日本経団連タイムス No.2990 (2010年3月25日)

豊かなアジア構築へ2つの提言公表

−広域インフラの整備と金融協力の推進求める


日本経団連は16日、2つの提言「豊かなアジアを築く広域インフラ整備の推進を求める」「豊かなアジアを築く金融協力の推進を求める」を公表し、即日、関係各方面に建議した。アジアの成長を柱の一つとする政府の新成長戦略への経済界の意見の反映と3月15日のアジア・ビジネス・サミット(別掲記事)での論点形成を目的としたものである。各提言の主な内容は次のとおり。

広域インフラ提言

提言は、域内経済統合と広域インフラ整備の進め方、配慮すべき諸点を示し、わが国政府やアジア総合開発計画を策定する東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)、アジア開発銀行(ADB)、ASEAN事務局などにその実現を求めている。

(1)地域経済統合の推進

わが国ならびに関係各国政府は、外に開かれたアジア・太平洋地域規模の自由貿易圏構想、ならびに経済連携協定のネットワークを欠く北東アジアでの協定締結を推進することが必要である。

(2)アジア総合開発計画での重点プロジェクト

ERIA、ADB、ASEAN事務局が計画策定に際して、重点を置くべき地域・プロジェクト、セクターを列挙した。対象となるプロジェクトは、デリー・ムンバイ産業大動脈、インドネシア経済回廊などさまざまであり、計画策定にあたって相互の連結性や整合性を図ることが重要である。

(3)ODA等のあり方

広域インフラ整備を進めるうえで、わが国政府があらゆる開発スキームを動員すること、同時に、わが国の国際協力分野のビジネス・モデルが変容していることから、これを支えるわが国ODA等を抜本的に見直すことを求めている。具体的には、1997年以降のわが国ODA一般会計予算(当初)減少の歯止め、無償資金協力の拡充、国際協力機構(JICA)の海外投融資の再開、技術協力の柔軟な実施、国際協力銀行(JBIC)の機能拡充などが必要である。

(4)官民連携の推進

開発効果を高めるために官民連携(PPP)の効率的な推進とそのための制度・環境整備が必要である。そこで、PPPを受け入れるための相手国の法制度整備や人材育成等への協力、1社だけが関与する案件支援の容認、対象案件の事業性を高めるためのODA投入スキームの構築を求めている。

(5)海外大規模プロジェクトでのトップ外交の推進

わが国の優れた技術を海外の大規模インフラ整備に活用してもらうため、各国トップ外交による受注合戦にわが国も積極的に対応していく必要がある。また、鉄道、発電、上下水道等のプロジェクト推進にあたっては、設備・機材供与と一緒に事業運営ノウハウをパッケージとして提供することが効果的であることから、官民が一体となってオールジャパン体制を構築することを求めている。

金融協力提言

提言は、域内の事業活動活性化に貢献する現地通貨建ての長期資金調達の円滑化と、2020年までの11年間に約8兆ドル(ADB試算)を要するといわれる広域インフラ整備財源の確保のため、債券・株式市場の整備と通貨の安定について、わが国を含む関係各国および市場関係者に、当面および中長期の課題への取り組みを示し、その実現を求めている。

(1)債券・株式市場の整備

アジア各国の債券・株式市場の発展段階はさまざまであることから、2020年を目途に、各国の市場整備の方策を提案している。第一に、決済機関、信用保証機関などの市場インフラの整備、資本取引規制の緩和、税制インセンティブの導入が必要である。そのために必要な相手国の人材育成について、わが国政府が市場関係者と一体となって協力することを求めている。
次に債券・株式市場のアクターである発行体、機関投資家、仲介機能の育成が必要である。発行体の拡大では、各国の信用保証機能の整備を求めている。また、市場整備の推進力として機関投資家が重要であり、わが国政府が市場関係者と連携して育成に取り組むことを提案している。他方で、各国市場と並んで東京市場の一層の魅力向上のため、わが国政府と市場関係者がサムライ債の発行拡大のための手続き円滑化等を進めることを求めている。

(2)中長期的課題

中長期的には、東アジア経済共同体を視野に入れ、クロスボーダー取引が可能な多様な機能を備えたバランスある域内債券市場を実現するため、制度間の調和等を求めている。
具体的には、債券取引関連法制、会計制度を含むディスクロージャー制度、信用保証機能、域内決済システム、域内の格付け機能の連携等が必要である。これを進めるうえで、わが国が関係国際機関と連携してイニシアティブを発揮することを求めている。

(3)通貨の安定

域内貿易・投資活性化と債券市場の育成にとって域内通貨の安定が前提であり、ドルを基軸通貨とする体制を前提として、昨年マルチ化やファンドの規模拡大が実現したチェンマイ・イニシアティブの一層の充実を求めている。

【国際協力本部】
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