[経団連] [意見書] [目次]

「需要と供給の新しい好循環の実現に向けた提言」
−21世紀型リーディング産業・分野の創出−

【 各 論 】
第3章 ネットワークの高度利用による付加価値の創造


[基本的な考え方]

  1. 情報通信ネットワーク高度利用の必要性
  2. わが国経済が90年代の「失われた10年」ともいえる長期低迷から脱却し、21世紀において需要創出を通じた持続的経済成長を実現し、豊かな経済社会を構築するためには、情報通信産業(IT産業)だけでなく情報通信ネットワークを活用する全ての産業(IT活用産業)が、「ものづくり」等の従来からのわが国の「強み」を基盤として、企業活動や国民生活のインフラとしての情報通信ネットワーク(ITネットワーク)の高度利用による付加価値の創造を進めて、産業競争力を強化していかなければならない。
    ITネットワークは、既に企業のサプライチェーン効率化の「手段」となっている。即ち、IT活用産業は、サプライチェーンにおける情報伝達のインフラとして、ITネットワークを活用することにより、

    1. 製品開発期間の短縮、
    2. 素材・部品調達の受発注効率化、
    3. 生産方式の高度化、
    4. 在庫の削減、
    5. 流通・物流の合理化、
    6. 情報共有による市場リスクやニーズへの早期対応、
    といった生産性向上のための課題(BPR:ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)に取り組んでいる。
    現状では、IT活用産業のネットワーク活用によるサプライチェーン効率化は、既存のサプライチェーンにおける専用線ネットワークを高度化すること、例えば、受発注におけるEDI 52の活用、製造・流通におけるCALS 53の活用や設計におけるCAD/CAMシステムのネットワーク化等が中心である。今後は、インターネット技術の発展に伴いオープンかつ安価なITネットワークが構築できるため、電子商取引による新たな販売チャンネル構築、素材・部品の引合先・発注先のオープン化、物流のカーゴ・トレース等、新たなサプライチェーン構築の「手段」としての活用が拡大していこう。
    ITネットワークは、経済主体間の円滑かつ迅速な情報共有を可能にし、情報格差を縮小することにより、売り手から買い手への財・サービスの流れに加え、買い手から売り手への情報の流れを拡大する。経済が成熟化し消費者の価値観が多様化していくなかで、「もの」の価値が相対的に縮小し「サービス・コンテンツ」の価値が相対的に拡大する「経済のサービス化」が進展しているが、既存の製造業を含め全ての企業は、ITネットワークの高度利用を通じて、消費者のニーズを木目細かく捕捉し製品差別化を図ることができる。さらには、消費者が「もの」を所有することの価値に加え、「もの」を利用することの価値を重視する傾向にあることに着目したビジネスモデルを構築し、新たなサービス、ソリューションを提供していく形で製品の付加価値を高めていくことができる。また、企業間の情報共有の進展は、業務プロセスのアウトソーシングや戦略的業務提携を拡大し、企業のコアビジネスへの選択と集中を容易化することを通じて、財・サービス提供の高付加価値化を促進する。
    ITネットワークは、経済社会の基盤としての役割を強めている。わが国のインターネット人口は、99年12月末にはインターネット接続が可能な携帯電話加入者等を加え、約22百万人に達しているものと見込まれ、ITネットワークを通じた経済主体間の情報交流の範囲(リーチ)と豊富さ(リッチネス)が急速に拡大することにより、生活関連情報の迅速かつ多様な収集や財・サービス購入の選択肢の拡大が期待されている。さらには、医療、介護サービスの高度化や、電子政府化の推進による公共サービス全般の質的向上の「手段」としても、ITネットワークは活用できる。
    企業の情報通信技術・ネットワーク活用の拡大により、短期的には雇用のミスマッチが顕在化する恐れがあるものの、企業・政府が各々主体的に情報リテラシー強化に取り組むとともに、両者が一丸となって人事・雇用改革を実現すれば、中長期的には企業のITネットワークを活用した新たな付加価値の創造や事業展開は、知識集約型の良質な雇用創出の源泉となる。ピーター・ドラッカーは、「知識は、労働、資本といった従来の生産要素に変り、今日では唯一意味のある資源である。」 54と述べているが、ITネットワークを通じた経済主体間の知識の交換と蓄積の拡大は、労働の質を大きく向上しようとしている。また、ITネットワークは、在宅勤務やフレックス・タイム等の雇用形態の多様化の「手段」としても活用し得る。

