対外経済戦略の構築と推進を求める

―アジアとともに歩む貿易・投資立国を目指して―

2007年10月16日
(社)日本経済団体連合会

はじめに

日本経団連では、2007年1月、今後10年を見通してビジョン「希望の国、日本」をとりまとめ、めざす国のかたちとして、「精神面を含めたより豊かな生活」、「開かれた機会、公正な競争に支えられた社会」と並んで「世界から尊敬され親しみを持たれる国」を掲げ、世界の平和と繁栄に積極的に貢献する国を目指すとともに、「アジアとともに世界を支える」ことを優先課題としてきた。
その実現のためには、わが国が尊重する自由貿易の原則、多角的自由貿易体制の維持・強化や、規範の遵守、高度な環境基準、省エネ、食の安全・安心などの理念を各国と共有し、これらを積極的に推進するとともに、わが国の外交政策実現のための重要なツールである政府開発援助(ODA)やわが国が強みを持つ環境技術等を活用し、アジア、世界に貢献していくことが重要である。
経団連では、貿易投資委員会において、ビジョンの実現に向けた具体的な対外経済戦略を構築するため、会員企業の海外事業活動の実態と直面する課題について、幅広くヒアリングを重ねてきた。その結果、多くの企業がグローバル展開を加速させていること、なかでも、東アジア域内において、研究・開発・生産・販売等の事業ネットワーク化やサービス産業の海外進出を一層進めていることが明らかとなった。
そこで、ビジョンの具体的なフォローアップとして、企業活動の実態を踏まえ、今後推進すべきわが国の対外経済戦略とその推進のあり方について提言をとりまとめた。

第1部 対外経済戦略の構築に向けて

1.グローバル化の一層の進展と国際環境の変化

過去数年の間、企業活動のグローバル化が一層進展している。なかでも、わが国企業にとってかねてより重要な市場・生産拠点であり今後とも経済成長が期待される東アジア地域とのビジネスの相互依存関係は、急速に深化している #1。製造業においては、これまでの「生産」「販売」としての拠点ばかりでなく、「研究・開発」「調達」といった事業活動のそれぞれの工程において、最適地での拠点展開・集約を図り、東アジア域内を中心とした多国間ネットワークの構築を進展させた。東アジアの域内貿易は中間財の占める割合が2005年に60%と、EUの49%、NAFTAの48%に比して高いことからも、国境を越えた分業が進展していることが分かる #2。また、サービス産業も、東アジア地域を中心に海外展開を拡大しつつある。特に、国内市場の成熟や景気回復等を背景として、海外支店・事務所の設置や現地法人との提携等を通じた金融業の進出が相次いでいる。物流サービスも、製造業の海外進出に伴い、中国を中心に、現地法人との提携を図り、東アジアにおける輸送インフラの整備を進めている。東アジア域内においては、第三国間の輸送量の増加も著しい。
同時に、わが国企業の強力な競争相手として、中国、韓国、インド、ロシア等、新興市場国を中心に途上国企業が存在感を増しつつある。発展途上国からの輸出額をみると、2001年から2005年までの間に2.2兆ドルから4.4兆ドルと倍増している #3
また、世界的な資源・エネルギー量の減少と需要の増大を背景に、新興市場国等の大規模需要国が政府主導で資源獲得を進める動きが目立つようになっている。資源産出国には、自国への供給優先や資源ナショナリズムの傾向の強まりも見られる。
さらに、途上国において市場に占める模倣品・海賊版の割合が高く、こうした模倣品・海賊版が世界各国へ流通する例が増加している。模倣品・海賊版の流通により、企業に帰属すべき収益が損なわれていると見られる例が相次いでいる。

2.制度整備の遅れ

東アジア地域における企業活動の実態は相互依存が相当程度深化していることが伺える一方で、それに見合う経済インフラ等制度面の整備が遅れている。例えば、製造業においては、研究・開発、調達、生産、販売の事業ネットワーク化の進展に伴い、関連するサービスを円滑かつ効率的に提供できるビジネス環境の整備が一層重要となっている。また、東アジア地域への金融・小売・運輸等、サービス産業の進出が増加しており、外資規制の撤廃・緩和が喫緊の課題となっている。
しかしながら、わが国が締結した経済連携協定(EPA)においては、二国間、日ASEAN包括的経済連携(AJCEP)協定交渉等により物品貿易の自由化が進展する一方で、金融、IT・電子商取引、流通、運送等のサービスの主要分野において、WTO・サービスの貿易に関する一般協定(GATS)以上の自由化が実現した範囲は限られている #4。投資についても、ASEAN投資地域(AIA)協定における取組みが進められているものの、ASEANと域外の自由貿易協定(FTA)において投資部分が盛り込まれた例はない。また、物流・通関手続の効率化や、基準・認証の整備、日本との間での相互認証、知的財産保護法制の整備等、企業活動にとって基本的なインフラの整備も遅れが目立つ。
他方で、WTOにおけるドーハ開発アジェンダ(ドーハ・ラウンド)の停滞を背景に、世界各国においては、FTA、投資協定、分野別協定等の締結や個別の交渉を通じ、自国に有利な制度の構築に向けた取組みを加速させている #5。FTA締結国と同等以上の条件により、わが国と当該国とのFTA等が締結されていない場合、貿易・投資面での競争条件格差により、当該諸国の市場におけるわが国企業の競争力は損なわれる。既存の貿易・投資に与える直接的な影響だけでなく、潜在的な貿易・投資の抑制効果も大きい。
こうした各国の動きに比してわが国の状況をみると、東アジア諸国とのEPA交渉が過去1年半の間に相当程度進展したことは評価できるものの、WTO交渉ならびに東アジア地域以外とのEPA/FTA交渉を中心に、わが国の対応が後手に回る傾向もみられる。例えば、WTOに関しては、実質的に合意の内容が決定される非公式な主要国の枠組みは、2006年7月の交渉中断以降、日本を含むG6から、G4(米、EU、インド、ブラジル)の枠組みへと移行した。EPAに関しては、AJCEPの締結が中国、韓国に遅れをとり、日米、日EUにいたっては交渉開始時期の目処すら立っていない。
加えて、わが国の貿易・投資インフラは、特に金融・資本市場、航空、物流・通関等において、既に東アジアの先進的な国・地域よりも劣位にある #6。現状のままでは、内外の企業を惹きつける制度構築の遅れにより、成長を遂げるアジアにおいて、わが国が取り残される恐れがある。

3.対外経済戦略の必要性

制度整備が大きく遅れをとったのは、これまでのわが国の対外経済政策が総合的な視点を欠き、他国の動きの後追いであったり、相手国からの要請や圧力を受けての対応に終始することが多かった結果であると言わざるを得ない。
わが国は、こうした受動的・状況適応型の姿勢から脱却し、主体的・戦略的姿勢に転換していかなければならない。グローバリゼーションへの対応の遅れは、わが国経済の発展の大きな阻害要因となる。
そのためには、貿易・投資だけでなく、知的財産権の保護、資源・エネルギーの安定供給確保、地球温暖化問題への対応とビジネスとの両立、規格・ルールの国際標準化等の対外的な諸課題と、関連する国内政策を総合的に捉えるとともに、一体的に解決していくための戦略を構築することが必要である。

このような認識に基づき、第2部においては、上記の企業活動の実態の変化と直面する課題に照らして、わが国が今後特に重点的に取り組むべき「東アジア(経済)共同体の構築」「グローバル・ビジネス環境の整備」「国内制度整備・改革」のそれぞれについて、具体策を提示する。また、第3部においては、対外経済戦略を構築するにあたり必要な体制の整備について述べる。

