等)・ネットワーク化の強化、
      3. 災害に強い多重的な圏域構造づくり、
      4. ネットワークを基本とした産業立地推進のための環境整備、
      5. 地域の戦略的なインフラ整備計画の策定と開発利益の吸収等による自主財源の充実、
      などが考えられよう。
      とりわけ、広域経済文化交流圏の形成や都市機能の充実・ネットワーク化の強化、災害に強い圏域づくりのためには、広域的な地域間の協力が重要な課題となる。市町村、都道府県の合併や広域連合制度の活用等を通じて、早急に取り組むべきである。従来のように1つの都市が全ての都市施設をもつといったオールインワン型・フルセット型の地域・都市づくりから脱却し、地域・都市間のネットワークによって相互の施設・機能を活用し合い、都市機能の充実や地域の安全を確保していくことが重要である。
      またネットワーク型の産業立地の推進のためには、まず地域内のインフラ(交通・情報通信等)を充実させるとともに、経営資源を共有し、市場で評価される財・サービスを提供する企業群が内発的に生まれ育つ環境を整備していくことが必要である。独自の技術、ノウハウで独り立ちできる企業が育ちにくい地域では、まず技術開発・起業化促進の仕組みづくり、とりわけ研究機関と地域の企業、さらには農林水産業に携わる人々などとを結ぶコーディネート機能の強化や創造的な人材育成のシステム確立などのプラットホームづくりを先行して実施する必要がある。

  2. 新しい国土軸・地域連携軸と地域インフラの整備
    1. 「新しい国土軸」のあり方
    2. 国土審議会計画部会でとりまとめた『新しい全国総合開発計画の基本的考え方』では、「失われた歴史的な地域のつながりの回復、人と自然のよりよい共存、集積から離れた中山間地域等の特色ある活性化等を実現するための複数の新しい国土軸」の形成を提案している。ここで提案された「新しい国土軸」は、「共通性を有する地域の連なりであって、交通、情報通信インフラのもとで、人、物、情報の密度の高い交流が行われ、人々の価値観に応じた就業と生活を可能にする国土の広い範囲にわたるもの」であり、「第一国土軸のそれとは質的に異なる」としている。
      『基本的な考え方』で「新しい国土軸」の形成を想定している「20世紀型の都市、産業文明の波に洗われることの少なかった第一国土軸から離れた北東地域、西南地域、日本海沿岸地域」では、そもそも交通・情報通信インフラの整備が第一国土軸と比べて大きく立ち遅れており、まず国民の機会均等を実現する観点から、国は基礎的インフラを早急に整備する必要がある。
      そのうえで「新しい国土軸」を、インフラ整備の立ち遅れにより妨げられてきた地域間の広域的な交流・協力を実質的に加速させる戦略として、またわが国国土構造の多重性を高める戦略として、さらには地域の多様性と国土構造の均衡を実現するための戦略として位置づけ推進していくべきである。「新しい国土軸」に求められる機能は地域によって相当異なる。したがって「新しい国土軸」には、ハード、ソフト一体的な相互交流・協力の枠組みという広義の定義を与えたうえで、地域が創意工夫をし具体的なプロジェクトを推進する際に、国が政策的に支援する裏づけとして位置づけるべきである。
      面的な拡がりのある「新しい国土軸」は、第一国土軸のように、経済成長加速といった単一の目標を達成するために形成されるものではない。それぞれの地域の特性に合致したさまざまなタイプの国土軸が形成されるべきであり、その「味付け」は地域に任せられるべきである。
      「第一国土軸」とその軸上に位置する大都市圏も、決して魅力ある都市とはいえない。本格的な国際化や情報化が進展するなかで、これらの大都市圏も思い切った地域構造の転換が不可欠である。災害に強い国土づくりの観点からも第一国土軸を多重系にすることが不可欠であり、この機会にリニューアルのための広域的な地域の構想を描く必要があろう。特に首都機能移転に伴う東京圏の再整備については、立地・居住環境の大幅な改善を目標としてグランドデザインを描くべきである。都市計画道路や都市公園などの関連基盤整備や都心部における優良な都市再開発、郊外部における大規模な住宅開発を促進し、人々が機能性、利便性に加え、美しさや健康、安全性、快適性などを享受できる都市の整備を進めることが重要である。