  3. 米国における情報通信革命がわが国に示唆すること
    1. 情報通信革命の経済成長への貢献
    2. 米国では、情報通信技術の急速な普及と電子商取引の拡大を両輪とする「情報通信革命(IT革命)」の進展が、産業活動の効率化や国民生活の質的な向上に寄与するだけではなく、新たな財・サービスの市場を生み出そうとしている。米国連邦準備委員会のA.グリーンスパン議長は、議会証言の中で「我々がITと呼んでいる最新の技術革新は、事業のやり方を変え、新たな価値を創り出し、5年前には思いも寄らなかった様な姿をもたらす。」と述べているが、例えば電子商取引の市場規模の予測は、毎年のように上方修正されている。米国商務省は、98年の報告書の中で企業間の電子商取引の規模が2002年までに3000億ドルに達するとしていたが、99年6月の続編 55では、2003年までに1兆3000億ドルに達するとの調査機関の予測を紹介している。90年代の米国経済復活とIT革命進展の過程を振り返ると、90年代前半には、企業のIT投資による合理化、省力化、労働代替が進み、IT投資が内需を牽引する一方、「雇用なき景気回復」となったが、90年代後半には、IT投資による生産性回復が顕現化するとともにITを活用した新事業の勃興、付加価値の向上が本格化して雇用回復が進んだ。しかしながら、雇用者のIT化への対応能力の格差による、雇用機会や所得の格差(デジタル・デバイド)の解消が政策上の重要課題となっている。
      米国においてIT産業は、90年代を通じてのインフレなき経済成長持続に大きく貢献した。実質経済成長にしめるIT産業の寄与度は、1993〜1998年の期間で平均約30%である。また、IT財・サービスの価格は1996〜97年(詳細データが利用可能)に年間7%低下している。さらには、1996年には、IT産業の雇用者数は約5百万人ながら、IT活用産業の雇用者数は約41百万人に達しており、米国商務省は、2006年にはIT産業及びIT活用産業の雇用者数は、合わせて約57百万人と全雇用者数の過半に達すると予測している。

