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21世紀に向け新しい規制緩和推進体制の整備を望む

1997年9月18日
(社)経済団体連合会


  1. 規制緩和の現況と課題
    1. 規制緩和の現況
      1. 規制緩和の大幅な前進
        1995年を境にして規制緩和は大幅な前進を見せている。
        1995年3月に、わが国初の規制緩和の実行計画である『規制緩和推進計画』が策定され、以降、毎年度末に改定されているが、『規制緩和推進計画』に盛り込まれている規制緩和措置は、1995年3月当時の1,091項目から、1997年3月には2,823項目に増加している。
        より注目すべきはその内容面の深化である。『規制緩和推進計画』が策定されるまでは、政府の規制緩和措置は規制制度の些末な変更を中心としたいわば数合わせ的色彩が強かった。しかし、

        1. 『規制緩和推進計画』に、規制緩和の基本的考え方や分野別の規制緩和の基本指針など基本原則が明記されたこと、
        2. 1994年12月に、これもわが国初の、規制緩和を企画立案・監視する第三者機関として行政改革委員会が発足したこと、
        3. さらには、自由民主党行政改革推進本部が積極的に規制緩和に取り組んできたこと、
        などにより、従来、規制行政のハードコアとされた部分についても規制緩和のメスが入ることになった。
        例えば、需給調整の観点から行われている電気通信や運輸分野における参入・設備規制について原則廃止の方向で見直しが進められており、電気・ガス料金、航空運賃など価格規制についても弾力化が図られている。さらに、聖域とされてきた消費者保護、安全・環境の保全等の見地から行われてきたいわゆる社会的規制についても、消費者知識の普及や技術の進歩などを踏まえた緩和措置が講じられてきている。
        分野的に見ても、規制が多用されてきた金融・証券・保険、運輸、情報・通信、住宅・土地などの分野における規制緩和の前進には注目すべきものがある。さらに長年の懸案であった純粋持株会社が解禁されたことの意義は大きい。

      2. 規制緩和の経済効果の発現
        こうした規制緩和の経済効果は着実に現れている。
        いわゆるバブルの崩壊後、1990年代に入ってからは景気の足取りは緩やかであるが、この中にあって、規制緩和は景気の下支えの役割を果たしている。
        例えば、規制緩和への取り組みが未だ本格化していなかった1990〜95年度の時期についても、大店法の運用緩和や電気通信分野での競争活発化などによる規制緩和の需要拡大効果は、マイナスの副作用を差し引いても、年平均7.3兆円(対名目GDP比1.6%)に達したと経済企画庁は計測している。これはこの間の名目成長率が年率2.2%であったことを考慮すると極めて高い値である。
        1995年3月の『規制緩和推進計画』の策定以降の規制緩和の経済効果は、未だ発現の途上にあるが、経済企画庁は、規制緩和などが徹底されれば、1998〜2003年度の実質成長率は年率0.9%程度上昇するとともに、消費者物価上昇率は年率1.2%程度低下すると予測している。

    2. 規制緩和の課題
    3. 21世紀に向けわが国経済社会の抜本的な構造改革を進めていくには、なお残された規制緩和の課題は少なくない。
      政府では、内閣総理大臣自らが議長を務める行政改革会議を設け、内閣機能の強化、中央省庁の大括り再編などの検討を進めており、1998年の通常国会に所要の法案を提出し、2001年からは新しい内閣制度、行政組織により行政運営に当たるとしている。いわば平時の革命とも呼ぶべきこの改革の成否は、現在の政府の事務・事業を見直し、いかに簡素化・効率化を実現するかかかっている。その鍵は官民の役割分担の見直しとともに規制緩和の徹底にある。省庁の大括り再編に伴い、従来の省庁毎に制定されてきた基本法や業法の見直しは不可避であり、行政の減量化の観点から、法の存廃を含めた検討を進める必要がある。
      また、政府では、高齢化社会や大競争時代の本格的な到来に対応するため、新産業創出のための環境整備を行うとともに、高コスト構造の是正などにより、国際的に魅力ある事業環境を整備するなどを内容とする『経済構造の変革と創造のための行動計画』を、1997年5月に閣議決定した。この経済構造改革を実現するには、技術開発、人材育成などの施策を総合的に実施する必要があるが、その要となるのは、規制緩和である。厳しい財政状況の下、今後、公的部門の経済成長への寄与には多くを望めず、内需主導型の安定した繁栄を実現していくには、「経済的規制は原則自由」「事前規制型行政から事後チェック型行政への転換」の方針を一層、強力に具体化していく必要がある。
      さらに、政府では、国際的な金融自由化の進展や情報技術の革新を先取りし、東京をニューヨーク、ロンドンと並ぶ国際金融市場に復権するため、金融システムの改革を2001年までに実現することとし、外為法・日銀法の改正、金融監督庁の設立など、金融規制の改革や関係行政組織の改革を急いでいる。金融システム改革の核心が、市場原理の正常な機能を歪め、国際的な整合性を欠く、金融に関する規制制度の改革にあることは改めて指摘するまでもない。
      このように、2001年までに実現すべき規制緩和の課題は山積している。経済界から見て、特に急を要する課題は別紙の通りである。

