経団連くりっぷ No.95 (1999年2月10日)

なびげーたー

企業会計・開示制度の変革と環境整備の必要性

常務理事 中村芳夫


企業会計・開示制度が国際的な水準に合致した方向へと変革されていく中、新基準が及ぼす影響への対応策や関連諸制度の整備を迅速に進める必要がある。

1999年度から証券取引法上の開示制度がこれまでの個別決算中心から連結決算中心へと転換されるのに続き、整備が遅れているといわれてきた会計基準についても、国際的な動向をも踏まえた見直しが進められ、税効果会計(2000年3月期)、退職給付会計(2002年3月期完全実施)、時価会計(2002年3月期完全実施)などの導入が予定されている。

経団連では一連の会計・開示基準の検討に当たり、企業会計審議会の場や経団連の委員会・部会活動を通じて産業界としての意見反映に努めて来た。とりわけ、有価証券に対する時価会計の導入と退職給付会計(年金会計)の導入に関しては、会計面のみならず、証券市場や企業経営のあり方にも大きな影響を及ぼすと考えられることから、98年5月に要望を取りまとめ、持合株式の受け皿整備や株主総会のあり方の見直しなどを求めた。

時価会計導入の流れも受け、株式持合の解消が加速化しており、98年8月、10月には、持合株式を交換し自己株式の消却を行なう制度の導入を求め、自民党を中心に積極的な働きかけを続けてきた。その結果、今年に入って、自民党において経団連案を軸に、株式持合解消への対応策の検討が開始された旨が伝えられている。

年金会計の導入については、現在、具体的な取扱いについての検討が公認会計士協会において進められており、実務の視点からの意見反映に努めている。また、新たな年金会計基準の導入により、数十兆にも及ぶ巨額の積立不足が顕在化するとの指摘がある。企業の評価にも大きく影響することが予想され、その対策として、確定拠出型年金制度を早期導入する、あるいは持合株式や自社株を用いて積立不足へ対応することが可能かどうかなど、あらゆる面からの検討を進めていく必要があろう。

企業活動や金融資本市場のグローバル化に伴って、市場のインフラとして企業会計・開示基準の国際的整合性を維持していくことは望ましい方向である。しかし、会計・開示基準は企業の経営成績や財政状態を写すツールであって、その背景にあるビジネスインフラが国際的に通用するものに変革されなければ、わが国企業の国際的競争力の強化にはつながらない。むしろ、わが国の企業経営を巡る制度上の弱点が国際的に露呈される結果につながりかねない。会計・開示基準の整備とともに、関連諸制度の迅速な整備が強く望まれる所以である。


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