    3. 情報通信革命がわが国に示唆すること
    4. わが国のITネットワークは、企業及び個人へのインターネット普及率、パソコン普及率や電子商取引の市場規模 56等で比較すれば、米国に対し3〜4年の遅れはあるものの、着実に発展している。日米の産業構造や消費行動の相違、例えば素材産業から組立加工産業にいたる統合度の高いサプライチェーンの存在から企業間のネットワークが専用線主体の発展となっていることや製品の品質や手触り感を重視する消費者行動等から、米国のIT革命がそのままわが国で進展するとは考えにくい。しかしながら、米国では、IT活用産業の生産性が向上に向かっていること、また、政府が教育改革や行政改革をはじめ明確なビジョンを以ってIT革命を牽引したこと等、わが国に示唆することは少なくない。
      米国産業は、IT活用による生産性の向上を果たしつつある。米国商務省が、1999年6月に発表した報告書によれば、1990〜97年の期間、IT産業の労働生産性は年平均10.4%の上昇、IT財を利用する産業の労働生産性は年平均2.4%の上昇を達成し、ITをあまり利用しない産業の労働生産性である年平均1.1%を上回っている。この結果、全民間非農業部門の労働生産性は年平均1.4%の上昇となっており、わが国の同期間の労働生産性の上昇である年平均1.0%を上回っている。設備投資に占めるIT投資の割合は、わが国の約25%に対し米国では約40%となっており、IT投資拡大による生産性上昇が、90年代における米国産業の競争力回復の一因となったことが窺われる。
      米国政府は、高度情報通信ネットワークの基盤整備に関して政策の原則及び目標を明確に示すとともに、政府自身を巨大な情報サービス産業と位置付け、行政サービスの効率化・高度化の手段としてITを活用することを通じて、社会全体にIT革命を波及させていった。クリントン政権は、その選挙公約であった「情報スーパーハイウェイ構想」に関する政府の実施計画を1993年9月「全米情報基盤:行動アジェンダ」(NII:National Information Infrastructure: Agenda for Action)として発表した。NIIは、高度情報通信ネットワークの基盤整備という経済産業政策の側面と、行政効率化、行政サービス高度化及び情報公開の手段として、IT活用を推進する政策の側面を持つものであった。
      米国政府は、IT分野に関する研究開発で米国がリーダーシップを握ることが経済成長と安全保障の命運を分けるとの認識の下、継続的に研究開発計画を実施している。大統領情報技術諮問委員会の長期的基礎研究増強に関する提言を受け策定されたIT2計画(Information Technology for the 21st Century 1999年)は、政府のIT分野の研究開発計画を集大成したものであり、省庁横断的かつ複数年度に跨る計画となっている。
      単年度の予算をみても、米国政府は、2001年度の政府予算教書の中でIT分野の研究開発予算として、22億6800万ドル(前年度比36%増)を計上している。

  4. ネットワークの高度利用による産業の付加価値創造
  5. IT革命の進展は、米国におけるマクロ経済成長のエンジンとなっただけではなく、企業のビジネスモデル変革の契機となった。当初は、電子商取引等を活用して急成長する新興企業が変革の担い手であったが、最近では、既存企業のITネットワーク活用による

    1. サプライチェーンの効率化、
    2. 調達・販売プロセスの合理化、
    3. 新規ビジネスの創造、
    といったビジネスモデル変革が本格化している。即ち、ITネットワークは、立地、要員規模、資産規模等の市場参入障壁の低下をもたらすことにより新興企業を勃興させたが、今や全ての産業にとってサプライチェーン効率化の手段となっているだけでなく、新たな付加価値創造の手段となっている。即ち、ITネットワークは、売り手から買い手への製品・サービスの流れを効率化することに加え、買い手から売り手への情報の流れの補足を容易化し、情報の流れに着目した新たな仲介ビジネス、ソリューション・ビジネスの登場により、商品の付加価値向上、新たなサービス市場の創出や戦略的な企業提携の有力な手段となっている。

    1. サプライチェーンの効率化
    2. わが国企業は、開発・設計、調達、生産、物流、販売といったサプライチェーンの各段階におけるIT活用による効率化を競争力の源泉としてきた。ITは、組立加工メーカーと部品メーカーの製造工程同期化による在庫削減、素材メーカーの製造プロセス制御による歩留率向上、小売業における商品管理・在庫管理の高度化等で幅広く活用されてきた。
      米国では、ITを活用してサプライチェーン全体を継ぎ目なく継ぎ再構築するビジネスモデルが登場している。米国パソコン業界は、製品のコモディティ化により苦戦してきたが、デルコンピューターは、販売、受注、製品、情報提供、部品発注、生産、発送にいたるサプライチェーンをインターネットを使って一括管理し、物流をフェデラル・エクスプレスにアウトソースするビジネスモデルで高い業績を上げている。サプライチェーンを継ぐためには、組立・部品メーカー間、卸売・小売間で分断されていた情報交換の標準化が必要である。デルコンピューターの台頭は既存のパソコン業界にも影響を与え、ロゼッタネットという業界団体を設立し、製造・販売における各社固有のビジネスプロセスを維持しつつ、情報交換のインターフェースを標準化する動きに繋がった。

