[ 日本経団連 ] [ 意見書 ] [ 目次 ]

実効ある容器包装リサイクル制度の構築に向けて

2005年10月12日
(社)日本経済団体連合会

はじめに

容器包装リサイクル法(以下「容リ法」)施行後10年が経過することを受け、中央環境審議会ならびに産業構造審議会は、同法の見直しに向けた検討を行っており、先般、それぞれ「中間とりまとめ」を公表した。
同「中間とりまとめ」は、「消費者による分別排出、地方自治体による分別収集、事業者による再商品化」という現行法の役割分担を見直し、地方自治体の分別収集の役割あるいは費用の一部を、事業者に負わせる内容になっており、費用負担増の事業活動への深刻な影響が懸念される。
産業界はこれまで両審議会等の場で、このような役割分担の見直しは、今回の法の見直しにおいて本来目指すべき容器包装廃棄物の排出抑制効果に乏しく、事業者への単なる費用の付回しにすぎないと繰り返し主張してきた。しかし、残念ながらこうした産業界の主張は、「中間とりまとめ」において受け入れられなかった。
そこで、実効ある容器包装リサイクル制度の構築に向けて、改めて、産業界としての意見を以下の通り表明する。

1.容器包装リサイクル法の問題点と今回の見直しの視点

「中間とりまとめ」でも指摘されている通り、現行容リ法の施行によって、容器包装の軽量化やリサイクル率の上昇、さらには国民意識の向上等が図られた。この結果、一般廃棄物の最終処分量が減少し、最終処分場の残余年数が拡大するなど、容リ法は法制定当初の政策目的に大きく貢献したと評価できる。また、容リ法が他の個別リサイクル法の先駆けとなったこと、さらには、一般廃棄物では従来行われてこなかった広域的なリサイクル処理が容リ法によって推進されたことなど、容リ法がわが国の循環型社会の形成に果たした役割は大きい。
しかしながら、家庭からの容器包装廃棄物の排出削減が進んでいないといった課題も残されていることから、今回の見直しにあたっては、以下の視点に基づいた施策が求められる。

(1) 現行の役割分担に基づく各主体の取組みの深化

容リ法施行後10年目を迎えたが、その他プラスチック製容器包装の再商品化義務を含めた形で、法が完全に施行されたのは2000年と、実際には5年しか経過していない。残念ながら、制度の定着は未だ十分図られておらず、全ての主体が期待される役割、責任を十分に果たしていないのが現状である。
第一に、地方自治体においては、プラスチック製容器包装に係る分別収集実施市町村は5割強にとどまるなど、分別収集の実施が不十分である。また、財政状況が厳しいなか、容器包装廃棄物に係る分別収集業務の一層の効率化が求められる。
第二に、消費者においては、分別排出や減容化が徹底されていないケースも多く、地方自治体の運搬・選別費用の上昇をもたらすと同時に、異物混入による多量の残渣発生が再商品化費用の高騰の一因となっている。
第三に、事業者においては、法が定める義務を果たさない「ただ乗り事業者」が存在している。また、多くの事業者は、排出抑制に向け容器包装の軽量化・薄肉化等の技術開発等に真剣に取り組んでいるものの、過剰包装の存在を含め容器包装の排出抑制の取組み・努力に事業者間でバラツキがある。
こうした現状に鑑み、今回の容リ法の見直しにあたっては、多くの成果を挙げてきた現行法の役割分担を見直すのではなく、各主体が現行の役割に基づく責務を十分に果たし、深化させるための施策を講じるべきである。その際、関係する主体間の意見・情報交換の場を設けるなど、相互の連携を強化していくことも重要である。

(2) 排出抑制効果の大きい施策の推進

現行容リ法のもとで、一般廃棄物最終処分場の残余年数の拡大等の政策目的は大きな成果を挙げているものの、容器包装廃棄物の排出抑制については必ずしも十分な効果が現れていない。
したがって、今回の見直しでは、排出抑制を中心的な政策課題の一つに据え、効果の大きい施策を講じるべきである。

(3) 制度に係る社会全体のコストの削減

容器包装リサイクル制度に係る費用が容器包装廃棄物の収集量の拡大とともに年々増大し、地方自治体からは、分別収集費用の負担軽減要望が出されている。他方、事業者にとっても、再商品化費用に加え、軽量化・薄肉化のための多額の技術開発コスト等の負担が経営を圧迫している。
とりわけ、その他プラスチック製容器包装については、マテリアルリサイクルの残渣が約5割発生しており、現行の入札制度の下で、再商品化委託単価が高止まるといった問題が生じている。
再商品化手法の見直しも議論されているところであるが、そもそも、汚れが付着しあるいは異物が混入している容器包装廃棄物など、リサイクルに適さない再商品化不適合物まで大量に集め、無理にリサイクルしようとしていること自体に問題がある。
法の見直しにあたって、「環境と経済の両立」に資するよう、容器包装リサイクル制度に係る社会全体の総コストの軽減に、十分配慮する必要がある。

