日本経団連タイムス No.3002 (2010年6月24日)

第104回日本経団連労働法フォーラム(1日目)

−総合テーマ「複雑化する労働法制への対応策」


日本経団連・日本経団連事業サービス主催、経営法曹会議協賛による「第104回日本経団連労働法フォーラム」が10、11日の両日、都内のホテルで開催され(前号既報)、(1)労働者派遣制度見直しが実務に与える影響(2)労働時間管理のあり方と労務管理に関する裁判例の最新動向――について検討を行った。今号は1日目の報告概要を掲載する。

報告1 弁護士・今津幸子氏「労働者派遣制度の見直しが実務に与える影響」

1日目は、今津幸子弁護士が「労働者派遣制度の見直しが実務に与える影響」と題し、第174回通常国会に提出され、現在は継続審議扱いとなっている改正労働者派遣法案の概要と、実務上の対応について報告した。今回の改正労働者派遣法案の概要は、(1)事業規制の強化(2))派遣労働者の待遇改善・情報公開等(3)派遣労働者の無期雇用化のための措置(4)違法派遣に対する迅速・的確な対処(5)その他――の5つに分類されるとして、特に法改正により企業に影響を及ぼすおそれのある事業規制の強化と、違法派遣に対する迅速・的確な対処について詳細な報告があった。

■ 事業規制の強化

(1)登録型派遣の禁止

登録型派遣のうち「常時雇用する労働者でない者」の派遣を禁止するものである。
常時雇用する労働者の定義は法的には定められていないが、「労働者派遣事業関係業務取扱要領」によれば、(1)期間の定めなく雇用されている者(2)雇用契約が反復継続されて、事実上(1)と同等と認められる者。すなわち、過去1年を超える期間について引き続き雇用されている者、または、採用の時から1年を超えて引き続き雇用されると見込まれる者とされている。

(2)製造業務派遣の原則禁止

登録型派遣の禁止と同様に、常時雇用する労働者であれば製造業への派遣は引き続き可能である。
登録型派遣、製造業務派遣の原則禁止への実務上の対応としては、請負や直接雇用への切り替えを検討することであるが、請負に切り替えた場合は、偽装請負とならないよう留意が必要である。

(3)日雇派遣の原則禁止

日雇派遣の定義は、日々または2カ月以内の期間を定めて雇用する労働者の派遣となっているが、これは派遣元での雇用期間の問題であり、派遣先への派遣期間の問題ではない。
スポット派遣への実務上の対応としては、2カ月を上回る期間を定めて雇用契約を締結した労働者による日々派遣などが挙げられる。

(4)グループ企業内派遣の8割規制

派遣元による派遣就業に係る総労働時間(1事業年度)における関係派遣先への派遣就業に係る総労働時間(1事業年度)の割合を80%以下に抑える規制であり、関係派遣先とは連結子会社を念頭に置いている。実務上の対応としては、連結から外すことや直接雇用への切り替えなどが挙げられる。

(5)離職した労働者を離職後1年以内に派遣労働者として受け入れることの禁止

本規定はグループ企業内派遣か否かにかかわらず適用される。実務上の対応としては、派遣元では当該労働者の過去1年間の職歴を確認することであり、派遣先では派遣労働者の氏名の通知を受けた時点で速やかに過去1年間に自社で雇用していたか否かの確認を行うことである。

■ 違法派遣に対する迅速・的確な対処

派遣先が改正法案第40条の6第1項および登録型派遣の禁止に違反し、違法派遣を行った場合、派遣先は派遣労働者に対し、違法派遣時点の当該労働者に係る労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約を申し込んだものとみなされる。ただし、派遣先が違法派遣に該当することを知らず、かつ知らなかったことについて過失がなかった場合を除くとしている。

違法派遣時点の当該労働者に係る労働条件とは、派遣元での労働条件を指し、労働条件に含まれるものとしては、賃金、手当、労働時間、雇用期間、休暇等々が挙げられる。派遣先の労働条件が派遣元の労働条件を上回っている場合には、労働契約法第12条により派遣先の労働条件を適用することとなる。

また、直接雇用後の雇用契約期間については、法律上の規定がないことから、派遣元での雇用期間が有期であれば当該雇用期間となる。この場合、当該期間の期間満了をもって雇い止めをすることは可能であると解される。

なお、派遣先は違法派遣行為が終了した日から1年間は申込みみなしとされた労働契約を撤回することはできないとされている。実務上の対応としては、合理的な期間を定めて労働契約の申し込みに対する諾否の意思表示を行うよう、積極的に催告することが賢明である。

【労働法制本部】
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