    3. 調達、販売プロセスの合理化
    4. 米国自動車業界では、調達や販売におけるネットワーク活用が進展している。業界共通の通信ネットワークANX(Automotive Network eXchange)設立に続き、GM、フォードは二次部品メーカー以下の参画を狙った部品調達サイトを設立し、さらにはダイムラー・クライスラーも加わり各社の部品調達サイトを統合したマーケットサイトを構築する計画を発表した。物流面でも、販売地域や車種毎の体制から全米ネットワークを持つ宅配便業者との提携により、工場からディーラーへの物流を統合的に管理する体制を構築するといった動きを見せている。
      マーケットサイトは、調達先拡大や在庫圧縮の手段として鉄鋼、化学等の産業でも設立されている。当初は、バイヤー或いはサプライヤーの一方が複数の相手先に対して調達(販売)のプロセスを合理化するために設立されたが、最近では、カタログ方式、オークション方式、取引所方式等の様々な取引形態を提供することにより、複数のバイヤー、サプライヤーの参加を可能にし、参加企業が取引内容に応じて使い分けるマーケットサイトも出現している。
      対消費者販売におけるITネットワーク活用も、新興企業の急成長の「場」から、既存企業の将来の主要販売チャンネルとして拡大しつつある。米国では自動車購入者の過半が、車種やディーラーの選定についてITネットワークを活用しているといわれており、自動車メーカー各社も相次いで販売支援サイトを立ち上げている。こうした販売支援サイトは、州法上の規制等からメーカー直販を狙ったものではないが、消費者からの情報の流れを捕捉し、将来は生産工程のネットワークに継ぎ目なく継ぎサプライチェーンを高度化すること、即ち、パソコン等で実現したビルド・トゥー・オーダーのビジネスモデルを標榜し、消費者から直接受注することによる生産効率化や、消費者満足度の向上を狙っている。

    5. 新規ビジネスの創造
    6. 「もの」の価値が相対的に縮小し「サービス・コンテンツ」の価値が相対的に拡大する「経済のサービス化」が進展している。米国企業は、サービス・コンテンツといった新たな付加価値を捕捉するためにITネットワークを活用している。ネット新興企業の代表ともいえるアマゾン・ドット・コムは、書籍購入の利便性の提供だけではなく、書評の提供、消費者毎の購入データベースに基づく書籍推薦や他商品のネット販売といった新たなサービスの提供によって顧客基盤を固めている。また、自動車メーカーは、ホームページ上に販売支援コーナーとは別に顧客向けの情報提供のコーナーを設け、アフターサービス、クレジット、保険、中古車販売等の製品の生涯価値を捕捉するビジネスモデルを構築しようとしている。
      情報家電は、今後、急成長が見込まれ、わが国の優位性が発揮できる分野として期待されている。この分野でもハードは、買い替え需要中心でソフトやコンテンツが新たに創出される需要分野となろう。さらには、消費者ニーズに合った商品の情報検索、購入代行や見繕いビジネス或いは消費者間の情報交換や取引の「場」を提供するビジネスといったネットワーク・プラットフォーム機能の提供が、新たに創造される付加価値の中核となろう。


[具体的な課題と施策のあり方]

以上に見てきたように、米国において始まったIT革命は、日本を含む諸国を巻き込み、今や世界的な経済社会の変革をもたらしつつある。わが国においても、企業・政府がこれに的確に対応するだけでなく、自己改革への絶好の好機ととらえ、各々の課題に取り組んでいく必要がある。
IT活用は、わが国企業が需要・供給の両面でのイノベーション 57を通じ、国民経済に需要と供給の新たな好循環を生み出すための重要な手段であり、基本的には各企業が自己責任において取り組むべき課題である。一方、政府は企業間の公正な競争を促進するための施策を講じるとともに、企業のイニシャティブを最大限に発揮させるべく、高度情報通信社会の物的・人的基盤の整備を急ぐ必要がある。加えて、政府など行政機関自身のIT活用による行政の効率化と行政サービスの向上も重要な課題である。

