経済くりっぷ No.23 (2003年6月24日)

日本経団連第2回定時総会/会長挨拶

民主導・自律型の経済社会を目指して

奥田会長

日本経団連会長 奥田 碩


1.統合1年の成果

昨年5月の経団連と日経連との統合から、早いもので1年が経った。この間、統合の効果を最大限に高めるべく、両団体のリソースやネットワークを結び付けながら、日本経済が抱える諸問題の解決に向け、活発な活動を展開してきた。具体的には、研究開発・IT投資促進税制の実現、規制改革の進展、構造改革特区の創設、さらには知的財産基本法の成立等に、大きな役割を果たすとともに、経営労働政策委員会報告は、春季労使交渉のあり方を根本的に見直す契機となった。

2.厳しい状況下のわが国経済社会

現在、日本経済は、大変厳しい状況にある。昨年度のGDPは、実質では1.6%のプラス成長を記録したが、名目成長率は二年連続でマイナスとなった他、株価の低迷が続くなど、景況感の改善には程遠く、政府による思い切った対策が不可欠である。また、急速に進む少子化・高齢化の中で、財政や社会保障制度の破綻すら懸念され、国民の将来に対する不安感は高まる一方である。
こうした状況にもかかわらず、日本経済の現状に対する危機感の欠如から、抜本改革をできる限り先送りしようとする姿勢が見られることは、大変残念である。日本経済の再生には、当面の緊急課題である資産デフレの克服や構造改革に、官民がこれまで以上のスピードで、真正面から取り組まなければならない。

3.新ビジョンの実現に向けて

同時に、戦後の日本の経済発展を支えた経済社会システムが、内外の激しい環境変化の中で機能不全ともいうべき状況に陥っており、新たな時代にふさわしい、日本独自の成長モデルの確立が急務となっている。
こうしたことから、日本経団連は、本年1月に、新ビジョン「活力と魅力溢れる日本をめざして」を公表した。これは、2025年の日本の姿を念頭においたビジョンであるが、直ちにさまざまな改革に着手しない限り、目標として描く、「民主導・自律型の成長メカニズムが機能する経済社会」の実現は困難である。そこで、今年度は、当面の問題への対応に加えて、新ビジョンの実現を活動の柱に位置付けた。

(1) 財政、社会保障制度、税制の再構築

第1の重要課題は、財政、社会保障制度を、少子化・高齢化に耐えうる持続可能な制度に再構築していくことである。その際、経済全体の活力を維持する観点から、国民負担率を将来においても50%以内に抑制していくという目標を堅持することが重要である。そこで、個々の制度を税制など関連する諸制度と一体的に再設計することで、全体としての整合性を確保していかなければならない。また、歳出削減の徹底等を前提に、国民が広く公平に負担を分かち合う消費税の引上げも、視野に入れていくことが不可欠である。国民の国に対する不信感を払拭するためにも、抜本改革をこれ以上先送りしないよう、政府・与党に強力に働きかけていきたい。

(2) 新たな成長基盤の確立

第2は、21世紀の日本の新たな成長基盤を確立していくことである。そのためには、まず、産学官連携の推進や知的財産政策の強化を通じ、技術革新のダイナミズムを最大化する必要がある。また、環境技術の革新を進め、環境立国を目指すといった戦略も重要である。さらに、規制改革を加速し、企業が新たな事業に参入しやすい環境の整備も不可欠である。そこで、スピード感ある大胆な規制改革を促すための枠組みとして、「規制改革基本法」の制定や強力な推進機関の設置を求めていきたい。
同時に、成長を支える、多様な人的資源の育成、活用も重要である。その際、政府による教育改革や労働市場の思い切った改革に加えて、企業自らが個人の能力開発や次世代を担う人づくりに、主体的役割を果たしていくという姿勢が求められる。

(3) 通商政策の戦略的展開

第3は、グローバル経済の中で、企業が自由に貿易、投資活動を展開できるよう、通商政策を戦略的に展開することである。
わが国は、現在行われているWTOの新ラウンド交渉が暗礁に乗り上げることのないよう、強いリーダーシップを発揮するとともに、韓国、タイ、メキシコ等の国々との自由貿易協定の締結を急ぐ必要がある。そのためにも、自らの市場開放や、外国人の受け入れ体制の整備、対内直接投資の促進に努め、日本をより世界に開かれた国に変えていかなければならない。

(4) 政治との関係強化

第4は、政治との関係強化である。一連の改革を進める上で、政治と経済との緊張感を伴う真の協力関係の構築が不可欠である。企業人は、政治に対し、諸改革の断行を求め積極的に行動するとともに、必要な支援を行っていくことが求められる。
そこで、各政党の政策や活動実績をもとに、企業・団体が資金協力する際に参考となるガイドラインを提示するなど、政党に対し透明度の高い資金が提供される仕組みを整備することで、政策本位の政治の実現に貢献できるものと確信している。

4.共感と信頼を得る価値の創造

以上の活動を通じ、政治や経済の改革を促し、企業が活力を発揮できる環境の整備に、全力で取り組んでいきたい。会員各位には、引き続き経営改革を進められ、国際競争力を強化しつつ、新たな需要や雇用の創造に邁進していただきたい。
同時に会員各位には、社会からの共感と信頼を得ながら、企業が創意工夫を活かし、自由闊達に新たな価値の創造に励むことこそが、「民主導・自律型の経済社会」の基本であるということから、自らに課せられた社会的責任を強く自覚いただくとともに、企業行動憲章を遵守し、経営の透明性確保や企業倫理の確立に、より一層の注力をお願いしたい。


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