経団連くりっぷ No.122 (2000年4月13日)

貿易投資委員会(委員長 槙原 稔氏)/3月9日

WTO新ラウンド交渉立ち上げに向けて日・米・EUが取組みを再開


貿易投資委員会では、外務省の野上義二外務審議官より、WTOの新ラウンド交渉立ち上げに向けた取組みを中心に、わが国対外経済政策の現状と課題についてきいた。併せて、提言「次期WTO交渉の課題〜サービス貿易自由化交渉を中心に〜」(案)の審議を行なった(提言概要は6ページ参照)。

野上外務審議官説明要旨

  1. WTOの新ラウンド交渉をめぐる動向
    1. シアトル閣僚会議の失敗を放置すれば、多国間の貿易体制に打撃を与えかねない。そこで、新ラウンド交渉の立ち上げに向けたステップを明確化していくことが目下の重要課題である。閣僚会議の失敗は、いわゆる「シビル・ソサエティ(市民社会)」による抗議行動や、途上国の反発などが原因だと報じられた。しかし、主要国である日・米・EU三極の間で合意がなされなかったことこそが最大の問題であった。
      新ラウンド交渉の実現に向けて「日・米・EU間」および「日・米・EUと途上国間」の信頼醸成が必要である。このうち、日本とEUは立場が近く、これまで共同歩調をとってきたが、日米間の絆が細くなっていることを深刻に受け止めている。

    2. 2月には、日・米、日・EU、米・EUの閣僚レベルでの会談が行なわれるなど、新ラウンド交渉立ち上げに向けた動きが始まっている。WTOの作業の舞台となるジュネーブも、こうした動きに注目している。
      今後、(1)日米が対立しているアンチダンピングの見直し、(2)日・EUと米国の間で意見の相違がある投資・競争等の新たな課題、(3)米・EU間で争点となっている農業輸出補助金などの問題について、まずは二国間協議を積み重ね、その後、日・米・EUないしカナダを加えた四極で議論を行なっていくことが必要となろう。実質的な内容の合意はラウンド交渉を通じてなされるものであり、今必要なのは、新ラウンド交渉立ち上げのために、各国の立場を予断しないような合意を見出すことである。これは、冷静な話し合いを通じて達成できるものと思う。

    3. 途上国との信頼醸成を実現するうえで、後発開発途上国産品への関税不賦課、技術支援などについては合意に至ることが可能であろう。
      他方、TRIPS(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)やTRIMs(貿易に関連する投資措置に関する協定)などの経過措置の延長問題は、ウルグアイ・ラウンド交渉の合意内容を、一部途上国が約束通り実施していないことが最大の問題である。行政能力があるにもかかわらず意図的に実施していない国もみられる。この問題は、日・米・EUと主要途上国が個々に話し合うことで答えを見出すことができよう。

    4. WTOの透明性の問題については、WTO内での意思決定と、WTOの対外的な透明性の2つに分けて考えるべきである。WTO内の意思決定については、主要途上国を含む主要国のいわゆる「グリーンルーム・プロセス」は維持しつつ、他の国々に対して十分交渉過程を説明することで、効率性と透明性を両立させることができる。但し、主要国間の合意が実現しなかったがゆえにこの問題が大きく顕在化したに過ぎない。他の問題をめぐる議論がうまく進めば、意思決定問題の重要性は相対的に下がるものと思われる。

    5. 米国では、現在WTOに対する逆風が強い。すなわち、議会において、ウルグアイ・ラウンド交渉の合意内容とその実施が米国の利益になったかどうかのレビューが行なわれるとともに、中国加盟に関連し、対中国恒久正常貿易関係(最恵国待遇の付与)の扱いをめぐる問題が提起されている。さらに、米国輸出企業がタックスヘイブンを利用し、課税の繰り延べを受けていることに対し、EUがWTOの紛争処理手続に持ち込み米国が敗訴した。米・EU合意ができない場合は、米国に対し、約25億ドルの対抗措置が認められることとなる。こうした議題で米国議会が加熱すると、政府もWTOに関連した動きがとりにくくなるであろう。

  2. 九州・沖縄サミットの課題
    1. サミットの意義は歴史的に変化してきた。70年代から80年代前半はマクロ経済調整の場であり、80年代後半には安全保障上の西側の結束の場であった。冷戦崩壊後は主要国のリーダーが世界に対してメッセージを出す場となった。

    2. 今後のサミットの課題は、グローバル化を巡る期待や不安に対するメッセージの発信である。また、サミット参加国以外の国々や国際機関との間で相互に情報をやりとりし、「インタラクティブな」サミットを目指している。

    3. 九州・沖縄サミットでは、グローバル化を加速させる情報技術(IT)を大きく取り上げる。中でも、いわゆる「デジタル・ディバイド」の問題は重要である。途上国と先進国の格差、一国内でも年齢、地域、所得による格差が広がっており、今後の経済格差をさらに助長する恐れがある。現に、各国の経済格差よりコンピュータの普及率の格差の方がより大きなものとなっている。

    4. 今回のサミットでは、新しい試みとして「文化の多様性」についても取り上げる。これまでは、保護主義につながりかねないとの理由からサミットでは扱われなかった。しかし、ITの発展に伴ない、そこで取引されるコンテンツの充実を目指す意味からも文化の多様性を議論していきたい。

  3. 自由貿易協定(FTA)への対応
    1. シンガポールとのFTAについては、両国間に設置されたスタディ・グループが秋までに結論を出すことになっている。FTAについてはさまざまな見方があるが、FTAは自由化を進めるためのものであり、センシティブ品目を全て除外したうえで、対象範囲が限られたものをFTAと呼ぶような、GATTに反する内容の協定を推進すべきではないと考える。

    2. また、シンガポールとのFTAでは、二国間の関税撤廃にとどまらず、サービスの自由化、投資協定、MRA(相互承認協定)などの付加価値をつけていく必要があろう。


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