  1. 企業の課題
  2. わが国企業が、グローバル・メガコンペティションの時代に対応して国際競争力を強化するためには、経営者は強力なリーダーシップを発揮し、企業内だけでなく、中小企業を含めた企業間、さらには消費者をも視野に入れたITネットワークを構築し、情報の共有と活用を図るべきである。IT活用は、

    1. サプライチェーン効率化、
    2. 経済のサービス化に対応した市場ニーズの捕捉、
    3. 新たなビジネスモデルの構築、
    4. 企業間のネットワークを通じた協働による新たな付加価値の創造、
    といった環境変化に対応した経営戦略の遂行上、最も重要な手段となっており、IT投資の拡大と一層のITネットワーク化の推進が必要とされる。

    1. ITネットワーク化と軌を一にした業務改革の推進
    2. 企業は、ITネットワーク化と軌を一にして、既存業務の改革を推進すべきである。事業分野の選択と集中を前提としたサプライチェーンの再構築や戦略的業務提携、既存の業務プロセスや業務慣行の見直し、或いは業務プロセスのアウトソーシングの積極的活用といった抜本的な業務改革の実行が、ITネットワーク化と表裏一体の経営課題となっている。

    3. ITネットワーク化の成果を最大限に引出す組織・人事改革の推進
    4. 企業は、ITネットワーク化の成果が最大限に発揮されるよう、社内全体の情報リテラシーの強化、人材育成を図るとともに、組織のフラット化や間接部門のスリム化といった抜本的な組織改革を推進すべきである。また、ITを活用した新規事業の生成がドッグイヤーともいわれるスピードで進展するなかで、新規事業担当者が活動し易い社内環境を整備すること、即ち、経営の意思決定の迅速化、権限の委譲、さらには挑戦を評価し敗者復活を容認する意識改革も求められる。
      企業内・企業間のIT化の推進は、短期的には業務プロセス効率化による要員余剰とIT対応のための要員不足という形で、社内の雇用ミスマッチが顕現化するリスクを抱えている。企業は、年功序列制度から能力主義、業績評価主義への移行を図り、人材の適材適所を実現することが求められ、また、ITネットワーク化が、経営戦略遂行や業務プロセス改革の手段となっていることから、経営戦略を熟知したCIO 58や、業務知識に精通したITエンジニア(システム・アナリスト、プロジェクト・マネージャー、システム・アドミニストレーター等)を早急に養成・確保することが必要である。さらには、企業間の円滑な人材移動を可能にし、社会全体として労働力の再配置を実現するために、人事・雇用制度を改革 59することも必要である。通年採用の拡大、有期雇用制度の導入といった雇用形態多様化、裁量労働制や在宅勤務といった就業形態多様化を通じ、企業間の人材移動を促進すべきである。

    5. 情報通信技術開発の推進
    6. IT産業は、ネットワーク経済社会のプラットフォーム(ハード、ソフト、回線、ソリューション)の供給産業として、情報通信技術開発を一層推進し、IT分野における需要と供給の新たな好循環確立に貢献しなければならない。わが国産業は、情報家電ネットワークや携帯情報端末等、わが国技術の優位性を維持・強化しつ、国際的にデファクト・スタンダードとなり得るような技術開発に向けて一層注力する必要がある。さらに、21世紀の高度情報通信ネットワークの基盤となる次世代ネットワーク関連技術と、その実現を支える次世代半導体技術といった、一企業がその開発リスクを負担しきれない技術開発分野については、産業・政府が一丸となった技術開発体制の構築が必要とされる。

