[目次] [はじめに] [第I章] [第II章] [第III章] [第IV章]
新しい全国総合開発計画に関する提言
−「新たな創造のシステム」による国土・地域づくりを目指して−

II.国土づくり・地域づくり戦略のあり方


  1. 内外環境の変化を前提とした国土づくり・地域づくりの戦略
    1. 右肩上がりの経済成長を前提としない国土・地域づくり
    2. 21世紀以降、わが国が「真に豊かで活力ある市民社会」を形成していくためには、ソフト・ハード両面にわたる基礎的な発展基盤を整備しておく必要がある。これらの整備には、2010年頃まで年平均3%程度の経済成長を達成し、その果実を充てていくことが重要である。わが国は、世界的に見ても高い勤勉性、教育水準、技術・ノウハウ、貯蓄率等を有しており、これらを活用する能力を十分有している。しかし、わが国が無条件に右肩上がりの成長を前提とした経済・社会運営を行なうことは次第に困難になってきている。今後本格的な高齢社会を迎えるわが国は、既に国、地方を通じて厳しい財政状況にある。したがって、これまでのように右肩上がりの経済成長を前提とせずに着実にプロジェクトを推進していくという視点が重要である。
      特に、大規模な開発プロジェクト等の推進に当たっては、個々の採算性を十分に吟味する手法を確立した上で、国、地方自治体、民間等のコンセンサスの下でそれぞれの受益と負担、さらには責任の所在を予め明確にしていくことが必要である。その際、地域の主体性の発揮を促す観点から、広域的な地域連合の促進や整備手法・財源調達に係る権限を国から地域へ積極的に委譲していくことも必要である。
      明治以来の欧米先進諸国にキャッチアップするための経済社会システムは完全に行き詰まり、各分野でのフロントランナーの独創性を殺しかねないという意味で、むしろ発展の足かせにすらなっている。公共事業の推進に当たっても、事業の重点化や補助制度の抜本的見直しに取り組まなければ、厳しい大競争の時代を乗り切れる国土づくり・地域づくりは望みえないことをこの際強く認識すべきである。

    3. アジア太平洋諸国の発展を視野に入れた開かれた国土・地域づくり
    4. 一方、近隣のアジア太平洋諸国の経済発展は目覚ましい。成長のスピードは極めて早く、地域内の経済交流もますます自由化していくことが予想される。今後、アジア太平洋地域内の貿易投資が促進され、国際分業が深化し多面化すればするほど、相互依存関係が深まり、各国経済の活性化も図られることになる。
      そうした状況を踏まえれば、わが国の地域・都市が、直接国際交流や産業協力、貿易投資交流の拠点として、さまざまな国や地域・都市と連携していくことが必要である。そのためには、まず国がアジア太平洋諸国を重視した外交・経済交流政策を明確に打ち出す一方、それぞれの地域・都市も自らより開かれたものに変革し、特にアジア太平洋地域の企業の投資を積極的に受け入れていく環境を整えていくことが不可欠である。とりわけ、大競争時代を迎え、国際空港、国際港湾等のインフラを国際的に通用する水準のものにすることが緊急の課題である。国、地域、そして民間が協力して、ハード面のみならず、ソフト面でもサービス・料金面で世界でトップクラスの魅力あるインフラを整備し、内外の企業に積極的に活用されるようにすべきである。例えば、港湾荷役業務の 365日・24時間体制の実現、さらには鉄道、道路の複合的利用など、既存のインフラをより効率的に活用するための取り組みも重要である。
      アジア太平洋諸国はさまざまな民族・文化・言語を持つ多様性に富んだ地域である。その多様性を受け容れる柔軟性を確立するためには、行政手続の簡素化・透明化を図るとともに、法制度面においてもきめ細かな見直しを行なっていく必要がある。とりわけ外資導入を阻んでいる独禁法(持株会社の解禁)、外為法、税制(高い法人税の是正,連結能税制度の導入)などの見直しは避けて通れない。そうした環境整備が進んでいけば、活力に富んだアジア太平洋諸国の企業が世界展開の拠点としてわが国の地域や都市を選択し、相当規模の財やサービスを生み出していくようになることが期待される。
      また、諸外国の人々が日本の社会、文化、歴史を理解し、愛するようになるような観光資源の開発も重要な課題である。

  2. 国土づくり・地域づくりにおける官民の役割
  3. 大競争時代が到来するなかで企業は、国際競争力を維持するために、自らの活動拠点を内外を問わず最適な地点に定める明確な経営方針を持ち、それを実行するようになっている。海外投資の拡大に伴い国内産業空洞化が懸念されているが、高度化するわが国国内の市場や急速に発展を遂げるアジア太平洋諸国の市場動向に対応するために、わが国企業が内外の地域・都市を厳しく比較し選定する時代が到来したといえよう。こうした観点から、地域・国・民間がそれぞれの立場から、国土づくり、地域づくりに積極的に取り組むことが不可欠である。

