国際情勢・通商

シンポジウム「停滞する中国経済の行方~財政と地方ガバナンスの課題」を開催しました

左から、川島研究主幹、内藤研究委員、鄭研究委員

経団連総合政策研究所(筒井義信会長)の中国情勢研究プロジェクト(研究主幹=川島真東京大学大学院総合文化研究科教授)は11月13日、シンポジウム「停滞する中国経済の行方~財政と地方ガバナンスの課題」をオンラインで開催しました。

前半は内藤二郎研究委員(大東文化大学経済学部教授)、鄭浩瀾研究委員(慶應義塾大学総合政策学部准教授)がそれぞれ講演。後半は川島研究主幹がモデレーターとなって、両研究委員とパネル討議を行いました。概要は次のとおりです。 

 
■低迷が続く中国経済の構造問題と政策の限界(内藤研究委員)

中国経済は、成長率5%前後を維持するが、持続性には疑問が残る。最大の懸念はデフレ傾向と不動産市場の深刻な低迷である。固定資産投資は、不動産が足を引っ張り、都市部の価格下落が続く。補助金政策を強化しても、消費は伸び悩んでおり、消費マインドは低下したままだ。

財政・金融政策は「より積極的」な方針とされるが、効果は限定的だ。地方政府の隠れ債務や土地財政の崩壊が財政運営を制約し、中央政府も慎重姿勢を崩していない。供給サイド強化に偏る政策は、過剰生産とデフレを招き、需要喚起にはつながっていない。

根本的な課題は「安心と信頼」の欠如であり、将来不安が消費を抑制している。格差是正や再分配の強化、農村の購買力向上が不可欠だが、政治優先の姿勢が改革を阻んでいる。市場環境の整備と規制緩和がなければ、民間企業や外資の投資マインドは回復しない。
 
■中国の「県域経済」の現状と課題(鄭研究委員)

県域経済は、県を主体とする地域振興戦略であり、工業化・都市化・農業産業化を同時に進める政策だ。背景には、都市農村格差の是正、貧困脱却、環境改善といった複合課題がある。

その特徴は①国家産業政策の一環として、地域間の資源配分最適化と産業移転を重視②省が主体となり総合的に推進③「省管県」改革による県の権限強化④県レベルにおける産業パークの建設と投資誘致活動――だ。

課題として、公共職務の拡大と財源不足の矛盾、地域間格差の拡大、農村の過疎化と空洞化――が挙げられる。ガバナンス改革や土地集約化は不可欠だが、企画や資金面で行政依存が強く、市場メカニズムの軽視が懸念される。長期的には地方財政の再建と民間資本の活用がカギとなる。 
 
■パネル討議

川島研究主幹は、両研究委員の発表をふまえ、共通する論点を「財源の確保」と「市場の役割」とし、中央から地方まで政策が示されていても、現状では資金の裏付けが乏しいと指摘した。

内藤研究委員は、供給偏重の政策では需要喚起は困難であり、中央政府の役割は、市場のメインプレーヤーである民間企業が、安心して自由に活動できる環境整備だと強調した。

鄭研究委員は、県域経済の進展は地域産業構造を変化させ、中国に進出する日系企業にも影響を及ぼし得るとし、今後も注視すべきと提唱した。

議論は「国進民退」の傾向や地方政府の権限にも及んだ。

川島研究主幹は総括として、中国経済には無数の矛盾が存在し、それらが極端化すれば深刻な問題を引き起こす可能性があると警鐘を鳴らした。こうした矛盾を見極め、偏りがないかを確認しつつ、リスク管理を徹底する必要があると結んだ。

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