経団連くりっぷ No.72 (1998年2月12日)

阪神・淡路復興シンポジウム/1月23日

被災地の復興と災害に備えた国土づくりを求める


阪神・淡路大震災の発生から3年が経過した。経団連では、神戸商工会議所、関西経済連合会との共催により「阪神・淡路復興シンポジウム」を東京・経団連会館で280名余の参加を得て開催した。シンポジウムでは冒頭、豊田会長、坪井国土政務次官の挨拶の後、阪神・淡路地域の現状と課題について、貝原兵庫県知事、笹山神戸市長、牧神戸商工会議所会頭の基調講演を行なった。また「復興と防災のあり方をさぐる」をテーマに有識者、経済人、首長によるパネルディスカッションを行ない、これらの討議の結果を、古川副会長/国土・住宅政策委員長の呼びかけで「阪神・淡路復興シンポジウムアピール」(8、9頁参照)として取りまとめた。シンポジウムは新宮関経連会長の復興に向けての強力な推進への決意で締め括られた。取りまとめたアピールは、即日、経団連、神商、関経連の幹部から総理官邸に届けられた。

  1. 坪井一宇 国土政務次官挨拶
  2. 被災地は復興の道をたどっているが、一方で2万数千世帯の方々が仮設住居で生活し、産業も業種、業態により厳しい状況に直面している。政府としては、復興対策としてこれまで総額4兆円を超える国費を確保し、さる1月16日にもワールド・パールセンターなどを復興特定事業として認め、支援することを決めたところである。今後とも一日も早い復興に向けて全力を挙げて取り組む。

  3. 豊田章一郎 経団連会長挨拶
  4. 私にとって阪神・淡路大震災は、経団連会長に就任して2年目を迎えるにあたり、21世紀の経済社会づくりのビジョンをまとめようと提唱した矢先の出来事であった。あまりに脆弱な国土のありさまを目にし、その後まとめた経団連の21世紀ビジョン『魅力ある日本』には、被災地を未来型都市づくりのモデル地域とすることや安全、安心な国土づくりに向けた施策を盛りこんだ。震災の教訓を踏まえた国土づくりを進めるべきである。

  5. 貝原俊民 兵庫県知事講演
  6. 今後、復興を進めていく上で、
    1. 広域的な連携による危機管理体制の構築、
    2. コミュニケーションが成立しやすい人間サイズのまちづくり、ネットワークするまちづくりの推進、
    3. ゾーン政策による地域の産業のポテンシャルの積極活用
    が必要である。東京湾、大阪湾は臨海部に広大な用地があり、東京湾横断道路や明石海峡大橋、国際空港などのインフラも整備されている。関東、関西の官民で連携してゾーン政策の検討、実現に取り組みたい。

  7. 笹山幸俊 神戸市長講演
  8. 政府の阪神・淡路復興委員会では早くから「8割程度の復旧まではすぐに進むだろうが、そこから先は構造問題が絡み、容易ではないだろう」と言われていたが、その通りになっている。本格復興とは生活の安定であり、そのためには雇用の確保が必要だが、今もって10万人の人口が流出したままであり、失業率も高い。これを解決するためには新しい産業の立地が必要である。神戸市では「神戸起業ゾーン」を設定し、今後の成長産業の立地を優遇するなどしているが、今後も施策の充実に努めたい。

  9. 牧 冬彦 神戸商工会議所会頭講演
  10. 震災後3年を経て、産業の業種・規模間の格差が急速に拡大しつつある。とりわけ中小企業の息切れ倒産が顕著になり、昨年1年間の兵庫県下の倒産は前年比約25%の増加であり過去10年間で最悪である。神戸商工会議所のアンケートによる98年の景気見通しも悲観的である。神戸にとって新産業の創出、成長産業の誘致は不可欠な課題であり、県や市の条例によるポートアイランド2期地区における「エンタープライズソーン」の成果を期待したい。国としてもさらに踏み込んだ施策をとるようお願いしたい。また、神戸は魅力ある都市づくりに努めており、ぜひ足を運んでもらいたい。

  11. シンポジウム
  12. 菅井基裕関経連復興対策委員長からは「これからは文化をキーワードに被災地の活性化を考えていきたい」、米田神戸商工会議所副会頭からは「ドラマ『甘辛しゃん』の舞台である神戸の民間は、しゃんと自立して復興を進めていく」とそれぞれ復興への決意が述べられた。加護野忠男神戸大学経営学部長が「震災はまだ終わっていない。規制の撤廃・緩和により被災地経済が自立できるようにしてほしい」と話すと、コーディネーターを務めたNHKの有働由美子キャスターが「会場にいらっしゃる関係省庁の皆さんはどうお考えですか」と水を向ける場面もあった。
    また、本間正明大阪大学経済学部長は、今後に向けて「(1)地方分権により負担と受益のマッチングを行なうこと、(2)官・民・非営利のネットワークづくりをすること、(3)生活の基盤を根底から奪われた人を支援する仕組みづくりを進めること」が必要だと説き、高秀秀信横浜市長は「阪神・淡路大震災を教訓に、地元企業と協力して災害時には瞬時に被災状況の情報が市庁舎に集まるシステムを構築している」と自治体の取組みを紹介した。

  13. 新宮康男 関経連会長挨拶
  14. さる1月17日に兵庫県が「震災を教訓として、すべての都市が安心して住める安全な都市として再生することに貢献していきたい」との「1・17宣言」を取りまとめたが、このシンポジウムを、被災地の決意を全国的なレベルで産学官の各界で共有し、「安全・安心な地域づくり」に向けて取り組む契機としてほしい。私たちもこの地域の未来を創造する復興を強力に推し進めていきたい。


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