    7. 産業情報化への取り組み
    8. わが国産業全体のITネットワーク高度利用を進めるためには、IT活用産業は、グローバル・ネットワーク化の潮流を念頭に置きつつ、既存の枠組みを超え、通信プロトコルやオペレーショナルな業務プロセスの標準化を進めるといった産業全体の情報化の環境整備に積極的に参画し、迅速な実現を促すべきである。その上で、企業は魅力ある商品やサービスを、独自の新しいビジネスモデルとともに市場に提供し、公正な競争を展開していくべきである。また、中小企業を含めたネットワーク化推進のため、ネットワークに関連する諸情報の開示、共通利用の促進といった、産業全体の情報リテラシーの一層の向上に寄与していくべきである。

  3. 政府の課題
  4. わが国が、ITネットワークを活用した付加価値の創造を進めるためには、政府は、企業・個人のイニシャティブを最大限に発揮させるための基盤整備、環境整備を早急に実施すべきである。そのため、内閣に設置されている「高度情報通信社会推進本部」に各省庁間の調整機能を付与する等の機能強化を実施するとともに、政府自身もネットワーク経済社会における最大の需要者としての立場に立ち、産・学と一体となって、21世紀の高度情報通信社会構築に関する総合ビジョンを早急に策定すべきである。

    1. 情報通信市場の競争促進の観点から関連法制を抜本的に改正
    2. 企業・個人のITネットワーク活用を促進するためには、利用者の利益・利便性の向上と、通信市場における事業者の自由かつ公正な競争の確保の観点から、情報通信関連法制を抜本的に改正する必要がある。改正の方向は、経団連提言「IT革命推進に向けた情報通信法制の再構築に関する第一次提言−「事業規制法」から「競争促進法」の体系へ−」(2000年3月28日)に示されている、通信市場における競争促進並びに通信・放送の融合等の潮流を踏まえた新たな情報通信関連法制の再構築である。こうした情報通信法制の抜本的改正を通じ、全ての利用形態における通信料金の引下げ、及び通信回線の高速大容量化等のサービス高度化が実現し、通信市場においても価格低下・サービス高度化による、需要と供給の好循環が実現されなければならない。

    3. スーパー電子政府の実現
    4. 政府は、ミレニアム・プロジェクトに掲げられた2003年度までの「スーパー電子政府の実現」を推進すべきである。行政手続、政府調達の電子化については、省庁横断的かつ政府と地方公共団体との統一的な推進が不可欠であり、諸手続・調達プロセスのデジタル化とITネットワーク化を同時に実現すべきである。また、政府は、ネットワーク経済社会の最大のサービス供給者として、民間産業と同様にIT活用による行政サービス供給の効率化を進め、かつ行政サービスの利便性(ワンストップサービス、24時間サービス)及び質的向上(医療・福祉分野のデーターベース化、ITネットワーク化等)を実現しなければならない。さらには、スーパー電子政府化に関するプロジェクト推進について、広く行政改革、組織改革の観点からコスト・ベネフィット評価を実施すべきである。

    5. ネットワーク経済社会の基盤整備
      1. 人材育成と真の情報リテラシー強化
        わが国が、21世紀にむけ高度情報通信社会を構築していくために最も重要な基盤整備の課題は、人材育成である。短期的には、高等教育機関におけるIT関連カリキュラムの充実、ミレニアム・プロジェクトにおける「教育の情報化」を着実に実現することが必要である。中長期的には、国民がITネットワークを活用したより高度な情報交換を行ない得る社会を構築するため、初等教育の段階から、真の情報リテラシーの強化を狙った教育全般の改革が必要である。具体的には、何よりもまず人に対する豊かなコミュニケーション能力、自己表現能力の醸成を図ることが重要である。このことは、現在の子供たちが将来社会人となった時に、自分の言葉で事実や論理を整理・表現し、他者と情報や課題を共有し、意思決定を行なう力、即ち、IT活用の基礎ともいうべき、真の情報リテラシーの強化 60に資するものである。