    3. 「地域連携軸」の基本的役割
    4. 『基本的な考え方』では、各地域で主体的に推進されている「地域連携軸構想」や「交流圏構想」を有意義なものとし、国の支援の必要性を訴えている。こうした「地域連携軸構想」や「交流圏構想」は、地域の相互交流・協力の基本戦略となるものであり、「新しい国土軸」を形成していくうえでも極めて重要な役割を果たすであろう。特に太平洋側と日本海側の相互交流を推進し、全国的に多軸循環型のネットワークを形成するために「地域連携軸」が果たす役割は大きい。
      「新しい国土軸」は、地域間の連なりが連続していくことにより、実質的に形成されていくことになる。したがって、新しい全総計画では、こうした地域の主体的な取り組みを促進する具体的な支援策を盛り込む必要がある。とりわけ、地域間を結ぶ高規格幹線道路や高速旅客鉄道の建設、貨物鉄道網を含めた効率的な物流システムの再構築、さらには広域連合制度などの枠組みを活用した地域開発プロジェクト、共同利用施設整備などに対しては、これまでにない財政支援を行なうことを明記すべきである。

    5. 地域が必要とするインフラ
    6. 新しい全総計画期間中に地域において特に整備を必要とするインフラは、以下のものが考えられる。それらのインフラが、期間中のなるべく早い時期に低コストで供用が開始されるためには、地域の側でまず重要度に基づいて優先順位を明確にする一方、国においても、一般公共事業費配分の抜本見直しや整備手法の合理化に取り組むことが不可欠である。そうした観点から、ドイツなどで法的に義務付けられている各種インフラの費用便益分析手法を確立し、それに基づき事業主体、利用者、受益者等の多様な参加を得てコンセンサスが形成され責任が明確化される仕組み(事業手法、事業主体の工夫等)を構築することが必要である。
      なお今後さらに内外環境の変化によって、国として全国一律に整備する必要性が薄れ、地域の総合的・政策的判断に委ねるインフラが増えてくる。したがって、地方自治体の財政権限を大幅に拡充し、財源調達の手法や整備主体の仕組み、完成後の管理運営体制等に関する権限を一括して移管することが求められよう。
      1. 地域間のネットワーク形成に不可欠な交通・情報通信インフラの重点整備と利用コストの引き下げ
        高規格道路=地域ブロック内の交流円滑化、インターブロック交流の促進
        情報=高度情報通信を実現するハード・ソフト両面のインフラ整備
        鉄道=鉄道網の再構築、物流システムとしての再活用
      2. 広域的なネットワークを円滑に形成するためのインフラ、とりわけ地域の拠点性を高める国際空港、国際港湾等の重点整備
      3. 地域型起業を促進するインキュベーター、国公立の大学、各種の研究開発機関の施設充実
      4. 都市機能充実に資する生活関連インフラ、とりわけ居住・生活環境、防災性を重視した各種インフラの整備
        都市内ゴミ処理・リサイクルシステム、自立型エネルギー供給インフラ、
        独創的教育を行なう教育機関、スポーツ・文化インフラ等
      5. 将来における国際的な交流・協力プロジェクト、大型研究開発プロジェクト(国際熱核融合実験炉等)や資源エネルギーの供給・リサイクルなどの基地となる大規模工業団地(むつ小川原工業基地、苫小牧東部工業基地等)の新たな目標像と手法に基づく整備