第2部 推進すべき対外経済戦略

1.「東アジア(経済)共同体」の構築に向けた検討

経団連は、経済連携推進委員会において、「経済連携協定の『拡大』と『深化』を求める」(2006年10月17日)をとりまとめ、東アジアを中心とする二国間・多国間EPA/FTAの実現を積極的に働きかけてきた。
その後、タイ(2007年4月)、ブルネイ(同6月)、インドネシア(同8月)との二国間EPAが相次いで署名されるとともに、AJCEPの交渉が2007年8月に大筋合意に至るなど、特に過去1年の間、スピードが加速され、ASEAN諸国との間でのEPAは大きな成果を上げている。
そこで、これまでの成果の上に立ち、今後の地域統合のあり方について、ASEAN+3 #7、ASEAN+6 #8、FTAAP #9 と複数のEPA/FTAに関する検討が並行して進められる中、「東アジア(経済)共同体」の具体像 #10 について、真剣に議論すべき時期が到来している。

(1)「東アジア共同体」の具体像の明確化―「東アジア共同体憲章」(仮称)の検討

「東アジア共同体」の具体像を明確化するためには、共同体の理念・目的・構成国・所掌範囲・活動内容・組織等に関する共通の認識を形成する必要がある。そのためには、例えば、これらについて規定する「東アジア共同体憲章」(仮称)の策定の是非について検討することが有益であろう。
政治・経済・文化・宗教等の面で多様性を有する東アジア地域において、共同体の共通の理念としては、例えば、ASEAN諸国が地域統合において基本としてきた、国家主権の尊重、紛争の平和的解決、内政不干渉等が参考となる #11。また、所掌・活動範囲としては、海事協力、テロ・麻薬取引・国境を越える犯罪への対応、通貨金融協力、EPA等を通じた域内経済統合の推進などが挙げられる。既存の地域協力・連携の実績を共同体の活動として一つに統合することにより、政策の一貫性を確保することが可能となろう。なお、東アジア地域に関わる既存の枠組みおよびFTA、EPAとそれに向けた取組み #12 との並存を前提とすることが必要である。

(2)東アジアにおける経済統合の推進

当面、共有の価値観・理念および利益となりうるのは自由貿易や市場経済といった経済的側面であることから、経済面での統合を可能な分野から進めていくことが現実的であろう。その意味で、ASEAN+6の実現に向けた道筋として、インド‐ASEAN、豪州・NZ‐ASEAN FTAの早期実現を強く期待する。なお、物品貿易部分に関しては共通点の多いAJCEP、中国‐ASEAN FTA、韓国‐ASEAN FTA等ASEAN+1のFTAを統合することも一案である。将来的には、域内において原則として全ての関税の撤廃を目指すことが望ましい。
また、開発、調達、製造、輸出入、販売の国境を越えたサプライチェーンを貫くロジスティクスとそれを支えるサービス(IT、流通、金融・保険等)の自由化は、物品貿易の自由化と同等に重要である。域内の事業ネットワークにおける輸送コストの低減を通じ、事業活動の大幅な効率化が期待される #13。ASEAN諸国においては、物品、サービス、投資のシームレスな市場の構築とさらなる生産ネットワークの増強を図るため、ロジスティクスサービスの統合を加速することが優先的な課題と位置付けられている #14。わが国もこうした取組みを支援し、東アジアにおける統合的なサプライチェーンの円滑化・効率化に貢献すべきである。
通関に関しては、既にASEAN先進6カ国により、シングルウィンドウ・システム化(通関手続の一本化と輸出入書類の電子処理)が進められている。その進捗を見つつ、将来的に、ASEAN+6の間でのG‐G(政府間)の連携も視野に入れるべきである。

(3)「東アジア官民合同会議」(仮称)の設立の検討

「東アジア(経済)共同体」の具体像の検討の場として、関心を有する国の政府および経済界を主体とする「東アジア官民合同会議」(仮称)を設立することを検討すべきである。このような場を通じ、民間経済界の意見が東アジアにおける統合のあり方に反映されることを望む。
わが国は、このような取組みを通じて共同体の具体像と実現への道筋を示すことにより、共同体実現に向けた議論を進め、2010年を目途に、「東アジア官民合同会議」において、地域統合に向けた議論を軌道に乗せるべきである。

(4)中国との経済連携の強化

東アジア地域において、政治・経済両面で影響力を増す中国が安定的な発展を遂げることは、同地域の安定・繁栄にとって不可欠である。同時に、日中間の経済連携の強化は、東アジア(経済)共同体の構築に向けて不可欠のステップである。
2001年12月のWTO加盟以来、中国政府は、関連法制度の整備・改正等、WTO加盟約束の完全な遵守に向けた努力を続けており、わが国経済界としては、こうした取組みを評価している。今後についても、各種許認可等の手続の簡素化・迅速化、透明性の向上等、法制度の運用面の改善をはじめ、改革が加速されることを強く期待している。
こうした観点から、ASEANとの間でそれぞれFTAにより線として結ばれる日中韓の間において、ビジネス環境の整備に向けて、FTAおよび投資協定を早期に締結すべきである。日中韓FTAの実現に向けては、既存の共同研究のメカニズムを通じ、特に、知的財産権保護、競争政策等に関する協力のあり方を含めた研究を進め、早期に産学官の研究会に移行することが有益である。

(5)日米EPAの意義

東アジア地域の統合は、閉ざされたものではなく、他国・地域に開かれたものであることが重要である。特に米国は、政治、経済両面において、東アジアにおける安定と繁栄に重要な役割を果たしており、日米EPAは、東アジア(経済)共同体と米国との橋渡しともなるものである。また、日米EPAは、APECにおけるFTAAPの実現に向けた基盤となりうるものである。東アジア経済連携の模範となるよう、質の高く包括的な協定内容を目指すべきである。
こうした観点から、東アジア(経済)共同体形成と並行して日米EPAを実現し、政治面・経済面での紐帯を強化していくことが重要である。

(6)APECの枠組の活用

開かれた地域統合の実現という観点からは、ASEAN+6を基礎とする経済統合の推進とともに、APECの枠組の活用も重要である。アジア太平洋地域における経済統合の促進を図るべく、APECにおけるFTAAPに向けた議論も活性化すべきである。
特に2010年は、先進メンバーが自由で開かれた貿易・投資の自由化実現を謳ったボゴール宣言 #15 の目標達成の年であり、同年議長を務める日本は、早急に体制を整備するとともに戦略を策定し、リーダーシップを発揮することが求められる。経済界としてもAPECビジネス諮問委員会(ABAC)を通じてAPECプロセスに主体的に参画し、発信力を高めていく。

2.グローバル・ビジネス環境の整備

第1部において指摘した通り、対外経済戦略で重視すべき観点として、ビジネス環境を総合的に改善するための基盤整備の推進が重要となっている。
本来、単一の制度がグローバルに適用されることが最も望ましい。わが国の貿易・投資環境において重要な課題、特に世界規模で対処が必要な課題については、可能な限りグローバル規模での取組みを進めていくべきである。
そのためにわが国は、グローバルなアジェンダ設定とルールメイキングにおいて、主導力を発揮していくことが求められる。その際、わが国と共通のルール構築・協力を進める国々があれば、協力が可能となる。