      2. 電子商取引に関する諸制度整備とネットワークセキュリティの確保
        電子商取引の拡大は、ネットワーク経済社会が発展する起爆剤となる。政府は、経団連提言「電子商取引の推進に関する提言」(1999年7月27日)に示されている電子商取引に関する諸制度の整備を早急に実施すべきである。今国会に「電子署名法案」が上程されるなど、電子商取引を促進するためのネットワーク・セキュリティ確保の骨格となる制度は整いつつあるが、書面・対面を前提とする販売関連の諸業法 61の見直しや、保護すべき個人情報についての個別指針、ハッカー対策の強化等の施策を、早急に具体化すべきである。また、電子商取引市場を拡大・発展させるためには、国民が安心して活用でき、中小企業を含む全ての企業の指針となるような消費者保護の枠組みを早急に策定すべきである。

      3. 労働市場の機能強化を通じた円滑な人材移動の実現
        政府は、労働市場の機能強化を通じ産業間の円滑な人材移動の実現により、産業のIT活用拡大に伴う雇用ミスマッチに対応するため、早急に諸制度を整備すべきである。諸制度の整備の方向は、経団連提言「産業競争力強化に向けた提言−国民の豊かさを実現する雇用・労働分野の改革」(1999年10月19日)に示されている、

        1. 職業紹介システムの再構築、
        2. 転職と勤続に中立的な年金制度・税制改革、
        3. 有期労働契約に関する規制緩和、
        4. 裁量労働制の適用職種拡大、
        等である。また、政府は、産業間の人材移動を促進する制度改正とともに、効率的で持続可能なセーフティネットを整備するべく、その中核的機能を果たす雇用保険制度(失業給付及び三事業)を再整備すべきである。

      4. 知的財産権保護施策−ビジネスモデル特許に対する原則的な対応
        政府は、企業のIT活用によるビジネスモデル変革が進展することに対応して、ビジネスモデル特許に関する特許法の運用指針を固めるべきである。ビジネスモデルは、一定の要件を満たせば特許法上の発明 62とすべきであり、特許要件(新規性、進歩性)の判断においても技術的側面のみならず、経済的・商業的有用性についても一定の範囲で肯定する必要がある。しかしながら、特許には、イノベーションを促進する面と過度な独占による競争制限に繋がる面があることを勘案し、新規性・進歩性に欠けるビジネスモデル特許によって企業のIT活用が阻害される事態が起こらないよう、厳格な運用指針を固めていくべきである。また、わが国企業の知的財産権を巡る国際的に均等な競争条件を確保すべく、諸外国当局との協調を図るべきである。

    6. 情報通信の基盤技術開発の推進
    7. 政府は、高度情報通信ネットワークの基盤技術開発につき、産・学と一体となって、先端・基礎技術育成の戦略とロードマップを策定する必要がある。特に、わが国産業の国際競争力を強化するために、IT分野の基盤技術として、(1)次世代ネットワーク関連技術(高速ネットワーク技術、セキュリティ技術、家電ネットワーク技術)と、その実現を支える(2)次世代半導体関連技術(システムオンチップ、デバイス設計技術、製造プロセス技術等)を、重点戦略技術として研究開発を推進する必要がある 63。また、政府は、産・学との連携を推進し、産業技術強化に資する環境整備のための施策を講じて、21世紀の情報通信産業技術を確立することにより、日本における真の「科学技術創造立国」実現につなげていくことが重要である。

    8. ITネットワーク活用を普及させるための支援
    9. ITネットワークが生み出す新たな付加価値は、接続する経済主体の数が増えれば潜在的には拡大する 64。わが国産業がIT活用による付加価値の創造を進めるためには、中小企業のIT化を推進する必要がある。政府は、中小企業のIT投資を促進するため、パソコン投資の一括経費控除制度の延長等の税制支援に加え、電子商取引のウェブサイト立上げの技術支援制度等を創設することにより、中小企業のITネットワーク活用事業を支援することが重要である。

以  上

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