[経団連] [意見書] [ 目次 ]

デジタル・ニューディール構想推進のための
5ヶ年計画に関する提言

1999年7月27日
(社)経済団体連合会

1.基本的考え方

  1. 情報通信は、時間、距離、組織等の壁を越えた活動を容易にし、業務の自動化・効率化、知識の共有、協働や創造性発揮などを可能とするため、国民生活の質的向上、行政システムの改革、ならびに、産業競争力の強化や新産業・新事業の創出にとって不可欠の基盤となっている。

  2. こうした情報通信のメリットを、雇用機会の確保、生活水準の向上など国民の利益に結び付けるためには、情報通信市場における事業者間の自由かつ公正な競争を通じて料金の低廉化や利便性向上を促すとともに、公的分野の情報化を推進し、その結果、情報通信市場が拡大することによって、設備投資や雇用機会の増大、ならびに、より一層優れた情報通信サービスの開発が図られる、という好循環を形成する必要がある。

  3. 産業界は、自己責任原則に則って、電子商取引を含め、情報通信の高度利用を効果的に推進していくが、政府においては、高度情報通信社会の基盤整備に向けて集中的、戦略的な取り組みを行なう必要がある。情報化は中長期的観点に立って、総合的に取り組むことが必須な分野であるため、予算の単年度主義や組織の壁にとらわれることなく、数値目標とその実現時期を明確にした中期的計画のもとに省庁横断的に推進していかなければならない。

  4. 経団連では、先般、2003年までに世界で最も進んだ情報通信社会を実現するための国家戦略として、デジタル・ニューディール構想を提案した。以下に述べる内容はデジタル・ニューディール構想の柱であり、政府においては、これらの項目を中心とした5ヶ年計画(99年度補正予算〜2003年度)を策定することを提言する。

  5. 官民が有機的に連携しつつ省庁横断的に高度情報化を推進するため、現在の高度情報通信社会推進本部に民間人が多数参画する専門事務局を設置して、その機能強化を図るとともに、総理主導の下で主要予算を配分するなど、推進体制を大幅に充実することが望まれる。また、複数年度予算方式の導入、建設国債の発行対象の拡大、ソフトウェアへの予算面の配慮など、国としての取組み姿勢を内外にアピールすることが重要である。

2. 基本理念と目標

  1. 豊かな国民生活
    情報通信の利便性を享受できる国民生活の実現を図る。そのため、インターネット利用者数を現在の1700万人程度(99年通信白書より)から、2004年初頭においては、自動車免許並みの7000万人に増大することを目標とする。

  2. 強靭な産業競争力
    情報通信をフルに活用して効率的かつ創造性溢れる企業経営の実現を図る。そのため、通信料金のより一層の低廉化を実現するとともに、電子商取引規模を昨年の約10兆円から2003年には約72兆円に拡大することを目標とする。

  3. 世界最高水準の電子政府
    国民、行政が情報通信を全面的に活用することにより、きめ細かく迅速な行政サービスの提供、公正・透明な行政情報公開を実現する。そのため、2003年度末までに、行政情報の原則100%ネットワーク公開、行政手続の原則100%ネットワーク化を含め、原則ペーパーレス化を達成することを目標とする。政府は、民間の情報化を推進する先導的なユーザーとしての役割を担っており、電子政府の実現に率先して取り組むことが望まれる。

3.2003年に向けて世界最高水準の電子政府の実現(スーパー電子政府)

情報通信を高度利用してペーパーレス化を進め、国民に対して、時間的、空間的制約にとらわれない電子行政サービスを提供するとともに、省庁間、中央・地方の枠を超えて業務の効率化、高度化を図る。省庁再編に当たっては、各種システムの連携・統合など必要な見直し、再構築等を行なう。また、政府から民間に出す電子文書の真正性等の確保に必要な政府の認証の仕組みづくりを省庁横断的に推進する。
その際、各省庁において、情報化を部局間の垣根を越え、横断的・総合的に推進できるよう、官房に情報推進部署を明確に設ける。基本的に、具体的なシステム運営については民間企業にアウトソーシングをする。
なお、印紙の貼付に代わる手数料等の電子的納付を実現するために必要な措置を2000年度中に行なうなど、所要の制度整備も機動的に実施する。