※地方自治体の分別収集費用約3,000億円と特定事業者の再商品化費用約400億円を比較して、地方自治体の負担が過大であるとの議論があるが、地方自治体の会計制度が未整備で推計自体に疑問が多いばかりか、こうした比較自体が無意味である。
そもそも、廃棄物処理法上、一般廃棄物の処理責任は市町村にあるが、市町村は容リ法施行によって、一般廃棄物処理場の建設費をはじめ一般廃棄物処理コストの削減等の便益を享受している。容リ法の施行後、家庭ごみの排出量が削減し、ごみ焼却炉の更新が不要になった地方自治体もある。地方自治体の負担は、容リ法施行後に追加的に要したとされる費用約380億円に、容リ法施行による便益を差し引いた額である。
他方、特定事業者は再商品化費用約400億円のほかに、容器包装の軽量化等の技術開発・識別表示等の費用も負担しており、法の施行の結果、地方自治体以上の負担増となっている。

2.役割・費用分担の見直しの問題点

事業者に分別収集費用の全部あるいは一部を負担させるべきとの意見は、以下の理由から妥当性を欠き、反対である。

(1) 限界に近づく事業者の排出抑制努力

事業者は、現在の容リ法の枠組みのなかで排出抑制に貢献すべく、容器包装の薄肉化や軽量化・リサイクル容易化等にたゆまぬ努力を払い、実際に大きな成果をあげている。
この結果、容器包装の薄肉化・軽量化が既に限界に達している商品も多い。加えて、食品等の容器包装では、本来の容器包装の機能である内容物の品質の保持など、「食の安全・安心」の確保が事業者の最大の責務であり、容器包装の薄肉化等よりも優先せざるをえない。
多くの事業者にとって、容器包装の削減に関し、技術的な限界に近づくと同時に、限界削減コストが高止まるなかで、事業者に追加的な費用負担を求めても、容器包装の排出抑制効果には限界がある。むしろ、経営を圧迫し、薄肉化等のための投資や研究開発の原資を奪う可能性すらある。

(2) 極めて小さい消費者の排出抑制効果

「分別収集等の費用を事業者に負担させ、処理コストを価格に内部化し、商品価格に転嫁することによって、消費者に応分のコストを負担させれば、消費者の排出抑制が進む」との意見も疑問である。
そもそも、上流の素材メーカーから下流の流通業界まで、競争環境が激化しているなかで、処理コストを商品価格に転嫁することは極めて困難である。仮に価格転嫁できたとしても、一商品あたりの容器包装廃棄物の処理コストが極めて少額であり、また、処理コストの商品への表示などによる可視化が実務上困難であることから、消費者への価格効果による排出抑制は発現しない。
むしろ、消費者に排出抑制を促す施策としては、排出段階で直接負担を求める「容器包装廃棄物の有料化」が有効である。

(3) 社会的コストの増大

地方自治体が行う分別収集費用の一部を事業者が負担すれば、地方自治体が、効率的な分別収集・選別保管を行おうとするインセンティブが薄れ、非効率な制度となり、社会的コストの増大を招くおそれがある。業務を担う者と費用負担者が異なると、効率化のインセンティブが働きにくいことに留意すべきである。
消費者への教育・啓蒙などを通じ、簡易な洗浄や圧縮などによる減容化を含めた分別排出を徹底することが、地方自治体の分別収集・選別費用の削減に、直接的かつ大きな効果をもたらす。

(4) 「拡大生産者責任」強化への疑問

事業者は、既に再商品化義務を負い、多大なコストを負担しているほか、容器包装の軽量化・薄肉化やリサイクル容易化に向けた技術開発や環境配慮設計の推進や商品への識別マークの表示など、様々なかたちで生産者としての責任を果たしている。
「拡大生産者責任を徹底すべき」との意見が多く聞かれるが、OECDのマニュアルでは、拡大生産者責任は必ずしも全面的に生産者に責任を移転させるものではなく、各国の経済・社会・文化的事情を考慮し、そのなかで最も自国にあった方式をとることを推奨している。「拡大生産者責任」という言葉のみにとらわれて、施策の効果等を十分に吟味することなく、役割分担・費用負担のあり方を議論すべきではない。