(1)WTOの維持・強化およびドーハ・ラウンドの早期妥結

GATT(1947年の貿易及び関税に関する一般協定)を前身とするWTOは、物品貿易だけでなく、サービス貿易、知的財産権の貿易関連側面等を含む広範な国際経済活動を規律する国際機関として、1995年に設立された。WTOは整備された紛争解決手続き #16 を有することを特徴としており、紛争解決手続きの利用もGATT時代に比して増加していることから、WTOの紛争解決手続きに対する加盟各国の信頼は厚いことがうかがえる。
このような紛争解決手続を備え、加盟国間の自由化とルールの形成を実現するWTOは、グローバル規模での自由かつ円滑な経済活動を支える制度的基盤となるものである。
2001年に開始されたドーハ・ラウンドにおいて、わが国経済界が重視する交渉分野は、農業、鉱工業品等、サービスの自由化、アンチ・ダンピング等ルールの改訂、貿易円滑化、開発等である #17。これまでの交渉成果を無にすることのないよう、早期妥結に向けて不退転の決意で臨む必要がある。その上で、さらなる自由化とルールの整備を目指し、新たなラウンドの立ち上げと、投資、競争政策などわが国経済界が関心を有する分野への交渉範囲の拡大を目指すべきである。
また、WTO紛争解決手続等を通じ、既存のルールの履行確保と多角的自由貿易体制の維持を図ることも重要な課題である。欧州における情報技術協定(ITA) #18 対象製品への恣意的課税問題などをはじめ、現行のルールが履行されない例が散見される。ルールの不履行を放置すれば、他の加盟国の規範意識が低下したり、他の分野における違反を誘発したりする恐れもある。わが国政府には、WTO紛争解決機関への提訴も含め、各国の不公正貿易措置の是正に向けて、積極的な働きかけを求めたい。民間企業としても、他国の不公正措置の是正に向けて、必要に応じWTO提訴の申立を含め、わが国政府、関係国政府等に措置の是正に向けた取組みを働きかけていくことが重要である。

(2)日米、日EU EPA等の推進

戦略的に重要な国・地域との間で、EPA/FTAを推進し、WTOよりも高度かつ広範な自由化、ルールの整備を追求することは、グローバルな競争に遅れをとることなく、国内企業の競争力強化に必要な環境を形成する上で不可欠である。
まずは、経団連が従来主張してきた通り、東アジア諸国(インド、韓国、ベトナム)および資源・エネルギー、食料の供給国(豪州、湾岸協力会議(GCC))とのEPA/FTAの早期妥結に重点を置くべきである。
さらに今後は、次のような国・地域も優先的に交渉すべき相手先として勘案する必要がある。
第一に、わが国にとって重要な輸出先、投資先となっている、あるいはわが国からの輸出や投資に対し高い障壁を設けているなど、EPAの締結によって貿易・投資の拡大・円滑化が期待できる国・地域である。
第二に、特にわが国と競争関係にある産業分野を多く有する国が既にFTAを締結済みか、締結に向けて交渉中の国・地域である。わが国が経済的不利益を被ることのないよう、一刻も早い交渉の開始が求められる。
第三に、わが国と共通の価値観を有している、あるいは、わが国の総合的な安全保障を確保する上で重要な国・地域など政治・安全保障上の配慮から関係の維持・強化が求められる国・地域である。EPAは、関税・非関税障壁の撤廃だけでなく、投資、競争、環境、貿易救済措置等、広範な内容を含むことから、経済面にとどまらず、政治・安全保障を含む総合的な二国間関係の強化にも資するものとなる。
米国、EU #19 は、わが国にとって第一、第二の輸出先および直接投資先 #20 であるとともに、民主主義、法の支配、市場経済といった基本的な価値観をわが国と共有している。特に米国については、日米同盟がわが国の政治・安全保障の基軸である。また、わが国と競争関係にある産業分野を多く有する韓国が、本年6月末に米国とのFTAの署名に至り、5月よりEUともFTA交渉を開始したことから、両国の市場において、わが国の主要産業が競争関係にある韓国との間で競争条件の格差 #21 が生じる可能性が高まっている。
したがって、上記の三条件を満たす米国・EUとのEPAについて、政府間共同研究の開始が急務である。
加えて、グローバルな制度の構築や課題の解決に向けては、市場アクセスをはじめ、投資、競争、環境、貿易救済措置制度等に関する二国間EPA/FTAの内容が模範となりうることから、米国、EUとのEPA交渉を通じて、わが国経済界の主張をグローバルな制度の構築に反映していくことも重要である #22

(3)分野別協定の推進

EPA/FTAではなく、相手国・地域との関係に応じて、投資協定、相互承認協定等、その他経済連携のための手段を選択していくことも必要である。
また、租税条約、社会保障協定等については、わが国と経済関係が緊密な国、将来の関係の緊密化を期待する国々との間で、積極的に交渉を進めることを望む。
特に、移転価格税制の適用により発生する国際的二重課税については、租税条約に基づき、当局間の相互協議により解決が図られることとされているものの、実際には、合意に長い期間を要したり、合意に至らず二重課税が解消されない場合もある。企業の自由な事業展開を促進するよう、EPAや租税条約において、当局間の合意に向けた相互協議の迅速かつ円滑な実施を保障すべきである。本年2月にOECDから公表された、国際的二重課税の新たな紛争解決手法である仲裁制度についても検討を進める必要がある。
また、移転価格税制の適用による二重課税発生のリスクを回避するためには、APA(事前確認制度)が有効であり、有形資産および無形資産の利益配分など、企業の取引実態に即した事前確認が円滑に行われることが重要である。
併せて、日本国内における執行面では、本年改訂された新たな事務運営要領の下で、当局と企業の間の見解の相違が解消され、特に無形資産や役務提供取引の取扱について混乱の無い執行が行われ、運用面においても国際的な整合性が確保されることが強く望まれる。

(4)貿易・投資以外のグローバル課題

WTO、EPA/FTAの枠組のみでは必ずしも充分目的が達成できないグローバルな課題については、下記の点を特に重視すべきである。

  1. 1.知的財産権の保護
    知的財産保護は、グローバルな視点での対処が必要な重要課題の一つであり、特に、模倣品・海賊版対策が喫緊の課題である。途上国において市場に占める模倣品・海賊版の割合が高いが、こうした模倣品・海賊版が世界各国へ流通する例が増加している。
    効果的に被害を防止するためには、侵害が発生している、または、模倣品・海賊版が製造されている国や地域における取締りの強化、流通各国における水際での取締りの強化、知的財産権法の整備、「模倣品・海賊版拡散防止条約」(仮称)の実現に向けた取組み等、継続的な対策の実行が不可欠である。併せて、権利としての知的財産の重要性や模倣品の安全面等に関する知識の啓蒙も進めていく必要がある。
    特に、EPA交渉の過程においては、模倣品・海賊版対策の観点から知的財産権保護のための実体法整備を促すとともに、実効的なエンフォースメントを確保するための条項(模倣品・海賊版の取締りや罰則強化等)を盛り込むよう交渉すべきである。また、欧米等先進国との間で、EPA等の枠組を活用し、第三国における知的財産権保護対策の協力も進めていくべきである。
    また、特許制度は、国ごとに整備されてきた経緯から、現在でも属地主義が原則とされているが、一方で特許制度の活用はグローバルに行われている。審査の効率化、迅速化の観点から、日米欧を中心に、審査協力、相互承認という段階を踏んで世界特許システムへの動きを加速すべきである。その際、相互承認を進める上でも、各国の審査クオリティの統一を積極的に進めるべきである。
    昨年11月に開催された日米欧三極特許庁および三極ユーザー会合、特許制度調和に関する先進国会合作業部会等の結果を踏まえ、日米欧三極における取組みを軸に、制度や手続の国際的調和への取組みを引続き進めていくべきである。特に、米国における先発明主義の見直しの動きを促していくことが重要である。

