経団連くりっぷ No.89 (1998年11月12日)

なびげーたー

「持合株式解消のための証券等健全化機構の設立について」

経済本部長 角田 博


最近株式持合の解消が急速に進みつつあり、これが株価低迷の大きな要因になるとともに、さらなる株価崩壊を招くのではないかと懸念されている。

10月初旬ロンドン大学のロナルド・ドーア先生が見えた。日本経済の現状を聞きたいとのことであったが、話の中で、「日本の経営者の中に株式持合の解消に強く反対する人はいないのですか?持合は日本的和の精神で、経済発展に大きな役割を果たしてきたのに…」と言われた。

日本経済の構造改革が求められる中で、株主資本の効率向上の要求は強く、2001年度から時価会計が導入されることもあり、持合株式保有の非効率性に経営者、株主の厳しい目が注がれている。さらに間接金融から直接金融への移行に伴い、銀行との持合の必要性も急速に薄れている。

持合株式のウェートは97年度末の20%から現在では18%、60兆円弱に減っており、これが最近の株価低迷の大きな要因になっている。今後年金債務がオンバランス化され、積立不足が表面化すると、企業としては15年で償却などとのんびりしたことは言っておれず、持合株式を売ってでも2〜3年で処理することになるという。各社が一斉に解消に動いた時の株式市場への影響が恐ろしい。

そこで経団連では持合株を相対で交換し、消却をするスキームを提案した。ただし銀行にとっては公的資金の注入で優先株などの買い取りを求めているところであり、BIS規制の自己資本比率が下がる消却をとても出来る状況にはない。そこで、「証券等健全化機構」を創設し、5年間の塩漬けを求めている訳である。

これに対する政財界の反論は多種多様である。こんな案では生ぬるい。公的資金で株を買い上げろ、格付けもやれ、と勇ましい意見がある一方、誤解に基づき、PKOではないか、飛ばしではないか、市場をゆがめる等の発言もある。

最大の誤解は公的資金の投入で株式を買い上げる機構ではないかということである。この案では現金は流れない。相対交換で得た自社株を消却するまで機構に預け、帳簿上債権・債務の関係が生ずるだけである。PKOではない。

飛ばしというのは決算期の違いを利用して含み損を隠してしまうものであり、これは含み損の繰り延べではあるが、隠すのではなく、飛ばしではない。

機構実現のために超えなければならないハードルは多い。BIS規制上の問題、税制面でのインセンティブ、商法上の手当て、会計上の手当て…いずれも極めて難しい問題ばかりである。西川経済法規専門部会長、中村常務理事を中心に与野党の先生方、役所等を精力的に回り、格別の配慮をお願いしているが、ハードルの高さ、現下の厳しい状況を考慮すると、公的資金による買い取りを考えてはどうかとの声が強くなっているようだ。


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