    1. 地域の役割
    2. これからの国土づくりは「地域が主役」である。そのために全総計画は、各地域がそれぞれの個性を伸ばしていけるよう、自立的な圏域づくりを自らの資源(財源、権限、人材等)を活用しながら、自主的な判断と責任のもとで進めていくことを促すグランドデザインとして策定される必要がある。
      地域づくりにおける当面の課題としては、交通・情報通信基盤等の整備が立ち遅れた地域において、格差是正の観点から、国費の重点投入により住民生活や経済的発展の基礎となるインフラの整備を急ぐことが必要である。
      しかし最近、産業インフラが相対的に整備されている大都市圏においても、バブル経済の崩壊や産業の国際競争力の低下を背景に、大規模な産業用地の遊休地化が進行していることを考えれば、地域で整備されるインフラは従来型の産業構造を前提としたものではなく、産業構造の高度化に向けて内発的発展を促すものにしていく必要があり、地域もそれらへの重点化を指向していくことが求められる。
      また地域の間で、限られた財源を奪い合うようなことになれば、各種インフラの早期整備は実現できない。ブロック地域内や地域間の調整を国任せにするのではなく、広域連合制度を活用しつつ優先すべきインフラの選択と推進を地域自らが行なうとともに、そのために必要な財源を地域の相互協力により地方自治法上認められる基金として積み立てるなどの取り組みを行なっていくことが重要である。用地の確保やインフラが有効に機能するための都市施設、物流システムの効率的配置など、広域的観点から、エリアマネジメントの主体として地域が果たす役割は、ますます重要となろう。
      地域が既に相当程度の集積を持つ大都市圏と競いながら産業立地や人口定住を実現していくには、ハード整備に過度に依存するのではなく、地域の特色や個性に根ざしたソフトを中心としたシステムをつくりあげることが重要である。独自の地域・都市運営、社会システム構築のためのソフト、とりわけ教育、医療福祉、居住・生活等の環境整備に個性を発揮することが必要となろう。
      高齢社会の到来、国民の価値観の多様化や女性の社会進出、さらには若年労働者の将来的な不足に対応して、高齢者や若者、女性、障害者など、あらゆる層にとって魅力ある地域づくりを行なわない限り、人口の定住を通じた地域の発展は考えられない。また新産業・新事業創造の拠点としても、内外企業が求める条件を満たした地域をつくりあげなければ、地域は大競争に生き残れない。企業が求めているのは、若い世代の進取の気風と鋭い感性を育みながら、自らアクセスして情報を収集し分析し、地域の進むべき方向を定め独自の戦略を策定することのできる地域である。また、快適で良好な居住環境の確保も企業が重視する条件であり、高齢化が進む多自然地域と地域の中核都市、さらにはブロックの中枢都市との有機的なネットワークの形成により、地域の魅力を高める思い切った政策を展開することも望まれる。
      具体的には、地域の産官学の関係者が一致協力して知恵を絞り、内外の企業に対する地域独自の立地優遇策を創設すること、財政金融上の多様な定住促進策を講ずること、また都市住民に対する新しい居住・生活環境の提案を行なうことなど、地域づくりの戦略的かつ体系的な取り組みが求められよう。

    3. 国の役割
    4. 国土・地域づくりにおいて、国が取り組まなければならない緊急の課題は、国土を保全し国民の財産を守る枠組みを用意することである。昨年1月の阪神・淡路大震災を歴史的な教訓として、多重性に富んだ国土・地域構造づくりや各種インフラの耐震性の向上、さらには被災した企業や個人の財産・事業・生活を再建する制度の改善・見直し等に取り組むことが必要である。
      また、公共投資の実施にあたっては、既存ストックの活用や維持・管理コストの最小化等を念頭に、新しい国土軸の結節点や広域的な地域連携のボトルネックを解消するインフラ等に対する投資に注力することが求められる。
      加えて国は、それぞれの地域が内外企業にとって活動しやすい魅力あふれる国土・地域づくりに取り組めるよう、その環境整備を行なっていくことが必要である。米国は1980年代、長期にわたるドル高を契機に米国企業が海外展開を図り、国内の各地域の空洞化が進行するという事態を経験した。そして、従来にない思い切った地域産業政策の展開を打ち出し、特に外資系企業の誘致に成功を収めた。わが国の状況は当時の米国と必ずしも同じであるとはいえないが、わが国でも、これまでのような全国一律を基本とした地域政策を見直し、各地域がそれぞれ自らの判断で戦略を確立できる、多様な可能性を容認する懐の深い地域政策に再構築することが求められる。例えば、地域にとって自由裁量の余地が多い新たな政策体系を各省庁が共同して確立し、そのうえで各地域が特性に応じ、自らの創意工夫を加味して政策を自由に組み立てていけるようにするといった方法が考えられよう。

    5. 民間の役割
    6. 欧米へのキャッチアップのため首都東京に行政の諸機能が集中され、行政主導の経済政策・産業政策が展開される中、企業は行政依存体質を強め、東京に本社機能を集中させるという状況が生じた。また工場立地においても、国の産業立地政策の枠組みのなかで、全国的に均質な工業都市の建設が進められるなど、いわば「プランテーション型」で進められてきた。
      しかしこれからは、あらゆるタイプ・規模の企業が相互に経営資源(人材、技術、経営ノウハウ、情報、資本等)を共有するなど、連携・協力することにより、事業を拡大・多角化していくネットワークを基本とした多様性に富む、いわば「熱帯雨林型」の産業立地が進展していくことが期待される。規制緩和が推進され、地域が個性ある地域戦略を打ち出すなかで、企業は自らそうしたネットワークの一員として責任を持ち、国や地方自治体と協力しながら、積極的に地域産業拠点づくりに取り組んでいくことが求められる。
      具体的には、交通・情報通信基盤や都市づくりなどハード面の整備に対する協力のみならず、地域産業の近代化・高度化、新産業・新事業の創造のため、資金・人材・経営ノウハウ面で支援を行なうベンチャーキャピタル会社の設立や研究開発拠点の整備などソフト面での取り組みを積極的に行なうことが必要である。
      加えて新たな国づくり・地域づくりの主体として、NGOやNPOを位置づけていくことも重要な課題である。とりわけ、自然保護、都市の再生、地域活性化事業、地域福祉などの面で、NGO、NPOが主体的な取り組みを行ない得る環境を整備することが、国・地方自治体の重要な役割となろう。企業もこうした分野で地域の人々や自治体との良きパートナーシップの構築に努める必要がある。


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