  2. 2.資源・エネルギーの安定供給確保
    資源・エネルギーを輸入に依存するわが国において、昨今のエネルギー需要の増大、需要国におけるエネルギー確保に向けた積極的な活動や資源国における管理強化を背景として、資源・エネルギーの安定供給確保のための外交の重要性が高まっている。
    わが国においては、「新国家エネルギー戦略」(2006年5月31日)をとりまとめ、エネルギー安全保障の確立を目指し、資源外交・エネルギー環境協力の総合的強化等を推進している。首脳外交を中心とした官民が一体となった取組みの事例も増加してきており、評価できる。今後は、官民において、明確な役割分担のもとでさらに連携を深めるとともに、首脳外交の効果的な推進のため、官民での戦略の共有化と具体化を図ることに重点を置くべきである。
    既にブルネイ、インドネシアとの間でエネルギー・鉱物資源章が盛り込まれたEPAが署名されているが、わが国としては、今後とも、現在交渉中である豪州、GCCをはじめ、資源供給国に対して、EPA/FTA等を通じ、相互の協力のもと、エネルギーの開発・輸入事業に関する環境整備を推進していく必要がある。具体的には、輸出税・輸出規制の導入防止、新規投資の際の国内供給要件の排除、政策変更に対する事前通知、資源開発許可等に関する法制度・行政手続の円滑化・透明化等を通じ、資源関連事業の予見可能性、安定性を高めていくことが重要である。
    わが国の交渉力を高めていく上で、エネルギー関連技術、ノウハウなどわが国の強みを戦略的に活用し、資源国におけるエネルギーの有効活用、代替エネルギー開発、省エネなどを促進することも重要である。
    アジア地域においては、石油備蓄制度構築への積極的な協力や、エネルギーの効率利用等、域内のエネルギー問題を協議する消費国間対話の枠組(アジア版IEA)の設置も検討すべきである。
    また、消費国間での資源の争奪から脱却し、資源の共同開発等により、消費国がともに共通課題の克服を図っていくことが有益である。中国など大規模需要国は、国家戦略として資源・エネルギーの確保を進めており、わが国としても官民一体となった需要国との協力が欠かせない。
    こうした資源外交・エネルギー協力の取組みと併せ、強固な資源・エネルギー需給構造の実現に向けた取組みも重要である。技術力を梃子とした各国へのエネルギー・環境関連技術面での協力を通じ、需給の緩和を推進していくべきである。

  3. 3.地球温暖化問題への対応
    地球温暖化は、人類発展の基盤に関わる最も重要な問題の一つであり、人類全体が一丸となって、実効ある対策を長期にわたり講じていくことが必要である。
    こうした認識の下、経団連では、本年4月、「京都議定書後の地球温暖化問題に関する国際枠組構築に向けて」を発表し、京都議定書後の国際枠組は、全ての主要排出国が参加しやすく、環境と経済が両立し得るものとする必要がある旨提言した。この提言の内容は、i) 全ての主要排出国の参加、ii) 柔軟で多様な枠組、iii) 環境と経済成長の両立という日本政府の「三原則」に反映されたところである。
    本年6月のG8ハイリゲンダム・サミットにおいては、京都議定書後の国際枠組について、再来年中に国連の枠組みで合意が行われるよう、2008年中に主要排出国が合意に達することが必要であるとされた。今後、2008年末までの主要国間の合意に向けて、2008年7月の洞爺湖サミットを含めさまざまな国際会議の場で、京都議定書後の地球温暖化防止の国際枠組について検討が行われる予定である。
    こうした状況に鑑み、経団連では、京都議定書後の国際枠組に関するより具体的な提言として、各国が自らの判断で自発的な地球温暖化対策を講じられる仕組みを提案し、主要排出国の参加を図るとともに、具体的な地球温暖化対策の方策として、i) 複数の国・地域でセクター毎に、(ア) ノウハウやBAT(Best Available Technology)を共有し、(イ) 共通のベンチマーク(エネルギー効率ベース)を設定し、(ウ) それに到達するための途上国支援のあり方やセクター間連携のあり方等について定めるセクトラル・アプローチの採用、ii) 志のある途上国に対して効果的に資金や技術を提供するメカニズムの導入、iii) 低炭素技術、原子力、新エネルギー技術等の既存技術の普及はもとより、例えば、低CO2発電技術、水素エネルギー、次世代原子力といった革新的技術開発の推進等を内容とする提案をとりまとめた。日本政府においては、こうした経団連の提言を踏まえ、国際枠組の構築に向けた今後の議論を主導していくべきである。

  4. 4.規格・ルールの国際標準化
    国際市場での規格やルールは、特定の国の規格やルールがベースとなって作られることが少なくなく、その内容によっては、民間企業の事業活動に多大な影響を及ぼす恐れがある。例えば、欧州を中心に、自国発の技術・規格・ルールを国際標準とするための動きが戦略的に展開されているが、国際標準とされた規格やルールとわが国の従来の基準との間に齟齬があれば、市場における競争力を決定的に損ないかねない。
    技術の国際標準化に関し、経団連では、2004 年に「戦略的な国際標準化の推進に関する提言」をとりまとめ、国際標準化活動の統括部署の設置、国際標準化に携わる人材の積極的な評価、国際標準化提案への積極的取組み等、国際標準化活動における企業の果たすべき役割を指摘するとともに、技術の国際標準化に関する各国の戦略分析、国際標準化の観点から取組みを強化すべき研究開発課題の抽出等、経団連として今後取り組む技術の国際標準化に関する活動について、2007年5月、アクション・プランとしてとりまとめ、産業界における意識の向上に取り組んでいる。また、政府は、国際標準総合戦略の策定や、国際標準化支援センターの設立等、環境整備に取り組んできている。
    最近では、アジア諸国における独自の規格策定、知的財産権と国際標準化との連携の強化といった新しい動きも起こっており、政府が先にとりまとめた国際標準総合戦略をもとに、官民が連携して、国際標準化への取組みを一段と強化していく必要がある。
    民間企業の事業活動に影響があるのは、技術の国際標準化に留まらない。健康・環境・安全基準、セキュリティ、物流等の規制面、また、会計基準等制度面においても、わが国が国際標準化に主導力を発揮すべく、戦略的取組みが必要である。
    特に、東アジアにおける規格、ルールの国際調和に、わが国が積極的な役割を果たすとともに、規格、ルールの調和について、EPAにおいて取り上げることを検討すべきである。また、中長期観点から、国際標準化機関などとの間での人材の交流を積極的に進めるべきである。

(5)ODA等の戦略的活用

わが国が通商政策を効果的・戦略的に推進するためには、ODA等の活用が不可欠である。ODA等による途上国の経済・社会インフラ整備、人材育成、制度構築は、ビジネス展開上のコストやリスクを低減することによって、途上国の自立的かつ持続的な経済発展に寄与するとともに、わが国企業の貿易や投資などの経済活動を活性化する。こうした取組みは、世界全体の成長と安定に資するものである。
わが国政府においては、自国の戦後復興の歴史や東アジアにおける開発経験を踏まえ「経済成長に資するODA」をこれまで以上に実施すべきである。他方、東アジア地域において、資源・食料・水の安定供給確保、省エネ、エネルギーの有効活用、代替エネルギー開発、自然災害への対応等の面における貢献も重要な課題である。

3.国内制度の整備・改革

わが国においては、内外の企業を惹きつけわが国の経済成長を支えるために必要な制度の整備が不充分である。特に下記の諸制度・措置について、速やかな実現を期待する。

(1)貿易・投資インフラの整備、手続の簡素化・円滑化
  1. 1.ハード・ソフト両面からの国際物流インフラの整備
    わが国の貿易に関する制度・インフラについては、依然として多くの課題が残されており、アジア諸国などに比べると、改革のスピードや企業ニーズへの対応という点において優位性を失っている。近年、アジア諸国が港湾・空港などの物流インフラをダイナミックに拡充し、国際貨物の取扱量を大幅に増やしており、わが国港湾・空港の地位は相対的に低下しつつある。例えば、韓国では、90年代から「北東アジア物流ハブ構想」を掲げ、輸出時の保税搬入原則を廃止するなど、政府・自治体など関係者が一丸となって効率的な国際物流を具現化する政策に取り組んできた。こうした官の意識の違いが日韓間の国際物流における地位の格差に表れているといえる。
    通商戦略上の兵站基地とも言うべき物流インフラは、中長期的な見地からハード面のみならずソフト面も含めて絶えず見直していく必要がある。特に、主要な港湾間・空港間の広域的な連携をより強化し、ポートオーソリティ化するなどにより、ユーザーたる企業にとって利便性の高いものにする必要がある。

