日本経団連タイムス No.2785 (2005年9月29日)

経済政策委員会企画部会を開催

−「日本的経営の再評価」/伊丹・一橋大学教授から聴取


日本経団連の経済政策委員会企画部会(築舘勝利部会長)は20日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、一橋大学大学院商学研究科の伊丹敬之教授から、日本的経営の再評価をテーマとする講演を聴いた。

冒頭、伊丹教授は、「バブル崩壊とその後の景気低迷により、わが国は、あまりにも内向きになってしまった。その典型例が『失われた十年論』である。確かに、巨額のキャピタルロスや金融システムの不安定化など失われたものもあるが、その一方で、国民の豊かさ、産業基盤や技術蓄積、人本主義的な経営の考え方は失われなかった」と述べた。
伊丹教授は「人本主義」について、「人のネットワークを安定的に作ることを極めて大切な基本原理とし、さまざまな経済組織を作るという、日本企業の経営の基本となるべき考え方」であると説明。これによって日本企業は、大衆を草の根で経済活動に巻き込む経営を行うことができたと述べた。

一方、最近の日本企業については、「『グローバルスタンダード』という名のアメリカンスタンダードを持ち出す必要は全くない。それよりも、(1)力のある人に大切な仕事を任せる (2)決断は早く、果敢に (3)若い人のエネルギーを存分に発揮させる (4)衰えゆく産業からは早く雇用を移す――といった『当たり前スタンダード』を守ることが重要である」と指摘した。
また、1990年代に株式市場のパフォーマンスが低迷する中、株主への利益分配を求める声が強まったことについては、「これは『過度の株主軽視への反省』を迫られたのであり、『株主主権』を求められたわけではない。日米の労働分配率を比較すればわかるように、日本企業の従業員重視が行き過ぎていたことは否めず、2000年頃から多くの企業がリストラや人件費抑制に動き始めたのは当然の流れである。これをもって日本的経営の崩壊とは言えない」とした。
さらに、資本主義の歴史を振り返った上で、「90年代、日本企業の現場では、英米における市場主義への回帰への抵抗として、人本主義的な経営の考え方が守られた。これは、後世、世界史的に意義ある抵抗と評価される可能性もある」と述べた。

最後に、伊丹教授は、一橋大学の日本企業研究センターによる、日米企業の利益率比較の概要を紹介した。日米の上位企業同士を比較すると、ほとんどの業種で米国企業の利益率が日本企業を上回るものの、下位企業の比較では、逆に日本企業の利益率が圧倒的に高い。この結果をふまえ、「日本的経営を再評価する際には、それが下位企業の業績に与えた影響や、社会全体に対する貢献についても考慮する必要がある」と強調した。

◇ ◇ ◇

経済政策委員会では、過去2年間、製造業と非製造業における企業戦略のあり方を検討し、報告書『これからの企業戦略―守りの経営再構築から攻めの経営再構築へ―』および『グローバル化が進む非製造業の新たな展開』05年4月28日号既報)を取りまとめた。これに引き続き、今年度は「企業価値の最大化に向けた経営戦略」のあり方について検討している。

【経済本部経済政策担当】
Copyright © Nippon Keidanren