日本経団連タイムス No.3022 (2010年11月25日)

生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)
〜企業活動との関連からみた成果と課題(中)

−「名古屋議定書」の概要と課題


生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)
〜企業活動との関連からみた成果と課題〜
  1. 上.新戦略計画「愛知ターゲット」を採択
    • 生物多様性条約
    • 新戦略計画(愛知ターゲット)について
    • 戦略計画・20の個別目標(要約)
  2. 中.「名古屋議定書」の概要と課題
    • 議論の経緯
    • 主要な論点と日本経団連の主張
    • 評価と課題
  3. 下.資金動員戦略とビジネスの参画
    • 資金動員戦略
    • ビジネスの参画・関与

■ 議論の経緯

COP10においては、ABS(Access and Benefit Sharing)が大きな焦点とされた。ABSは、遺伝資源の利用から生じる利益の公正かつ衡平な利益配分によって生物多様性の保全を図るとの考え方から、生物多様性条約の目的の一つに掲げられ、COP10までに国際的な枠組み策定の交渉を完了することを2002年のCOP8においてうたっていた。しかし、交渉開始以来、複数の大きな論点をめぐり、遺伝資源提供国(主に途上国)と利用国(主に先進国)との間に深い対立が続いた。こうした対立の構図は最終局面まで変わらず、議定書成立は不可能とも思われたが、最終日にわが国から提示した議長案によって妥結し、「名古屋議定書」(以下「議定書」)として採択されるに至った。

■ 主要な論点と日本経団連の主張

ABSについては、定められる枠組み次第では、イノベーションの停滞や産業の縮小、あるいは国民負担の増大等、さまざまなマイナスの影響を及ぼしかねないことから、経団連では2010年3月7月に提言を取りまとめ、政府関係者ならびに国際社会に対し、基本的考え方や具体的懸念を表明した。
ABSをめぐる主要な論点に関する経団連の主張と議定書における結論は、次のとおり。

(1)遡及適用

生物多様性条約発効後のみならず発効以前に取得された遺伝資源についても、利用国側が提供国側に利益配分すべきという「遡及適用」の問題がひとつの大きな論点であった。経団連では、遡及適用の論理的必然性への疑問のみならず、合理的制度設計の困難さや、仮に遡及適用された場合の価格上昇等の経済への悪影響等に鑑み、盛り込むべきではないと主張した。
採択された議定書においては、遡及適用の規定は盛り込まれなかった。

(2)利益配分の対象(派生物等への拡大)

生物多様性条約において利益配分の対象を「遺伝資源」と規定されているところを、議定書において「派生物」(遺伝資源をもとに研究開発を行った成果である遺伝子情報など)等に拡大すべきという議論も大きな論点であった。経団連では、これらの字義が明確でなく、利益配分の対象範囲が際限なく拡大解釈される懸念があることから、拡大すべきでないと主張した。
採択された議定書においては、利益配分の対象は、当事者間の契約に委ねることとなった。論理的には、契約の内容によっては「派生物」も対象になり得るが、一方で、遺伝資源のアクセスに関する監視機関(チェックポイント)による審査の対象外とされた。

(3)監視機関(チェックポイント)

遺伝資源が適正に利用されているかを監視する機関を設定すべきであり、提供国側の法制が利用国側の法制に優越できるとの議論もなされ、論点となった。経団連では、各国の主権の尊重の立場や公平かつ公正なルール構築の観点から、監視機関(チェックポイント)の設置については、各国の判断に委ねるべきと主張した。
採択された議定書においては、利用国は遺伝資源の適切な利用を監視するための機関を国内で指定することとなり、各国はこれを担保するための国内法を定めることとされた。

■ 評価と課題

今般採択された議定書においては、経団連の考え方が概ね反映されたものと評価できる。ただし、遺伝資源へのアクセス基準やチェックポイントに関しては、今後、各国の国内法が整備されることとなるため、その内容により研究開発をはじめとする企業活動に支障が生じないよう見守っていく必要がある。また、議定書において、提供者と利用者間の契約を尊重することが基本とされたことは評価される一方、契約に委ねることにしたことが、実務面でどのような影響を及ぼすのかという点について、引き続き注視すべきであると考えられる。

【産業技術本部、自然保護協議会】
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