3.容器包装リサイクル法の見直しにあたっての提案

以上を踏まえて、制度全体に係る社会的総コストを低減させながら、いかに排出抑制を実現し、全員参加型の容器包装リサイクル制度を実現するかの観点から、以下の提言を行う。

(1) 事業者による「自主行動計画」の策定

  1. 排出抑制等に向けたさらなる努力
    事業者は、容器包装の軽量化・薄肉化・リサイクル容易化等に向けて技術開発や環境配慮設計の推進など、容器包装の抑制に懸命に努めてきた。今後とも、事業者は自主性と創意工夫を発揮し、内容物の品質や安全性の保持といった容器包装の機能が損なわれない範囲で、より一層、容器包装の3R(リデュース、リユース、リサイクル)に努力する。
    こうした取組みを確実なものとし、さらに、幅広い事業者に努力を促す観点から、例えば容器包装の素材グループごとなどの業界別に、容器包装の3R推進に向けて「自主行動計画」を策定し実施する。
    今後、現行の役割分担を堅持することを前提に、各業界では、別紙のような事項を盛り込んだ自主行動計画を早急に策定する。自主行動計画策定後は、着実な実施に向けてPDCAサイクルを回して行く。
    加えて、各事業者は、環境報告書やCSR報告書あるいはホームページ等において、3Rの推進に向けた取組みについて、目標設定も含めて、積極的に開示していくことで、自主行動計画の透明性を確保する。
    なお、政府は、容リ法の役割を担う全ての主体が法を遵守するよう、ただ乗り事業者対策の強化・厳格化等に努めるべきである。産業界としても、ただ乗り事業者の解消を図るべく、上記自主行動計画の着実な実施等を通じて、業界内での一層の周知徹底を図る。

  2. 消費者への普及啓発活動の推進
    容器包装リサイクル制度、とりわけ排出抑制を効果的・効率的に実現するためには、簡易な洗浄や減容化を含む分別排出の徹底をはじめ、環境に配慮した商品の選択、簡易包装の選択、大事にモノを使う生活習慣など、排出者である消費者のライフスタイルの見直しが不可欠である。
    そこで、消費者に対する普及啓発活動に、事業者としてもこれまで以上に積極的に取り組む。具体的には、消費者や地方自治体にわかりやすい識別表示や商品情報の提供をはじめ、様々な媒体を活用し、消費者に対し、排出抑制・分別排出の徹底に理解を求める活動を積極的に実施していく。

(2) 分別排出・分別収集の徹底と範囲の見直し

  1. その他プラスチック容器包装廃棄物の分別収集範囲の見直し
    容リ法で分別収集及び再商品化の対象となる4品目6種類の容器包装のうち、「その他プラスチック製容器包装」の再商品化量は45.5万トン(平成16年度実績)と、全体の3割を占めるとともに、年々増加傾向にある(3年間で2.5倍)。また、再商品化委託額は増大し続け、平成22年には全体の9割を占めるとの試算もある。しかも、(イ)再商品化後に大量に残渣が発生(約5割)していること、(ロ)今後、再商品化能力を上回る収集量が見込まれ、再商品化委託単価が高止まっていること、(ハ)プラスチックを除いた一般ごみの焼却においてカロリー不足が生じ、助燃剤を添加していることなど、その他プラスチック製容器包装廃棄物の扱いは、多くの問題を抱えている。
    資源の有効活用という観点からは、本来、「残渣の生じないリサイクル」を目指すべきである。また、これは社会的に受容可能なコストの範囲内で達成される必要がある。
    残渣が大量に生ずる主な原因は、異物の混入や汚れ等が付着しているその他プラスチック製容器包装廃棄物が、大量に再商品化事業者の元に届くことにある。そこで、その他プラスチック製容器包装廃棄物の扱いを見直し、汚れ等が付着していない物のみを分別収集し、循環型社会形成推進基本法の考え方に則って、マテリアルリサイクルやケミカルリサイクルを中心とした再商品化を行うこととすべきである。また、消費者が排出段階で簡易洗浄しても汚れがとれないその他プラスチック製容器包装廃棄物については、家庭ごみとして収集し、一般ごみの助燃剤としてのエネルギーリカバリーを推進すべきである。
    これによって、地方自治体においては、選別作業の簡素化や処理量の減少によって選別・保管費用を削減でき、また、一般ごみのカロリー不足を補うこともできる。
    事業者においても、再商品化の質の向上、残渣処理費の削減等によって、処理単価の低減が期待でき、容器包装リサイクル制度に伴う社会的総コストを低減することができる。
    さらに、自ら手間隙かけて分別排出を徹底した容器包装廃棄物が残渣を生ぜずきちんとリサイクルされているのかどうか、また、大量の水を使用して容器を洗浄して排出することが本当に環境にやさしい行動なのかどうか、疑問を持つ消費者も多い。確実にリサイクルできるもののみを分別排出する仕組みとすることは、こうした消費者の疑問に応えることにつながる。
    他方で、今後、事業者としても引き続き、残渣の生じにくいリサイクルを目指すべく、汚れが落ちやすい容器の開発やリサイクル技術の開発および分別排出・分別収集しやすい識別表示の検討などに努力する。
    こうした見直しを通じ、より多くの消費者に環境問題に対する意識が高まり、排出段階における簡易洗浄の習慣が広く一般に定着すれば、異物混入も減ることが期待され、残渣が生じない、理想的な容器包装リサイクルに近づくと考えられる。