    7. 広域的な地域の協力によるインフラ整備の推進
    8. 地域は全国的な調整を国任せにするのではなく、国土経営的視点を持ちつつ関連する地域や都市が相互に協力し、自らの財源を拠出し、これをプールして共同でインフラの整備を行なうというかたちが求められる。一方、国においても、地方分権・広域行政を基本としつつ、地域が必要なインフラを自ら選択、整備できる枠組みづくりを行なう観点から、地方税財政制度を根本から見直し、地方自治体の財政の弾力性を回復すべきである。具体的には、地方債起債の自由化、交付税制度の見直し、補助金の一般財源化などの改革を思い切って進めるべきである。
      加えて国は、地域が自発的に企画した独創的なプロジェクト・事業等を推進するため、地域の要望に即して、関係省庁が垣根を越え共同でごく少数の地域やプロジェクトをモデルとして指定し、そこで戦略的な地域施策(思い切った規制緩和、地方分権の特例、税財政上の優遇等)を試行的に実施して、一定期間内にその成果を集計・分析するという政策システムを新たに導入する必要がある。このシステムは、地域の自主的な取り組みを国が幅広く認め、指定地域において一定の成果があがったならば、全国的に適用を拡げていくという政策推進の仕組みとして、中央省庁による政策推進の中核に位置づけていくべきである。
      具体的には、関連インフラの重点整備・連携強化に加え、規制緩和や地方分権の特例、財政・税制上の優遇、さらには民活法に基づく無利子融資対象の拡大などを幅広く認めていく地域政策を各面で推進すべきである。
      空港・港湾の整備・運営を一元的に所管するポートオーソリティ、
      内外企業の自由な事業展開を認める経済特区・エンタープライズゾーン、
      高度防災モデル都市・地域、地域医療福祉モデル都市、新しい人材育成モデル都市、
      環境共生型モデル都市、歴史・文化創造モデル都市等
      また地域の側においても、地方自治体が中心となって、国民のニーズの把握に努め、必要なインフラを選択し自らその整備に取り組むことが求められる。また真の民間活力活用を実現する観点から、規制緩和等を通じて各種インフラの整備主体を民主導のものに変えていくことも重要な課題となろう。
      またインフラの整備に当たって、工事費の低減に取り組む一方、新技術の開発を促進し、その積極的導入を図る必要がある。例えば、ITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)技術の早期実用化を図り、道路交通の安全性・円滑性等の一層の向上を実現すべきである。また、超電導磁気浮上式リニアモーターカーの実用化を図り、旅客鉄道の高速化を実現するとともに、海上空港などへの利用が期待される大型浮体構造物等の活用により、貴重な国土資源である海洋・沿岸域を低コストで積極的に利用していくべきである。

  3. 新しい産業立地政策のあり方
    1. 規制緩和と地方分権で進める新しい地域産業政策
    2. 戦後一貫して行われてきた産業インフラの整備によって、工業生産をベースに付加価値を生み出す地域の潜在能力は飛躍的に高まってきている。今や地域の産業構造高度化は、地域の側で取り組むものとして認識されつつあり、今後、政府の施策によってその成否が大きく左右されるということはさらになくなっていくものと思われる。したがって、国の役割は、諸規制の緩和・撤廃や地方分権、税財政制度の見直しなど地域における企業立地の環境整備に求められるべきである。
      現在、産業構造審議会において、工場の移転・分散という従来までの工業再配置政策を再構築すべく検討が進められているが、内外の企業を差別的に扱うことなく誘致するという観点から考えると、まず各業種でとられている外資規制を撤廃することが必要である。
      また地域が企業にとって魅力ある事業活動の環境を提供する観点から、それぞれの地域が独自性の高い施策を容易に実施できるようにするために、全国一律の立地規制、事業規制、保安安全規制、土地利用・取引規制、通商関連規制などの規制を緩和・撤廃し、併せて地方自治体に権限委譲を行なうことが必要である。まずは権限委譲を受ける地方自治体の側が、国が規制を緩和する趣旨を汲み、条例等の再点検を行なうべきである。

    3. 新産業・新事業の創造に力点を置いた政策の展開
    4. 加えて国は、地域の内発的な発展を促す観点から、地元企業による新産業・新事業の創造により、雇用の確保に取り組む地域を支援すべきである。地域における研究開発機能の強化や創造的な人材の育成・活用、情報技術の利用などを推進する観点から、一般公共事業費配分を思い切って見直し、長期的な視点から人・物・情報の動き・流れを円滑に加速させる新しいタイプのインフラを集積させるとともに、独立ベンチャー企業、とりわけ研究開発型の起業化支援策を講じていくべきである。
      具体的には、産業インフラの整備面では、地域の大学の産業関連研究の基盤強化と民間との共同研究を行なえる新たな施設整備、組織づくり、実際の事業化に対する財政的な支援を行なうべきである。また政府や地方自治体が、各種の調達において一定の割合で優先枠を設け、独立ベンチャー企業の製品・サービスを積極的に購入することや、民間等のリスクマネー提供に対する債務保証事業を拡大すること、さらには国公設の研究機関等の地方への移転などが重要である。加えて、本格的な高齢社会の到来に備えて、医療、福祉産業を地域の中核的な産業として育成していく施策も必要である。
      この場合においても、当初は限定的なモデル地域を設定して、関連インフラの早期整備のための重点的な財源投入、思い切った規制緩和、行政・財政権限の委譲、税財政上の優遇等を図り、その成果を全国的に応用していくというかたちで進めていくことが望ましい。


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