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WTOカンクン閣僚会議に向けた緊急提言

2003年7月22日
(社)日本経済団体連合会

I.WTO新ラウンド交渉の危機克服

WTO新ラウンド交渉(ドーハ開発アジェンダ)は、現在、大変な岐路に立っている。本年3月末の農業に関する交渉モダリティ合意、5月末の非農産品市場アクセスに関する交渉モダリティ合意、同じく5月末の紛争解決了解に関する交渉の最終合意という妥結期限がいずれも遵守できなかった。また、3月末に期限を迎えたサービス貿易交渉のイニシャル・オファー提出国の数及びその内容は決して満足できるものではない。
このような中で、本年9月にメキシコのカンクンで第五回WTO閣僚会議が開催される。今こそ146の加盟国は、新ラウンド交渉の成功が世界経済の発展に不可欠との認識の下、政治的意思を発揮し交渉を推進しなければならない。
日本経団連は、新ラウンド交渉が危機的状況にあるとの認識に基づき、当提言を取りまとめた。

II.カンクン閣僚会議における難題の解決

日本経団連は、カンクン閣僚会議で交渉を開始する分野を含めた全ての交渉分野に関して、一括受諾方式により、2005年1月1日という期限内に合意が達成されることを強く求める。カンクン閣僚会議を成功させ、新ラウンド交渉の危機を打開するためには、以下のような提言に基づき、農業交渉の前進、発展途上国に関わる問題の解決を図ることが特に重要と考える。

(1) 農業交渉の前進

日本経団連は、農業がWTO新ラウンド交渉において、最も重要な交渉課題の一つであることを認識している。カンクン閣僚会議前に、本年二月に交渉グループの議長より出されたモダリティの改定案が出る可能性があるが、日本経団連は、わが国を含む各国政府が、モダリティの合意に向けて勇気ある決断を行うことを強く期待する。また、自由化を推進する際には、輸出国と輸入国の権利義務バランスを確保することも重要と考える。

  1. 日本は、年間約350億ドルの輸入超過を抱える世界最大の農産物純輸入国であり、輸出国の経済拡大に大きく寄与している。日本経団連は、まずわが国政府が、ウルグアイ・ラウンド合意を受けた自由化に取り組んできたことを評価する。わが国は、消費者と生産者を含めた全国民の利益を考えた決断をすべきである。国内農政改革を通じて競争力を強化するとともに、国内支持、関税を段階的に削減し、市場アクセスのさらなる改善に取り組むべきと考える。個別品目ごとの柔軟性を確保するウルグアイ・ラウンド方式が採用されれば、一部のきわめてセンシティブな品目を除いて関税率及び国内支持の大幅な削減に取り組むことが可能となろう。

  2. 米国は、輸出補助金のみならず輸出信用の大幅な削減を実行すべきである。また、新農業法の改訂による不足払い制度の撤廃も視野に入れ、国内支持を削減すべきである。

  3. EUは、輸出補助金の大幅な削減を実行すべきである。共通農業政策の改革による国内支持削減の動きは歓迎でき、引き続き改革の実現を望む。

  4. ケアンズ・グループの主要メンバーであるカナダやオーストラリアは、小麦等に関して独占による輸出国家貿易を行っている。WTOにおいて、これに関する規律を策定する必要がある。

  5. 発展途上国のほとんどは農産物の純輸入国である。農業交渉においては、まず先進国が貿易歪曲的な措置を是正する必要があるが、発展途上国も中長期的な競争力強化、自由化の推進に取り組むべきである。

(2) 発展途上国問題の解決

新ラウンド交渉を成功させるためには、交渉の成果が全ての加盟国に享受されるための協力が不可欠である。

  1. 先進国は、発展途上国の輸出関心分野の自由化、特恵関税制度の拡充等を通じて、発展途上国、特に後発開発途上国に対して相互主義よりも有利な待遇を与える必要がある。また、いわゆる実施問題についても、WTO協定の規律を維持しつつ、解決に向けた取り組みを進めるべきである。さらに、発展途上国によるウルグアイ・ラウンド合意の実施を徹底するため、人材の育成、関連法制度の整備支援等のキャパシティ・ビルディングに取り組むべきである。日本経団連としても、民間企業の知見や経験を活用し、積極的に協力していきたい。

  2. 発展途上国は、モノやサービス貿易の自由化、投資や貿易円滑化等の新たなルールの策定が外国資本の流入の活発化、技術移転の促進や雇用の増加にもつながるものと認識し、新ラウンド交渉に積極的に参加していくべきである。