  2. 2.保税搬入原則など通関制度の抜本的見直し
    わが国が円滑な貿易・投資制度の構築に向けて主導的な役割を発揮するためには、まず、わが国内部において国際物流に関する制度の抜本的な改革をスピーディに実現することが重要である。そのためには、関係省庁が連携を強めるとともに、ユーザーたる企業の視点に立ってサプライチェーンの流れに即した制度や手続、システムに改める必要がある #23
    そこで、わが国としては、骨太の方針2007に基づく改革 #24 を速やかに実現に移すことが重要である。特に、物流の効率化を推進する観点からは、リードタイム短縮・コスト削減が喫緊の課題であり、特定輸出申告制度、簡易申告制度の一部見直しにとどまらず、米国や韓国など先進諸国の状況を参考に、輸出時の保税搬入原則の廃止など通関制度の原則に踏み込んだ関税法の抜本的な改正を実現すべきである。また、2008年10月に完成する予定の次世代シングルウィンドウ・システムに関しても、利用者にとって利便性の高い、真の意味でのワンストップ・サービスを提供できるシステムとするよう、絶えず改善を図るべきである。

  3. 3.セキュリティ関連制度の相互認証の推進
    輸出貨物に関する物流効率化は、わが国に立地する産業の国際競争力を大きく左右するものであり、主要貿易相手国において、わが国からの輸出貨物が円滑かつ迅速な取り扱いを受けられることを目指し、そのために求められる貨物セキュリティ管理について、各国と協力し、制度的・実体的に確保していく必要がある。
    アジア・ゲートウェイ戦略会議「貿易手続改革プログラム」においては、「貨物セキュリティ管理に関する国際連携に向けて、わが国のコンプライアンス制度の充実、貨物セキュリティ管理の確保等を官民で検討する」と位置付けられており(2007年以降継続実施)、「日本版AEO制度」 #25 の構築が掲げられている。また、米国との間で、セキュリティ関連制度の構築とその相互認証の可能性を含め、「安全かつ円滑な貿易」に関するスタディ・グループならびに日米間における既存の枠組みにおいて、議論を推進するとされている。また、EUおよびアジア等の主要貿易相手国との間でも、一層の国際連携に向け、政府間対話を強化するとされている。
    こうした方針に基づき、わが国において、世界税関機構(WCO) #26 で合意されたAEO/ACI #27 政策に準拠した形で「日本版AEO制度」の構築を進め、米、EUとの間でこれと同等のセキュリティ関連制度との相互認証を早期に実現するとともに、他の主要国間でも同様の取組みに着手すべきである。

  4. 4.利便性の高い原産地証明制度の確立
    わが国の貿易・投資インフラの重要な一部であるEPA/FTAの利用促進を図るため、利便性の高い原産地証明制度の確立が急務である。アジア・ゲートウェイ戦略会議「貿易手続改革プログラム」において、EPA/FTAに基づく原産地証明制度について、発給手続の簡素化・迅速化は重要な課題であり、使い勝手の良い制度・運用に向けた改善を図っていくこととされており、具体例として、「判定制度の改善や発給申請段階での簡素化」などが挙げられている。これを受けて、原産地証明法施行規則の改正が行われただけでなく、当局により、原産地証明制度の改革に向けて民間も交えて議論が行われていることは評価すべき点である。
    政府においては、引き続き民間を交えた議論を進め、発給主体の多様化、手数料の弾力化、自己証明等の導入等を含む特定原産地証明制度の再設計に速やかに着手するとともに、紙ベースでの手続を見直すなど、原産地証明書発給制度の基盤強化に取り組むことを期待する。
    また、今後わが国が取り組むEPA/FTA交渉においては、関税分類変更基準と加工工程基準、付加価値基準の選択性の確保、手続の簡便な累積原産ルールの確立を図ることを望む。

(2)不公正貿易措置の是正および貿易救済措置に関する制度整備

他国の不公正貿易措置を効果的に是正するとともに、貿易救済措置を適切に発動する観点から、他国の不公正措置の是正および貿易救済措置(アンチ・ダンピング、セーフガード等)の発動のための制度を貿易立国にふさわしいものとし、活用を図ることが重要である。制度の不備や迅速な対応の遅れにより、新たな不公正貿易措置を誘発したり、輸入急増被害を拡大することのないよう、十全な体制を構築しておく必要がある。

  1. 1.不公正貿易措置等に対する調査開始申立制度の整備
    「外国政府の不公正通商措置等に対する調査開始申立制度の整備を求める」(2004年2月13日) #28 をはじめ、経団連が提言してきた通り、わが国において、外国政府の不公正貿易措置等に対する調査開始申立に関する法律を制定し、国内事業者による申立を法的に可能とする制度を構築する必要がある。欧米だけでなく、中国、韓国においても同様の制度が整備されている #29
    このような手続の不備により、海外事業活動の安定性が損なわれるだけでなく、わが国企業の外国政府に対する交渉力が削がれることになる。手続きの整備を通じ、不公正貿易措置の是正に国民が参加する機会を拡大することは、行政の透明性や公正性を高める上でも重要である。

  2. 2.貿易救済措置の発動のための制度整備
    中国等新興市場国が競争力をつける一方で、通商救済措置(アンチ・ダンピング税、セーフガード等)の発動を増加させる中、わが国の通商救済措置の利用件数は極端に少ない。輸入急増被害に対してWTOルールに基づいて認められる緊急避難措置として、充分に活用されているとは言いがたい。
    アンチ・ダンピングに関しては、わが国における調査申立要件とWTOのアンチ・ダンピング協定との適合性を国内法的に担保すべきである。わが国の関税定率法においては、調査開始のためには提訴企業が十分な証拠を揃える必要があるとされている。他方、WTO協定上は、合理的証拠があれば調査開始できることとされている。WTO協定と同一の要件となるよう関税定率法の改正が求められる #30
    セーフガードに関しては、わが国においては政府のみが調査開始権限を有し、民間企業等の申立権が明文化されていない #31。民間の主体に申立権を付与するとともに、発動までの公正かつ透明な手続を整備すべきである。また、現行制度においては、発動方法が関税措置(関税定率法)と数量制限(外国為替および外国貿易法)とに分かれており、所轄官庁も異なっている。そのため、現状のままでは、民間企業等に申立権が与えられたとしても、申立者が自ら関税措置か数量制限かを選択しなければならない。輸入急増被害に適切に対処するためには、WTOのセーフガード協定に沿った、セーフガード措置の調査・発動に関する統一的な法制を整備すべきである。

(3)国内改革の推進、競争力の強化

わが国が国際化に対応しつつ持続的成長を遂げるためには、国内産業の競争力強化、構造改革を着実に進めていく必要がある。各国との貿易・投資関係を拡大するためには、WTOを通じたグローバルな自由化・ルールの整備を推進するとともに、EPAその他個別の協定を通じて互恵的な関係の構築を実現する必要がある。そのためには、交渉相手国の関心分野を中心として、わが国の自由化や制度の改善に最大限配慮することが必要である。わが国は、貿易・投資障壁を維持すべき部分、新たな貿易・投資を受け入れるにあたり国内制度が不備な部分を早急に特定したうえで、必要な国内改革を実現し対策を実施しなければならない。