  2. 規制緩和の推進に向けた体制整備
  3. こうした規制緩和の課題を実現していくには、強力な規制緩和の推進体制を整備する必要がある。
    現在、規制緩和は、1993年10月の第三次行革審の最終報告ならびに同年11月の経済改革研究会の中間報告(いわゆる『平岩レポート』)に基づき、『規制緩和推進計画』と行政改革委員会を2本の柱とする体制の下に推進されている。具体的には、政府は内外からの意見・要望に応え、規制緩和の実行計画である『規制緩和推進計画』を毎年度末、改定するとともに、これに沿って必要な規制緩和措置を順次、講じている。他方、行政改革委員会は、政府による規制緩和の実施状況を監視するとともに、必要な規制緩和措置を企画立案し計画改定に際し意見として政府に提出している。1995年以降の規制緩和の長足の前進は、この規制緩和推進体制に負うところが極めて大きい。
    しかしながら、『規制緩和推進計画』は1998年3月には終期を迎え、行政改革委員会もこれに先立ち1997年末にはその任期を終える。したがって、21世紀に向け規制緩和を推進していくには、『規制緩和推進計画』と行政改革委員会の長所と限界を踏まえ、新しい規制緩和推進体制を早急に整備する必要がある。

    1. 現在の規制緩和推進体制の評価と問題点
      1. 『規制緩和推進計画』の評価と問題点
        『規制緩和推進計画』の策定により規制緩和は実質的かつ大幅に前進することになった。
        第一に、先述の通り、規制緩和推進に関する基本的考え方や分野別の基本指針が明確になり、規制行政のハードコアにも緩和のメスが入るようになった。
        第二に、実施する規制緩和措置の内容および実施時期が相当具体的に明記されたことにより、単なる方針のみの表明や検討期間の引き延ばしといった行政機関の対応が目に見えて減じた。
        第三に、毎年度末に改定するローリングプランの形式をとったことにより、既に決定された措置の関連措置や一層の改善措置を追加することが可能になった。
        第四に、政府が計画改定に先立って内外からの意見・要望への対応の検討状況を中間的に公表したこと、また、計画改定後には措置を講じなかった要望についてその理由を公表したことは、官民の相互理解を促進するとともに、相互対話を通じた規制緩和の推進に道を開いた。

        反面、以下の二点は現行『規制緩和推進計画』の限界として指摘できる。
        第一に、内外からの個々具体的な意見・要望に応じて、いわば受け身で規制緩和措置を講じてきたため、特定の目的に照準を定めた規制緩和措置が体系的に展開されることが少なかった。この点は、内閣や自由民主党のリーダーシップ、行政改革会議の意見などにより補われてきたが、十分とは言い難い。
        第二に、範囲を規制行政に狭く限定したため、衰退産業の保護や地域振興の役割を果たしている規制のように、緩和を推進するためには過渡的な摩擦を軽減する措置や規制に替わる施策が必要となるケースについては、十分な緩和措置を講じることができなかった。