(1)申請、届出等のネットワーク化700億円程度
申請、届出等8822件中、当面電子化が可能なもの3423件をみると、99年度中に電子化された3040件のほとんどがフロッピーディスクの許容にとどまっている。2000年3月までに、オンライン申請、届出等推進のための基本的枠組みを、また、2000年7月までに省庁別にタイム・スケジュールを含めた具体的アクションプランを策定し、それに基づき申請・届出等のネットワーク化を推進する。
(2)政府調達の電子化800億円程度
2000年度を目途に調達情報データベースを、また、競争契約参加資格審査については2001年の定期資格審査から省庁一括審査が行なえるようシステムを構築する。さらに入札等については、99年11月までにパイロット・システムの構築・実証実験の評価を行い、その後具体化を進める。
(3)完全電子化プロジェクト800億円程度
各省庁の手続のうち、2〜3の象徴的業務を選定し、申請・届出・許可・承認・調達・手数料納付等の全てを電子化したプロジェクトを実施する。
(4)行政情報の電子公開6400億円程度
行政情報公開法の円滑な施行に向けて、文書の体系的な整理、文書の電子化等を行なう。
(5)デジタル・アセット整備830億円程度
  • 文化、教育、産業、放送といった分野で21世紀に残すべき資産のデジタル化を行い、国立国会図書館等のデータベースに蓄積し、国民がネットワーク等を通じて利用できるようにする。
  • 基盤的地理情報(国土数値情報、数値地図等)の適切な更新、整備を行なう。
(6)歳出・歳入手続の電子化1000億円程度
紙媒体で行われている歳出・歳入手続を電子的に行なえるようにする。
(7)住民基本台帳ネットワーク400億円程度
住民基本台帳の全国ネットワーク化を行い、全国共通の本人確認ができる仕組みを構築し、電子申請、ワンストップサービス等を可能とする。
(8)ITSの推進7300億円程度
自動料金収受システムについて、2000年1月より千葉県全域で実験が開始される予定であるが、全国の主要な有料道路等の料金所へ整備する。
(9)国家公務員1人1枚ICカード装備推進280億円程度
国家公務員1人1枚ICカードの装備を推進し、ICカードを活用した、行政サービスの電子化、ワンストップサービス、本人認証、各種決済等を実施する。
(10)医療・福祉分野の情報化3600億円程度
国公立病院のネットワーク接続、LAN整備等を進める。
(11)霞が関WANの高速化100億円程度
公文書等の文書交換ができるよう現在の128Kbpsを6Mbpsに大容量化する。
(12)行政ペーパーレス化300億円程度
99年中に政府全体としての行動計画、また、99年度中に各省庁の実施計画を策定する。2000年度〜2002年度にペーパーレス化を実施し、うち前半を集中取組期間とする。
合計 2兆2500億円程度

4.情報リテラシー憲章の策定と教育情報化の推進

21世紀において、広く国民が情報通信技術のメリットを享受できるような能力を醸成し、かつ国際競争力のある情報通信社会を担う人材を育成するため、教育ツールとしての情報通信技術の活用し、世界最高レベルの教育情報化を実現する。また、生徒と教師、父兄・地域と学校等の間で緊密な意思疎通ができるよう、情報通信技術を活用する。こうした観点から以下の事項を含めた教育情報化の基本戦略(情報リテラシー憲章)を2000年3月までに策定する。その実現に向けて、公立学校教育情報化のための費用を特別交付税化する。

(1)教職員1人1台パソコン・インターネット接続5400億円程度
(2)モバイル、光ファイバー等を活用した高速回線で全教室へのインターネット接続、全学校におけるホームページの立ち上げ、教育用コンテンツの充実1兆3000億円程度
(3)情報教育等に関するアウトソーシング3300億円程度
(4)教育コンテンツ共用データベース化300億円程度
バラバラに提供されている教育用コンテンツがデータベース間でネットワークを共有して統合的に利用できるような共通基盤を整備。
合計 2兆2000億円程度

5.豊かな国民生活と効率的な企業経営を実現するドリーム・ネットワーク・プロジェクト
(民間と官との共同研究プロジェクト)

国民生活の質的向上、産業競争力の強化、新産業創出に向けて、次世代、次々世代の情報通信の基盤となる技術開発を官民共同で重点的に推進する。

(1)重点分野設定型基盤技術開発2000億円程度
官民共同で基盤技術の開発を推進するため、具体的な技術開発プロジェクトについては、民間の知恵を活かして、集中的・効果的なプロジェクトを実施できるように、政府が重要分野を設定した上で、公募によって決定する。
重要分野の例としては、(1)次世代ネットワーキング(スーパー・インターネット、オール光技術、高度アクセス回線技術等)、(2)スケーラブル・コンピューティング(超並列、超分散等)、(3)やさしく使い易い端末、(4)半導体高度生産技術、(5)その他(セキュリティ技術、エネルギー高度利用技術、バイオ・インフォマティクス等)があげられる。
(2)ソフトウェア・コンテンツに関する人材・ベンチャー発掘型技術開発1000億円程度
今後の情報通信の発展の鍵を握るソフトウェア・コンテンツ分野においては、従来のように国がターゲットを絞ってその実現のため複数企業に連合を組ませて技術開発を行なう手法ではなく、優秀な人材、ベンチャー企業の発掘、育成が可能となるよう、公募と外部専門家による評価とに基づいてプロジェクトを決定する手法を導入する。
(3)ITS情報通信技術の研究開発1900億円程度
交通の円滑化に向け、快適な走行や安全性等に配慮したシステム構築等のための情報通信技術、ITS情報通信プラットフォーム技術等を実現する。
(4)省庁横断的に自由に使える大規模テストベッドの整備5000億円程度
民間、大学、研究所、公共機関等が省庁横断的に自由にアプリケーションに関する実験が行なえるよう、大規模なテストベッドを整備する(例えば、ギガビッド・ネットワークと全都道府県庁との接続、次世代端末インターネット利用実験など)。
合計 9900億円程度

以 上

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