  1. 1.農業構造改革の加速化
    WTO、EPA/FTA交渉において、しばしば焦点と指摘される農業分野について、経団連は、かねてより構造改革の促進を指摘してきた #32
    わが国が通商立国としてWTO/EPA交渉に一層積極的に関与していくためには、農業の特性や食料安全保障等の重要性を踏まえつつ、構造改革への取り組みを加速化し国際化に対応した競争力のある農業の確立が急務となっている。かかる観点から、ビジョン「希望の国、日本」においては、今後5年間に重点的に講じるべき方策として、農地の所有と利用の分離、新規参入の促進、担い手への対策の重点化、食料供給コストの縮減、農林水産物の輸出促進などを指摘したところである。
    これらのうち、担い手への施策の重点化に関しては、本年4月に施行された「担い手経営安定新法」により意欲と能力のある担い手に限定した品目横断的経営安定対策が既に実施されている。また、昨年9月には農林水産省が「食料供給コスト縮減アクションプラン」をとりまとめており、その着実な実施が期待されている。農林水産物の輸出促進についても、本年6月に中国向けのコメの輸出が再開されるなど、2013年までにわが国農林水産物・食品の輸出額を1兆円規模とすることを目標に、国をあげた取組みが進められている。一方、農地の所有と利用の分離については、経済財政諮問会議等での議論を踏まえて閣議決定された骨太方針2007での指摘の通り、本年秋までに政府がとりまとめる農地に関する改革案作りでの主要課題となっている。
    経団連では、わが国農業の国際競争力の強化を図り産業として農業を活性化するための残された最大の課題は農地制度改革であり、その柱は農地の所有と利用を分離し農地の有効利用を徹底した上で、農業経営の高度化・多角化や新規参入を促進し多様で経営感覚に優れた担い手を確保するとともに、農業経営の規模拡大と農地の面的集積を支援し経営の効率化と生産性の向上を図っていくことであると考えている。同時に、国際化への対応と健全な国内農業とを両立させる方策の確立も急務であり、現在、農政問題委員会において、これらの具体策等を検討しているところである。

  2. 2.外国人材の受入れ拡大、人の移動の自由化・円滑化
    外国人材の受入れは、企業のグローバルな事業展開を円滑化するとともに、わが国経済の活性化や競争基盤の強化等に資するものである。
    同時に、アジア諸国とのEPAにおいては、わが国農産物市場のアクセス改善とともに外国人材の受け入れ拡大も強く求められている。例えば、これまでのEPA交渉においては、看護師・介護士の受け入れ(日・フィリピン)、料理人の在留資格要件の緩和等(日・タイ)、外国人研修・技能実習制度の範囲拡大等(日・インドネシア)が合意され、また、現在交渉中のベトナムやインドとのEPAにおいても、様々な要望が出されている。これらに積極的に対応していくことは、わが国にとって重要な国・地域との間で、EPAを通じてWIN−WINの関係を構築していく上でも不可欠である。
    かかる観点から、わが国が積極的に受け入れるとされている「専門的・技術的分野」の外国人材については、その在留資格要件などを緩和するとともに、「専門的・技術的分野」の範囲を見直すことにより、これまで「専門的・技術的分野」と看做されなかった人材についても、一定の技能・資格・日本語能力等を要件としてわが国での就労を認めるべきである。特に、以下の点において国内の受入れ体制を早急に整備することが求められる。
    第一に、看護師・介護士に関しては、日フィリピンEPAで合意した枠組みを他の関心国にも積極的に適用していくとともに、より多くの看護師・介護士の受け入れが可能となるよう、看護師については「7年以内の研修としての業務」という制限の緩和等を通じて、また、現在、「専門的・技術的分野」と看做されていない介護士については、日本の資格取得等を条件に在留資格を整備することにより、EPA当事国以外にも受け入れの門戸を開くべきである。
    第二に、外国人研修・技能実習制度については、「外国人研修・技能実習制度の見直しに関する提言」 <PDF>(2007年9月)において指摘した通り、送り出し機関・受け入れ機関の適正化や不正行為に対する罰則強化等とともに、制度の適正運用に向けた各種のインセンティブ措置を講じることが必要である。とりわけ、日インドネシアEPAで継続協議となった研修・技能実習期間の延長や技能実習修了後の就労についても、技能実習生の技能習得のインセンティブとなるような制度改革が求められる。具体的には、3年間の研修・技能実習期間修了後の再技能実習を制度化するとともに、これらを通じてより高度な技能等を習得した者については、「専門的・技術的分野」の人材として「技能」の在留資格を付与し、引き続き国内での就労を認めるべきである。
    第三に、インドなどが要望している企業間の契約に基づく専門人材の受け入れについては、基準省令で定める「研究」「技術」「人文知識・国際業務」の在留資格要件を満たす場合、当該企業間の契約があれば、受け入れ企業と外国人材との直接雇用契約がなくても長期的に招聘できるよう制度の改善が必要である。
    第四に、外国人に日本の社会とそれを支えるシステム・制度を理解し適応してもらうとともに、国、地方自治体が一体となって受け入れ体制を整備する必要がある。同時に、外国人留学生の拡大・質的向上と日本国内における就職の促進拡大、外国人留学生の生活居住環境の整備等外国人の居住環境の改善が求められる。
    また、海外拠点間における人の移動を容易化することも重要である。昨今、日本企業の海外拠点においては、専門的・技術的人材にとどまらず、管理職・事務職としての人材の雇用を拡大しており、これらの人材のグローバルな配置転換を迅速に実施することが必要となっている。わが国とのEPAによって域内の人の移動の自由化・円滑化を図るだけでなく、WTOサービス貿易自由化交渉を通じ、日本以外の第三国間での人の移動の自由化を推進することが重要である。特に、「WTO新ラウンド交渉の成功を望む」(2006年6月20日)等において指摘した通り、企業間および個人と企業との直接契約に基づく専門的・技術的な分野の人の移動、教育訓練や能力開発目的を含む全ての企業内移動および一時的な滞在について、加盟国の自由化約束を得るべく交渉すべきである。
    また今後は、海外拠点における日本企業の人材確保の円滑化につながるよう、日本語教育の充実等を図っていく必要がある。

  3. 3.金融市場改革の推進
    日本の金融市場は、ロンドン、ニューヨークとの市場制度間競争に遅れをとるばかりでなく、シンガポール、香港が市場の競争力を増すアジアの中でも存在感が低下しつつある。
    わが国としては、早急に制度・システム面での改革を進め、国際的に魅力ある市場を構築することが求められる。ビジョン「希望の国、日本」において指摘した通り、東京市場の国際競争力強化、「貯蓄から投資へ」の流れを後押しするための金融・証券税制の適切な見直しを進めることが重要である。また、ガイドライン等を含む金融関連法制、およびその解釈・運用の透明性の向上、会計基準の各国間での相互承認も課題である。

  4. 4.対内直接投資の拡大
    自由かつ高付加価値の企業活動を保障する国内投資環境の整備によって、わが国市場の魅力を高めることは、外国企業等による対内投資の促進にもつながるものである。対内投資により、多くの場合、資本だけでなく新たなビジネスモデル、新技術・新素材および経営ノウハウといった企業の貴重な経営資源が国境を越えることで、国内雇用を創出する効果がもたらされる。同時に、企業間取引の活発化により、各国との経済関係を拡大させる効果も有する。また、国内産業空洞化の防止や、競争の活発化による経済効率化、産業の高度化を促す効果が期待できる。こうした効果をもたらす対内直接投資は、受入国たるわが国の経済活性化に好影響を与えることから、歓迎されるものである。
    わが国においては、このような対日直接投資がわが国経済にとって有益であることから、1994年に対日投資会議を設置し、その促進に努めており、投資残高は着実に増加してきた。骨太の方針2006においては、さらにこれを推し進め、「2010年に対GDP比倍増となる5%程度の対日投資受入れを目指す」としている。
    こうした目標のもと、わが国としては、物流・流通・通信および社会資本整備等の効率化・低コスト化、法人実効税率の引下げや研究開発などの投資促進、移転価格税制など国際税制の整備を含む税制改革、行政手続の簡素化・迅速化・恣意性の排除等を通じ、国際的に魅力ある事業環境整備に向けた取組みを継続する必要がある。また、わが国が推進するEPA/FTA、社会保障協定、租税条約の締結も、わが国の国際的な魅力向上に資するものである。
    他方で、わが国全体の国際競争力が失われ、国益を損なう事態につながる恐れのある対内直接投資に関し、欧米等他国と比較して脆弱性が存在する部分については、同等の制度を確立することが必要である。