      2. 行政改革委員会の評価と問題点
        行政改革委員会は、わが国初の規制緩和を企画立案・監視する第三者機関として94年12月の設立以降、規制緩和の推進に大きな役割を果たしてきた。
        第一に、政府の規制緩和の実施状況を統一的な観点から監視し、内閣総理大臣に意見を提出してきたことは、各省庁の規制緩和措置の検討に緊張感をもたらし、真摯な取り組みを促した。
        第二に、規制緩和措置の企画立案に当たったことは、政府が規制行政のハードコアを見直すことを促した。
        第三に、規制緩和に関する意見の検討に当たって、論点公開、公開ディスカッションの手法をとったことは、規制緩和の重要性、必要性に関する国民世論の醸成に大きく役立った。

        反面、行政改革委員会についても次の2点を限界として指摘できる。
        第一に、『規制緩和推進計画』が範囲を規制行政に狭く限定したため、行政改革委員会の検討も規制行政の改革にとどまった。
        第二に、独立の事務局を有するとともに総務庁の支援を得たものの、その事務局機能は必ずしも十分でなく、例えば規制緩和措置の事前事後の数量的評価など独自の調査分析を行えなかった。

      3. 立法的な解決を要する諸課題
        これまでの規制緩和の推進過程で、現行法制を前提とする限り解決不可能な問題が幾つか明らかになってきている。
        第一は、行政機関が制定・定立する政令・府省令、訓令・通達等の問題である。これら行政立法の問題点について、経団連では既に1996年10月の意見書『規制の撤廃・緩和等に関する要望』で詳しく指摘しているが、行政機関自らが規制行政の根拠をかなりの自由度をもって制定・定立するならば、国会による立法は空洞化し、規制緩和への取り組みも徒労に終わりかねない。現実に告示や通達などが規制行政における解釈基準や裁量基準として大きな役割を果たしており、こうした行政立法を何らかの形で民主的なコントロールの下に置くことが必要となっている。
        第二は、地方議会が制定する条例や地方公共団体の長が制定する規則の問題である。国レベルでは規制緩和が進められているものの、地方公共団体における規制緩和は概して進んでいない。逆に条例や規則、さらには要綱などの行政指導により、国の規制を上回る規制が課されることが多い。
        こうした条例、規則などについては、法律との関係が十分整理されていないという問題がある。例えば、法律の趣旨に反する条例が制定されても、これを調整する仕組みも十分整備されておらず、条例の違法・合法に関する裁判所の判定基準も必ずしも明確でない。このため、国民(住民)の法的な安定性は脅かされており、将来予測も不透明な状況にある。規則については、首長の専断で制定され、地方議会における議決も行われないため、さらに事態は深刻である。また、国民(住民)にとっては、規則と要綱などの行政指導との違いも不明確である。
        最近、地方分権の名の下に自治立法権の拡充が主張されることが多いが、規制緩和の観点からは、先ず法律と条例、規則の関係の明確化や規則の制定手続の改善が求められる。
        第三は、行政不服審査制度の問題である。規制行政は常に適正に行われるとは限らず、違法・不当な規制により国民の権利や利益が侵されることがしばしばある。このような場合、国民としては、裁判所に訴えを起こすか、またはより簡易・迅速な解決を求めて不服を申し立てることができることとなっている。しかし、実際には行政不服審査制度は、国民の理解を得ていないこと、救済の見込みが少ないこと、制度の複雑さなどから余り活用されていない。また、規制行政において、紛争の原因となることが多い行政指導については不服を申立てることができないという問題もある。規制緩和の実効を挙げるため、国民にとって利用し易い行政不服審査制度を整備する必要がある。

    2. 新しい規制緩和推進体制等の提案
    3. 以上の現状認識を踏まえ、2001年までの規制緩和の推進体制及び関連諸制度の整備案として以下の事項を提案する。

      1. 規制緩和の実行計画

        1. 1998年4月から2000年12月までを対象期間とする新しい規制緩和の実行計画(以下『新計画』と略す)を策定する。
        2. 『新計画』は、『規制緩和推進計画』の未実現措置に加え、行政改革委員会の意見、内外の意見・要望などに基づき策定する。このため、内外の意見・要望を受け付けるため、政府として統一的な窓口を早急に設置する。
        3. 『新計画』は、内外からの意見・要望、「規制緩和推進会議」(仮称、後述)の意見・勧告などを踏まえ、毎年末、改定する。改定時には、「規制緩和推進会議」(仮称)の意見に基づき、基本法や業法の改正など重点事項を明示し、これについては規制緩和措置に加え、税財政上の措置など規制緩和を円滑に推進するために必要な措置も併せ定める。
          改定作業に当たっては、検討状況を中間的に公表し、意見・要望の提出者が、自らの主張の正当性を立証するため、再要望を提出する機会を与える。また、意見・要望にかかわらず、規制緩和措置を講じない場合は、その理由を具体的に公表する。
        4. 『新計画』は、国民が政府の規制緩和への取り組みの全体像を把握し、また分野毎の規制緩和の進捗状況を一覧できるよう、政府の規制緩和全般に関する総合的な計画とする。経済構造改革、金融システム改革などに伴う規制緩和措置も『新計画』に盛り込む。

