経団連くりっぷ No.134 (2000年10月26日)

経済法規委員会(共同委員長 千速 晃氏)/10月13日

公開会社における株主総会と取締役の権限のあり方

−京都大学 森本教授よりきく


経団連経済法規委員会は、『商法改正への提言』を取りまとめた(8ページ参照)
これに先立ち、同委員会では法制審議会商法部会において会社法制の抜本改革に向けた具体的な課題の整理、検討に当たっている京都大学大学院法学研究科の森本滋教授を招き、「公開会社における株主総会と取締役の権限のあり方」について説明をきくとともに意見交換を行なった。

  1. 森本教授説明要旨
    1. 会社法の抜本改正にあたって
    2. 法制審議会商法部会は再来年の通常国会を目途に会社法の抜本改正を進めている。50年ぶりの改正といわれているが、1975(昭和50)年に掲げた検討事項の積み残しの整理という側面もある。本格的な大改正とするには、最近の経営機構改革やIT技術の進展などを踏まえた上で、企業結合法の整備や資本制度の見直し、株式会社法の強行法規性の見直しなどに正面から取り組む必要がある。このためには実質1年という審議期間はあまりに短いと考えるが、ともかく、株主総会と取締役会のあり方を論じたい。

    3. 株主総会のあり方
    4. 1950(昭和25)年の改正で、株主総会は万能の機関ではなくなり、経営事項の決定権限は原則として取締役(重要な経営事項は取締役会)に委譲された。
      株主総会に残された法定決議事項は

      1. 会社の基礎に根本的な変動を生じさせる事項(定款変更、合併、株式交換・株式移転、会社分割、営業譲渡、解散等)、
      2. 取締役、監査役、会計監査人の選任・解任、
      3. 利益処分等、
      4. 取締役の権限濫用の危険のある事項(取締役・監査役の報酬等)、
      の4つに分類することができる。いずれも、「会社の所有者は株主であり、株主が所有物の使用・収益・処分の権能を有する」という「株主オーナー論」に基づいて株主総会の決裁事項とされているものである。しかし効率的な経営を推進するという観点から、株主総会決議事項を見直し、取締役会に権限の一部を委譲することには合理性があるように思われる。

    5. 利益処分の確定
    6. 利益処分は高度の経営判断に属する事項であり、特に公開会社においては、その決定を取締役会に委ねることが妥当といえる。ただし、利益処分が株主の利害に大きな影響を与えることから、取締役会に権限を委譲する場合は、取締役は株主に対して、過去3年間の業績と配当の変化、今後の配当政策の見通し等について詳細に説明することが求められる。
      さらに、米国の定時株主総会においては、取締役の配当政策ないし配当実績によって取締役を評価するために、毎年取締役を選任することが求められている。わが国でも、定時総会の機能について、取締役選任のあり方を併せて検討する必要がある。
      また利益処分権限の委譲に伴い、自己株式の消却の決定権限を取締役会に委譲する余地も生ずるが、株主平等原則、買取価格の公正確保などに配慮した、開示の一層の充実が求められる。

    7. 取締役の報酬
    8. 報酬規制の目的として、従来、お手盛り防止が重視されてきたが、今後は、より積極的に、効率的な経営を実現するうえで、個々の取締役の業績に応じて報酬を決定することが必要となる。しかし、株主総会でこれを実現することは困難であり、取締役会に委ねることも検討されるべきである。その場合、例えば、欧米で行なわれているように、報酬委員会や社外取締役などによる決定手続を経ることで公正さを示し、株主総会においては、報酬決定の基本方針を確定するにとどめるべきである。また主要な取締役に対する個別開示を含む詳細な事後的開示で報酬政策の妥当性を確認する必要がある。
      継続的に与えられるストック・オプションは、報酬として位置付けるべきである。この関係で、付与対象者全員の氏名を総会の決議事項から外すことは合理的であるが、少なくとも、主要取締役については、トータルな報酬実績にかかる事後的開示が必要である。純粋持株会社が増えれば、子会社や関連会社の役職員に親会社株式を付与することも検討する必要がある。この場合、連結開示の整備が併せて求められる。

    9. 営業譲渡等
    10. 商法が、営業の重要な一部の譲渡について特別決議と反対株主の株式買い取り請求権を求めている理由は、かつての定款所定の目的の厳格な運用にあるように思われる。現在、「重要な一部」を判断する上で、総資産の10%が基準となっているが、これは決定的なものではなく、解釈により25%程度まで引き上げることが可能である。
      事後設立や簡易な営業の譲受けの5%基準も立法論として緩和を検討する余地がある。

    11. 取締役会の決議事項の見直し
    12. 取締役会の決議事項の見直しは、執行役員制度や社外取締役制度の導入に併せて議論が進められるべきであるが、現在、まだ試行錯誤を重ねている段階であり、当面、解釈として商法260条2項の「重要ナル業務執行」の概念の弾力化を図っていくことが合理的である。さらに、大枠を取締役会で決定し、細部の決定は代表取締役に委ねる等、弾力的な運用も積極的になされるべきであり、これは新株発行等の場合にも同様である。

  2. 意見交換(要旨)
  3. 経団連側:
    取締役の機能を業務執行と監督機能に分化させる企業も出てきた。これらをどうルール化すべきか。

    森本教授:
    取締役の権限と責任を整理しつつ、必要ならば、立法論として経営機構のあり方を変えていくべきと考える。
    まず当面は、商法260条2項で列挙された取締役会の決議事項の解釈を弾力化することが求められよう。なお、266条の会社に対する責任、とりわけ、無過失責任規定と共同行為者みなし規定を改正する必要もある。

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