12月18日/日本経団連評議員会

奥田 碩 日本経団連会長

会長挨拶

活力と魅力溢れる日本の実現へ

奥田 碩


日本経済に若干の明るさが戻ってきたが、家計部門の支出が低調に推移する限り、経済全体としては力強さを欠くものとならざるをえない。個人消費や住宅投資を喚起し、内需中心の持続的な成長を確実なものとしていくことが、来年の最大の課題となっており、その鍵を握るのは個人や企業の活力である。

社会保障、財政、税制の一体的な改革

経済活力を維持するためには、国民負担率を将来にわたり50%以下に抑制していく必要がある。そのためには徹底した歳出削減や社会保障の給付水準の思い切った引き下げなど、社会保障、財政、税制を長期的に持続可能な制度に一体として再構築していかなければならない。

2004年以降、高齢者医療、介護等の改革も予定されているが、社会保障制度全体の改革を、再度、税制、財政の改革と一体で、将来の明確なグランドデザインを示し、国民的合意を形成しながら進めるように、政府・与党に対し強力に働きかけていきたい。

税制面では、2003年度、研究開発およびIT投資関連で、大規模な先行減税が実現し、2004年度については本格的な減税が厳しい情勢であったことから、法人税では欠損金の繰越期間の延長や連結付加税の撤廃、また住宅ローン減税の延長等に的を絞って、政府・与党に実現を求めた結果、与党の税制改正大綱に概ね反映された。日本経団連としては、今後、国際的な競争環境がますます厳しくなる中で、法人税負担の更なる軽減を働きかけていく。

守りの経営から攻めの経営への転換

日本経済の再生には、守りの経営から攻めの経営への転換、すなわち新たな需要、産業、雇用を創出する取り組みの強化が必要である。これまでの企業収益の回復は、コスト削減効果が大きく寄与したものであったが、同時に、売り上げを増やし、実体経済を拡大していくような企業戦略が求められる。そのためには、産学官の連携等を起爆剤に、技術革新のダイナミズムを高めていくことが不可欠である。また、規制改革も、新事業や新産業の創出に必要であり、日本経団連では、毎年、会員企業のニーズに基づく、数百項目に及ぶ具体的な規制改革要望を取りまとめ、その実現を働きかけている。構造改革特区では、聖域とされていた医療・福祉、教育、農業等の分野においても、規制に風穴が開きつつあり、こうした流れを加速させていくためには、規制改革の推進体制の強化が必要である。2004年3月末には、政府の総合規制改革会議が設置期限を迎えるので、民間人主体の後継組織の速やかな設置等、民間の知恵を活用した一層の規制改革の実現をめざしたい。

貿易、投資環境の一層の整備

国際関係では、日本企業がグローバルな競争を勝ち抜く上で、貿易、投資環境の整備が重要である。まずWTOの新ラウンド交渉については、さる9月のカンクン閣僚会議が決裂し、交渉の早期立て直しが喫緊の課題となっている。またこうした多国間交渉の推進と並行して、諸外国に比べて大きく立ち遅れている自由貿易協定のネットワークづくりも急がれる。日本としては、中国・韓国・ASEANを包含する、東アジア自由経済圏の形成をめざしていくべきである。同時に外国人の受け入れ体制の整備等、日本の更なる開国を自らの手で進めていかなければならない。

政治に対する取り組みの強化

われわれ経済界としては、官僚任せではなく、政治への働きかけを一層強めていくことで、新ビジョン『活力と魅力溢れる日本をめざして』で取り上げたさまざまな提案の実現をめざしていく必要がある。そこで、日本経団連としては、政治との間に、透明で緊張感ある新たな関係を構築するための枠組みづくりを進めてきた。9月に、政党の政策評価を行う際の尺度となる「優先政策事項」を発表するとともに、12月の理事会において「企業の自発的政治寄付に関する申し合わせ」を了承いただいた。これらに基づき、年明けには第1回目の政党の政策評価を公表し、企業が自主的に政治寄付を行う際の参考に供する予定である。こうした政治への取り組みの強化に関し、皆様の理解と協力をお願いしたい。

企業倫理の高揚

大変残念なことに、この1年間、現場での大規模事故や企業不祥事が相次いで起きた。事故の続発は、工場等の現場における人材力が低下しているためではないかとの反省に立ち、企業の「現場力」の復活が求められる。また、企業不祥事をなくしていく上で、「経営者が、強く正しくありつづけるという姿勢が、強い競争力を育て、社会に信頼される企業をつくる」という点を、われわれは常に肝に銘じなければならない。会員各位には、企業行動憲章をも参照いただきながら、今一度社内体制の総点検をお願いしたい。


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