  2. 分別排出・分別収集の徹底
    容器包装リサイクル制度に係るコスト削減とリサイクルの質の向上を図る観点から、分別基準適合物の品質向上に向けた取組みを厳格化すべきである。具体的には、分別基準適合物について、異物混入等の基準を法令で規定し、それを満たさない場合、容リ協会は引き取るべきではない。
    同様の趣旨から、地方自治体は、排出者である消費者の分別排出が徹底されるよう、排出された廃棄物に対するチェック体制を整備するなど消費者に対する教育・指導を強化し、分別区分を守らない、あるいは異物混入のある家庭ゴミ・容器包装廃棄物について、引き取りを拒否する対応が必要である。

(3) 容器包装廃棄物の有料化の推進

本年2月の中央環境審議会報告書において「一般廃棄物の有料化は・・・排出抑制等に有効な手段である」と指摘されたことを受けて、現在、一部の地方自治体では一般廃棄物の有料化を推進している。そのなかで、容器包装廃棄物だけを無料化すれば、異物混入が増加し、容器包装リサイクルに係る品質の一層の低下と社会的コストの増加が大いに懸念され、本来目指すべき容器包装のリサイクルに向けた取組みが阻害される。
また、事業者は、現行容リ法の下で、コスト削減の観点から容器包装の削減に日々努力する一方、排出者である消費者の行動に対して直接影響を及ぼすような施策は、現段階で講じられていない。
前述の通り、処理コストの価格内部化では、消費者に処理コストが明示されないことや価格転嫁の困難性等の理由から、価格効果は機能しにくい。従って、今後、容器包装廃棄物のより一層の排出抑制を促すためには、家庭ごみとともに、容器包装廃棄物についても有料化を推進すべきである。
また、容器包装廃棄物の有料化は、地方自治体の分別収集費用の一部を賄うことができるほか、消費者は、例えばPETボトルを各自で潰して減容化して排出するなどの行動につながることも期待でき、地方自治体における収集運搬費用の削減など、地方自治体の業務効率化にも資する。
なお、家庭ごみならびに容器包装廃棄物の有料化に伴い、地方自治体は、業務の効率化や透明性の確保により一層の努力が求められる。消費者は、地元自治体の分別収集業務を、納税者として監視し、透明性・効率性の向上を自治体に働きかける機能が期待される。また、事業者としても、納税者として、地方自治体の業務効率化に協力できる事項については積極的に協力していく。

おわりに

これまで述べたように、事業者としては、消費者に「安全・安心」な商品を届けるといった、容器包装の本来の機能を損なわない範囲で、今後、より一層、容器包装廃棄物の排出抑制に自ら努めるとともに、消費者に理解を求める活動についても積極的に展開していく。
「中間とりまとめ」で示されたように、廃棄物処理法上、処理責任が市町村にある一般廃棄物に係る容器包装廃棄物について、市町村が行う分別収集の役割あるいは費用負担の一部を事業者に負わせることでは、実効ある容器包装リサイクル制度が構築できない。
循環型社会の実現には、政府・地方自治体、事業者、消費者といった全ての主体の努力が不可欠である。また、「環境と経済の両立」の観点から、社会全体のコストをいかに低減していくかの視点も重要である。容器包装リサイクル制度の見直しにあたっては、こうした観点を見失うことなく、具体的な制度設計を行っていくべきである。

以上

日本語のトップページへ