経団連くりっぷ No.90 (1998年11月26日)

マハティール マレーシア首相との懇談会/10月16日

独自の経済回復を探るマレーシア


10月16日、来日したマハティール マレーシア首相を招いて懇談会を開催し、マレーシアの経済政策や東アジア経済をめぐる情勢について懇談した。以下は懇談要旨である。

マハティール首相

  1. マハティール首相発言要旨
  2. 通貨・金融危機に陥ったアジア諸国に対し、日本が新宮沢構想など積極的な支援を続けてくれていることに深く感謝する。
    IMFは危機発生の責任は、政権の腐敗や政策の不透明性など各国政府にあり、これら諸国の改革が必要であるとした。各国はIMFから付与されたコンディショナリティーに従って改革を進めたものの、反って信用が収縮して国内経済は悪化している。IMFが付与したコンディショナリティーは、各国固有の事情を配慮しない一律なものであり、その点が最大の問題点である。
    マレーシアは、当初よりIMFのコンディショナリティーに対して懸念を伝えていたが、LTCMが破たんしたり、危機がロシア・中南米などにも波及するに至り、ようやく欧米諸国も通貨トレーダーの活動が健全な経済活動に悪影響を及ぼすものであることに気付きはじめたのである。
    これを教訓として、マレーシアは自国通貨リンギットを海外市場と隔離し、海外市場におけるリンギット取引および国内へのリンギ送金を禁止した。また、競争力維持のために対ドルレートを1ドル=3.8リンギに固定し、外貨両替ができるのはマレーシア国内のみとした。これらの為替規制は必要最小限のものであり、マレーシアとの貿易・投資には何の規制も生じない。株式投資した資金については、1年間だけ持ち出すことができないが、貿易上の決済、投資のための資金調達や、投資の結果生じた利益の国外送金などは自由に行なうことができる。
    固定相場制への移行、為替規制など一連の政策を始めてから1カ月余りが経過した。外国からの株式投資は減少したが、製造業投資は従来の水準を維持している。また、この1カ月で外貨準備高、貿易収支、国内販売などのパフォーマンスは良好である。
    11月にクアラルンプールでAPEC首脳会議を開催するが、その時はマレーシアの為替規制について説明を行なうとともに、通貨の投機的取引への対応についても議題に取り上げたい。
    市場においては、それぞれのプレーヤーが最大限の利潤を追求して動く。破たんしたLTCMは自己資本が40億ドルだったが、実際にはレバレッジを使って1兆ドルもの金額を動かしていた。これでは誰もヘッジファンドを止めることは出来ない。市場が自律性を持っていると考えるのはあまりにも楽観的であり、通貨取引には一定の規制やルールが必要である。
    現在の為替の乱高下は実体経済を反映しているとは思えない。これではリスクが大きすぎて仕事ができない。今回発表した為替規制や固定相場制への移行は完全な解決策ではないが、マレーシア政府は可能な限り現在のレートを維持していきたい。マレーシアに投資している各企業も注意深くトレンドを見てリスクを判断するとともに、それぞれの持っている強みを育てて競争力をつけてほしい。
    規制を始めると官僚主義がまん延するとの懸念もある。日本企業はルールを守り正直であるが、抜け道を探して不正を働こうとする人達が多いことも事実である。幸い、狭い国土であるし、コンピューター等を活用しながら政府として国内の把握に努めたい。引き続き日本の協力をお願いする。

  3. 懇談要旨
    1. 経団連側発言
      1. わが国はアジア諸国に対して、「新宮沢構想」など支援に取り組んでいるが、経済界としてもアジアの重要性に鑑み、できる限り協力したい。経団連では、今年7月に意見書「アジア経済の活性化に向けて」を取りまとめたり、秋に二度のミッションをアジア主要国・地域に派遣する。

      2. 経団連意見書「APEC活動に対する期待と提言」でもうたっているが、金融危機に見舞われた国が取っている緊急措置はあくまで一時的なものであり、可及的速やかに自由化路線に回帰することを期待している。

      3. 市場至上主義への批判は理解できるが、規制強化は官僚主義のまん延にもつながりかねない。現地に進出している日本企業がマレーシアの経済発展に実質的に貢献できるシステムを創ってほしい。

    2. マハティール首相発言
    3. 経団連のサジェスチョンも参考にしながら経済回復に努めたい。アジアへの深い関心と協力に感謝する。


くりっぷ No.90 目次日本語のホームページ