経営タイムス No.2673 (2003年4月24日)
日本経団連は22日、「産業力強化の課題と展望〜2010年におけるわが国産業社会〜」と題する意見書を発表した。同意見書は1月に発表された日本経団連ビジョン(『活力と魅力溢れる日本をめざして』)を受け、2010年におけるわが国の産業社会のあり方を展望するもの。わが国産業が直面する収益力低下を民間主導で克服することを「産業力強化」と位置づけ、民間が取り組むべき課題を示すとともに、環境整備面で必要となる官の役割にも触れている。同意見書の概要は次のとおり。
近年、中国をはじめとするアジア諸国の台頭によって、国際分業構造が変化している。これまでわが国が優位であった分野でも諸外国の占めるシェアが高まる状態を放置し続ければ、当面の貿易収支などが悪化するだけでなく、中期的には、これまで築いてきた産業集積や知識技術ストックが散逸する惧れがある。
また、東アジア地域における経済連携・経済統合の気運が高まっていることから、「東アジア経済圏」の形成に向け、アジア全体のGDPの約6割を占めるわが国が強力な経済力を維持し、リーダーシップを発揮していくことが必要となる。
加えて、日本の雇用の空洞化が進展しており、製造業においては、産業力を強化し、国内の生産拠点を確保する一方、中期的に良質な雇用機会を確保していくため、新たなサービス業の出現・拡大が課題となる。
産業力強化の主な目的は以上の中期的課題であるが、資産デフレ、少子・高齢化といった短期及び長期的な課題に対応する上でも、産業力強化の意義は大きい。
わが国経済社会の長期的な趨勢としては、次の2点が挙げられる。
2010年までの間に特に注目すべき経済社会の情勢変化は、
産業力の主体は民間である。企業による主体的な取り組みがミクロ面での収益力回復に向けた鍵であるとともに、マクロ的な産業構造高度化の原動力となる。このような民間主導による産業力強化のダイナミズムは、経済主体の多様性によって支えられる。組織法制・税制、社会保障制度などの制度基盤も、多様な経済主体に対応していく必要がある。
また、アジアにおける新たな国際分業構造の形成が進む中にあって、わが国が主導的役割を果たすためには、各国間の技術開発先行競争において、海外からのキャッチアップの動きに一歩先んじるとともに、その事業化を迅速に進める必要がある。
今後は、多くの既存業種において経営の効率性が低下していることを踏まえ、各企業における「選択と集中」のさらなる徹底による経営改革、共同事業再編計画制度を活用した、個別企業の枠組みを超えた事業再構築の進展が期待される。
今後の産業構造を展望するための参考として、2010年における産業の姿を、予想される需要や貿易構造の変化、生産技術の進歩を考慮する産業関連分析によって次のように予測した。