III.日本経団連にとっての重要項目

(1) 投資ルール策定交渉の開始

日本経団連は、貿易と投資が密接不可分な現状に鑑み、投資についても自由化及びルールの整備が必要と考える。特に、投資環境の安定性、透明性、予見可能性を確保することは世界経済の発展に不可欠であり、WTOにおいてマルチラテラルの枠組みを構築することが急務であると考える。日本経団連は、カンクン閣僚会議において交渉の開始が合意され、新ラウンド期限内に終結することを強く求める。その際、特に「透明性」及び発展途上国に受け入れ可能な「自由化」に重点を置くことを望む。

(2) 自然人の移動の自由化

日本経団連は、財、サービス、人、資本、情報の経営資源が国境を越えて、自由で円滑に流れることにより、効率的な経済活動が実現すると考えるが、人の移動については、他の資源に比べて自由化が遅れている。
日本経団連は、まず、WTOサービス貿易交渉において、

  1. 経営者や管理職、教育訓練や能力開発目的を含む全ての企業内移動、
  2. 専門的・技術的な分野の自然人による個人契約に基づく移動、
  3. 一時的な滞在の自由化、

が早期に実現することを望む。また発展途上国の関心が高い非熟練労働者の移動についても、先進国は経済需要テスト等を考慮した上で自由化を検討するとともに、受け入れのための国内制度の整備に努めるべきである。さらに、サービス貿易の約束表を超えた入国・滞在関連規制の透明性の確保、手続きの簡素化・迅速化も必要である。

(3) その他の重点分野

サービス貿易:
WTO加盟国が早急にイニシャル・オファーを提出し、内国民待遇、市場アクセスの大幅な改善、ルールの整備を図っていくことを求める。
非農産品市場アクセス:
全加盟国共通のフォーミュラを採用するとともに、家電・同部品、自動車・同部品の分野別ゼロゼロ等を含むモダリティ合意が達成されることを強く望む。情報技術協定の対象品目及び参加国の拡大も求める。
アンチダンピング:
アンチダンピング協定の規律強化に向けてカンクン閣僚会議後もシームレスに交渉が進展することを強く求める。
電子商取引:
電子商取引に関するワークプログラムの活性化、関税不賦課の恒久化、従来GATTで扱われてきた商取引の電子化された取引に対するGATTの適用、サービス貿易交渉における関連分野の完全自由化約束の実現を望む。
貿易円滑化:
貿易手続きの明確化、簡素化、調和化に向けてカンクン閣僚会議でルール策定交渉の開始が合意され、期限内に交渉が終結することを強く求める。
透明性:
全ての加盟国において、自由化のメリットを担保するため国内規制の透明性が確保されることを強く求める。

なお各分野の詳細については、【分野別詳論】参照。

IV.日本経団連の取り組み

日本経団連は、これまで新ラウンド交渉に関し閣僚会議等の時期を捉えて7つの提言等を取りまとめ#1、各国の交渉者やWTO事務局にその実現を働き掛けてきた#2
今後も、日本経団連は本提言の実現に向けて、わが国政府に対する建議に加えて、農業関係者を始め、国内の関係各方面との意見交換、WTO事務局、四極、その他の先進国、発展途上国、移行国の交渉者への働き掛けを積極的に進めていく。また、国内のみならず、欧米諸国、発展途上国の経済団体との連携をさらに強化していく。

以上

  1. 関連する提言等は以下の通り。

    1. 「次期WTO交渉への期待と今後のわが国通商政策の課題」 (1999年5月)
    2. 「次期WTO交渉の課題〜サービス貿易自由化交渉を中心に〜」 (2000年3月)
    3. 「戦略的な通商政策の策定と実施を求める」 (2001年6月)
    4. 「WTO新ラウンド交渉立ち上げにあたっての基本的立場」 (2001年7月)
    5. 「WTOサービス貿易自由化交渉 人の移動に関する提言」 (2002年6月)
    6. 「国際投資ルールの構築と国内投資環境の整備を求める」 (2002年7月)
    7. 「日本経団連WTOミッション ポジション・ペーパー」 (2002年9月)
  2. 日本経団連は、2000年11月23日〜28日、2001年9月30日〜10月4日、2002年9月23日〜10月1日に、ジュネーブ、ブラッセルにミッションを派遣してきた。


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