  5. 5.その他の分野における国内構造改革・制度整備の推進
    WTOを通じたグローバルな自由化・ルールの整備を推進するとともに、EPA・その他個別の協定を通じて互恵的な関係の構築を実現するためには、交渉相手国の関心分野を中心として、わが国の自由化や制度の改善に最大限配慮することが必要である。上記の分野以外においても、必要な改革を推進すべきである。
    他方、改革を通じた国境措置の縮小や制度改正により、従来期待された機能が発揮できなくなる可能性がある。その際には、当該機能の必要性、影響を検証し、真に必要な対策を講じていくことが重要である。

第3部 対外経済戦略推進体制の整備

第2部で提示した戦略を実現するためには、戦略の構築体制の整備、対外的な発信力、交渉力、連携力の強化が必要である。

1.対外交渉および国内調整権限の一本化

わが国に必要な対外経済戦略を総合的に捉え、一体的に解決していくためには、過去の提言 #33 において重ねて指摘してきた通り、内閣総理大臣のリーダーシップの下、各省の利害を超え真の国益を総合的に判断する場を設け、包括的な権限を持った機関が責任をもって実行に移すことが重要である。それを可能にするためには、省庁横断的な「司令塔」を内閣に設置することが必要不可欠である。そこで、内閣総理大臣を本部長とし、WTO・EPA/FTA交渉を含め対外経済戦略等を所管する「対外経済戦略特命担当大臣」(仮称)を本部長代理として、「対外経済戦略推進本部」(仮称)を内閣に創設し、官邸主導による対外交渉および国内調整権限の一本化を図るべきである。将来的には、行政の効率化の観点から、各省に並存する対外経済交渉部門を移管・集約することも視野に入れなければならない。  併せて、対外経済戦略を総合的・専門的見地から決定するにあたり、内閣総理大臣・対外経済戦略特命担当大臣の諮問に応じて、対外経済戦略全般の運営の基本方針および各分野の重要事項・個別分野ごとの方針についての調査審議を行い、意見を述べる機関として、「対外経済戦略諮問会議」(仮称)を設置すべきである。同会議は、実務的、専門的見地から意見を述べる民間企業、個人事業主、有識者、消費者等、民間部門からの知恵を結集する機関とすべきである。

2.官民の連携推進による外交力の強化

企業の立場や視点を反映した対外経済戦略の構築・実現のためには、各種対外交渉にあたり、民間企業の意見を継続的に取り入れることが不可欠であり、上記の対外経済戦略諮問会議を中心に一層の官民の連携強化が求められる。  在外公館はじめ各種関連組織の幹部への民間人の積極的登用、首脳外交における経済人の同行のより戦略的な活用も不可欠である。  骨太の方針2007においては、「経済連携の推進、戦略的な援助の充実、対外発信力の発揮、資源・エネルギーの確保などの政府の対外的機能について、在外公館、マンパワー等の外交実施体制を中核とし、総合的な外交力を強化する必要がある」とされている。これを実現するためには、官民が具体的内容を共有するとともに、綿密にすり合わせ、一体となって交渉にあたることが求められる。  なお、国際的な発言力を増す上では、わが国の官民双方から優秀な人材を確保し、国際機関における要職への就任を促進していくことも重要である。

3.民の発信力の向上

わが国の外交力の強化に向けて、民間企業としても、政府との連携を強め、積極的に働きかけを行っていかなければならない。そのためには、各企業が専門的見地からの発信力をさらに強化していく必要がある。  日本政府に対してだけでなく、進出先の現地政府等に対しても、在外公館や現地の経済界等とも協力・連携を図りつつ、意見を発信していくべきである。  わが国経済界は、国際経済秩序の構築に主体的に参画していく責務を自覚し、国際的な会議・交渉の場その他を通じ、経済界の意見をこれまで以上に発信していくよう努める所存である。

おわりに

わが国企業をとりまく経済環境は急激に変化し、グローバルな企業の競争は厳しさを増している。また、各国政府が自国に有利な制度の構築を加速させる中、わが国の対応の遅れはわが国企業のビジネスにとって死活的な影響をもたらしかねない。  わが国政府・国会においては、こうしたわが国の現状を認識し、強い危機感をもって、世界を主導する対外経済戦略を構築し実現することを切に望むものである。  そのために民間経済界としても、発信能力の強化等に努め、わが国の国益に沿った対外経済戦略の構築と実現に向けて、必要な支援を惜しまない覚悟である。