      2. 規制緩和の企画立案・監視機関

        1. 規制緩和の企画立案・監視に当たる第三者機関として「規制緩和推進会議」(仮称)を法律により設置する。
        2. 「規制緩和推進会議」(仮称)のメンバーは、各界の代表および有識者とする。
        3. 「規制緩和推進会議」(仮称)は、『新計画』の改定に当たり、自らの調査審議に基づき、特に重点とすべき事項をはじめ必要な規制緩和措置などについて内閣総理大臣に意見を述べる。同時に、政府による『新計画』の実施状況を監視し、必要な改善策を内閣総理大臣に勧告する。
          また、内閣総理大臣の諮問により、後述する法制整備の企画立案を行う。
        4. 「規制緩和推進会議」(仮称)の事務局は、独自に規制行政の実態調査、規制緩和措置の事前事後の数量的評価などをなしうる相当規模のものとする。
        5. 「規制緩和推進会議」(仮称)は、新しい内閣制度、省庁が実現する2001年以降は、内閣に直属する恒常的な機関に改組する。

      3. 規制緩和の実効を挙げるための法制整備
        規制緩和の実効を挙げる観点から、国会が下記の法制整備に取り組むことを期待する。

        1. 行政立法手続の整備

          1) 政令・府省令
          国会は、行政機関に政令・府省令の制定を委任する場合、委任する内容、目的、程度を法律の中に明記する。また、行政機関に政令・府省令の案を国会に提示することを義務づけるとともに、必要に応じその審査を行う。
          2) 訓令・通達等
          少なくとも国民の権利・義務に影響を及ぼす訓令・通達の定立に当たっては、
          1. 原案の公表、
          2. 原案に関する一般の公衆、専門家、利害関係者などからの意見聴取、
          3. 寄せられた意見およびこれへの対応の公表、
          4. 必要に応じ、公聴会、討論会などの開催、
          などを義務づける通則法を制定する。

        2. 条例・規則に関する法制整備

          1) 条例
          憲法により当然に法律に留保されている事項、民法など私法秩序の形成にかかわる事項に加え、一地方の利害にとどまらず広く国民の利害に関係ある事項または規制の影響が一地方を超えて広く各地にわたる事項は、条例の規定対象とすべきでない。この原則を地方自治法に盛り込むとともに、関係法律にこれらの事項は法令のみが定めることとし、条例制定権の範囲から除外することを明記する。
          2) 規則
          住民の権利・義務に影響を与える規則については、上に提案した訓令・通達などの定立手続と同様の手続を義務づける。特に、その影響が大きい事項については、規則制定権の範囲から除外し、条例で定めるものとする。

        3. 行政不服審査制度の改革

          1) 「行政審判庁」(仮称)の設置
          行政不服審査制度を簡明なものとし、また、行政の執行機関と審査機関を分離することにより審査の公平性を高めるとともに、審査業務の専門性を高める観点から、現在、行政機関および専門の審査機関が行っている審査業務を可能な限り統合し、「行政審判庁」(仮称)を設置する。
          2) 行政不服審査制度の改革
          上記に伴い、行政不服審査法の改正をはじめ、行政不服審査制度の改革を図る。その際、特に下記の措置を講じる。
          1. 行政不服審査制度の適用除外分野の縮小を図るとともに、個別の法令・規則に定める独自の審査手続も可能な限り通則法との統一化を図る。
          2. 他省庁からの独立性に鑑み、「行政審判庁」は、行政裁量の当否、通達の適否についても審査しうるものとする。また、行政指導についても審査権を与える。
          3. 審査期間を限定する。

以 上


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