経団連くりっぷ No.71 (1998年1月22日)

評議員会議長挨拶

もはや構造改革に後戻り・先送りは許されない

齋藤 裕


齋藤議長

  1. わが国の改革課題
    1. 景気動向と経済運営
    2. 経済界が直面する最大の課題は、景気の回復である。97年の前半には、景気は一進一退の様相を見せながらも、全体として何とか上向いた感があったが、秋口以降、次第に減速感を強め、先般発表された政府の月例経済報告からも「回復」という文字が消え、12月の日銀短観(企業短期経済観測調査)をみても、製造業、非製造業を問わず、企業の景況感は大幅に悪化している。
      経団連では、9月の新内閣の発足にあたり、経済活性化の観点から、規制の撤廃・緩和、法人税率の引下げ、土地の流動化・有効利用の推進を柱とする要望を取りまとめて、豊田会長を先頭に政府・与党に対し強力に働きかけてきた。その結果、11月の緊急経済対策には、経団連の主張がかなり盛り込まれることとなった。また、11月からの相次ぐ金融機関の破綻に端を発した金融システムに対する不安感についても、同月末に経団連が提言した財政資金の導入を柱とした対策が自民党で決定された。さらに、経済界の長年の懸案であった法人税の実効税率引下げの実現を図ることができたことは、大きな前進である。また、総理の決断により、所得税の特別減税が実施された。
      しかしながら、その後も株価が大幅に下落するなど依然として日本経済は危機的状況が続いており、今後とも注意深く景気の動向をフォローして、政府に対し適時適切な経済運営を求めていく必要がある。
      また、われわれ企業自身も、当面の試練を新たな発展の機会と捉え、市場を開拓して、経済を活性化していかなければならない。

    3. 構造改革の推進
    4. 豊田会長は、97年の新年メッセージにおいて、同年を「構造改革元年」と位置づけた。
      その後、この一年間、橋本総理が掲げた行政改革、財政構造改革、経済構造改革、金融システム改革等の6大改革については、21世紀の活力ある経済社会の実現に向けて確かな一歩を踏み出しつつあり、われわれとしてもこれを評価したい。豊田会長もメンバーとして参加した行政改革会議は、96年11月の発足以来、精力的に検討を重ね、先般、内閣機能の強化、中央省庁の大括り再編、行政機能の減量・効率化についての最終報告を取りまとめた。また、財政構造改革については、97年1月に財政構造改革会議が発足し、歳出削減の数値目標を定めた改革の推進方策を取りまとめるとともに、11月には、財政構造改革法が成立した。
      しかしながら、経済のグローバル化の進展は予想以上に早く、すでに大競争時代に突入した中で、わが国企業が諸外国の企業とイコール・フッティングで事業活動を展開できるような環境を整えることは、目下の急務である。
      もはや先送り、後戻りは許されない。経団連には、構造改革をさらに加速化するために、今後とも中心的な役割を果たしてもらいたい。

  2. 痛みを乗り越え改革の断行を
    1. 企業の信頼の回復
    2. もう一点、私から申しあげたい点がある。それは、改めて言うまでもなく、企業は社会の信頼なくして存立できないということである。経団連では、96年の12月に、「企業行動憲章」を全面的に改訂して、会員企業に対し改めて企業倫理の徹底を求めた。しかしながら、97年に入っても企業の不祥事が相次いで発覚したことは誠に残念なことである。このような事態が続くと、企業に対する内外の信用の失墜につながりかねない。
      こうした不祥事を未然に防ぐためには、何よりも経営トップの日頃の姿勢こそが重要である。会員各位におかれても、経団連の企業行動憲章に沿って、企業の自己規律、自己責任原則の確立に引き続き努めていただきたい。

    3. 21世紀に向けて
    4. 21世紀まで残すところあと3年。この間に経済社会システムの抜本的な改革を成し遂げ、経済を再活性化することができるか否かが、21世紀のわが国の盛衰を決するといっても過言ではない。
      製造業を中心にわが国企業の国際競争力は依然として強く、国民の貯蓄率も高いなど、いわゆる経済のファンダメンタルズは健在である。確かに足元の経済情勢は厳しく、構造改革も痛みを伴うものである。しかし、この痛みを乗り越え、経済を活性化して、わが国の持つ経済力をいかんなく発揮することができれば、明るい展望が開けるものと信じている。また、日本経済の健全性を取り戻し、自由で透明な市場経済を実現することこそが諸外国から何よりも求められている。
      経団連としては、わが国が目指すべき理想を高く掲げ、強い信念を持って、経済界をリードしていってもらいたい。
      豊田会長はじめ執行部の方々には、96年に取りまとめた経団連ビジョン「魅力ある日本の創造」で掲げた「活力あるグローバル国家」の建設に向けて引き続きご尽力いただきたい。


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