以上

  1. 日系現地法人の進出状況をみると、1996年に全世界で18,223社であったのが、2006年には21,266社に拡大した。地域別では、アジアが8,813社から12,610社(+3797社)、欧州が3,433社から3349社(▲84社)、北米が4,118社から3,636社(▲482社)中南米が921社から867社(▲54社)。特に、中国は+2688社(+129%)、韓国は+276社(+64.3%)、タイは+384社(+32.2%)。(東洋経済新報社「海外進出企業総覧」2007、1997)
  2. 平成19年版通商白書(経済産業省)第2-5図
  3. 同上 第1-5図
  4. AJCEPの大筋合意内容において、投資・サービス分野については、将来的な地域レベルの自由化に向けた基盤整備を目指すとされている。
  5. WTOに通知されたFTA等の地域協定の件数は、1990年には27件に過ぎなかったが、2001年には約160件、2007年7月時点では380件に拡大している。WTOに通知されないFTAを含め、現在交渉中・未発効のFTAを勘案すると、2010年までに400件近くが発効すると見込まれている。
    http://www.wto.org/english/tratop_e/region_e/region_e.htm
    http://www.wto.org/english/tratop_e/region_e/regfac_e.htm
  6. 空港貨物取扱量の実績をみると、2000年は (1)メンフィス(24億8908万トン)、(2)香港(22億6761万トン)、(3)ロサンゼルス(20億3878万トン)、(4)成田(19億3269万トン)、(5)ソウル・インチョン(18億7423万トン)の順であったが、2006年には、(1)メンフィス(36億9221万トン、2000年比+48.3%)、(2)香港(36億879万トン、同+59.1%)、(3)アンカレッジ(28億379万トン、同+55.4%)、(4)ソウル・インチョン(23億3657万トン、同+24.7%)、(5)成田(22億8003万トン、同+18.0%)と、香港が大幅な伸びを示すとともに、インチョンが成田を上回るなど、アジア系空港の取扱量の増加が著しい。(AIR CARGO NEWS April 14,2006)
  7. ASEAN+日、中、韓。2007年1月のASEAN+3首脳会議(フィリピン セブ島)において、専門家による共同研究の継続が決定。
  8. ASEAN+日、中、韓、印、豪、NZ。2007年1月の東アジアサミット(フィリピンセブ島)において、共同研究の開始について合意。
  9. 「アジア太平洋の自由貿易圏」 (A Free Trade Area of the Asia-Pacific) 。2007年9月のAPEC首脳会議首脳宣言において、「様々な現実的かつ段階的な取組みを通じて、我々はFTAAPの選択肢および展望を検討するであろう」とされた。
  10. ASEAN地域においては、2015年までのASEAN共同体の実現を目指し、経済共同体、社会・文化共同体構想を進め、統合への動きを加速させている。
    他方、わが国は、2002年、小泉総理(当時)がシンガポールにおいて、「共に歩み共に進む」共同体の構築、および地域の安定と繁栄を確保するために広範な分野で協力を進めるべきことを提唱、第59回国連総会一般討論演説(2004年)において、ASEAN+3の基礎の上に立って、「東アジア共同体」構想を進めるべき旨表明した。わが国政府の基本的立場は、「機能的アプローチ」とされている。地域の多様性に鑑みてEUのような政治的な制度や枠組の導入は未だ将来的な目標であり、当面、広範な分野で機能的協力(FTA/EPA、金融、国境を越える問題等)を推進することを中心に、共同体形成を目指すとしている。(外務省「東アジア共同体構築に係るわが国の考え方」2006年11月 http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/eas/pdfs/eas_02.pdf)。
  11. ASEAN共同体実現に向けて、2003年、「ASEAN安全保障共同体(ASC)」「ASEAN経済共同体(AEC)」「ASEAN社会・文化共同体(ASCC)の3つの共同体形成を通じたASEAN共同体の実現を目指す「第二ASEAN共和宣言(バリ・コンコード II)が採択。
  12. APEC、ASEAN、アジア・ヨーロッパ会合(ASEM)、東アジア首脳会議(EAS)、アセアン地域フォーラム(ARF)、ASEAN+3、ASEAN+6、FTAAPのプロセス等
  13. 先進国における輸送コスト(2003年)は輸入貨物の価額の3.9%であるのに対し、途上国は9.1% (アジアは8.6%)。(page 71-72, Review of Maritime Transport 2005, UNCTAD)
  14. ASEAN経済閣僚会議共同声明(2007年8月24日)
  15. 1994年のインドネシア ボゴールにおけるAPEC首脳会議において、ボゴール宣言が採択された。先進メンバーは2010年までに、途上メンバーは2020年までに、自由で開かれた貿易投資の達成を確約している。
  16. 紛争解決手続きの特徴およびGATT時代からの主な改善点としては、下記の3点が挙げられる。(1)二審制(小委員会(パネル)および上級委員会)の導入、(2)一方的措置の禁止(WTO協定の対象となる紛争については、WTO協定に基づく紛争解決手続きに従わずに貿易制限等の実施等を行うことはできない)、(3)紛争解決手続きの自動化(パネル・上級委員会設置や報告の採択などの決定につき、協定違反を問われている国の反対により阻止されることを防止するため、ネガティブコンセンサス方式を導入(反対のコンセンサスが成立しない限り阻止できない)。
  17. 「WTO新ラウンド交渉の成功を望む」(2006年6月20日)
  18. 1996年12月のWTO閣僚会議(シンガポール)において、IT製品の関税をゼロとすることで合意。
  19. 日EU経済連携協定に関する共同研究の開始を求める(2007年6月12日)参照。
  20. 2006年のわが国の対米輸出額は16兆9,336億円(総額に占める割合は22.5%)、対EU(25カ国)輸出額は10兆9,117億円(同14.5%)(財務省「貿易統計」)。2006年末のわが国の対米直接投資残高は18兆6,004億円(総額に占める割合は34.8%)、対EU直接投資残高は14 兆13,38億円(同26.4%)(財務省「国際収支統計」)。
  21. 米韓FTAには、貿易救済措置の事前協議制度が盛り込まれている。この制度のもとで、例えば、米国による韓国製品に対する貿易救済措置の発動のための調査開始前に、韓国側から米国に対し意見を述べる機会が与えられることから、合理的な根拠のない貿易救済措置の発動の抑止効果が見込まれる。このことは米国市場への韓国製品の供給の安定性に対する信頼性を高める一方で、競合する日本製品の安定的な供給可能性に対する信頼の低下につながりうる。
    また、韓EUFTAにより、EUが高関税を課す家電(最高14%)、自動車(10%)、ITA対象外として課税またはその検討が行われているIT製品(複合機能プリンタ、パソコン用液晶モニターについて課税済み。デジタルカメラは課税について検討中)についても、韓国に対して特恵税率が付与される可能性がある。
  22. 日・EUビジネス・ダイアログ・ラウンドテーブル(日欧産業界によるビジネス対話の枠組み)による2007年度の提言(2007年6月4日)においては、「日・EU間の経済統合協定(EIA:Economic Integration Agreement)とも言うべきもののフィージビリティーを調査するためのタスクフォースを産業界の支援の下に設置することを提言する。これは規制改革の協力強化、知的財産権、貿易拡大、および投資環境改善のようなビジネスにとっての優先課題を含む質の高い経済協定であるべきである」と指摘されており、従来のEPA/FTAを超えた、幅広い分野での日EU間の経済連携の必要性が提言されている。
  23. 「貿易諸制度の抜本的な改革を求める−グローバル・サプライチェーンを踏まえた具体的改革の方向−」(2006年11月21日)
  24. 骨太の方針2007においては、「国際物流機能の強化に向け、『貿易手続改革プログラム』に基づき、輸出におけるいわゆる保税搬入原則を始めとする現行の保税・通関制度等の見直し、特定輸出申告制度の利用拡大、港湾手続の統一化・簡素化、港湾の深夜早朝利用の推進による24 時間利用の支援、港湾行政の連携等を推進する(中略)。また、スーパー中枢港湾等を始め陸海空のシームレスなネットワーク整備の促進、アジア全体の物流圏の構築の推進、安定的な国際海上輸送の確保を図るための制度的枠組みの構築に向けて取り組む」とされている。
  25. AEO(Authorized Economic Operators)とは、セキュリティ管理優良として貨物の安全性についての信頼性が認定された企業。EUにおいては、関税安全保証プログラム(Customs Security Program:CPS)を導入し、2008年1月よりAEO資格の付与を開始する。事前申告提出により認定されたオーソライズド・オペレーターに対しては、より短い到着前、出発前の事前申告のタイムフレーム、提出書類の削減等のメリットが付与される。
  26. WCO(World Customs Organization):各国の関税制度の調和・統一を推進し、国際貿易の発展に貢献することを目的として1952年に設立された国際機関。
  27. ACI(Advanced Cargo Information):税関に対する貨物情報の事前報告。
  28. 同提言では、不公正貿易措置の是正のための法的手続きが欠如するわが国の問題点として、業界団体を通じた働きかけに依存することの不透明さ・不安定さ、所管官庁の対応の統一性の欠如等を指摘するとともに、法的手続きの利点として、個々の民間事業者による政府への接触の容易化を挙げている。特に、関連する業界団体において意見が一致しない場合、あるいは、多くの業界にまたがる案件である場合、特定の業界団体からの積極的な働きかけが行われにくい。
    なお、提言する手続きにおいて、所管主務大臣の職権による調査開始を排除するものではない。その他、提案する手続きの詳細については同提言を参照。
  29. 諸外国による不公正な措置への対応に関する法制度として、米国は1974年通商法、EUは貿易障害規則、中国は外国貿易法、韓国は通商法による手続が整備されている。
  30. 調査開始要件に関し、WTOの1994年の関税及び貿易に関する一般協定第6条の実施に関する協定(アンチ・ダンピング協定)第5条においては、当局は「申請者が合理的に入手することのできる情報」に基づいて、調査開始をするか否か決定するとされている。他方、日本の関税定率法第8条4項においては、政府に対し、「十分な証拠を提出し」、アンチ・ダンピング課税を求めることができる、とされている。
  31. 1974年米国通商法201条においては、米国国際貿易委員会(ITC)がセーフガード措置の実施に向けて調査を開始するにあたっては、自らの発意に基づくほか、業界団体、企業又は労働組合を含む産業を代表する者等の申請に基づくことが明記されている。
  32. 「経済連携の強化に向けた緊急提言」(2004年3月16日)、「WTO新ラウンド交渉の成功を望む」(2006年6月20日)、「経済連携協定の『拡大』と『深化』を求める」(2006年10月17日)
  33. 「経済連携協定の『拡大』と『深化』を求める」(2006年10月17日)、「WTO新ラウンド交渉の成功を望む―2006年中の最終合意を目指して―」(2006年6月20日)等

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