経団連くりっぷ No.149 (2001年6月14日)

社会保障制度委員会(共同委員長 福原義春氏、福澤 武氏)/5月21日

レトリックを排し、真の医療制度改革議論を

−学習院大学経済学部 南部教授よりきく


社会保障制度委員会では、学習院大学経済学部の南部鶴彦教授より、2002年度に予定されている医療制度抜本改革に向けての課題について説明をきいた。併せて、5月16日に公表した経団連・日経連共同提言「高齢者医療制度改革に関する基本的考え方」14頁参照)について、取りまとめの経緯と提言の概要について説明した。

○ 南部教授説明要旨

  1. レトリックの弊害
  2. 医療制度改革を議論する際に問題なのは、医療に特有のレトリックによって、適切な資源配分が歪められることである。レトリックを排し、医療の正論が本当に正論かどうかを吟味する必要がある。

  3. 国民皆保険制度の限界
  4. 1961年に成立した国民皆保険制度は若年経済のシステムを前提にしていた。若年者の医療需要は比較的単純かつ均質的であったため、国民全員を一つの保険にまとめることで、範囲の経済、規模の経済が働き、結果としてコストを抑制できた。
    一方、老年者は疾病リスクが高く、同時に複数の疾病にかかりやすい。人口の高齢化に対応するため、今後、老年経済の需要と若年経済の需要を区別して支出を行った方が、トータルとしての資源配分を効率化できる。

  5. GDPに対する医療費支出費比を抑制することの妥当性
  6. 老年経済の需要が増える分だけ、若年経済の需要は減る点、医療サービスは乗数効果が大きく経済成長に貢献する点に鑑みると、GDPに対する医療費支出を抑制する意義は認められない。

  7. 高齢者医療に対する公費負担のあり方
  8. 高齢者医療を保険料(目的税)方式から一般税方式に移行させる場合、分配上の公平性の観点からの検討が必要である。
    第1に、支払者のwillingness to payと支払とが一致しているのかどうか検証する必要がある。高齢者に良い医療を提供することが本当に国民の意思なのかを問い直すべきである。
    第2に、高齢者への公費負担によって、家族が利益を受けることには反対である。経済的な負担能力のある家族であれば、本来自ら高齢者を養うべきだと考える。
    第3に、長寿は本当に素晴らしいことなのか検討し直す必要がある。高齢者であっても自立・自助で生きることが高齢社会の前提ではないか。
    第4に、これからの公費負担はミニマムではなく、マキシマム原則で考える必要がある。ミニマムというのは、給付水準が低かった時代の考え方であり、今後は、マキシマム以上のものは自助努力で賄うべきという考え方に転換すべきである。


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